Dentsu Design Talk #79

「魔法の世紀」のつくりかた(後編)

  •      2
    落合 陽一
    筑波大学助教/メディアアーティスト
  • 087
    菅野 薫
    株式会社電通 CDC / Dentsu Lab Tokyo グループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト

メディアアーティストであり、筑波大学助教として最新のテクノロジー開発に取り組む研究者である落合陽一さん。自らの会社ピクシーダストでは、ものづくりなどのビジネスにも取り組み、最近では広告ビジネスの研究開発もスタートさせている。近著『魔法の世紀』では、人々がメディアの中の現実を共有する「映像の世紀」から、メディア環境そのものに人間の生活や社会が溶け込んだ「魔法の世紀」がやってくると看破し、独特のハイパーな語り口や、先進的な未来の捉え方、明快なビジョンで注目を集めている。

今回の電通デザイントークは、電通 クリエーティブ・テクノロジストの菅野薫さんが聞き役に指名され、落合さんが考える「魔法の世紀」について、「現代の魔法使い」と称される落合さん自身にひもといてもらう。前編に引き続き、今回はその後編をお届けする。

(左から)落合氏、菅野氏
 

コンピューターと人間が一体化した世界「デジタルネイチャー」とは?

落合:僕の生涯をかけた目標のひとつは、映像でも物質でもない、その間にあるホログラムのようなものによって、人間の芸術に関する価値観をアップデートすることです。そのとき、コンピューティングは裏に隠れ、コンピューターがシミュレーションしたものが、人間が目にしている物質世界に出てきます。どこまでが自分自身の身体なのか、アナログなものなのか、ほぼ区別がつかないような世界になっていくはずです。それが「魔法の世紀」を生きているということじゃないかと思っています。その基礎技術を作ることが、僕の今後10〜20年の課題です。

そのために、筑波大に「デジタルネイチャー」という研究室を作りました。今は自然と人工物、人間とコンピューター、人間と環境が分かれていますが、今後全部同じ記述のされ方、解像度になっていく。そうすると、やがて精神や身体やデータや空間が計算機によって統一的に記述されていく環境が生まれるはずです。僕はそれをデジタルネイチャーと呼ぶことにし、研究室の名前にしたんです。

ここで言うデジタルは、これまでの「離散的な」という意味ではありません。「計数的な自然」という意味です。コンピューターの中に観測した物のデータが あって、そのデータからわれわれの精神や物理世界がそのままコピーされ、シャドーとして存在するような(超)自然空間世界がそのうち存在するようになるはずです。そうなると、「今日○○さんが不機嫌なのは、データ的にこういう理由だからだろう」と分かるようになります。

落合:社会学者のマックス・ウェーバーはかつて、社会に科学が浸透するさまを「脱魔術化」と表現しました。例えば物が腐る理由が分からなかった時代には、火はけがれを落とすという魔術的な理由で使われていました。しかし、パスツールが腐るメカニズムを解明して以降は、火は物を腐らせる微生物を殺すために使うのだと認識が変わりました。

そして1981年に社会批評家のモリス・バーマンは、あまりに高度で複雑化した現代社会では「再魔術化」が進むと指摘しました。なぜそれが起こるか分からない、仕組みが分からないまま人々が生活しているのが現代社会だ、という指摘です。『魔法の世紀』では、この「再魔術化」がコンピューターによってより本格化していくと指摘しています。何かどう動いているか分からなくても、Siriさんは今日も働いているし、グーグルマップは元気に動いていますもんね。

菅野:コンピュータによって世の中がブラックボックス化するということですか。

落合:はい。その最たる例がAPI社会です。グーグルのAPIをアマゾンに投げて、それをアンドロイドに投げて…と次から次へとつないでいるけれど、APIの中は誰も分かっていない。だから最終的な処理がどうすれば早くなるのかは、もはや誰にも分からない。そういう世界のキーワードが「魔法化」で、魔法化されたものには特徴的な性質が出てくるだろうと書いたのがこの本です。

菅野:落合さんは大学の研究室でリサーチとしてやっている部分と、アートとしてやっている部分とが越境していますよね。その中で“ブラックボックス化している”と定義することは、研究と背反しないんですか?

