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Dentsu Design TalkNo.6

山本高史×阿部光史

「フルネームで生きる」(後編)

2013/11/29

Dentsu Design Talk vol.80

(記事編集:菅付事務所  構成協力:小林英治 企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀)

 

前回に引き続き、「フルネームで生きる」と題して、クリエイティブディレクター、コピーライターとして活躍する山本高史氏(株式会社コトバ)と電通・第4CRプランニング局のクリエーティブディレクター阿部光史氏がトークを繰り広げた。

 

具体的なCM作品を見ながらクリエーター本人が解説していくというトークは、会場に集まった若きクリエーターたちに多くの刺激を与えていた。阿部氏が4番目に取り上げた〈ストーリーとコトバ〉は、ストーリー性のあるものに注目。代表作として、サッカーの小野伸二選手がオランダのスーパーマーケットでリフティングをしながら買い物して女の子と触れ合う様子を描いたトヨタの『カローラフィールダー』を挙げた。「成功したキャンペーンだが、描かれるストーリーとマスに対して商品が売れるメカニズムのつながりがよく分らない」と言う阿部氏に対し、山本氏は「これは演出家の力で、僕はあまり何もしていない」と述べながら、「ひとりの日本人の若者がオランダに渡って地盤を築き、現地の人とコミュニケーションをとっているというところに、変われるというドキドキの筋道があり、そういう若者の代表がユーザー層として提示されている」と解説。オンエア時はワールドカップの協賛の時期でもあった。

また「広告の最大のパラドックスというのは、本当に必要で買いたいと思っている人は、CMや広告が面白いかどうかは二の次ということ」という。その上で、「面白い物を作るのはすごく良いこと。ただ、まずベネフィットを正確に伝えるという努力が必要で、それがあればクライアントは文句を言わないはず。これを言ったらよいというところを最低限守って面白くするという順番が大事で、僕らはいつも面白かったり魅力的だったり、かっこいいものや美しいものを考え続けなければクリエーティブが入る意味がない」と力を込めて伝えた。

5つ目のグループは〈映像とコトバ〉。例に挙げられた『三菱マテリアル』のCMは山本氏の仕事の中でも演出も手がけた最初期のものということで、ここでは言葉についてよりも演出の経験について触れ、コピーライター、プランナー、アートディレクター、誰でも自分で何度もやってみたほうがよいと助言。「演出家の気持ちも分かれば頼む場合に演出家と良好な関係を築けるようになり、見積もりやスケジュールも読めるようになれば原価も分かる。お金がなければ知恵を使うのがクリエイターの仕事だから、訓練にもなるし、どういう問題が起こるか把握できるようになる。特にクリエイティブディレクターは継ぎ目なしに上流から河口まで全部見るのが仕事だから、俯瞰して見た時にどういう1本の線がつなげるか自分なりに考えることが重要。自分の枠を決めて誰かにやってもらうことを前提にしないこと」と語った。

阿部氏が分類した最後のグループは〈音楽とコトバ〉。「山本さんは派手な音楽を使うことはほとんどなく、それよりもピアノで情感を表現しながら言葉を語ることが多い」と指摘し、音楽の使い方を尋ねた。山本氏の考えは、「予算や許諾の面で自分が好きな音楽を使えるケースはほぼ無いので、誰かに頼む場合は、自分のコピーを伝えるBGMに留めたい」というスタンスとのこと。

最後に山本氏が補足したのは、これまで見てきた仕事に一貫するクリエイターとしてのコミュニケーションのフォームは、「すべては受け手が決めること」ということ。この山本氏のフォームは独立してから考えたことだというが、最近痛感するのは、かつて在籍した電通という強い組織の環境で育ったことのありがたみだという。「組織がしっかりしていて、たくさんの人やチームがいるから自由に戦うことができる。広告の仕事は面倒くさいことや辛いことが山ほどあるけど、電通の人間はみんな仕事を楽しそうにやっている。その環境の中で自分自身を強くするやり方を考えて、電通の○○さんではなく、個人のフルネームで生きられるようになる力を今からつけてほしい」と会場にエールを送った。