デジタル活用で成果を出すには #17

ABテストの落とし穴

  • 20160512 072
    原田 洋平
    株式会社電通デジタル
  • Takeshita kousuke pr
    竹下 康介
    株式会社電通 デジタルマーケティングセンター Webウェブインテグレーション部 シニア・デジタル・プランニング・マネージャー
ネクステッジ電通

購入や申し込みなど、インターネット上で直接ユーザーに行動を起こさせるダイレクトレスポンス広告。今回はダイレクトレスポンス広告のクリエーティブのあるべき姿、PDCA運用の落とし穴について、電通デジタルマーケティングセンターWebインテグレーション部の竹下康介さんと、ネクステッジ電通制作ディレクショングループの原田洋平さんに話を聞きました。

※株式会社ネクステッジ電通は、2016年7月1日付で「株式会社電通デジタル」となりました。
(左から)電通の竹下康介さんと、ネクステッジ電通の原田洋平さん
(左から)電通の竹下康介さんと、ネクステッジ電通の原田洋平さん

ダイレクトレスポンス広告とブランディング広告は対立するものではない

──お二人の仕事の内容を教えてください。

竹下:ウェブコミュニケーションのプロデュース、ディレクション、実制作までを担当しています。ネクステッジ電通と一緒にプロジェクトを進めることも多く、外部からの集客施策のプランニングをネクステッジ電通、その先のウェブサイトの施策や、全体のクリエーティブ管理などを私が担当するという形で協業しています。

原田:私は、ネクステッジ電通で運用する運用型広告のバナーやランディングページなどの、企画、構成、制作管理を行っています。広告主さまの期待に応えられるよう、市場調査、広告レポート、アクセス解析などのデータを活用したクリエーティブ戦略を提案しています。

──ダイレクトレスポンス広告について教えてください。

原田:ダイレクトレスポンス広告というのは、接触ユーザーに、直接的に購買・会員登録・申し込みなどの行動を促すことを目的とした広告のことです。これに対して、主に製品・ブランド・企業の知名度やイメージ向上を目的した広告を、ブランド広告と呼んでいます。

デジタルマーケティングのクリエーティブは、バナー、ランディングページに加え検索連動型広告のテキストも含まれます。ネクステッジ電通はデジタル領域におけるダイレクトレスポンス広告のクリエーティブ制作を得意としています。

──ダイレクトレスポンス広告とブランド広告では何が違うのでしょうか。

竹下:先ほど申し上げた役割の違いに加え、短期的なマーケティング成果を重視するか、中長期的な成果も含めて効果を期待するか、といった違いも挙げられます。ただ、ダイレクトレスポンス広告とブランド広告は、「相反するもの」として語られがちですが、私は対立するものではないと考えています。「ユーザーとブランドの接触・ブランド体験が生まれる場所」として、どちらの考え方も重要です。

電通の竹下康介さん
ダイレクトレスポンス広告とブランド広告は「相反するもの」として語られがちですが、どちらの考え方も重要です

購買などの行動を促すことは、ダイレクトレスポンス広告の目的の一つにすぎません。ブランド広告も、「かっこいい」「おしゃれ」といった分かりやすいイメージの訴求だけではなく、マーケティング全体の文脈の中でブランディングの目的を定義し、それを達成する広告が良い広告といえるでしょう。

──ダイレクトレスポンス広告とブランディング広告は切り分けない方がよいということでしょうか?

竹下:理想的にはそうなりますが、初期のコミュニケーション設計では、切り分けて考えた方が整理しやすく、各コミュニケーション施策の目的や役割も明確になります。ただ分けたままではだめで、マーケティングのうまい企業では、使い分けた上で、ブランディングでつくったイメージをうまくダイレクトレスポンス広告の成果につなげています。

例えば、ある化粧品会社では、地上波のテレビCMでセレブリティーを使って商品の世界観を伝え、BS、CSの120秒CMでは、身近に感じるユーザーが商品の魅力を語ることで「自分も手にとってみたい」「使ってみたい」と思わせることに成功しました。両方のコミュニケーションがあるからこそ、成果につなげられました。

ただ、広告中心でブランドイメージをつくろうとすると、時間もお金も掛かりますから、初期フェーズでは、経営資源をダイレクトレスポンス施策に集中するというやり方をされる企業も多いですね。

ボタンの色、フォント…。世間に流布する勝ちパターンがブランド毀損に?

──ダイレクトレスポンス広告のクリエーティブの注意点はありますか?

原田:クリエーティブが、ブランドイメージを毀損することがないようにしなければなりません。

というのも、ダイレクトレスポンス広告のクリエーティブでは、「○○にするとクリック率が上がる」「XXだとコンバージョン率が高まる」などの手法・トレンドがあります。例えば、ボタンの色は緑やオレンジが、フォントはゴシック系がいいというような話ですね。そういったトレンドをそのままクリエーティブに反映してしまうと、自社のブランドの雰囲気・イメージを壊してしまうケースもあります。

トレンドをそのままクリエーティブに反映してしまうと、自社のブランドの雰囲気・イメージを壊してしまうケースも

もちろん、少しでも数字を上げたいという担当者さまの気持ちは分かるのですが、数字だけを追うのではなく、なぜこの表現を使うのか、ブランドとしてどうなのか、本当に取り入れるべきなのかを冷静に見極める必要があります。

竹下:確かに、そのようなテクニックが優先されやすい傾向にありますね。「なぜこの表現にするとクリックされるのか」の「なぜ」の部分が置き去りにされてしまい、手法だけが取り入れられてしまう。そうすると、ブランドにそぐわないクリエーティブになってしまう場合があります。ちなみに、この場合の「ブランド」とは、かっこいい、おしゃれといったイメージの話ではなく、「その商品らしさ」といった意味で理解していただくと分かりやすいと思います。

そこをはき違えて、「ブランディング=おしゃれ、かっこいい」という先入観のまま、小さなサイズのバナーにビジュアルの美しさで訴求するような写真を入れたりしても、なかなかユーザーには伝わりません。

より瞬間的に伝えるためには、視認性の高いコピーや画像を組み合わせることになります。その上で、例えばブランドとして大事にしている色をベースに配色し、立たせたい部分にはその配色に対して目立つ色を選択する、普段使っているフォントがあれば同じものを採用する、といったことを少し意識するだけで、クリエーティブが劇的に変わります。同じダイレクトレスポンス広告でも、どこの会社の広告か分からないようなブランディングをなおざりにした表現ではなく、「あ、あの会社っぽい」という風に感じる表現になるんです。ただ、目的に応じてさまざまな手法があるので、一概にこれが正解とはいえませんが。

数値は大事。しかし数値に振り回されるPDCAは意味がない

──ダイレクトレスポンス広告の効果測定やPDCAはどのように行っていますか?

原田:先ほどの表現の話と同様に、効果測定においても「なぜ」が置き去りにされていることがあるように思います。クリエーティブのPDCAは、「何の目的で」「何を訴求し」「どのくらいの期間で」「どのように評価するか」ということを明確にして、綿密な計画を立てる必要があります。しかし、実情として計画を立てるところまではできても、継続的に回せないという企業が多い。

ネクステッジ電通の原田洋平さん
クリエーティブのPDCAは、「何の目的で」「何を訴求し」「どのくらいの期間で」「どのように評価するか」

実際にクリエーティブを運用していく上では「優先度」と「柔軟性」を持って計画を実行することが重要です。優先度は、事業に対してどの程度のインパクトがあるのかということです。それを考えないと、目先の細かい数字にこだわってしまい、数字が上がっても費用対効果が合わないときがあります。そういう施策は実施する意味がありませんから、事業インパクトから優先順位をつけていかないといけません。

そして、一度計画を立てたら「そのとおりに遂行しないといけない」と縛られてしまうケースも見受けられますが、「なぜこの施策を実施するのか、本当に意味はあるだろうか」という視点で、その都度柔軟に計画を変更していく必要があります。実際に環境変化や予期せぬイベントなどの影響で、計画通りに進まないことも多いですから。施策計画は常に見直していくことが必要です。

──効果測定で見るべき数値などはプロジェクトによって違いますか?

