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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.53

『戦略がすべて』-24の方程式-

2016/04/22

今回は瀧本哲史著『戦略がすべて』(新潮新書)を取り上げます。以前『ゼロ・トゥ・ワン』を取り上げた時に少し触れましたが、彼は中高の同級生です。当時はいじられキャラでしたが既にとてもクレバーで、今こうして活躍しているのもとても納得です。

東京大学法学部を出てすぐ助手になった後マッキンゼーへ、現在は京都大学客員准教授かつエンジェル投資家です。本人いわく本業は投資家の方とのこと。既に『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』など、いくつもの書籍を刊行しています。

『戦略がすべて』-24の方程式-

自らが戦略を考え、磨くためのツール

投資家をしているぐらいなので、がっつり資本を持っているのでしょうし、「自分が投資した案件は、必ず成功させなくてはいけない」をモットーにしているとのこと。そこまでの言い切れる男の語る戦略とは何か。

本書は、以下の章立てで具体的な昨今の事例を紹介・分析しながら24の「方程式」として戦略を示し、自らが戦略を考え、磨くためのツールとなっています。

I ヒットコンテンツには「仕掛け」がある
II 労働市場でバカは「評価」されない
III 「革新」なきプロジェクトは報われない
IV 情報に潜む「企み」を見抜け
V 人間の「価値」は教育で決まる
VI 政治は社会を動かす「ゲーム」だ
VII 「戦略」を持てない日本人のために

前書きはありません、I章からいきなり本題に入ります。
巻末のVII章が前書きと後書きを合わせたものに近く、そこで彼の戦略の考え方が示されています。

つまり、戦略を考えるというのは、今までの競争を全く違う視点で評価し、各人の強み・弱みを分析して、他の人とは全く違う努力の仕方やチップの張り方をすることなのだ。(P.245)

この思想をベースに示されていく、どの方程式もそれぞれ興味深いのですが、私が特に共感したのはI章の「3.ブランド価値を再構築する-五輪招致の方程式」と、II章の「6.コンピューターにできる仕事はやめる-編集者の方程式」です。

五輪招致の方程式には、
プレゼンテーションにおいて、最も重要なのは、「聴衆が何を求めているか」ということである。そこから、内容と見せ方が決まってくる。(P.37)
「勝利の条件」は本質を見抜くことにある(P.38)

と、広告に携わる者としては、常に心に置くべき事が書かれており(なかなか周辺事情によって難しかったりもするのですが)、編集者の方程式に紹介されている、
彼と書籍を作るときは、通常の書籍の作り方とは少し違う。まず最終原稿の倍ぐらいの原稿を作り、様々な想定読者にそれを見せる。その反応をもとに、内容の取捨選択を行うだけでなく、読者像の見直しなども行う。(P.71)
という、ヒットメーカーとして有名な編集者の、さすがここまでやるのかと思わせる手法はその姿勢からして学ぶべきと思いました。

変化をいち早く見つけ、未来を予測し投資を成功させる

瀧本氏自身の在り方、考え方として参考になったのは、ブルーオーシャン戦略にも類するが、もっと端的に強烈に表現した彼の好きな言葉や、
「楽勝でできることを、徹底的にやる」(P.95)
変化をいち早く見つけ、未来を予測し投資を成功させるために彼が行っていることです。

それは、イノベーション、さらに言えば、資本主義というものは、少数意見が、既存の多数意見を打ち破り、新しい多数意見に変わっていくプロセスにおいて最も大きな価値が生じるからである。(P.108)

だから私は自分の身近にすでに起きている小さな未来(可能性)をたくさん持っている・知っていることが極めて重要だと考えている。(P.157)

情報が爆発しその取捨選択が必須となった現代に、自分に都合の良い意見ばかり拾ってしまい真実を見誤らないようにすることは、大切な戒めと私も考えていましたが、彼は更に一歩進め、
むしろ「逆をとる」、すなわち自分の仮説と逆の考え方や事実を探し、それがどの程度信頼できるかという、反証的な視点で確認していく。(P.148)
ここまでやることで、これから起こるイノベーションを見いだし、投資でも大勝ちしていけるんですね。

個人的には以下の例が、具体的に誰を頭に置いて書いているのかが容易に想像できてニヤリとできました。

「同じ部活の人は同じようなキャリアを歩んでいる」(P.186)

でも、親が自営かそうでないかとか、もう少しいろいろな要素があるんじゃない?とか、あいつは反証になるよな、などとちょっと突っ込みを入れたくもなるのも同級生の業。

彼いわく、本来読書とは著者と意見を戦わせる格闘技であり、この書への批判も歓迎と巻末にも書いてありますし、今度肉でも食べながら他の章含め意見を戦わせてみたいと思います。