Dentsu Design Talk #78

「魔法の世紀」のつくりかた(前編)

  •      2
    落合 陽一
    筑波大学助教/メディアアーティスト
  • 087
    菅野 薫
    株式会社電通 CDC / Dentsu Lab Tokyo グループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト

メディアアーティストであり、筑波大学助教として最新のテクノロジー開発に取り組む研究者である落合陽一さん。自らの会社ピクシーダストでは、ものづくりなどのビジネスにも取り組み、最近では広告ビジネスの研究開発もスタートさせている。近著『魔法の世紀』では、人々がメディアの中の現実を共有する「映像の世紀」から、メディア環境そのものに人間の生活や社会が溶け込んだ「魔法の世紀」がやってくると看破し、独特のハイパーな語り口や、先進的な未来の捉え方、明快なビジョンで注目を集めている。

今回の電通デザイントークは、電通 クリエーティブ・テクノロジストの菅野薫さんが聞き役に指名され、落合さんが考える「魔法の世紀」について、「現代の魔法使い」と称される落合さん自身にひもといてもらう。

(左より)落合氏、菅野氏

プラズマの妖精が空中を飛ぶ?「魔法の世紀」はすぐそこに

菅野:今日は著書『魔法の世紀』にも触れながら、落合さんとその仕事をひもといていきます。

落合:まずは自己紹介をしましょうか。メディアアーティストという肩書になっていますが、最近ハマっているのはプラズマ物理です。液体でも固体でも気体でもない、高エネルギー体の発光物体を光で作ることに興味があります。レンズを並べたり、レーザーを打ったりして作っています。これは、妖精のイメージを超低エネルギーのプラズマで物理的な物質として作ったものです。

落合:イメージみたいに生じる物質=妖精というイメージがあって、それを物理的に作ったら面白いと思って。100兆分の3秒の超時短パルスレーザー(フェムト秒 レーザー)を使って、空中にプラズマを作っています。これくらいの低エネルギープラズマなら、触っても比較的安全だし、触ったら反応するようにプログラム しています。

菅野:触るとどんな感触なんですか?

落合:ザラッとしています。それか、パチッとする。紙やすりのような静電気と思っていただけたら。こういう物質だか映像だかよく分からないものを作りながら、「映像と物質の境界を超える」というテーマに取り組んでいます。やがて、自分たちの身体も物質なのかイメージなのか分からなくなる世界が来るんじゃないかと思っています。もう少しありていな自己紹介をすると、28歳で、博士で、筑波大学に落合陽一研究室があります。

菅野:筑波大を出て、東大の大学院を飛び級したんですよね。

落合:そうですね。あとはアメリカではピクシーダスト(Pixie Dust Technologies)という会社を、日本ではジセカイという会社をやっています。VRコンソーシアムの理事、情報処理学会の本部委員もやっています。うさんくさく見えるかもしれませんが、最近は海外でも評価されていて、去年はワールドテクノロジーアワードのIT Hardware賞を受賞しました、ラリー・ペイジとか、ゴードン・ムーアとかがもらってる賞です。基本的には働き者なので、毎日本を書くか、実験するか、しゃべるか、テレビに出るかしています。寝なくても大丈夫なので、毎日20時間くらい働けるという特徴があります。

大前提から話し始めると、映像はここ100年くらいの世界の考え方の基本原則を作ったと僕は考えています。キネトスコープって、誰が作ったか知っていますか?
1800年代の発明品は「エジソン」と言っておけば大体当たります。これもそうです。要はヘッドマウントディスプレーですよね。ヘッドマウントはできないですけど。

菅野:頭の方を突っ込むんですよね。

落合:はい。それから、こちらはキネマトグラフ。映写型です。商業的に成功しそうなのは、キネマトグラフですよね。

菅野:頭を突っ込まないですからね。まあ、こちらもエジソンが発明したという。

落合:だけど、今はみんなディスプレーを持っているから、ヘッドマウント型にディスプレーをはめた方が安くなる、という時代になってきました。

菅野:一周して戻ってきたんですね。

落合:そうなんです。キネトスコープの発明から約120年経ちますが、光学技術の発展と共に、われわれはいろいろなメディア装置を手に入れてきました。こういう装置に、われわれはイデオロギーを支配されてきたと思うんです。しかし、その発明自体が芸術といわれることはあまりなかった。

