インサイトメモ #50

有料映像視聴の将来をオリジナル調査から考えてみた

  • Miwa
    美和 晃
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 部長

「放送」「配信」「パッケージ」…有料映像の選択肢が多様に

インターネット経由で視聴できる動画配信サービスの種類が増えてきました。有料映像といえば、従来テレビを利用した有料放送サービスやレンタルDVDの再生視聴が一般的でしたが、ネット配信の時代になりパソコンでの動画視聴が定着し、近年では、若年層を中心にスマートフォンやタブレット端末での視聴も活発になりました。

現在、一般的に利用できる有料映像の視聴手段は、劇場映画観賞を除くと、「放送」、DVDやブルーレイディスク(BD)などの「パッケージ」のレンタルや購入、インターネットを経由した「配信」の3つの形に大別されます。インターネットの利用がますます拡大する中で、今後の有料映像市場がネットを経由した「配信」に大きくシフトするのかどうか、マーケティングの視点から議論されています。

そこで電通総研メディアイノベーション研究部では、今後の方向について展望するために、「放送」「パッケージ」「配信」の有料利用者を合わせて「お金を払ってでも映像コンテンツを視聴する人」というくくりで捉え、まず利用者の現状を把握してみることにしました。

4人に1人が3カ月に1回以上有料映像サービスを利用

まず、2015年8月末に実施した調査では、15歳から69歳までの男女1万人に過去3カ月間に視聴した有料映像サービスを挙げてもらいました(図表1)。なお、NHK(地上波、BS)の受信契約は、この調査でいう「有料映像サービス」から除いています。

有料映像サービス利用率(過去3カ月)


過去3カ月の間に1回以上有料映像サービスを利用したと回答した人は、全体の4人に1人(25.3%)に上りました。男性の利用率が高く、特に20代男性では3人に1人(33.4%)という結果となりました。

では、利用者はどんな方法で有料映像を視聴しているのでしょうか。その内訳をサービス利用者に尋ねてみました(図表2、複数回答)。利用率が最も高かったのは「有料放送(月額定額)」(58.4%)、次いで「パッケージ(DVD・BD)レンタル(コンテンツごとの支払い)」(39.0%)、さらに「有料インターネット配信(月額定額)」(26.5%)と続きました。インターネットで実施した調査とはいえ、歴史が浅い有料インターネット配信が既に大きな存在感を持っていることが分かります。

過去3カ月に利用した有料映像サービス(内訳)

 

有料市場どうしのすみ分け

最も高い利用率であった「有料放送(月額定額)」(58.4%)、「パッケージ(DVD・BD)レンタル(コンテンツごとの支払い)」(39.0%)、「有料インターネット配信(月額定額)」(26.5%)の3つですが、それぞれのサービスは競合しているのでしょうか。「すみ分け」をしているのでしょうか。その関係を見てみましょう。

「有料放送(月額定額)」の利用者のうち、「有料インターネット配信(月額定額)」を利用している人は全体の11.1%、「パッケージ(DVD・BD)レンタル(コンテンツごとの支払い)」を利用している人は15.6%でした。有料放送とその他の二つのサービスの利用者の重なりは大きいものではなく、利用者獲得という点で「すみ分け」しつつ共存していることがうかがえます。

他のサービス利用者の重なりも比較してみましょう。たとえば、「有料インターネット配信(月額定額)」(26.5%)と「有料インターネット配信(コンテンツごとの支払い)」(16.3%)の重なりは、全体の8.4%となります。コンテンツごとの支払いをしている人の半分以上が月額定額制の配信サービスも利用しているという結果になります。これは、すみ分けというよりも補完関係にあるサービスといえます。

ちなみに、「有料インターネット配信(月額定額)」の利用者が増えると、「すみ分け」どころか米国のように従来の「パッケージ(DVD・BD)レンタル(コンテンツごとの支払い)」利用者が激減するのではないかという懸念がしばしば聞かれます。これについても上と同じ方法で比較すると、調査時点ではどちらかといえば互いに緩やかに補完し合う関係になっていることが確認されました。

世代や性別によるすみ分け

より詳しく、世代や性別によるサービス利用の違いを見てみましょう(図表3、複数回答)。

「有料放送(月額定額)」は50代から60代の年配者に多く、パッケージ(DVD・BD)のレンタルや購入は10代から30代の若年層に多いことが見てとれます。「有料インターネット配信(月額定額)」の利用も10代から30代の若年層に多い傾向が見られます。このように、年齢階層に応じて利用するサービスの比重が異なっていることが、先ほど見たような「有料放送(月額定額)」とその他サービスのすみ分けにつながっていると考えられます。

さらに、有料インターネット配信の利用率には男女差もあり、月額定額制でもコンテンツごとの支払いでも、男性の利用率が10%前後高いという傾向が見られます。

過去3カ月に利用した有料映像サービス(内訳)

 

ジャンルの好みによるすみ分け

「有料放送(月額定額)」とその他のサービスのすみ分けを説明するもう一つのポイントは、視聴する映像ジャンルの違いです。

有料映像サービス利用者の全体を「最もよく視聴している有料映像のジャンル」によって分類したのが次のグラフです(図表4、複数回答)。これによれば、「映画好き」はパッケージの店頭でのレンタル(50.4%)、「スポーツ好き」は有料放送(86.0%)、「音楽・ライブ好き」はパッケージの購入(26.5%)、「バラエティー好き」は放送局のインターネット(ビデオ・オンデマンド)配信サービス(15.0%)の利用率が顕著に高くなっています。このように、有料映像サービスの中でも、好きなコンテンツに応じて利用する視聴方法が緩やかに異なっていることが確認できました。

