企業メセナ協議会がASEANネットワーク構築に向けて東京会議開く

企業メセナ協議会は5月27日、「芸術・文化振興と社会創造における企業の役割 ~ASEANネットワークの構築に向けて~東京会議」を中央区のベルサール東京日本橋で開いた。

芸術・文化を企業が支援するメセナ活動の分野で、日本の各社は独自の経営資源を生かした新たな手法を開発し、幅広い社会課題に取り組んできた。同協議会は近年、東南アジアにおけるメセナ意識の高まりを受け、同地域との連携を進めている。会議では同協議会の提唱する、文化が経済を支える「創造経済」の考え方に基づき、芸術・文化による社会創造を推進する上で企業がどのような役割を果たせるかをテーマに、多彩な登壇者が知見を披露した。


 

ベネッセホールディングスの直島事業室長・渡辺健氏は、30年にわたり同社と福武財団が行っているベネッセアートサイト直島の活動を報告。小さな島々のお年寄りと都市に住む若い人や海外からの訪問者との交流が生まれ、「瀬戸内国際芸術祭」開催年には100万人を超える人々が訪れるまで規模が拡大し、芸術によって瀬戸内の知名度やブランド力が確実に向上したと語った。「香川県直島での継続的なアート活動」で2006年度メセナ大賞受賞。

瀬戸内でアートによる地域振興を行うベネッセの活動「ベネッセアートサイト直島」について語る渡辺健氏
瀬戸内でアートによる地域振興を行うベネッセの活動「ベネッセアートサイト直島」について語る渡辺健氏

続いてタイでジム・トンプソン・アートセンターの芸術監督を務めるクリッティヤー・カーウィーウォン氏が登壇した。ジム・トンプソン財団は、第2次世界大戦時にタイに駐在したアメリカの実業家・軍人が創立したタイシルク産業企業が母体。同センターはバンコク有数の観光地でもある。ニューヨークのグッゲンハイム美術館とのプロジェクトなど、現代アートおよび伝統芸術の振興、世界とタイの相互理解を深める活動を紹介した。

タイでの活動を紹介するるクリッティヤー・カーウィーウォン氏
タイでの活動を紹介するるクリッティヤー・カーウィーウォン氏

マレーシアからは、サイム・ダービー財団取締役のヤテラ・ザニアル・アビディン氏が参加。同財団は、1982年に奨学金制度を創設し活動をスタートさせた。芸術・文化分野ではアートフェスティバルの開催や伝統舞踊の維持を目的とした「アスワラ舞踊団」の運営、パフォーミングアーツセンターを設立するなどの活動を行っている。

サイム・ダービー財団の活動について話すヤテラ・ザニアル・アビディン氏
サイム・ダービー財団の活動について話すヤテラ・ザニアル・アビディン氏
 

中村ブレイス代表取締役の中村俊郎氏は、人口400人の島根県大田市大森町で義手・義足をつくる企業として、かつて石見銀山で栄えた町の再興に貢献したことを説明。2007年の石見銀山の世界遺産登録では、歴史資料の保存管理、資料館の運営、伝統的な町並みをよみがえらせる活動で大きく寄与した。同活動により2011年度メセナ大賞受賞。同社は、石見銀山文化賞を創設している。

島根県大森町の再興に貢献した中村ブレイスの中村俊郎氏
島根県大森町の再興に貢献した中村ブレイスの中村俊郎氏
 

ナショナル・アーツカウンシル・シンガポール芸術文化発展次長のスアン・フゥイー・オング氏は「シンガポールでは、国民の80%が寄付行為を行っているが、アートへの寄付は2.5%しかない。フィランソロピーの中に芸術振興を定着させ、芸術に対する寄付の価値を上げたい」と、企業や個人の寄付行為を奨励するためのパブリック・アート・トラストやカルチュラル・マッチングファンドの運営、芸術パトロン賞での個人表彰などを行う。

シンガポールから参加したスアン・フゥイー・オング氏
シンガポールから参加したスアン・フゥイー・オング氏

オーストラリアでフィランソロピーの普及に努めるカリロ・ガントナー氏は、Play Box Theaterの創設者で、アーティスティック・ディレクター、俳優、投資会社CEOも務める。企業による芸術活動について「リーダーシップが機能することと、利害の調整を図ること。企業は利益を求めるが、アートには老若男女みなが楽しい経験をする機会を提供できるという強みがある。アートとのパートナーシップには高い価値がある」と発言した。

オーストラリアでフィランソロピーの普及活動を行うカリロ・ガントナー氏
オーストラリアでフィランソロピーの普及活動を行うカリロ・ガントナー氏

大日本印刷ICC本部長の舟橋香樹氏は、同社の企業メセナが「本業に近いところで息長く」の基本方針のもと、視覚芸術の領域にフォーカスしていることを説明。ICTの発展により事業領域が拡大する中で、DNPミュージアムラボの技術メセナは、人と芸術・文化をつなぎ、より豊かな社会に向けて、文化施設との継続的な活動を進めている。2015年「ルーヴル – DNP ミュージアムラボを起点とした美術鑑賞ワークショップ」でメセナ大賞受賞。

大日本印刷の舟橋香樹氏
大日本印刷の舟橋香樹氏

最後に、ニッセイ基礎研究所研究理事の吉本光宏氏をモデレーターにディスカッションを行った。参加者からは、企業メセナの意義と多方向の文化交流の重要性についてさまざまな意見が出された。ASEANでは、メセナという概念の理解や企業の活動はまだ不十分で、このような会を重ねネットワークを広げてゆくことで、それぞれの取り組みを共有しメセナ活動をより高めてゆくことの重要性を確認した。

登壇者が企業メセナの意義と多方向の文化交流の重要性について議論。モデレーターはニッセイ基礎研究所研究理事の吉本光宏氏
ニッセイ基礎研究所研究理事の吉本光宏氏(左)をモデレーターにディスカッション
 

ディスカッションから加わったマレーシアのマルコ・クスマウィジャヤ氏は「アートは社会が変化していく過程に必要だ。破壊的な変化ではなく、クリエーティブで、多様な視点をもった変化をもたらす」と語った。

マレーシアから参加したマルコ・クスマウィジャヤ氏
マレーシアから参加したマルコ・クスマウィジャヤ氏
 

また、同協議会は同日、マイ・パフォーミング・アーツ・エージェンシー マレーシア(MyPAA)と「企業メセナ協議会マレーシア」設立に向けた覚書を交わした。8月24日にマレーシアで行われる会議で日本の企業メセナを紹介、企業メセナの重要性を確認し、日本とマレーシアをはじめ各国政府や企業も参加する企業メセナ協議会マレーシアの設立を通じてASEAN芸術・文化振興プラットフォームの構築を目指す。

同協議会は、日本の企業メセナの発信と東南アジア諸国との相互交流をさらに活性化するため、2015年から18年にかけてASEANでのメセナ調査と国際会議の開催を行っている。

(左から)尾﨑元規理事長、髙嶋達佳会長、ダト・アハマッド・イズラン・イドゥリス駐日マレーシア大使、MyPAAのイザン・サトリナ・モハメド・サレフディン氏
(左から)尾﨑元規理事長、髙嶋達佳会長、ダト・アハマッド・イズラン・イドゥリス駐日マレーシア大使、MyPAAのイザン・サトリナ・モハメド・サレフディン氏

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