落合:僕が理系的に研究しているのはブラックボックスの外側です。そして、それがブラックボックス化する必然について文系的に研究しています。メディアがよく勘違いするのですが、自分は魔法の研究をしているのではなくて、魔法を構成するもの自体を研究しているのです。その傍らで魔法とは何かを研究しています。

昔はデカルト的自然観があり、人間が自然と対峙していました。人間は唯一の知的生命だったので「我思う故に我あり」だったわけです。それが今は「我データ故我コピーか」になっている。人間があらゆる自然現象をコンピューターを経由して理解するようになった結果、人間主体の社会ではなく、コンピューター主体の社会が作られ始めているんです。

菅野:人間の主観を中心に見るのか、デジタル主導で見るのか。落合さんは後者なんですね。

落合:そうです。インターネットによって形作られた世界の中で、全体性と部品性の間でわれわれは何を考えながら生きていくのだろう? そこにとても興味があって。人間の価値観は環境依存なので。

ざっくりこれまでの話をまとめましょうか。リクルートの石山さんがこの前言ってたんですけど、今、僕たちは「マルチラリティー」(段階的人工知能化)の時代を生きています。ひとつの価値観によってわれわれの価値観が一斉にアップデートされる「シンギュラリティー」ではなく、一人一人が別々のことを考えていている、大きく言えばマスが存在しない時代です。われわれはリアルの中では交差せず、唯一の現実のサブセットの中で生きるようになるはずなんです。

こうした中で、メディアアートを作る意味をよく聞かれます。僕は、次のプラットフォームに行くための抵抗だと思っています。グーグルのVRがすごいといわれていますが、そのVRが生み出す世界のイメージを提示することが、テクノロジーアートや、僕がやっているコンテンツを作らないメディアアートみたいなものが持っている役割だと思います。

菅野:コンテンツが内包されるのではなく、コンテンツを作らないという自覚を持ってやっているということなんですね。

落合:そうです。むしろコンテンツとプラットフォームが不可分なものを作りたいんです。それはメディアアートと呼ばれたり、発明とも呼ばれます。エジソンは蓄音機を音楽に使うことに最初は反対しました。「音楽は生で聞く方がいい」と。そういうこだわりを内包したものが作品=メディアアートです。そのこだわりがなくなると、蓄音機は完全にプラットフォーム化して普及します。それは作品としての価値が下がったのではなく、作品の価値がユビキタス的になり、世界中にインストールされて文化的な作品になったとも捉えられます。そう考えると、メディアアートの文脈は大きく広がっていきます。つまり、媒体芸術の保存先を社会と考えれば良い。


「魔法の世紀」に、広告会社の仕事はどう変わるか

菅野:マス=共通体験が存在しない世界では、広告や広告会社の仕事はどう変わるんでしょうか?

落合:新しいテクノロジーが発明される瞬間が、唯一のマスになるでしょうね。発明によって引き起こされる、「すげえ」「やべえ」という驚きの感覚だけが、共有可能なプラットフォームになる。例えば、オキュラスリフトを発明すること自体が広告になるということです。
それとは別に、狭い広告=「狭告」は無数に存在します。僕の研究室には、「何か懐かしい気がする風景」をデータ学習型インターネットで合成する研究をしている学生がいたりもするんですよ。

菅野:コンピューターが抽出してきた「懐かしさ」を、もう一回人間が感じ取ってみるということですか?

