実践 インバウンド最前線 #10

間違いだらけのインバウンドマーケティング―中国人訪日客2500万人の時代に向けて戦略のリセットを考える〜ランドリーム原田静織氏〜(後編)

  • Harada ryu shiori pr
    原田 劉 静織
    株式会社ランドリーム 代表取締役
  • 髙橋 邦之
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター パブリックプロジェクト室 プランニング・ディレクター

前回に引き続き、インバウンドビジネスプロデューサーとして活動する原田氏に、中国観光客のリアルな実態や、インバウンドマーケティングの在り方を聞きます。


2.5億人の中国人旅行客を導くために意識すること

原田:中国の訪日客に関するデータを紹介します。中国は今、14億人の人口がいて、そのうち海外旅行をしているのは2014年時点で1.1億人。中国の旅行局は、それを2020年に2.5億人まで増やす方針です。現在、中国人旅行者のうち日本に来ているのは4%ほどですが、仮に2020年までに10%まで増えるとしたら、2.5億人の10%、つまり2500万人の中国人が訪日するのです。 

髙橋:そういう時代がくるわけですね。

原田:確実にきます。しかも2030年までに世界の旅行人口は18億になると予想されていて、そのうち30%がアジアパシフィック地域からだそうです。つまり、日本の周辺に5億人の旅行者がいることになります。その5%から10%が日本に来てくれるとしたら、やはり2500万人から5000万人程が訪れる計算になります。ご存知の通り、主に中国からになるでしょう。

髙橋:想像を絶する数字ですね。でも、それだけの可能性があるからこそ、中国人旅行客に向けてのマーケティングがグローバルで活発化しているのですね。

原田:私も去年パリに行って痛感しました。今までフランスへ行った際の空港などのサインボードは日本語もあったように記憶していますが、今は全て中国語になっていたんです。英語、フランス語、中国語の三つ。世界中のたくさんの国が、今から2.5億人の中国人旅行客をどう自国へと招き入れるか考えているのは事実です。

インバウンド最前線

「富裕層」の定義は毎年変化する

髙橋:マーケットとしての重要性をあらためて感じましたが、どう受け入れるかという話になってきますよね。マナーの問題などもよく言われますが…。

原田:「中国人はマナーが悪い」とひとくくりにされがちですが、中国人の中にもいろいろな階層があり、その層によってペルソナが大きく変わります。

先日、われわれのネットワークを通じて中国人の富裕層の方たちに20名ほど集まってもらって話を聞いたのですが、マナーに非常に神経を使っていました。日本で宿泊したホテルのシンクを全部拭いたり、後片付けをしたり。「中国人はマナーが悪い」とあまりに言われるので、その悔しさから出た行動とのことでした。富裕層はもともとマナーがいいんですよ。

ここに、中国人向けのサービスの重要なポイントがあるんです。ターゲットは富裕層なのか、中間富裕層なのか、一般層なのか。戦略を立てるに当たって、各層の雰囲気やペルソナをしっかり把握して、頭に焼き付けて、そこからアクションを考える必要があります。特に富裕層ともなると、インターネット調査などに参加するなんてありえないので、いわゆる中国人を対象とした調査結果に反映されていないことが多い。実際に会って理解することが求められます。

髙橋:先ほど捨てる勇気が必要だと言いましたが、中国の中でも「どの層にターゲットを絞るのか」という問題が出てくるんですね。富裕層については、他に面白いファインディングスはあったのですか

原田:いくつかありましたが、根本的に日本人とはカルチャーが違うことを再確認しましたね。日本人は「静か」「クリーン」などのイメージを好みますが、中国人は富裕層でも賑やかさを求めることが多い。ショッピングセンターやホテルでも、ガンガン音楽をかけてほしいとか。シーンとしているのは「コンテンツに乏しい」と思われてしまうんです。そういえば、南部鉄器でも原色にしたものが売れていますね。従来のイメージにこだわりすぎず、ちょっとアプローチを変えて届くようにする、というのはやっぱり大事だと思います。

髙橋:ちなみに、訪日客で多いのは中国人のどの層ですか?

原田:FITは主に富裕層と中間富裕層が多いと思われますが、ただ、中国の場合、各層の収入水準が随時変わっているんです。全体的な国民の収入水準が、年ごとに数十%もアップしている状況なので、去年「1000万円以上が○○層」と見ていたのが、今年は変わっている。これも、中国人旅行客のマーケティングをする際の重要な注意点です。

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ビザ要件が緩和され、大衆富裕層(推定人数1401万人)、中間所得者層(推定人数4~6億人)の訪日が促進された

越境Eコマースで日本が伸びるために、必要な“対応力”

髙橋:中国人観光客の買い物、消費動向に話を移しましょう。以前のような電化製品の爆買いは、明らかに収まっています。一度買った電化製品は何年も壊れないので、買う必要がないというのもあるでしょう。代わって、今はドラッグや化粧品が爆買いの対象になっていますが、問題はその次。次の商品がなかなか見当たらない。

原田:もう一つの問題点は、4月8日から中国の関税が引き上げられたこと。海外で購入した商品を持ち込む際、従来通り免税をされるのは、1人5000元までになったんです。5000元は10万円弱。電化製品一つ買ったらもうギリギリ。でも、目薬ならたくさん買えます。この「金額の上限」も、重要なトピックです。

髙橋:上限より上の買い物をするには、中国からEコマースサイトで海外の品物を買うしかない。つまり、越境Eコマースの市場になりますよね。

原田:そうですね。経済産業省によると、日本・アメリカ・中国間の越境Eコマース市場規模において、総合計額は27,664億円であり、対前年比22.6%であった。中国の越境BtoC-Eコマースが一番多く、アメリカの約1.8倍だ。世界の各国別BtoC-Eコマース市場規模成長率では1位は中国、2位はアメリカ、3位はイギリス、そして日本は4位。急がないと、アメリカやイギリスにどんどん取られてしまいます。

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髙橋:アメリカでは、どんなものが売れているのでしょうか?

原田:おむつやミルクですね。あとは化粧品など。ドラッグストア系の商品が多いですね。

髙橋:商品傾向としては、日本で買われるものとあまり変わらないかもしれないですね。

原田:今、越境Eコマースの最大の問題は、海外VS国内です。国内の市場を守りたい一心で、ビジネスロスが生まれている。どういうことかというと、例えば中国の電圧は220ボルトで、日本の100ボルトとは異なります。そこで中国向けに220ボルトの家電製品を作ろうとすると、新たに生産ラインを立ち上げなければならない。コストを下げようとすると、製品クオリティーも下がる。すると、中国人は「製品クオリティーの下がった220ボルトの製品より、日本仕様の100ボルトの製品が欲しい」となりますよね。変圧器をセットで用意すればいいだけですが、日本企業としては100ボルトの製品を海外から大量に買われることでの日本市場への影響を懸念して、100ボルト製品の海外輸出をストップする…。こういう悪循環が起きているのです。

髙橋:その間に、アメリカやイギリスはどんどん売ってシェアを拡大している。

原田:その通りです。中国人は日本人が思っているほど日本製品にこだわっていない。日本も100ボルトの生産ラインのみに戻して大量生産して、変圧器をセットで出す。とにかく売れるときに売るために、迅速で臨機応変な対応が迫られています。

髙橋:中国のマーケットはとにかくサイクルが早い。こういった問題や予算取りにおいて、どんどんスピードを上げていかないとですね。

原田:中国という国はとにかくダイナミックで、動きが激しい。半年たつと様相が変わっています。4月に起きた関税の引き上げもそのひとつ。日本の予算取りから実行までのサイクルと、中国の社会的なトレンドの推移には、かなり時差があるんですね。「これをやらなきゃ」と思ったら、3カ月の間に実行しないとあっという間に潮流が変わってしまう。日本企業も、サイクルのスピードをどんどん上げていくべきです。

中国を中心に円を描いたとき、飛行機で3時間圏内の観光地というと、やはり一番は日本です。日本と中国の行ったり来たりは、2020を迎えても永遠に終わらない。私は日本に来て丸20年になりますが、今、お互いの存在の大切さを本当に認め合い始めているのでは。ようやく日中の架け橋になれるタイミングが来たと感じています。

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プロフィール

  • Harada ryu shiori pr
    原田 劉 静織
    株式会社ランドリーム 代表取締役

    中国上海生まれ。上海外国語大学で日本語を専攻。1996年来日。2001年3月、青山学院大学卒業後、IT企業を中心にビジネスデベロップメント&マーケティングのポジションを歴任。大手ソフトウェアのマーケティングディビジョンのトップとして、マーケットシェア一位を獲得し、それ以降、No.1のポジションを継続する。2013年9月よりトリップアドバイザー代表取締役に就任。2015年7月、インバウンドビジネスコンサルタントとして独立。観光庁広域周遊ルート検討委員会委員・観光庁観光立国ショーケース検討委員会委員・明日の日本を支える観光ビジョン構想会議有識者・三重県観光検討委員会委員・ 農林水産省食と農の景勝地検討委員会委員

  • 髙橋 邦之
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター パブリックプロジェクト室 プランニング・ディレクター

    1994年電通入社。営業として化粧品、金融、大手ファッションブランド、自動車メーカーなどを担当。インキュベーション部門で電通初のCRMサービスを起案(ビジネスモデル特許取得)、その推進を図る。プロモーション部門ではメディアとプロモーションの融合をテーマに、コラボレーション企画を多々手掛ける。現在、電通ならではの観光インバウンドビジネスを目指し、ソリューションを開発する社内横断チームのプロジェクトリーダーを務める。

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