アクティブラーニング こんなのどうだろう #16

日本の学校では、
数字の書き方も個性より形だった。

  • 20160526 103
    Nadya Kirillova
    キリーロバ・ナージャ
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 電通総研 Bチームクリエーティブ

電通総研に立ち上がった「アクティブラーニング こんなのどうだろう研究所」。アクティブラーニングについてさまざまな角度から提案を行っていきます。このコラムでは、ラーニングのアクティブ化に活用できそうなメソッド、考え方、人物などを紹介していきます。

何となく書いている数字。私が書くならこうかなあ。ずっと書いているうちに自分のスタイルが生まれる。かたく書く、丸めに書く、ちょっと装飾をつける。まるでフォントの違いのように手書きにも個性が生まれる。

自分のスタイルが生まれて数年後、私は日本の学校へ転校した。そして、数学の時間がやって来た。登校初日なのに何とその日は抜き打ちテストがあって問題用紙が配布された。おお、これなら解けるぞ! 他の科目と違って私のやる気は上昇していた。よし!できた! ちょっと自信もあった。しかし、私の自信は予想外の理由でズタズタにされた。何と、全部×だったのだ。でも、答えが間違っているはずがない。なぜだ。きっと先生のミスだ。早速、先生に抗議した。そして、予想外の答えが返ってきた。キミの書いた答えは合っているかもしれないけど、数字の書き方が間違っている。その書き方をする限り正解でも○にはできない。つまり×だ。

何ということだ。信じられなかった。数字にはいろんな書き方があると抗議を続けた。実際に今までの国でいろんな数字の書き方に出合っていたし、たとえ他の人と書き方が違っても読めれば特に問題になることはなかった。実際、私が書く数字も余裕で読める。何がいけないのだ。

すると先生は日本では書き方は1つしかないと言いだした。え、でもアラビア数字ですよ! 日本のものでもないのになぜだ。でも確かに、他のクラスメートは全員ほぼパソコンの同一フォントかのように全く同じように数字を書いていた。字も書き方がほとんど同じだった。これは、すごい! 個性はどこにいったのだ。ショックだった。

 

世界の数字の書き方

しばらく納得がいかなかったが、数学のテストだけ日本流の数字を学ぶことになった。最も問題になったのは7。そう、横棒である。ロシアでは横棒をつけるのが一般的である。これは、フランスでも同じだった。ヨーロッパではこの書き方がかなり主流である。横棒をつけるにはちゃんと理由が存在する。それは1と区別しやすくするためだ。これらの国では多くの場合、1はただの縦棒ではなく先端に折り曲げが入るカタチだ。それが7と似てしまうため7に横棒をつけることになっているのだ。

ということは、私の1の書き方もダメになる。困ったなあ。だって、そうすると文字のlやLとの区別が難しくなるではないか。日本語だけ使っている分にはいいかもしれないが、私は他の言語も使うし、いつまた海外に行くか分からない。直すのも気が引けてしまうのだ。

次に問題になったのは2だ。日本の書き方より曲線が多い。先生いわくαと似ていて紛らわしいのだ。でもロシアでもアメリカでもそう書く人がいるから問題ないはずなのに。

3はなんとかクリアしたが、4でもクレームが来た。何と、横棒が縦棒を突き抜けてないといけないというのだ。ふむふむ。これはまだ一理あるかもしれない。でもどちらでも読めることに変わりはない。5もなんとかクリア。

しかし、6と9はダメらしい。そう、ロシアでは6の上の部分と9の下の部分を丸めて書くのだ。9がgに似ているから紛らわしいらしい。でも、6は逆に丸くしないとbに似てきませんか? 同意は得られなかった。仕方ない、これは直すか。

こうやって、しばらく私は2種類のフォントを使い分けることとなった。自分用のフォントとテスト(先生)用のフォント。くだらないことだけど、自分の手書きは個性だと信じていたので面倒くさいことをしばらく続けていた。

今では、すっかり折衷案のようなフォントで定着してしまってあまり個性を気にしなくなったけれど、それが逆に今の私の個性かもしれない。そんなことより字が汚いのをどうにか直すことを心掛けた方がいいのでは?という声が聞こえてきそうだ。

でも思い返せば、ロシアの人もみんな似たような数字の書き方をする。それを見るとロシアの人が書いた数字だとすぐに分かる。これは数字に限ったことではない。英語のアルファベットもそうである。英語を書いているのに、ロシアの人が書いた英語だと分かってしまう。

一度ロシアの学校で受けた英語の授業で英語のアルファベットの書き方が違うと指摘されたことがある。私は、イギリスから戻ったばかりでイギリスのアルファベットの書き方を学んだ直後だった。正しい英字の書き方だけど、それはロシア流英字の書き方ではなかったのだ。そのとき、イギリス帰りが相当効いたからか直さなくて済んだが、ここでもやはりその国の書き方が正しいとされる傾向にあった。

書き方は全然違うけど状況は日本に似ている。日本の人が書く数字や英語のアルファベットも日本の人(日本で数字を習った人)が書いたと分かってしまう。なんとも不思議だ。

アメリカやカナダやイギリスではいろんな書き方をする人がいたし、読める限り書き方を強制しようとする先生はいなかった。みんな自分らしさをどんどんフォントに反映させていたのだ。

書き順やはねなどが重要となる漢字文化がある日本。数字やアルファベットにもこの精神が受け継がれているのかもしれない。一方、基本を学びながらも書き方に個性が許される欧米。多様性を重要視する文化を象徴しているのかもしれない。

住んでいる環境によって手書きも変化し続けると思うととても面白い。筆記体が基本の国もあればブロック体を使う国もある。両方を使い分ける国もある。そうすると個人に委ねられる部分もかなり大きい。

 いろんな書き方やスタイルとその裏にある意味を知ることで世界のいろんな考えに触れることができるかもしれない。またそこから多様性に触れることができるかもしれない。

自分が今書いている書き方は実は本当は自分に一番合っている書き方ではないかもしれない。それぞれの国の文化や考え方が書き方に表れていると思うと世界のいろんな書き方をもっと知りたくなる。いろんな書き方を試してみたくなる。そう考えると数字の書き方ひとつとってもとても興味深い。

 

プロフィール

  • 20160526 103
    Nadya Kirillova
    キリーロバ・ナージャ
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 電通総研 Bチームクリエーティブ

    ソ連(当時)、レニングラード生まれ。6カ国で育つ。電通入社後は、様々な領域に取り組むクリエーティブとして活動し、国内外のプロジェクトを幅広く担当。Cannes Lions Titanium Grand Prix、D&AD Black Pencil、文化庁メディア芸術祭大賞など多数受賞。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