菅野:メディアを発明することと、メディア上で表現を発明すること(クリエーティブ)が切り離されて評価されてきたということですね。

落合:はい。昔はメディアができてもコンテンツとして消費されるまで十数年かかっていましたが、今はメディアとコンテンツを作ることがほぼ同じ速度になってきた。それなら、メディアを作り続けることが“発明文化”であるだけでなく、“芸術文化”として捉えられるのではないか? それが、僕がメディアアートに感じていることです。

僕が挑戦しているのは、「コンテンツがない芸術は存在しうるか?」という問いです。アート業界の人には「コンテンツがないと批評性がない、だからアートとはいえない」と、ずっと言われてきました。これはマルセル・デュシャンが“レディーメード”の考えを発表した時に「アートではない」と言われたのと極めて似た状況だと思っています。つまり、今後“発明行為そのものが芸術だ”という一派が存在していっておかしくないはずなんです。

菅野:アート界隈では、大いに議論を呼びそうなテーマですね。

落合:実際、ものすごく議論になりました。ただし、アルスエレクトロニカのような場所では以外と評価されています。最近賞ももらいました。実は2000年代からこの議論はずっと続いていて、例えば明和電機が海外で活動を始めたころは、「文化的批評性がないのに、日本人はこれをアートと言っているのか?」と言われたんです。しかし、当時アルスエレクトロニカの芸術監督が「われわれは社会批評性があれば安全であるというような場所から、いったん踏み出さなければいけない」という発言をして、徐々に許容されるようになってきました。それが発明による「バイオアート」などが成立するようになった文脈だと思います。


身の回りの「物」が動きだす未来がやってくる

落合:ここまではアートの話をしてきましたが、僕が大学で教えているのは計算機です。電気工学者のクロード・シャノンが1937年に発表した修士論文「継電器及び開閉回路の記号解析」は電気回路のスイッチングを「0」と「1」に置き換えて、デジタル計算機の基礎を作りました。僕は学生のころ、このスイッチと電気の関係にすごく興味があって、この「電気がみえるデバイス」は大学生のときに作った、格子点のスイッチのオンオフの切り替えによって回路が作れる作品です。部品を挿すだけで電子回路がつくれるブレッドボードになります。
昔は、回路の状態を0と1に変換していたけれど、僕は逆に0と1をどうしたら物理的な状態に戻せるのかに興味を持ちました。それ以来、プラズマや音波を使って同じテーマに取り組んでいます。
シャノンから50年、コンピューターの歴史を見ると、今度はどうマルチメディア化するか、つまり光と音を使って、われわれの視覚と聴覚をどう満たすかが大きな研究テーマになります。

 

落合:そして、今から約25年前にユビキタスコンピューティングという言葉が生まれます。ユビキタスコンピューティングの祖として知られるマーク・ワイザーは当時の論文で「発達した無線網があれば、われわれはデジタルとアナログの区別なくコミュニケーションするようになる」と書いています。無線が十分発達した今、まさにその状況が生まれています。この場には、ノートでメモを取っている人もいれば、パソコンのキーボードを打っている人もいますよね。

今では、僕たちはスマートフォンや電子タブレットを手にし、無線は十分に発達し、マルチメディアはいったん成熟しました。色と光に関しては、予算と時間があれば、人間が想像するたいていのことはレンダリングできると分かった。だから、そろそろ違うフェーズに踏み出さなければいけないとみんなが気づき始め行動に移し始めてきたのが、2016年という時代性だと思います。

僕が今やっているこれまでの映像装置を超えていく方法の一つは、より強度を高くすること、あるいは解像度を高くすることです。例えば、先ほど紹介したプラズマで出てくる妖精は、スマホが発するのと本質的には 同じぐらいの光の量でできますが、瞬間的にそれを集めることで、触れて光るタッチパネルのようなものを空中に作ることができます。超音波を集めれば、物を浮かせることもできます。

 

落合:われわれの身の回りのものは、やがて動きだすんです。付箋がここのページをめくってと教えてくれたり、そろばんで計算していると、こっちが正しいよと勝手に動いたりする。やがて必要なことはコンピューターが直接教えてくれるようになって、ググって(検索して)調べる必要はなくなるでしょう。

