メディアのこれから #02

新しいデバイスの登場で

メディアはどう変わるのか?

  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者
  • 植村 祐嗣
    株式会社電通 デジタル・ビジネス局

モバイルデバイスから、パーソナルデバイスへ。急激に普及してきたスマートデバイスは、個人のメディア接触環境をまったく変えてしまう。しかも、そのライフスタイルを変えるのは、スマホやタブレットだけではない。デバイスの在り方が変貌を遂げる中で、メディア・ビジネスや広告コミュニケーション・ビジネスはどんな変革を迫られるのか? 

 

新たな視聴スタイルは、同時使用ではなく「引き継ぎ使用」

 

奥: 今、デバイスで一番注目されるのは、やはりスマホとタブレットですね。

ビデオリサーチが毎年実施している「MCR」 という東京30キロ圏の男女を対象にした調査では、スマホの所有率が、男性では20代前半で昨年60%程度だったのが、2013年は85%くらいまで伸びている。女性の所有率はもっと高くて、昨年65%ほどだったのが、今年は90%近くにまでなった。タブレットでも、当然、時を待たずに同様の動きが起きてくるでしょう。この趨勢が何を意味するとかといえば、簡便にダブルスクリーン状態が作れて、いろんなメディアを同時に見ることができる。しかも移動中も見られる。ユーザーのメディア接触環境が大きく変わるということですね。

そこで押さえておかなくてはいけないのは、スマホもタブレットも、家の外だけでなく、家の中でもよく使われるという点。テレビと同時に楽しんだり、テレビのリモコンになったり、あるいはスマホやタブレットの画面をテレビに映したりといった使い方もある。つまり、モバイルデバイスというより、パーソナルデバイスとしての位置づけですね。

植村: そのような環境変化の中で、どういうメディア・ビジネスや広告コミュニケーション・ビジネスが可能なのかということですね。

奥: おっしゃる通りですね。スマホやタブレット以外でも、テレビでは高精細の4K、8Kといった方向で進展しそうだし、PCはウエアラブルに注目が集まり、ネットも新しいサービスが現れる可能性がある。ただ、ビジネスを考える際には、例えばスマホの所有率は首都圏の20代前半では85~90%ですが、全国ベースではまだまだ従来型携帯電話の方がスマホより高い。デバイスの普及率が首都圏と全国平均ではまったく違うという点は踏まえないといけないでしょうね。メディア・ビジネスも広告コミュニケーション・ビジネスも、地域性や年齢層など、どこをターゲットにするかで展開がまったく違ってくる。

植村: 私の足元のデジタル・ビジネスの仕事でいうと、地域や年齢、ターゲットによってデバイスの普及の仕方が違うので、スポンサーから来たお題に同じような解答はできないんですね。難しいといえば難しいんですが、そこがまた面白くもある。先ほど奥さんが言ったスマホのリモコン化は注目点ですよね。スマートデバイス、モバイルデバイスは、すでに時計やカメラ、ゲームの機能を全部吸収しちゃった。ここにリモコンも入ってきたらWi-Fiでテレビも動かせてしまう。データも取れる。となると、スマートデバイスとして、ますます面白いメディア連携ができそうです。

奥: そこで、ひとつ気になることがあるんです。手元のパーソナルデバイスを見ながらテレビも観るのってけっこう大変でしょう。かといって大きな画面にいろんなレイヤーがかぶせられて情報が次々に入るのもうっとうしい。そこをどう設計するのかという素朴な疑問がある。コンテンツ・ビジネスだけでもそういう問題を抱えるわけだから、広告コミュニケーション・ビジネスの場合、画面のどこに広告を表示すべきなのか、どのタイミングでメッセージを流すのか、そういった研究は相当していかなくてはいけないでしょうね。

