ミレニアルズと「未来のスキル」 #10

AR×スポーツが拓く未来の産業のポテンシャルに迫る(後編)

  • Profile fkuda dentsuho
    福田 浩士
    株式会社meleap
  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室
  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

「高度情報社会における“スキル”のいまとこれからのかたちをミレニアルズの実践から探っていく」ことを目指す本連載。「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今存在していない職業につくだろう」(Cathy Davidsonキャッシー・デービッドソン ニューヨーク市立大学教授)というこの仕事の未来が不透明な時代に、新世代のデジタル・ネイティブ世代=「ミレニアルズ」の取り組みから“未来のスキル”のかたちを模索します。

前回に引き続き、meleap CEO福田浩士さんへのインタビューを通じて、いま展開中のHADOについて、そして2020年にはテクノスポーツのプロ選手があらわれ、2030年には日常と拡張現実がミックスされる日常が到来するだろうという福田さんのビジョンについて明らかにします。

ARによってエンタテインメントやスポーツはこれからどう変わっていくのか、そしてそうした未来に求められるスキルとは何か?ミレニアルズの実践から解き明かします。

ゲームを遊ぶことで「身体拡張」のアイデアを得る

天野:前編ではmeleapさんが開発・展開するHADOのお話を伺ってきました。最近では池袋のナンジャタウン、成田空港をはじめとしたさまざまなイベント、テーマパークでの展示が進んでいますよね。

HADOも好調ですが、今後注力していきたいことは何ですか?

福田:「テクノスポーツの新競技を確立する」というのが当面の目標です。HMDを使うのか、ARなのか、可能性をいろいろ考えていますが、リアルとバーチャルを駆使して身体を拡張していきたいと思っています。

天野:テクノスポーツのアイデアを練るとき、参考にしているスポーツなどはありますか?

福田:実はゲームをベースに考えることが多いです。「League of Legends」という2つのチームに分かれて拠点を壊すネットゲームがあるんですが、HADOはそれを参考にしています。「League of Legends」には、ルールとして役職やキャラによる技の違いなどがあるんですが、こうした概念を取り入れて、スポーツの要素、身体的な要素を加えていきたいですね。

能勢:もともと、身体性の拡張に興味があるということですが、そのきっかけは?

福田:子供のころからやんちゃでよく動き回っていました。フィールドアスレチックでジャンプして何番目の棒につかまれるか、という遊びでもっと遠くにつかまりたい、という思いで夢中になって遊んでいたりしました。それが原点かもしれません。

天野:「身体の拡張」はマクルーハンを想起させますが、メディア研究のキータームでもありますね。20世紀は映画、テレビやコンピューターといったメディアによって「スクリーン」を介した情報的な身体の拡張の形式が普及していたのに対して、これからは現実空間における情報的な拡張が起こっていくし、それがフロンティアであるという視点ですね。

ARアプリの面白さをリブートするために注目するべき技術・企業

天野:ARというテーマで思い出すのが、2010年ごろ「セカイカメラ」や「iButterfly」などARを駆使したアプリが話題になりましたよね。当時は1ユーザーとして楽しんで使っていましたが、周りを見渡してみても、キャズムを超えるところまではいかなかった気がしているんです。2010年ごろと比較して、デバイスやユーザーのメンタリティーなどが変わっていると思いますが、今のARのポジションは?

福田:2010年ごろに限らず、今のARアプリはおもしろくないですよね。できることが少ないです。そもそもスマホをかざすというのが、虫眼鏡をのぞくみたいで不自然です。例えばセカイカメラも、あっちの方向になにかあるらしい、しか分からないですよね。「あっちに向かう」という動機付けなら地図アプリの方が良いくらいで、スマホをかざす意味がないと感じています。

それこそ、アニメ「東のエデン」のようにかざすとその人の名前、属性などアイデンティティーが分かるくらいのセンシング技術があって、インプットやアウトプット(コンテンツビジュアライズ)の質が高ければかざすと思いますが。

最近ではウエアラブルにすることでインプット、アウトプットの質が向上して、できることが増えて、ようやく使えるものになってきたという印象です。

センシングに関しては、拾える情報が増えるほど面白くなりますよね。例えば今話しているこの場にセンサーがあれば、誰がどういう話をして、机に何があって、どっちを向いていで、心拍数はいくつでという情報が分かる、というようになれば、いろいろなことができそうですよね。

天野:ARはいわば「見えないモノが見えるようになる」技術ですが、センシングの発達などによってもっとリッチなものができるということですね。VRの領域ではFacebookがオキュラスを買収しプラットフォーマーとして市場展開を今後行おうとしていますが、ARでこれから鍵になるプラットフォーマー、プレーヤーはどこだと思いますか?

