テレビのIoT化により、「確率」のマーケティングから「事実」のマーケティングへ

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    前川 駿
    株式会社電通 MCプランニング局 メディアビジネス・イノベーション室

IoTとしてのテレビ受像機の可能性

Internet of Things(もしくはInternet of Everything)という言葉が注目を浴びています。スマートフォンに限らず、世の中のあらゆるものがインターネットに接続され、新たな体験価値を創出していく可能性にマーケットの高い期待が集まっています。デバイス(物)がネットにつながったということだけでなく、その結果として、ユーザーの体験価値や消費行動を促していくという点では、「モノのインターネット」ではなく「モノゴトのインターネット」といえるのではないでしょうか。

このIoTは広告の世界だけでもさまざまな可能性の広がりを見せており、そのうちの一つに「テレビ受像機というデバイスがインターネットにつながった」ことが挙げられます。「テレビがインターネットにつながる」ことで、どのような体験価値や消費行動の可能性が広がるのでしょうか?

マーケティングのパラダイムシフト~「統合メディアプランニング」から「統合マーケティング」へ

これまでは、オフラインメディアとオンラインメディアを統合的にプランニングする際、世の中全体を代表的に表すサンプリングされたパネルデータから、テレビCMやデジタル広告の関係性を分析し、その推計的な確率に基づいてテレビCMを見たであろう人にデジタル広告を重複接触させ、相乗効果を高めることが主でした。いわゆる統合メディアプランニングです。メディアプランナーという言葉が出始めたのが1999年ごろだとすると、もう長らくこの方法が行われてきたといえます。

しかし、昨今、テレビ受像機上でのVODサービスやレコメンドサービスが充実してきたことによって、テレビがインターネットにつながる割合が高まってきました。ユーザーからの利用許諾を前提とした視聴ログデータを活用することによって、実際にテレビCMを見た人をアクセスログとして特定/推定し、デジタル広告を接触させることができるようになります。

このように「テレビがインターネットにつながる」ことで、確率に基づくプランニングや効果検証から、テレビCMに接触したという事実に基づくマーケティングに大きく拡大する可能性があるのです。これは、オフラインとオンラインの相乗効果を飛躍的に高めるという意味で、マーケティングのパラダイムシフトと言っても過言ではありません。

このような背景から、電通では、テレビ視聴ログデータを用いたウェブ広告配信を可能とするSTADIA(β版)をリリースし、2016年3月から実証実験を開始しました。STADIAとは、System for TV Audience Data Integration Architectureの略です。もともとSTADIAとは目盛りの付いた標尺(stadia rod)を立て、光学機器で観測し、視野に刻まれた2本の平行線の間の距離を測定し標尺までの距離を測定する方法を意味し、実測が困難な2点間の距離を測る際に用いられます。

STADIAが、マーケティングにおいて本来実測が困難なテレビとウェブという2者間の計測・評価を可能にするエコシステムとなることを目指して名付けられました。

STADIA(β版)のデジタルマーケティングにおける二つの役割

マーケティングのパラダイムシフト…。夢は大きく広がるのですが、まず実証実験を通じて、実際の現場で広告主から期待される点は大きく二つあると実感しています。

一つは、ウェブのオーディエンスデータだけでは獲得・補足しきれなかった「潜在顧客」を獲得もしくは態度変容できるか、という点です(図1)。例えば、ある新商品について、ウェブ検索まで至らないけども、テレビで知りなんとなく興味を持った人を、テレビCMの接触回数と普段のネットのサイト閲覧行動から推定し、その人たちに向けてウェブでお試しのキャンペーンを紹介することで、顧客全体の中で「潜在顧客」に到達できるのではないか、ということです。なんとなく興味を持っているという状態の人に広告を接触させることは、その人にとっても、新たな発見をもたらす可能性があるという点で、“情報のおもてなし”であると考えています。

図1:視聴ログデータが特定する顧客ステータス
図1:視聴ログデータが特定する顧客ステータス

二つ目は、テレビ視聴からウェブのコンバージョンまでの比較的詳細な行動をシングルソースで分析・効果検証できるのかという点です(図2)。これまでのテレビとウェブのシングルソースデータは、ウェブ上の詳細なコンバージョンまで解析できるだけのデータサンプル数がありませんでした。しかし、実ログというデータ数の大きいサンプルでの検証では、コンバージョンを測定するデータそのものでオフラインとオンラインを統合分析ができます。これによって、テレビCMやウェブ広告のこれまでは見えなかった広告効果を可視化でき、より効果的な統合マーケティングへの示唆や新たなKPIの設定が可能になると考えています。

CM視聴からコンバージョンの統合分析
図2:CM視聴からコンバージョンの統合分析

この二つは、広告会社にとって大きなチャレンジであり、非常にやりがいのあることです。実証実験を通じ、大きなニーズと可能性の広がりを実感しています。

最後に~視聴ログデータのユーザーへの価値還元の重要性

実証実験で得た課題は、一般の人たちに視聴ログデータを活用することのメリットを周知し、データの規模や質を高めていくことだと考えています。IoTの世界の広がりとともに、家電製品やスマートフォンとの連携など、視聴ログデータの可能性をもっと広い視野で捉え、広告主、媒体社、ユーザーの三方にとって価値のあるモノゴトに仕上げていくことを目指し、広告会社ができることを堅実に積み上げていきたいと思っています。

プロフィール

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    前川 駿
    株式会社電通 MCプランニング局 メディアビジネス・イノベーション室

    2006年電通入社。主に視聴率の分析業務に従事の後、テレビCMに関連する視聴データ、ソーシャルデータ、オーディエンスデータを活用したテレビCMの視聴質に関するテクノロジー研究と実践に従事。現在、電通オリジナルのデジタル広告配信システム開発を担当。2015年に統合マーケティングプラットフォームSTADIAを開発し、プロジェクトを牽引。

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