アタマの体操 #02

あり得ない!なんて言わず「極端化」する

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

「Young@Heart」を知っているだろうか。
それは平均年齢80歳のおじいちゃん・おばあちゃんたちが集い、コールドプレイ、ジミ・ヘンドリックス、レディオヘッドなど、ロックを歌うコーラス隊のことです。

1982年米国、マサチューセッツ州の小さな町ノーサンプトンで結成。その後、2000年前後には、欧州ツアーやオーストラリア、カナダでの公演を成功させています。2007年、ドキュメンタリー映画が英国で制作され、翌年日本でも公開されました。また、2010年、12年には日本ツアーも。東京公演はいずれも渋谷のオーチャードホールで開催され、当時僕は映画をきっかけに、その感動的なステージを2度にわたって体験しました。

90歳を超えるおじいちゃんがシャウトし、病気を患いながらも車いすでひたむきに歌うメインボーカルまで登場する…。キャラクターの濃いメンバーたちが若者からシニア世代まで幅広い観客を、大いに盛り上げてくれます。

ザ・ブルーハーツや矢沢永吉のロックナンバーが日本語で披露されると、スタンディングオベーションで、大合唱するという興奮のステージだったことを、今でも鮮明に覚えています。

「ロック=若者」という常識にとらわれない

もちろん、このコーラス隊はプロのアーティストほど歌がうまいわけではありません。でも、国籍や老若男女関係なく、なぜ引きつけられるのか。そのこたえは、あるポイントで興味が大きく開かれるところにあります。

それは、「80歳のシニア×ロック」という掛け合わせの違和感。みなさんもきっと感じたように、誰でもわかりやすく引っかかるポイントです。これが「20歳の若者×ロック」だったらどうでしょう。当たり前にしか思えず、共通の興味にはなりえません。

「ロックは若者が歌うもんだ(歌うに決まっている)」
という常識にとらわれてしまっていたら、このコーラス隊のアイデアは生まれてこなかったといえます。逆に、多くの人がそう思い込んでいるからこそ意外性があり、そのギャップに引きつけられるのでしょう。

このアイデアはとてもシンプルな発想から生まれていますが、いざそんなアイデアを出そうとしてもアタマが固まってしまう! 常識や思い込みが先に立って想像力が発揮できない! という声を多く聞きます。

そこでお奨めしたいのが「アタマの体操」。常識や思い込みを取り払うための集中的なストレッチや、日々のちょっとしたメンテナンスをそう呼んでいます。

 

この連載と同時に、オンライン動画学習サービス「schoo WEB-campus」で「アタマの体操」という授業(5/27~10/28の毎月第4金曜日19~21時)を行い、アイデア発想法のベーシックなひな型を紹介。それだけではなく、電通のプランナー3人によるアイデア大喜利を生放送しています。第1回(5/27放送)は「もっと実感できるボーナスの渡し方」をお題としました。

銀行に振り込まれ、その額面(数字)だけが知らされるボーナス。現ナマが入ったボーナス袋が上司から手渡しされ、その重みに一喜一憂する。なんてことははるか遠い昔の話、今となってはマンガの世界です。

でも、1年に2回くらい、そんなふうにワクワク・ドキドキする機会があったら、社員のモチベーションが上がるはず。ではどうしたらみんなを驚かすことができるか、喜んでもらえるかを妄想してみようと投げかけました。

「100出して、1あればいい」という感覚で、光る原石に出合う

決められた時間内でアイデアをできるだけたくさん出す。これは電通社内の研修や仕事の現場で頻繁に行われていることです。僕たちプランナーにとって、これが日々のアタマの柔軟体操になっています。今回のオンライン授業では、3人のプランナーから50を超える「ボーナスの渡し方」のアイデアが生み出されました。

もちろん、それが全て使えるアイデアではありません。くだらないもの、無理なもの、レベルや程度もさまざま。大切なのは、最初からそう考えないで、躊躇せずバンバン出し切ることです。「100出して、1あればいい」という感覚で、妄想したことを恥ずかしがらず、アホらしいと思わず、書き出してみる。そうすれば、光る原石に出合えるはずです。

