鍛えよ、危機管理力。 #11

危機管理担当者を悩ます厄介なやつ
グローバルリスクマネジメント

  • 池上 翔
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 コーポレートコミュニケーション戦略室

会社で事件・事故・不祥事が起きました。しかも海外。

広報、あるいは総務・人事担当のあなたは一生懸命情報を集めようとします。一体何が、いつ、どこで起きたのか? 誰が関与しているのか、あるいは巻き込まれているのか? 社員の安否は? 現地の対応は? 誰が何をしているのか? それはどこまで済んでいるのか? メディアの反応は? 現地への取材は入っているのか?

勝手知ったる国内とは違い、これは遠い海の向こうでの出来事。情報がなかなか集まりません。それは当然。時差は言わずもがな、国が違えば、言語も文化も異なります。場合によっては行ったことすらない土地での出来事というケースもあり得ます。現地拠点の人とは会ったこともないなんてこともあるのかもしれません。焦燥感に駆られながら必死に対応を講じるが、混乱が混乱を呼び、やがて疲労がたまり、もうお手上げ…。

こんなふうに想像しただけで怖いのが、海外拠点で発生したクライシス対応です。

グローバルリスク対応は企業にとって喫緊の課題

ご存じのように企業の海外進出は今後、ますます増えていきます。しかも世の中の変化が目まぐるしく、事業にもスピードが求められる昨今においては、現地法人を立ち上げてから一気に急成長を遂げる企業も出てくると予想されます(すでにそうなっている企業も多数あるかと思います)。当然のことながら企業は、事業の安定と拡大を最優先します。そして持続的な成長を続けていくためのさまざまな投資、コミュニケーション(広告・宣伝・広報)領域への注力と続き、気付いたら危機管理については後手に回っていた、なんてケースも散見されるようになるのではないでしょうか。

しかし危機管理には、その対応を一歩誤れば、これまで培ってきたものが一夜にして崩れ去る危険性があると常に意識することが重要だと感じます。

本国主導の危機管理の落とし穴

企業広報戦略研究所で実施した危機管理力調査(2015年3月)は、国内に拠点を持つ企業を対象にしましたが、その中には外資系企業も含まれています。

その外資系企業と日本企業との、危機管理に対する取り組みを比較したデータをご紹介します。

外資系企業と日本企業の危機管理に対する取り組み

危機管理力調査は、企業の危機管理に対する取り組みに関して、取り組んでいると回答いただいた項目が多ければ多いほどおのずと“ランク”は上がるという仕組みになっています。「S」ランクは取り組み項目が多い、すなわち危機管理に対する取り組みがしっかりしている。他方、「D」ランクはまだ課題が残っているということを意味します。

このグラフをご覧いただければ一目瞭然。外資系企業(日本拠点)の方が、危機管理に対する取り組みに課題が残っているということが分かります。

これはなぜか。

調査のフリーアンサーや個別に訪問して話を伺う中から見えてきたことがあります。それは、本国主導の危機管理により、ヘッドクオーターからは「できている」と見なされてしまっている日本拠点の姿でした。

最も多かったのが、「本社で十分に対策を取っているから大丈夫。それよりも事業の維持・拡大に予算を使いなさい」という指示により、危機管理には十分な資源(人・時間・予算)を割くことができない拠点ならではの事情でした。

やるべきことはたくさん。であれば放置こそが最大のリスク

翻って、海外に拠点を持つ日本企業の立場で考えてみましょう。海外拠点ではまず事業を成立させ、経営を安定させることが第一。いざというときは日本本社が責任を持って対処に当たるから大丈夫、安心しなさい。

こんなふうに会社全体(あるいは幹部)が認識していることはないでしょうか。もしそうだとするならば、一度冷静に考えてみるのがいいかもしれません。

  • 海外で何か起きたときに、どう対処するか、最低限のことは決めていますか?
  • どの拠点にどんな人がいて、いざというときは誰がリスク対応に一緒になって当たってくれるか、把握していますか?
  • 危機対応を支援してくれる現地パートナーはしっかりと存在しますか?

この三つの質問にズバッと回答できる場合は、それだけでも素晴らしいことだと思います。

しかし、それだけでは不十分なことがあります。そう、その国特有の文化や風習、情勢、さらにはメディア環境など、どうしようもない、海外ならではの変動要素です。

例を挙げます。

危機管理に対する意識を高めているのか、最近は外資系企業からの相談が増えてきているように感じます。ヘッドクオーターの危機管理責任者とディスカッションをすることも多々あります。そこで多く聞かれるのが、「本社ではガイドラインもあるし、全世界で統一された、ある程度の対応の手順が決まっている。しかし日本は(とくにメディア環境が)特殊だと聞く。どうすればいいか」という悩みです。危機管理においては殊に、現地の事情をしっかりと把握することが必要であると痛感しているのだなと感じます。

このような相談に対しては丁寧に説明するしかありません。それでも海外から出張で2~3日しか日本にいない人に、日本のメディア事情やリスク対応について1~2時間で理解してもらおうとしても限界があります。

それは海外に拠点を持つ日本企業においてもいえることでしょう。海外拠点を持つ以上は、その国の文化・習慣・情勢・メディア環境など、可能な限り「現地」を理解しようとすることが必要不可欠です。実はそれが、海外危機管理に対するそもそもの第一歩ではないかと感じています。しかしながら、前述の通り、それはそう簡単にできることではありません。

ではどうすればいいのかいと、なります。お察しの通り、一発ですべてを解決してくれる“必殺技”はありません。ひたすらに地道な取り組みを続けていくということになりますが、それだとあまりに乱暴なので少しずつでも取り組みを始めたいポイントをいくつかご紹介します。

1. 一にも二にも、情報収集

2. 海外拠点の体制把握と連携体制の構築

3. 定期的なトレーニング

一にも二にも、情報収集

まずは拠点がある海外の危機管理関連の現地情報を集められるような仕組みをつくることが重要だと考えます。拠点の数が多ければ、情報の取捨選択、社内の共有方法やその際のルールなど、一定の決め事をすることが必要になるでしょう。面倒かもしれませんが、考える必要は十分にあります。手始めに、デスクのパソコンから海外のニュースサイトを見る習慣をつける、あるいは拠点の社員に重要情報を定期的に送ってもらうようにするということでも結構です。

物理的、あるいは時間的にそれも難しければ、海外リスク情報を収集して定期的にメール報告してくれるようなサービスも世の中にはあります。それらを導入することで、手間を省きながら、必要な情報を集めるという選択肢もあります。

海外拠点の体制把握と連携体制の構築

どこにどのような人たちがいて、いざというときは誰が手伝ってくれるのか? この体制を決めることも、危機管理として必ず着手したいことの一つです。リスク発生時に、カウンターパートを探し出すことから始めないといけない、という体たらくでは目も当てられません。

各拠点において危機管理の担当者はいるのか? 危機管理の取り組みとして何をしているのか? リスク発生時はどのように対処するか、一定のルールは決まっているか? それはマニュアルとしてきちんと明文化されているか?

確認し、決めるべきことはたくさんあります。その一つ一つをつぶしていくのが危機管理です。

定期的なトレーニング

さて、情報を集める仕組みができ上がり、対応・連携体制も整えられた、となれば次に来るのが当然のことながらトレーニングです。マニュアルはあるけれども有事の際に使いものにならないという事態は最も避けたいことの一つです。

もし本社内に危機管理責任者、あるいは専任担当者がいるならば、各海外拠点を定期的に回って、現地でトレーニングすることをお勧めします。

前述のように国が違うということは、危機発生時の対処の仕方も微妙に変わってきます。そこはやはり、現地のプロに聞くのが一番です。

なお、この場合は当然のことながら、本社機能をサポートするパートナーと海外のパートナーが連携できるように最初から体制を組むことが非常に重要になってきます。せっかくピンチに陥った際に支援してもらうべく契約をしているのに、パートナー同士での連携ができないとなると、本社と拠点が全ての情報のハブにならざるを得ず、結果として伝言ゲームが続き、発生事象への対応が後手に回ってしまう危険性があるからです。

危機管理は経営そのものに直結します。故に企業が存続する以上は終わりがありません。
海外進出が増え、規模が拡大すればするほど、やるべきことと悩みは増えていくばかりでしょう。
しかしそこで踏ん張り、できることから粛々とやっていくことが必要です。気が付いたら冒頭のような状況に陥らないために。

 

 

プロフィール

  • 池上 翔
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 コーポレートコミュニケーション戦略室

    2008年電通PR入社。イシュー・リスクマネジメント部にて企業・団体の平時および緊急時のリスク対応に従事。2011年に電通プラットフォーム・ビジネス局に出向し、ICTサービスのプロモーション、プラットフォーム関連事業のリスクマネジメントに従事。2012年から2年間、ディレクション局にて通信会社、食品会社、スポーツ関連企業等、さまざまなセクターのクライアントのPR戦略立案・実行に携わる。2014年から現職。企業広報のコンサルティングおよびPR戦略のプランニングに従事。

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