植村: 最近、あるネットメディアの方と話していたんですが、その会社の最近の調査では、同時使用じゃなくて「引き継ぎ使用」が多いと。つまり、テレビで放映されたものを、あとでスマホで見たり、あるいは逆だったり。だから、テレビで見ているものの詳細情報をこっちで同時に調べる、みたいな話は、実はちょっと違うんじゃないかと。

奥: きっと、もっとシンプルで楽なほうに行くんだと思います。引き継ぎ使用は、クラウドが大前提となる話ですね。ここまでテレビで見て、同じIDを引き継いでスマホから通勤途中で続きを見るといった形で視聴する。これは、クラウドなしではなかなかできない。と同時に、コンテンツの権利問題を考えれば、マルチウィンドウ、マルチスクリーンに対応するには、権利処理をきちんとしておかないといけない。これも大きな課題ですね。

 

ゲーム機は、広告コミュニケーション・ビジネスの隠れた市場

 

植村: デバイスの観点でいえば、全部クラウド化したら、コンテンツをハードディスクに置く必要がなくなるから、クラウドのパーソナルサーバーはどうなるのか。これまで広告メディアとしてあまり見られてはきませんでしたが、ハードディスクやゲーム機がクラウド化すると、広告ビジネスのコンタクトポイントが生まれてくるかもしれません。

奥: 家庭ゲーム機は、テレビにつないでゲームをしているわけですけど、間接的にテレビをネットにつなぐメディアとしては、実はゲーム機がもっとも多くて、テレビを直接ネットにつないでいる人のほうが少ない。アメリカでも、動画ストリーミングサービスのネットフリックスを利用しているユーザーの半分は、ゲーム機経由で見ている。

植村: 日本でもHuluユーザーの多くはゲーム機を使って見ているそうですから、そう考えると、広告コミュニケーション・ビジネスにとって、ゲーム機はまさに眠っている市場。あと、クルマですよね。自分のスマートデバイスと自動車のカーナビの連携です。いや、カーナビどころかクルマ全体との連携も進んでいくでしょう。そういった動きが加速すると、当然、われわれの広告コミュニケーション・ビジネスの在り方も変わってくるはずです。

広告って、結局、消費者の可処分時間の中での勝負なわけですよね。1日24時間の中で、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ネットといったメディアに接触する時間をどうつくるか。昔は彼女に長電話していたのが、今やラインやフェイスブックが利用され、そこに広告が入るようになった。クルマの運転時間では、かつては広告接触がラジオしかなかったのが、カーナビに広告が入るとか。そう考えると、広告コミュニケーション・ビジネスのできる可処分時間が、実は結構増えているわけです。

奥: 今は家の中だけでなく、家の外にも未開拓地がいっぱいある。

植村: 大学生の授業中は、これまでは広告の接触ポイントじゃなかったんですけど、今、スマホ画面に広告が出てきますからね(笑)。新しいデバイスの登場で、可処分時間の中でどうコンタクトポイントを増やしていくのか、あるいは重層化していくのか、高度化していくのか。その置き換えの勝負という気がします。

奥: われわれの戦いもますます激しくなりそうです。

次回へ続く 〕

プロフィール

  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者

    1982年電通入社。主に情報通信分野について、ビジネス・オーディエンス・テクノロジー視点から研究開発を行う。著書に『ネオ・デジタルネイティブの誕生~日本独自の進化を遂げるネット世代~』(共著、ダイヤモンド社)、『情報メディア白書2016』(共著、同)などがある。

  • 植村 祐嗣
    株式会社電通 デジタル・ビジネス局

    1966年東京生まれ。1989年東京大学工学部卒、株式会社電通勤務。
    電通テレビ局ネットワーク2部、ローカル業務部を経て、2001年BS-i(現BS-TBS)編成本部へ出向。2006年インタラクティブ・コミュニケーション局へ異動。
    モバイル・メディア部長、インターネット・メディア部長を経て、2012年デジタル・ビジネス局次長。編著書「広告新時代」(電通)。

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