福田:ハードウエアでは、Microsoftのホローレンズや、Magic Leapに注目しています。ここ1、2年はまだわかりませんが、3年後くらいに使いやすい価格で発売されれば革命が起こると期待しています。magic leapは、HMDで鮮明な映像を見られるようですが、バッテリーや重さ、視野角、画角などの壁があるでしょうし、価格をどう抑えるかという課題もありますが、資金があるので期待できそうですね。

センシング技術に特化すると、インテルとグーグルの深度センサー「Project Tango」ですね。これがスマホに搭載されれば、スマホで周りの環境や形状を3Dで認識できるようになり、可能性が広がりますね。

テクノスポーツは2020年に向けてスポーツをする人、観戦する人をもっと広げていく

能勢:情報テクノロジー×スポーツという組み合わせは、どんな可能性を生むと思いますか。例えば東京オリンピックが控える2020年に向けて注視しておくべきポイントがあれば。

福田:テクノスポーツで期待されることはいろいろありますが、一つは今までスポーツに参加することをためらっていた人も気軽に参加できるようになり、敷居が下がると思います。それからスポーツがいつでもどこでもできるようになりますね。家の中、オフィス、帰り道など日常の中で自然にスポーツができるようになるでしょう。

一方で観戦する人も増えるはずです。天野さんが先ほど(※前編参照)言った通り、今はゲームの実況中継を見る人も多いですよね。ゲームをやらなくても見るだけの人、ファンになる人も多いでしょう。さらに見るだけでなく、チームに投票できたり、応援によってゲームに影響を与えられたりしたらおもしろいですよね。「ドラゴンボール」の元気玉のような。

構想としては、スポーツ選手の事務所を作って選手のマネジメントをしたり、アイドルのように選手を育てたり、あるいはその選手と戦えたりというようなエンタメ要素もあります。いろいろな分野が掛け合わされて、ゲーム的な要素、タレントをどう生むかという人材マネジメント的な要素、テレビ番組的な要素などが出てくるでしょう。

今はネットゲームの中継だと、ゲームの画面ばかりでプレーしている人ははっきり映らないので、人に直結しないですよね。ARの場合はその人自身が映ってその人の動きが出るのでスポーツの要素が強くて、その点では面白くなりそうです。

天野:なるほど。様々な領域にまたがる事業性を感じさせるのですが、テクノスポーツの市場規模はどれくらいのポテンシャルを持っていると考えますか。

福田:数兆円規模になると思います。今のモータースポーツと同じくらいにはなるんじゃないでしょうか。

天野:日本政策投資銀行のレポートによれば、スポーツ産業規模(GDSP)がGDPに占める比率はアメリカが2.8%なのに対して日本は2.4%。もちろん両国間の額の多寡はありますが、こうしたテクノスポーツが日本で花開けば、スポーツ産業の対GDP比率が上がっていくことにもつながっていくと考えられます。

福田:ただ一方で、新しいスポーツを作るのはそんなに簡単ではありません。サッカーも野球も長い時間をかけて普及したという経緯がありますし、普通は5年でつくれるものではないと思います。しかし、デバイスの普及や進化がこれを可能にするのではないかと思っています。

能勢:いまおっしゃっている点は重要だと思います。スポーツとしての普及を考えるのであれば、少々スコープを広げて、20年後の2030年、私たちの生活の形はどう変わっていくかという視点だといかがでしょうか。

福田:2030年には、ウエアラブルが普及して日常的に使われる環境になっているでしょうか。藤井太洋氏の「Gene Mapper」という小説があるのですが、未来のある一面を描いていて、20年後、30年後のビジョンとしては近いものがあると思います。

天野:では最後に、そういう時代に福田さんはどんなスキルを持って仕事をしていて、その仕事は何と呼ばれていると思いますか?

