新明解「戦略PR」 #36

相談1:やっぱ自社サイトでもキラーコンテンツは動画なんすかね?

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

アローハ! さー、そろそろ夏休みの季節ですね。私も閉じこもって原稿なんか書いてないで、太陽の光を全身に浴びたいところなんですが、あんまり焼けてると「まーた、こいつ遊んでる!」って思われるんで、海に行っても日焼け対策を万全にして極力焼かないようにしている今日この頃です。

そんな中、始まりました新シリーズ! 題して「#教えて井口さん!」。みなさまが日常感じるさまざまな疑問にどんどんお答えしていきますよー! ご質問、お待ちしてますんで、よろしこ! ちなみにどんどん答えますが、月刊は変わりませんので悪しからず。

さて、そんな中、勇気ある最初の質問はこちら!「動画ばやりですけど、自社サイトのコンテンツもやっぱ動画載せないとハネないすかね?」という板橋区在住のNさんからの疑問にお答えいたしましょう。

手法にとらわれず、まず目的を考えよう!

まず申し上げたいのは「あなたの目的はなんですか?」ということ。「私のお金ですか? それとも体なんですか?」とよくドラマで見聞きしますが、目的が分かってこそ、対処法も浮かぼうというもの。昨今はやりのウェブ動画が、必ずしもあなたの目的に沿うとは限りません。ウェブ動画は確かにネット上での拡散に適した施策と言えます。「オモシロイ!(笑)」「感動した(涙)」「すげー!(驚)」など、情緒に訴える映像はSNSを通じて知り合いに思わずシェアしたくなりますよね。そういう琴線に触れる映像だからこそ、属性を越えた多くの生活者から共感を獲得することができます。

しかし、私はあえて言いたい!「で、言いたいこときちんと伝わってんの?」と。楽しまれ、シェアされ、喜ばれ、シェアされ…、で最終的に生活者に何が残ったのか? が重要なはずですよね。皆さんが喜んでシェアした映像の中にも、もしかしたら企業が仕掛けたプロモーショナルなものもあるのかもしれません。しかし、それを見て何かしらの製品やサービスを「買いたい」「知りたい」「ファンになった」という変化が自身に発生したのでしょうか。変化が発生したならば、その動画は目的を達したはずです。一方、それがなければただの散財と言えましょう。まさに無償の愛。ナイトクラブで楽しいおしゃべりをホステスさんに聞かせたものの、何も成果を得られぬまま帰ってきて、「おれ、何してんだろ?」と反省するあれに似てます。

生活者は本当に「動画」を求めているのか

端的に言って「NO」です。それは一つの表現方法でしかありません。ここに当社の「企業広報戦略研究所」がリサーチした面白いデータがあります。自社サイト(オウンドメディア)において、現在工夫している施策を聞いたところ「動画コンテンツを掲載する」が10ポイント以上の差を付けてトップにきているのですが、一方の生活者側に「企業のウェブサイトを訪れた際に詳しく内容を見てみたいと思う要素はなんですか?」と聞いたところ、1位が「開発秘話・背景などストーリー性があるコンテンツ」であり、2位が「調査データなどの客観的な情報」なんですね。ちなみに「動画コンテンツ」については第6位で1位とのポイント差も24ポイントと大きく離れています。

すなわち、企業が情報発信する場合、より深掘りした情報を、生活者は求めているということではないでしょうか。マスメディアやソーシャルメディアのみならず、発信主体の企業が情報提供するべきなんです。もちろんそれらを提示する手法として「動画」を活用することは問題ないのですが、施策としてそれに縛られないことが重要でしょう。

ただし動画コンテンツの拡散力やSEO対策としての効果は認めるべきで、それらをうまく使いこなすとことが、これからの担当者には求められるわけですね。

生活者の意識と企業の意識
企業広報戦略研究所調査, 2016
生活者の意識と企業の意識
企業広報戦略研究所調査, 2016

ファクトの信頼性担保、企業のストーリーテリングは対応急務

一方、今後自社サイトのコンテンツ整備で急ぐべきものも明らかになってきました。先ほどの企業側が工夫している各種のコンテンツと、生活者側が欲っしているコンテンツを比較したところ「調査データなどの客観的な情報」で18ポイント、「開発秘話・背景などストーリー性があるコンテンツ」で11ポイントと大きなギャップが見つかったのです。企業が生活者のウォンツを先取りしてさまざまなコンテンツを用意する姿勢は評価されるべきですが、現在のニーズに応えていないのはやはり問題でしょう。まずはこれらの対応を急がねばなりません。

データまとめ
企業広報戦略研究所調査, 2016

「調査データなどの客観的な情報」が望まれる背景には、信頼できる情報なのかという判断基準が求められています。つまり、企業自身がしっかりと情報の信頼性を提示せよという要求なのだと思います。発信情報に責任を持ってほしいという生活者の切なる願いなのです。製品仕様の詳細や食品の栄養成分、添加物一覧など、生活者自身がダイレクトに情報を取りに来たときに、それに応える詳細で客観的なデータが欲しいわけです。

また「開発秘話・背景などストーリー性があるコンテンツ」というのは、「ストーリーテリング」と一時期呼ばれていましたが、その製品やサービスなどが生まれたきっかけや、それらの社会的価値といった前後文脈を含めて伝えることで、より理解度を高めたいという欲求なのだと思います。それにより、企業側からすれば生活者における、より深い共感を獲得することもできるわけです。欧米では今でもこの考え方をベースにさまざまなコンテンツ開発がなされており、それを起点により深いリレーション構築に取り組んでいるのです。すなわち「伝えてなんぼ」ではなく、要は「伝わってなんぼ」ということ。いくら話して聞かせても、「右か来たものを左へ受け流す〜♪」(な〜つかしや〜)ということになってしまっては意味がありません。ここにも今一度立ち返って、ネタとしてのコンテンツだけでなく、一連の伝え方までを包含した真のコンテンツとしての組み立てを心がけたいですよね。

さぁ、今回は私も「客観的なデータ」を用いつつ、お悩みに答えてみたつもりですがうまく「ストーリーテリング」できていたでしょうか。え? ストーリー性が足りない? うーん、まーそこ付けると長くなってくるんでね、今後取り組みますよ、機会あればね。えへへ。それでは皆さまからのお悩み、お待ちしておりまーす(注:恋愛相談は回答者の経験値が低いため除きます)。

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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