それでは、大喜利の中で出たアイデアをいくつか紹介しましょう。

もし硬貨でボーナスが渡されたら、札束よりもその重みと量が身に染みるかもしれない。それがカジノやゲームセンターで大当たりした時のように、滝のごとくジャラジャラと出てきたら、きっと興奮するはず―なんて妄想したのでしょう。

Illustrated by Yuki Yamada

ボーナス日の朝出社すると、高々とそびえたつお金のタワー。1人分だったら厚さはそこそこだけど、全社員分を積み上げればボリュームと迫力が出る。単にビックリするだけでなく、みんなでこれだけ頑張ったんだ! と団結力も高まるはず―と考えたアイデアです。

まわりを見渡せば、「極端化」から生まれたものがたくさんある

これらのアイデアがどんな発想から生まれたか。そこには共通点があります。常識や思い込みを取り払い、「極端化」してみること。あり得ない!なんて言わず極端に、大きく、小さく、多く、少なく、速く、遅く、濃く、薄く…することから、発想しているのです。

冒頭に紹介した「Young@Heart」もしかり。20歳→80歳と極端に年齢を高くすると、ロックとの掛け合わせが、平凡なものから驚きのあるものに変わります。改めて周りを見渡せば、こんな風に「極端化」の発想から生まれたと想像できるものがたくさんあることに気付かされます。

2012年の登場以来、お台場の名所となった実物大「ガンダム」。何度も見ているにもかかわらず、また見たくなってしまう―。子どもの頃、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)に夢中になっていた僕ら世代にとっては、1/144モデルと呼ばれるわずか12.5センチのガンダムが全長18メートルと極端に大きくなれば引かれないわけはありません。お台場へ出かけたゴールデンウイークの休日、そんなことをふと考えました。

TBS系のテレビ番組「がっちりマンデー!!」で知った「親の雑誌」というサービス。親の自分史をプロの編集者が雑誌のように制作してくれるというものです。高齢者の見守りサービスをしている「こころみ」という会社が始めた新規事業とのこと。読者を何万人→家族のみと極端に少なくして、単価を高くして売るという発想が導き出されたのではないでしょうか。

娘と絵本を読んでいると、「極端化」の発想で作られたキャラクターや物語がたくさんあることに気づきます。分かりやすい例では、「ウォーリーをさがせ!」シリーズ。見開きのページぎっしり無数の人が描かれていて、その中からウォーリーを探すという絵本です。大人でもなかなか見つけられないほど極端に、多くの人で埋め尽くされています。大きくシンプルな絵で構成されている一般的な絵本と比べ、突き抜けた発想をしていることが世界中で愛される絵本を生み出したといえるのです。

ふだんから読み解きをすることが、アタマの体操になる

このように、身のまわりにあるものや情報について「どんな発想から生まれたんだろう?」と読み解きをすることが、日常的な「アタマの体操」になります。そのひとつのひな型が「極端化」。広告業界では多用する発想法でもありますので、時折、テレビCMを見ながら発想の読み解きしてみるのも、アタマの良いメンテナンスになるでしょう。

日々こうした軽い柔軟体操をしておくと、仕事でアイデアを出さなければいけないような、ここぞという場面に遭遇しても、想像力を発揮することができるようになります。常識や思い込みを取り払うために、半ば強引に「極端化」をやってみると、真っ白になって固まってしまっていたアタマの中に、いろんなアイデアが浮かんでくるはずです。

もちろんこれだけでは、次々にアイデアを出すところまではいきません。他の方法も身につける必要があります。そこで、この連載では「アタマの体操」のベーシックなひな型を毎回ひとつずつ解説していきます。

そうそう本題からは外れますが、和製Young@Heartともいえる、沖縄で生まれたコーラスグループ「One Voice」が現地で話題になり始めています。僕もクリエーティブ面でお手伝いしていますので、もしよろしければ、先物買いで注目いただけるとうれしいです。

「schoo WEB-campus」での2回目のオンライン授業は、今週6/24(金)19時から開催。大喜利のお題は「踏切を待っている間が楽しくなる」アイデアとしています。よろしければ、ぜひどうぞ。

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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