鍛えよ、危機管理力。 #09

危機が起きたばっかりで
「再発防止」を口にするな!

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    小野 真世
    株式会社 電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局リスクマネジメント部 シニア・コンサルタント/企業広報戦略研究所 主任研究員

このシリーズも今回で9回目となりました。将来、起き得る危機を「予見」し、対策をして「回避」し、「リーダーシップ」で全体的な底上げを図る。それでも実際に起きてしまったら「被害軽減」に努める。

では、その次は?

そう。二度と起こさないようにするためにはどうすればよいのか、を考えなければなりません。今回は「再発防止力」がテーマです。当研究所では「危機発生の経験と向き合い、より効果的な危機管理や社会的信頼の回復を実現していく組織的能力」と定義しています。

「再発防止」のためにも、まずは「事実解明、原因究明」が重要

「再発防止」は、謝罪会見で登壇者が終盤に力を込めて言う言葉だと思います。「原因究明を徹底し、再発防止に努めていきたい」。苦渋の表情で語る決意は紛れもない本心から出てくるものでしょう。

ですが私は、この言葉が謝罪会見で使われることに違和感を持っています。「起きたばっかやん」と。

記者会見で謝罪するような企業の不祥事(危機)は、起きたばかり、まだ原因もしっかりと分かってない状況で説明しなければならないことが多いと考えます。予想もしていない、しかも会社の存亡を揺るがすような事態の中で再発防止策まで準備できるものなのでしょうか。しかも、その時点で思い付く防止策は本当に有効な策なのでしょうか。

昨年は謝罪会見が起きた後に、また何かが見つかって謝罪、という繰り返しが目立った一年でした。大げさかもしれませんが、会見の中で簡単に再発防止にまで言及してしまう姿勢に問題があったのではないかと考えています。

謝罪会見は会社のトップ、責任ある立場の人間が出てきて頭を下げます。その場での「再発防止に取り組んでいく」という表明は、社内の人間にも伝わります。この時点で、社内の意識は「事実解明、原因究明」から「再発防止」へと変わっていくのではないかと思うのです。「これ以上、自分たちの会社には悪いところは見つかってはいけない」。そういう意識が働いてもおかしくないのかもしれません。

「再発防止」のためにも、まずは「事実解明、原因究明」が重要です。もし、プライベートで失敗したらまずはどうして失敗したのか、考えませんか? 寝坊したとき、友達を怒らせたとき、「昨日飲み過ぎたな」「言い方がきつかったかな」…などと省みて次は気を付けようと心に誓いますよね。企業の危機も同じです。だからこそ、安易に「再発防止」という言葉をすぐ使ってはいけません。再発防止を講じるためにはまずは徹底的な原因究明が求められるのです。

「再発防止策」の切り札は「第三者委員会の設立」

最近ではこの事実解明、原因究明を第三者にお願いする事例が増えてきました。不祥事が起きた企業にとって「再発防止策」の切り札が「第三者委員会の設立」でしょう。「第三者」という独立したイメージを全面に出すことで調査の信頼性が担保され、より適切な再出発への道筋をつけるというイメージが出せるからです。

第三者委員会を設立するケースは年々増えており、最近では弁護士や研究者、ジャーナリストらによる「第三者委員会報告書格付け委員会」の活動も注目を浴びています。第三者委員会による報告書はその多くがホームページ上で見ることができます。メンバー選定は適切か、対象企業は調査に制約をかけていないか、調査に遠慮はないのか等々、「第三者」もより厳しいチェックを受ける立場になるからこそ、調査の信頼性が担保できるのだと思います。

 
項目別実施率:再発防止力

 

当研究所の危機管理力調査(2015年3月実施)における「再発防止力」を測る設問では「自社で過去に発生した『危機』を踏まえて、危機管理マニュアル・ガイドラインなどの改訂を行っている」を挙げています。専門家も重要視しているこの設問は全体の約半数が実施していると回答した一方で、「過去に自社で発生した『危機』について、社外の主要ステークホルダー・有識者から意見を伺い、再発防止・改善に役立てている」のは13%にとどまりました。危機発生時には「第三者の目」が求められるのに、再発防止・改善には第三者の目を活用していない状況は少し、残念です。

再発防止に必要なのは、社員の士気を上げること

マスメディアが取り上げる企業の不祥事(危機)は一番の盛り上がりが謝罪会見です。その後、その企業がどのように再発防止策に取り組み、信頼回復を行っているのか。同じように取り上げられる事例は少ないでしょう。だからといって世間はなかなか忘れてはくれません。同じようなことをすればさらなる批判も受けます。その企業は常に社会からチェックを受けているのです。

ですが、不祥事を起こした企業の方と話をすると「そこまで自分たちは悪いことをしたのか」「犯罪者のように見られて悲しい」などと辛い胸の内を明かされることがあります。全く知らなかった社員にとってはこれまでの努力がまるで否定されたかのような気持ちになることもあるでしょう。再発防止と言われても何をやればよいのか分からないし、批判を受ける立場になって戸惑う人も多いかもしれません。

再発防止に忘れてはならないことをもう一つ。それは、社員の士気を上げることだと考えます。原因を究明し、事実関係を会社全体で共有する。必要であれば、関係者は社内でも謝罪をしなければなりません。お互いの気持ちを共有し、責任を分かち合う。そこから二度と起こさないようにするためには、どうすればよいのか、一人一人が考えていく。それが本当の再発防止につながっていくのだと思います。

 

プロフィール

  • 6228 pr
    小野 真世
    株式会社 電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局リスクマネジメント部 シニア・コンサルタント/企業広報戦略研究所 主任研究員

    大手通信社で約11年にわたり、記者として勤務。この間、経済部では約2年間、エネルギー、流通などを中心に取材。政治部では外務省などを担当した。
    2015年、電通パブリックリレージョンズ入社。危機管理分野のコンサルタントとして、官庁、食品、航空、日用品など幅広い業界のクライアントへコンサルティングを行っている。

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