音、光、電気、波など、あらゆるものを扱っていますが、全てフーリエ変換(ある任意の時間信号を複数の周波数成分に分解して表現する解析法)を使って計算しています。触れる光を作ることも、ある人にしか聞こえない音を作るのも、計算上は全く同じです。どうやったら対象の場所に波を合成できるかということが、僕の博士時代の専門です。これをホログラムといいます。ちなみに「ホログラム警察」もしていますよ。

菅野:ホログラムって、よく誤解されていますよね。

落合:そうなんです。ホログラムというのは、空間上にある波の位相合成です。決して、プロジェクターから出た光がガラスに映っていることではありません。

菅野:ペッパーズ・ゴーストや、透過スクリーンに映像を出すことを、ホログラムだと勘違いしている人は多い。そういうこと書いている企画書をよく見ます。「アイドルがスクリーンにホログラムで飛びだして…」というような。ホログラム警察って、何をしているんです?

落合:「ホログラム」と書いてあるツイートを検索して、「これはホログラムではない」と全部取り締まっています(笑)。ホログラムは専門用語なので、間違って使われるのはすごく悲しいです。今まではエジソン時代から変わらないような、空間に音と色の広がりしか出せなかったけれど、これからはホログラムで作ったより計算機的像も出せるようになります。今はエンジニアとコンテンツの作り手が分かれていますけど、どちらにも精通した人材が出てくると、想像もつかないようなアウトプットを出せるようになると思います。

※後編につづく
こちらアドタイでも対談を読めます!

 

企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

プロフィール

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    落合 陽一
    筑波大学助教/メディアアーティスト

    1987年東京生まれ。メディアアーティスト・筑波大学助教・デジタルネイチャー研究室主宰。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年から筑波大学に着任。コンピューターとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャル、人と機械の区別を超えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。著作に『魔法の世紀』(PLANETS 刊)・『これからの世界を作る仲間たちへ』(小学館 刊)がある。音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」及びフェムト秒レーザーの計算機制御によるグラフィクス形成技術「フェアリーライツ」が経済産業省「Innovative Technologies 賞」受賞、IPA認定スーパークリエータ、 Prix Ars Electronica 栄誉賞/ Laval Virtual Award グランプリ/Asia Digital Art Award優秀賞 / WIRED CREATIVE HACK AWARDグランプリなどその他国内外で受賞多数。2015 年、日本人個人として、ノーベル賞受賞者の中村修治以来二人目となる World Technology Award の IT Hardware 部門を受賞。ホログラム技術のピクシーダストテクノロジーズCEO、ジセカイ株式会社取締役、電通ISIDメディアアルケミスト、など産学連携にも力を入れている。

  • 087
    菅野 薫
    株式会社電通 CDC / Dentsu Lab Tokyo グループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト

    2002年電通入社。データ解析技術の研究開発業務、国内外のクライアントの商品サービス開発、広告キャンペーン企画制作など、テクノロジーと表現を専門に幅広い業務に従事。
    2014年に世界で最も表彰されたキャンペーンとなった本田技研工業インターンナビ「Sound of Honda /Ayrton Senna1989」、Apple Appstoreの2013年ベストアプリに選ばれた「RoadMovies」、東京オリンピック招致最終プレゼンで紹介された「太田雄貴 Fencing Visualized」、国立競技場56年の歴史の最後の15分間「SAYONARA 国立競技場 FINAL FOR THE FUTURE」企画演出など活動は多岐にわたる。
    JAAA クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2014年)/ カンヌライオンズ チタニウム部門 グランプリ / D&AD Black Pencil / One Show -Automobile Advertising of the Year- / London International Awardsグランプリ / Spikes Asiaグランプリ/ ADFEST グランプリ / ‎ACC CM Festival グランプリ / 東京インタラクティブ・アド・アワード グランプリ / Yahoo! internet creative awardグランプリ/ 文化庁メディア芸術祭 大賞 / Prix Ars Electronica 栄誉賞 / グッドデザイン金賞など、国内外の広告、デザイン、アート様々な領域で受賞多数。

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