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世界のクリエーティブ・テクノロジストに聞くNo.5

表現ツールとしての人工知能:サミン・ウィニガー

2016/07/08

Dentsu Lab Tokyoではテクノロジーを用いて表現する人をクリエーティブ・テクノロジストと呼んでいます。この連載では、世界中のクリエーティブ・テクノロジストに仕事・作品についてインタビューし、テクノロジーからどんな新しい表現が生まれるか探っていきます。

 

表現のツールとして、人工知能を追求するサミン・ウィニガー氏

連載4回目の今回は、人工知能で斬新なプロジェクトを発表しているサミン・ウィニガー氏を取材しました。スイス出身の彼は、もともとダンスミュージックのプロデューサー。ダンスというと、人工知能とはずいぶんかけ離れていると思うかもしれません。しかし、彼は数人の仲間と、人工知能のクリエーティブ領域への応用を目的にチームを作っています。自身のプロジェクトで人工知能を扱ったものを数多く発表しており、どれも人工知能の可能性を感じさせるものばかりです。
今回は、人工知能というテクノロジーをクリエーティブ領域や表現のツールとして使うことの可能性について聞いていきます。

(取材はオンラインでメッセージのやりとりを行いました)
※人工知能とは…人間の知的活動を再現させるプログラムのこと。昨今、メディアで語られることの多い人工知能は、「機械学習」と呼ばれる手法を用いて、大量のデータを人工知能に与えることで、そのデータの特徴を学習、人間の知的活動を模倣しようとする。

 

人工知能をクリエーティブ領域に使う

木田:インタビューを受けていただき、ありがとうございます。
早速ですが、人工知能というと、例えば、言語の自動翻訳や、車の自動運転などのイメージがあります。そんな中、あなたは、“Creative.AI”という、人工知能をクリエーティブ領域に応用するため、エキスパート数人から構成されるチームを作りましたね。まず、このチームについて教えてください。

サミン:私たちは、自分たちのチームのことを「コンピューターのアルゴリズムを用いるクリエーティブエージェンシー」と考えており、自分たちのミッションを「クリエーティビティーの民主化」と定義しています。私たちは、クリエーティブ領域の業界が、人工知能の知見を用いることで、より自分たちの力を発揮できるように変えていきたいと思っています。
人工知能を用いて、自動的に何かを生成したり、新しい創造のプロセスを助けることで、より簡単に新しいものが生み出せるように、常にリサーチと情報発信を行っています。チームのメンバーは多岐にわたり、デザイナー、アーティスト、エンジニア、そして人工知能の研究者から構成されています。

木田:なぜ、あえてクリエーティブ領域に対して人工知能の知見を提供していこうと思ったのでしょうか?

サミン:近年、人工知能を用いて、クリエーティブな領域に踏み込もうとしている研究がたくさんあります。例えば、絵を描く人工知能、物語を書く人工知能、作曲をする人工知能、デザインをする人工知能、家を設計する人工知能など。これまで閉ざされた研究室の中でしか行われていなかった研究が、そこを飛び出して、どんどん産業界に流れています。

私たちは、活版印刷が発明された時以来の大きな変革の時代に立ち会っている、ともいえるかもしれません。チャンスが広がる一方、クリエーティブ領域に携わる業界は、まだこのテクノロジーをどう活用するのか、苦労している側面があると思います。 複雑なテクノロジーの最新の研究動向を把握し、きちんと人工知能を扱える人材をそろえるのは容易ではありません。そこでわれわれが橋渡しの役目を果たせればと思ったのです。

木田:なるほど。では、直近の人工知能関連のプロジェクトをいくつか紹介させてください。

 

Generating Stories About Images
「歌詞」や「恋愛小説」のデータを学習素材に人工知能を構築。その人工知能に画像をインプットし、画像の内容を解説させる。通常の人工知能の構築とは異なり、「偏った」学習データを与え、人間では思いつかないような画像内容の解説文が生成される。この写真の場合、テイラー・スウィフトの歌詞を学ばせた人工知能に絵を見せ、解説をつけさせた。この絵では、以下のようになった。「この夜空で、あなたはたった一つの電球にならなければいけない、そう思ったわ、あぁ、暗くって、あなたのことが本当に恋しいわ」
 
Desire
エレクトロニカバンド”Years & Years”のミュージックビデオとして制作。Googleが2015年に発表した“Deep Dream”のアルゴリズムを利用、映像制作用の独自ツールを開発し、ミュージックビデオとして完成させた。

 

木田:人工知能はさまざまな分野で用いられてきています。あなたは、どんな人たちと一緒に仕事をしたいと考えていますか?

サミン:デザイン、広告、音楽、ゲーム、映画やファッションの世界の人たちと一緒に働きたいと考えています。私たちは、こういった領域の人たちに、迅速にコンセプトを作り上げ、クリエーティブな人工知能の使い道を考えていく手助けをしていきたいと思っています。そのために、私たちは、定期的に自分たちが行ったさまざまな実験、そして人工知能関連での最新動向を常に発信し続けています。

 

人工知能からひもとく人間の知性

木田:ちなみに、人工知能に人工知能自身の意見を述べさせることは可能ですか? 結局は、インプット次第ということでしょうか。

サミン:さまざまな研究者による頭脳の研究によると、私たち人間の意思や意見というものがいかに他人に影響されているのか、ということが分かります。例えば、あなたのファッションに関する意見というのは、あなたの周りの人間や広告、そして文化によって形作られています。「意見」や「選択」、そして「意思」というのは、実は自分単体のものではなく、たくさんの周りの影響から形成されているのです。

人工知能に「性格」があるのだとすると、それは開発した人によるところが大きいでしょう。どんなアルゴリズムを用いたか、そしてどんな教育を用いたのか。あなたの質問に答えるとすると、可能ですし、インプット次第ということになるかと思います。

木田:あなたが技術を用いたさまざまな創造をする動機は何ですか?

サミン:テクノロジー自体に興味はありません。何かを作り出すことに魅了されており、技術というのはそれを素早く行うためのツールにすぎません。

木田:いろいろと勉強になりました。本日はありがとうございました!

 

【取材を終えて】
最先端の技術を、表現のツールとして扱う

人工知能というと、最先端の技術で、個人がそう簡単に扱える技術ではない、という印象を持たれるかもしれません。ましてや、人工知能を使ってなにかクリエーティブなことを行う、というと途方もないものに聞こえるかもしれません。
人工知能の動向について、いろいろとリサーチをしていたとき、その作品や研究について触れたのが、彼を知るきっかけとなりました。それまで人工知能は、例えば言語の自動翻訳だったり、自動運転の自動車など、人間が面倒だと思う作業を代替させることを目的にしていた印象があったのですが、彼のやろうとしていることを見て、その考えを改めました。

彼が行っているのは、他のこれまでのテクノロジー同様、表現するためのツールとして人工知能をどう使うか?という問いです。例えば、「写真」というテクノロジーが発明されたとき、人はそのテクノロジーを使い、新しい表現方法を獲得しました。「映像」というテクノロジーを手に入れた後、それは映画という表現として、人々の間で知られることになりました。このインタビューからは、人工知能についても同様なのではないかと考えさせられます。

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