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セカイメガネNo.46

時間が問題なのだ

2016/07/20

セカイメガネ

未来から戻ってきた。そう感じている。東京からモントリオールまで帰る飛行機で、行きの時差で盗まれた13時間を取り戻している。座席に体を沈めシートベルトを締めた途端、私は自分の考えにどんどん入り込んでいった。時間を持て余したとき、考えにふけるのが大得意だ。私は考え始めた。「時間」について。

時間は世界共通単位と信じられている。本当か?世界のどこでも1秒は1秒、1分は1分。「国際地球回転・基準系事業」が決めたことだ。冗談ではない。この組織は実在する(興味があれば、略称“IERS”で検索を)。

時間が世界共通であるのなら、広告会社で働くときと、図書館の奥の座席で本を読むときとで、時の流れがどうしてこうも違うのか。一方では、時は希少でストレスを伴う。もう一方で時は豊穣で静謐。なぜ?

全ての職業は別々の時計の針を基準にして動いていると、私はときに考える。広告業は間違いなく秒針にせき立てられる職業の筆頭だ。秒針どころか、100分の1秒針に追いかけられている。そんな針がもしこの世に存在するのならば。

ストロボスコープの音が時を細切れに刻む。

カシャカシャカシャ、30秒、いや15秒だ、カシャカシャカシャ、急げ、急げ、理由はなくとも急げ、カシャカシャカシャ、時間は限られている、急げ、急げ、カシャカシャカシャ…

誰もが心に痛みを感じている。時間のプレッシャーが私たちをいつもパニック寸前まで追い込む。時間と私たちがいがみ合う関係であることは「締め切り」をdeadline(死線)と呼ぶことからも明らかだ。

けれども私たちはクリエーティブ領域で仕事をしている。クリエーティビティーが泉からあふれ、流れ出す状態を追求するべきなのではないか。その場所は知っているはずだ。仕事にひた向きに打ち込むうち、時の鎖で縛られた牢獄を脱出し、たどり着く場所を。そこでこそ、クリエーティビティーは活性化し輝く。右脳をどこまでも深く、その泉目指して下降していけ。規則も法律ももはや存在していない。「国際地球回転・基準系事業」が存在するはずもない場所へ(ところで、その組織は終業時間を気にする人間だけ採用するのか?)。

読者にひとつ助言を差し上げたい。12時間飛行機に乗る機会がやって来たら、決して時間について考え始めないことだ。そんなことをすれば事態を悪化させる。せっかく取り戻した時間を、妄想で全て失った私のように。

(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター)