世界のクリエーティブ・テクノロジストに聞く #01

データとVRは物語る:アーロン・コブリン(前編)

  • アーロン コブリン
    VRSE CTO
  • 木田 東吾
    株式会社電通 CDC/ Dentsu Lab Tokyo クリエーティブ・テクノロジスト

Dentsu Lab Tokyoではテクノロジーを用いて表現する人をクリエーティブ・テクノロジストと呼んでいます。この連載では、世界中のクリエーティブ・テクノロジストに仕事・作品についてインタビューし、テクノロジーからどんな新しい表現が生まれるか探っていきます。

 

データアートの先駆者、アーロン・コブリン

クリエーティブ・テクノロジストへのインタビュー、1人目はアーロン・コブリン(Aaron Koblin)氏です。彼はアメリカで活躍するメディアアーティストであり、起業家でもあります。修士課程で在籍していたカリフォルニア大学ロサンゼルス校デザイン/メディアアート学科では、さまざまなデータを用いて作品をつくっていました。私の大学時代の先輩でもあります。

(今回の取材はオンラインでメッセージのやり取りを行いました)
アーロン・コブリン氏

 

データをアートのために使う

木田:今日は、よろしくお願いします。

アーロン:よろしく。久しぶりですね。

木田:アーロンさんは大学時代からデータを用いていて、大学院生のときにはThe Sheep Marketというメディアアートを制作していましたね。

アーロン:The Sheep Marketを制作したきっかけは、ウェブ上で仕事を発注するアマゾンのメカニカルタークで、何万もの人間が機械のように発注をこなすこの仕組みを見て、人の仕事の価値に疑問を持ったことでした。

The Sheep Market
クラウドソーシングを通じて羊を描く作業を発注し、集まった1万匹の絵を公開した。
 
 

木田:Googleへの入社後は、Google Data Artsチームを率いて作品をつくりましたね。データという、それ自身では情報の塊でしかないものを用いて、どうしてアートをつくろうと思ったのですか?

Wilderness Downtown
自分の生まれた場所がミュージックビデオになる。サイトで住所を打ち込むと、Google Mapのストリートビューの情報を使った景色が映る自分だけのビデオが流れる。
 

アーロン:私たちは今、データの時代に生きていると思います。何か新しい文化をつくる上でもデータを使います。また、人間は他人とコミュニケーションをとるために、たとえばアルタミラの洞窟壁画など、何かしらのアートをつくってきたと思います。だから、データをアートのために使うことは私にとって特に奇妙なものではありませんでした。

この世界には、通信など目や耳で感知できないものがあります。テクノロジーを使って五感を拡張し、生身の身体では感じられなかったことを知覚できるようにしたいのです。そして、この世界をよりよく理解したい。だから、データは表現の対象として非常に興味深いです。

Flight Patterns
空路に色をつけた作品。1万もの飛行機の軌道に色をつけることで、西海岸が朝になったことやニューヨークへ人々が集まりゆくことなどが読み取れる。データとテクノロジーのおかげで、生身の身体では知覚できなかった空からの視点が得られ、アーロン氏にとってテクノロジーは世界をとらえる切り口の一つだということが分かる。

 

感覚をハックする

木田: データを用いた表現、ということでこれまで作品をたくさんつくってきていましたよね。ですが、Google Data Artsチームを離れ、VRを用いた映像を制作するVRSEのCTOとして起業しました。正直、意外な感じがしました。なぜ急にVRの世界に飛び込んだのですか?

VRSEロゴ

アーロン: 私は、VRの持つ人間の感覚を「ハック」するテクノロジーに興味を持っています。われわれが体験していないことも、あたかも体験しているかのように感じさせる技術のことです。
例えば、人間は聴覚を「ハック」することで位置感覚を幻惑してきました。つまり音楽と音響効果を用いて、目を閉じるだけでここでない場所にいると思わせることができるのです。VRで映像、音楽、360度の感知機能を使えば、ここではないどこかにいると自分に信じ込ませることができます。例えば、Waves Of Graceのような作品があります。

Waves Of Grace 
2013年のエボラ出血熱の大流行を生き延びた、Davisさんによるモノローグ。
リベリアの現状がVRで視聴できる。映像の端に語り手のDavisさんが映ることで、あたかも彼女の目から景色を見ているように感じられる。一視点からしか見ることのできない動画と違い、周りを見渡せることで風景が立体的になり、リベリアに立っていると錯覚する。
 

アーロン:VRにより、ここではない場所に立てることは、とても強い力を持っていると思います。つまり「他者の目線に立つ」ことを可能にするからです。歴史的には、人間は言葉や絵、想像力で補ってきました。
VRを使えば、言葉や絵を使わずに生の体験をそのまま描けます。VRという表現手段は、私たちがいかにコミュニケーションをとるか、もっと言えばわれわれの思考の方法すら変えていくと思っています。

私は、VRがストーリーテリングにもたらす影響についてとても興味を持っています。この技術は人と人との関わり方をどう変えるのでしょう。人々のコンピューター、データ、情報への向き合い方も試されるでしょう。

木田: 今回のお話で、VRは「伝える」とは何かを問うていると思いました。
次回は、VRSEでのお仕事内容を聞かせてください。

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プロフィール

  • アーロン コブリン
    VRSE CTO

    2008年から2015年までGoogle Data Artsチームに所属し、クリエーティブディレクターとしてチームを率いた。
    2015年、Virtual Reality(VR)を使った映像を制作するVRSE(バース)を立ち上げてCTOに就任。

  • 木田 東吾
    株式会社電通 CDC/ Dentsu Lab Tokyo クリエーティブ・テクノロジスト

    1985年名古屋生まれ。最先端のCGを学びに渡米したつもりが、なぜかメディアアートに少しだけ触れ、2007年にUCLA Design | Media Arts学科を卒業。
    同年電通入社。営業局を経て、現在Dentsu Lab Tokyo所属。これまで自動車、航空、精密機器、飲料、出版社などさまざまなクライアントを担当。好きなプログラミング言語はProcessing。

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