原田:プロジェクトの目的によって、評価すべき数値は変わります。例えば、購入や申し込み促進を目的とするバナー施策の場合には「クリック率×コンバージョン率」を指標としますし、認知拡大を目的としたバナー施策の場合には「新規UU数」を指標とする場合もあります。このように、プロジェクトの目的が定まっていないと施策がうまくいかないことが多いですね。

竹下:ダイレクトレスポンス広告のPDCAとは、ボタンの色、大きさなどの見た目の変化を繰り変えし試すことだと考えている方もいますし、正解の色があると思っている方もいます。

いろいろなパターンを試すことは必ずしも悪いことではないですが、もっと手前でこの商品、サービスをどう伝えたら世の中に受け入れられるのか、どういうターゲットにいいと思ってもらえるのか、という仮説を立てて評価していくことが重要です

原田:高速PDCAという言葉に代表されるように、早く結果を見てそれを反映させてということを繰り返すだけだと、何が良かったのかが分からず、目指すことが分からなくなることがあります。

細かいスパン、中期的なスパン、さらに1年、3年という大きいスパンで進歩しているという視点が必要です。デジタルマーケティングでは、人間の限界を超えてPDCAを回せるようになっているので、頭が追いついていかず、「とにかく回せ」となってしまっているケースもありますね。

ABテストの落とし穴

──ABテストが目的になってしまっているような例もあると聞いています。

原田:はい、ABテストは複数のクリエーティブを比較検証することで、獲得効率の高い訴求・デザインを追及していく手法です。獲得単価の低減など運用が効率化されるため、私たちもよく用います。ですが、獲得効率の追求を行っていると、気がつくと獲得件数が減少傾向となっていることがあります。これがABテストの落とし穴です。

ABテストでの効率化の裏では、効率の低い見込層が切り捨てられています。例えば「品質」と「価格」という訴求軸の場合、「価格」訴求の獲得効率が良いから、そのパターンだけで広告をつくっていくと、品質を重視するユーザーを切り捨ててしまうことになります。広告主自らユーザーの取捨選択をして、市場を狭めることになっているのですね。これがABテストの危なさです。

例えば「品質」と「価格」という訴求軸の場合、価格のほうが獲得効率が良いから、そのパターンだけで広告をつくっていくと、品質を重視するユーザーを切り捨ててしまう

訴求軸を絞ると反応してくれるユーザーが限定されて先細りしてしまうので、ある程度やったら、一歩引いて切り捨てた方のニーズへ焦点を当てなおすなど、プランニングを練り直す必要があると思います。

竹下:効率を求め過ぎるあまり、目先の獲得率、購入率に注力することがありますが、広い海の中でたまたま見つけたたった一つの魚群に向かって釣り糸を垂らすようなものです。そこだけに注力するのでなく、そこが広い海の一部であることを忘れずに、他の魚群を探す、さらには育て広げていくといった視点が必要ですね。

──なるほど。ABテストは、視点に注意しなければならないのですね。後編は成功事例やダイレクトレスポンス広告のこれからについて聞いていきます。

プロフィール

  • 20160512 072
    原田 洋平
    株式会社電通デジタル

    ウェブコンサルティング会社でアクセス解析・クリエーティブ制作を中心とした業務に従事し、大手インターネット専業広告代理店を経て、ネクステッジ電通へ入社。
    広告運用データ、ウェブ解析データからの戦略立案・クリエーティブ制作を得意とし、継続的な改善支援において多くの実績を持つ。

  • Takeshita kousuke pr
    竹下 康介
    株式会社電通 デジタルマーケティングセンター Webウェブインテグレーション部 シニア・デジタル・プランニング・マネージャー

    1981年福岡県北九州市生まれ。早稲田大学第一文学部東洋史学専修卒。
    2005年電通入社。新聞局地方部を皮切りに、ブランドクリエーティブ制作(コピーライター・CMプランナー)、ダイレクトマーケティング領域のクリエーティブ制作・効果検証・PDCA設計等を担当。
    2013年以降は主にデジタル領域を中心としたコミュニケーション設計を担当している。
    「オンライン×オフライン」「メディア×クリエーティブ」「ブランド×ダイレクト」「インターフェイス×システム」など、複数領域を統合したソリューション業務の実績多数。
    WACA認定上級ウェブ解析士、JDMA認定DMアドバイザー

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