福田:テクノスポーツ事業をつくるにあたっては、競技を開催する側、グッズを販売する側ではなくて、競技そのものを作る側、育てる側にいたいです。そのためにも、拡張現実をより日常的に使うものにさせていくことにもチャレンジしていきたいと思っています。

そして20年後にARがもっと日常的な場に浸透するようになったとき、ひとりのユーザーの中に複数の人生が存在するところまで現実が拡張的になり、どんな風に生きるのかを選択的に享受できるようになっているとも思います。

それはいわばパラレルワールドのようなものだと思うし、その並行世界で新しい人生を提供できるのだとすれば、それは“神”みたいな存在と言えるかもしれないですね。ARを使って日常的に魔法が使えるようになれば、その魔法を授ける人は神みたいなものでしょう(笑)。


取材後記:ARは私たちの豊かな日常を創造することにどれだけ寄与できるか

ARはSF作品などでも描かれることの多い、“てっとり早く未来を感じさせる”テクノロジーでもありました。そうした未来のテクノロジーを今に根付かせること、つまり未来の生活や産業を芽吹かせようと取り組んでいるのが、福田さんの活動だと感じました。

HADOの取り組みやデモ映像からも分かるように、第一にそれは新しいエンタテインメントの可能性をもたらすツールでありながら、新しい市場を開拓し私たちの生活を変えるポテンシャルを持つものであることが分かります(実際に私たちも体験してみてそう感じた次第です)。

ARのテクノロジー的な可能性はまだまだ発展途上で、チャレンジが繰り広げられているという状況認識は保ちながら、一方でテクノスポーツの市場性は、インタビューの中でも触れられていたように、数兆円規模のボリュームになるという未来視点も重要であると考えられます。フィジカルスポーツ、モータースポーツに続く、情報社会のもとで芽吹く第三のスポーツ産業として、その大きなポテンシャルに瞠目すべきだと思います。

最後に、俯瞰的な視点から今回の座談会を振り返りたいと思います。

日本を代表する社会学者の一人である見田宗介は、情報社会が私たちの生活にもたらす豊かさの可能性を指摘しています――すなわち、有限の環境リソースを使い尽くしながら開発などにまい進するのではないようなやり方で、より豊かな体験や日常を創りだすための情報社会を構想することの勧めです。さらに言えば、そうした情報社会に転換できるかどうかこそが、21世紀に生きる私たちにとっての最重要課題でもあるとの認識を促しているのです。

そうした考察を念頭においた時、福田さんの「パラレルワールドをつくる神になる」という発言は、想像豊かなメタファーをはらんだフレーズでありながら、同時にとても重要なビジョン提起でもあるようにも思われます。情報化が可能にする拡張的な現実=私たちに新しいリアルをもたらすパラレルワールドをいかにつくりあげ、そしてそれを私たちの豊かな日常生活に向けてどう社会構造にビルトインしうるのか?

こうした活動は新しいエンタテインメントの発明であるのと同時に、進展する高度情報社会を生きるミレニアルズにとっての社会的なチャレンジのかたちでもあり、その豊饒なポテンシャルを拓くための実践に他ならないのだと言えるでしょう。

 

プロフィール

  • Profile fkuda dentsuho
    福田 浩士
    株式会社meleap

    東京大学大学院卒業後、株式会社リクルートに就職。2014年に独立し、株式会社meleapを設立。「HADO(ハドー)」という名のARスポーツを開発。空間認識技術やヘッドマウントディスプレイ、モーションセンサーなど、ウェアラブル技術を使用した「HADO」は、体を動かし、仲間と協力しながら対戦する新しいゲームの形として、注目を集めている。KDDIムゲンラボ第7期にも参加。ヒザがガクガク震えるほど世界を面白くする!をテーマに掲げ、活動を行う。

  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室

    中国上海市出身。電通で上海万博プロジェクト、自動車メーカー担当営業を経てクリエーティブブティックへ出向。その後、現在の事業開発領域ビジネスに従事。デジタルファブリケーション分野のビジネス開発からスタートアップ企業との協業、異業種とのネットワーキングに注力している。

  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