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AI革命の「大分岐」で広告業界が動く~人を動かす次世代エージェントNo.6

デジタル化の次はリアル化を目指せ!日本が世界のモデルに?

2016/07/25

いよいよ日本広告業協会(JAAA)第45回懸賞論文で金賞を受賞した論文の内容をリライトしてご紹介する本シリーズも最終回となりました。本論文でお伝えしたかった「次世代エージェント」とは結論として、一体どのようなものなのでしょうか。第2回で触れた、第4次産業革命のコア技術(GPT)とされる「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」についても併せて解説致します。また、本論文含むJAAA懸賞論文「入賞・入選作品」はこちらからご覧いただけますので是非ともご参照ください。

広告業界のチャンス~インプットからアウトプットまでのユーザー体験を提供

このようにユーザー自身による分散PDSでの個人情報の統合はメリットが多いが、もし実際に実行できる環境が整ったとしても一個人で行うには設定が複雑になる可能性が高い。やはりインプットからアウトプットまでを一貫して、ユーザーをサポートしたり代理したりするサービスは求められるので、ここに広告業界のチャンスがある。つまり、「次世代エージェント」とは、特定の機器やOS、アプリに依存せず、安全に複数のサービスをバーチャルに統合・運用するもので、個人のセンサーデータやライフログを貯めれば貯めるほどAI技術で勝手に賢くなるサービスのことで、その賢いエージェント(VPAなど)がユーザーの利便性を極限まで高めつつ、ユーザーの感情に訴えて新しい欲求(需要)を生み出すもののことである。そしてこのエージェント・サービスは、現在のクラウドサービスが個人と法人を問わないように、個人だけではなく法人でも同様に使える仕組みとなるだろう。さらに分散PDSによって安全性が仕組みとして担保されていれば、いちいち機器やサービスごとの認証や許諾は必要なくなり、デフォルトで自動接続も可能になるかもしれない(例:認証済みWi-Fiの進化系のようなイメージ)。そうなれば、普段の生活の中で、裏側のエージェントを意識することなく、サイバー空間につながるテクノロジーが完全に環境に溶け込んだ社会になる。

第4次産業革命に向けて~サイバー・フィジカル・システム(CPS)とは

そのような中で、今後ますます注目したいキーワードの一つがCPS(Cyber-Physical System)である。リアル空間とサイバー空間を結ぶ仕組みを呼びあらわす用語はこれまでもユビキタス・コンピューティング、クリック&モルタル、O2O、そしてIoTと多数存在したが、CPSはそのような中でも、本稿でこれまで述べてきたAI+IoTの両方の概念を包含するものとして位置づけられるだろう。

より詳しく述べるとCPSとは、IoTの進展によって現実の空間にセンサーによるネットワークが張り巡らされ、仮想空間(Cyber)が物理空間(Physical)を制御することを可能にする仕組み(System)をあらわしている。さらには物理空間からのフィードバックを仮想空間に戻し、相互作用をループさせる仕組みも含んでいる。CPSはIoTと基本概念は同じだが、IoTはCPSの一要素であると捉えられ、IoTによるモノのデジタル化・ネットワーク化によって生成されるビッグデータを人工知能(AI)が解析する循環システム全体をCPSと呼ぶ【図】。

【図】サイバー・フィジカル・システムの概念図(筆者作成)

【図】サイバー・フィジカル・システムの概念図(筆者作成)

「アトム(物質)からビット(情報)へ」(ニコラス・ネグロポンテ氏)と言われてから約20年。「アトム」はフィジカルやリアル、「ビット」はサイバーやデジタルとも言い換えられるが、製造業ではすでに3Dプリンターなどの出現によって「ビット(情報)からアトム(物質)へ」と言われはじめている。それに続きマーケティングでもCPSによって「ビット」から「アトム」へのフィードバックの時代が幕を開け、デジタル化を目指してきたマーケティングは、今度はリアル化を競うことになるのだろう(※11)。

まとめ~広告業界が日本のモデルに、日本が世界のモデルに

最後になるが、「楽観的なことをいっているが、AIによって定型化されたサービス業の労働が不要になるのならば、そもそも広告業界は縮小してしまうのでは」と思われるかもしれない。この疑問への回答はごくシンプルで、その対策は、できる限り事業ドメインを「定型作業」から「非定型作業」にシフトさせるに尽きる。例えば、自動車の自動運転は多くの運転手を不要にする可能性があるが、その自動運転技術を開発するのも、社会に適用させるのも、ビジネスモデルを考えるのも、その富を受け取るのも、全ては「人間」である。「労働」が不要になる可能性があっても「人間」が不要になることはない。「非定型業務」とは、例えば研究開発やビジネス開発などだが、Googleの「20%タイム」(勤務時間の20%を独自の自分のプロジェクトに充てられるもの)は、すでに非定型業務へのシフトをルール化しているとみることができる。また生産性が上がればそれだけ労働時間を短縮できるので、三六協定などの順守を求められる日本の広告業界ではAIを全力で導入するデメリットは何も見当たらない。広告業界がAIを導入することで生産性を上げることができれば少子高齢化で労働力不足の日本のロールモデルになれるだろうし、それが日本に広がって成功すれば、日本が世界のロールモデルになれるのではないだろうか。

本稿によって、日本の広告業界が次のテクノロジー(AI)に「動く」こと。そして広告業界はその強みをいかして次世代エージェントで人々の行動と感情を「動かす」こと。そしてそのことが社会の需要を生み出すこと。さらにそのことで日本と世界が豊かになり、広告業界が成長していくこと。その一助となれば幸いである。

※11:日塔史「現代広告ビジネス用語の基礎知識:CPS (Cyber-Physical System)」, 「JAAA REPORTS (2016年4月号)」(日本広告業協会,2016), pp11.