落合:はい。今まで感性や感覚はクリエーターのインスピレーションで決まっていましたが、実は数式で表せます。となると、その数式にクリエーティブを後からはめ込めばよくなる。コンピューターが感性を計算し、どのクリエーターをアサインするかまではじき出し、その人を現実で探すのが人間の仕事になるわけです。オーディションも、コンピューターが「この作品に最適なのはこの顔」と表示した顔の持ち主を探すのが、キャスティングの人の仕事になるかもしれない。といっても、Facebookの顔写真とマッチングした人に電話するだけでいいんですけどね。

地方自治体の一件5万円ぐらいの仕事も、半自動化のメカニカルターク(機械学習と人力による処理を最適化して組み合わせる方法)で1万件取ってきて5億円の売り上げにする、といったこともできるようになります。電通のような大手広告会社は、そういうサービスを開発して持つようになると思います。

落合:広告会社の一番面白いところは、情報企業であるところだと僕は思っています。人間というコンピューターに、ビジュアルや音声でどうやったら情報をインストールできるかということだけをやってきた企業でしょう。ということは、その情報を制御するシステムも社内に持った方が面白い。グッとくる表現と技術のコンビネーションで、人に刺さる枠組みのエンジンを開発する。グーグルやアマゾンはこういうコンテンツベースのプラットフォームは作らないでしょうから、コンテンツ提供企業や広告のプラットフォーマーがやるべきです。

僕が会社を作るのも、自分が作ったものをどんどん“社会実装”したいと考えているからです。自分のテクノロジーを社会にインストールしていくという、エジソン的な目標です。リサーチ、プロトタイピング、マーケティング…一通り全部できるようになるのが、21世紀の研究者であり、アーティストの活動だと思っています。

<了>
こちらアドタイでも対談を読めます!

 

企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

プロフィール

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    落合 陽一
    筑波大学助教/メディアアーティスト

    1987年東京生まれ。メディアアーティスト・筑波大学助教・デジタルネイチャー研究室主宰。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年から筑波大学に着任。コンピューターとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャル、人と機械の区別を超えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。著作に『魔法の世紀』(PLANETS 刊)・『これからの世界を作る仲間たちへ』(小学館 刊)がある。音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」及びフェムト秒レーザーの計算機制御によるグラフィクス形成技術「フェアリーライツ」が経済産業省「Innovative Technologies 賞」受賞、IPA認定スーパークリエータ、 Prix Ars Electronica 栄誉賞/ Laval Virtual Award グランプリ/Asia Digital Art Award優秀賞 / WIRED CREATIVE HACK AWARDグランプリなどその他国内外で受賞多数。2015 年、日本人個人として、ノーベル賞受賞者の中村修治以来二人目となる World Technology Award の IT Hardware 部門を受賞。ホログラム技術のピクシーダストテクノロジーズCEO、ジセカイ株式会社取締役、電通ISIDメディアアルケミスト、など産学連携にも力を入れている。

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    菅野 薫
    株式会社電通 CDC / Dentsu Lab Tokyo グループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト

    2002年電通入社。データ解析技術の研究開発業務、国内外のクライアントの商品サービス開発、広告キャンペーン企画制作など、テクノロジーと表現を専門に幅広い業務に従事。
    2014年に世界で最も表彰されたキャンペーンとなった本田技研工業インターンナビ「Sound of Honda /Ayrton Senna1989」、Apple Appstoreの2013年ベストアプリに選ばれた「RoadMovies」、東京オリンピック招致最終プレゼンで紹介された「太田雄貴 Fencing Visualized」、国立競技場56年の歴史の最後の15分間「SAYONARA 国立競技場 FINAL FOR THE FUTURE」企画演出など活動は多岐にわたる。
    JAAA クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2014年)/ カンヌライオンズ チタニウム部門 グランプリ / D&AD Black Pencil / One Show -Automobile Advertising of the Year- / London International Awardsグランプリ / Spikes Asiaグランプリ/ ADFEST グランプリ / ‎ACC CM Festival グランプリ / 東京インタラクティブ・アド・アワード グランプリ / Yahoo! internet creative awardグランプリ/ 文化庁メディア芸術祭 大賞 / Prix Ars Electronica 栄誉賞 / グッドデザイン金賞など、国内外の広告、デザイン、アート様々な領域で受賞多数。

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