過去3カ月に利用した有料映像サービス(最もよく視聴する映像ジャンル別)


この中でも最も顕著なのは「スポーツ好き」の有料放送利用率の高さです。最近では、2014年にテニスの錦織圭選手が全米オープンテニスで日本人初の決勝出場を果たした際に、これを中継した有料放送サービスWOWOWへの加入者が増加したことが思い出されます。

このように、有料映像利用のすみ分けはサービス事業者が提供するコンテンツジャンルの違いによっても説明できるのです。

新たな動きの予兆

では、そもそも有料映像サービスではどんなコンテンツジャンルが好まれているのでしょうか。個人全体で見ると、利用者が最もよく視聴するジャンルとして、映画(31.3%)、ドラマ(20.2%)、スポーツ(14.6%)、アニメ(12.3%)などが並びます(図表5、複数回答)。

ただし、性・年齢別に見ると傾向は少しずつ異なってきます。女性の30代以上では、ドラマが映画に勝るとも劣らない人気を呼んでいます。また、男性の30代・40代ではスポーツの人気が高く、男女とも10代・20代ではアニメの人気が特に高い傾向があります。

有料映像サービスで最もよく視聴するジャンル


また、有料インターネット映像配信サービスは、過去の映画やテレビ番組などを見られるものが主流でしたが、最近は野球などスポーツのライブ中継を月額定額サービスに含めて提供する動きが複数見られるようになりました。この動きは、若いころからインターネットに慣れ親しみ今では世の中の中堅層となった30代・40代に対し、好きなスポーツコンテンツを楽しむための新たな選択肢を提供するものとして注目されます。

こうした配信事業者の新しい動きが逆に既存の有料放送事業者を刺激し、放送という手段を超えてスポーツ番組のネット配信を加速させるかもしれません。

有料映像視聴の今後は?

米国では、ここ数年の動画配信サービスの台頭が従来のケーブルテレビや衛星放送、さらにはDVDレンタルチェーンを巻き込み、業界横断的な再編劇につながるインパクトをもたらたしました。日本では「すみ分け」というキーワードで説明した通り、業界の枠を超えた大競争状況にはなっていないようです。その背景には、それぞれのサービスが特色を出して、特定世代や特定コンテンツ分野とのマッチング(相性)を図り、利用者をつかんでいることが挙げられます。

ただし、長期的に見ると、今後はやはりインターネットの利用が日常生活に一層浸透し、ネット経由の映像配信の利用が拡大するとも考えられます。先にネット配信によるスポーツのライブ中継の例を挙げましたが、これにとどまらず、配信事業者自身がコンテンツ制作したりコンテンツの独占提供を受けたりしてインターネット配信する取り組みが加速してきている点も見逃せません。また、技術的には360度バーチャルリアリティーなど新しい表現を伴うコンテンツが、一般ユーザー向けに提供され始めています。

このような新しい可能性はネット配信事業者だけに限定されたものではなく、映像を制作・配信するあらゆる事業者にとってのチャンスでもあります。ネット配信の領域に参入した事業者が、過去のコンテンツへの便利なアクセス手段を提供するだけでなく、映像視聴の新しい可能性を追求し、その魅力をさらに高めていくための取り組みが期待されます。


【「有料映像サービスの利用に関する調査」概要】
●調査期間:2015年8月14~31日
●調査対象者:全国の男女15歳(中学生を除く)~69歳
●有料映像サービスの範囲
・有料放送(月額定額)※NHK及びNHK-BS受信料契約を除く/有料インターネット配信(月額定額・コンテンツごとの支払い)/パッケージ(DVD・BD)レンタル(コンテンツごとの支払い・月額定額)/パッケージ(DVD・BD)購入
・全てのサービスについて、お試し期間など無料で利用できた場合を除く
●調査実施協力:電通マクロミルインサイト
1)スクリーニング調査(ウェブ調査)
全国の性・年齢階層別人口構成比に応じ、1万サンプルを比例回収し、「有料映像サービスを過去3カ月に利用した人」および「有料映像サービスで最もよく視聴する映像ジャンル」の出現率を確認
2)本調査(ウェブ調査)
「最もよく視聴するジャンル」について、映画/ドラマ/スポーツ/アニメ/音楽・ライブ・演劇/バラエティーの6ジャンルに該当する人を対象に2752サンプルを回収
スクリーニング調査で抽出した「最もよく視聴する映像ジャンル」構成比と「性・年齢階層」構成比により二重ウェイトバック

プロフィール

  • Miwa
    美和 晃
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 部長

    入社以来、電通総研にて主に情報通信やデジタル機器・コンテンツ領域の調査研究や官・民のクライアント向け事業ビジョン構築作業とコンサルティングを実施。カメラ、ロボットから電子書籍まで幅広い分野を担当。2012年7月よりメディアイノベーション研究部にて情報メディア全般に関するプロジェクトに従事。2015年11月より現職。

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