押忍!カイゼン道場! #03

デイリーポータルZの林編集長が提唱「あえてちゃんとせず、情緒的に」

  • Img 5550 prof
    林 雄司
    ニフティ株式会社 デイリーポータルZウェブマスター
  • Prof abe
    阿部 元貴
    株式会社電通国際情報サービス(ISID) オープンイノベーションラボ コミュニケーションプランナー
  • Suzuki photo square s01 1
    鈴木 淳一
    株式会社電通国際情報サービス(ISID)

電通国際情報サービス(ISID)の研究開発組織、オープンイノベーションラボ(イノラボ)では先端技術を用いたプロトタイプを制作しています。本連載はデイリーポータルZの林雄司編集長がイノラボのプロジェクトについて改善案や見せ方などを勝手に提案するという企画です。前回は「ファンタジーで成長する」と独自の理論を繰り広げた林編集長。3回目となる今回は、サイネージアプリ「スパイ・オン・ミー」について、イノラボの鈴木淳一さん、阿部元貴さんにプレゼンします。

(左から)イノラボの阿部元貴さん、鈴木淳一さん、デイリーポータルZの林雄司編集長
(左から)イノラボの阿部元貴さん、鈴木淳一さん、デイリーポータルZの林雄司編集長

私をスパイして! という過激なネーミング

阿部:今回はイノラボの未来都市担当で「スパイ・オン・ミー」開発責任者の鈴木を連れてきました。

鈴木:早速、画面を見ていただきましょう。サイネージで動く「スパイ・オン・ミー」というアプリです。グランフロント大阪にある36台のサイネージの一部に実装予定です。

林:ああ、確かにたくさんありますね、グランフロントに。

鈴木:そのサイネージ1台1台にCCDカメラがついてます。それをどうやって楽しく使うかという話の中で、最近だとCCDカメラで撮るだけで、例えば血圧が分かったり、心拍が取れたりとか。

林:血圧が分かるんですか?

鈴木:はい、分かってしまう技術があって。ただのCCDカメラなのですが、光源が安定している場所にあれば分かります。なおかつ心拍が取れるなら交感神経と副交感神経のバランスをみることによって、この人は緊張しているなという状態もみえてくる。

林:それは凄い。

鈴木:同じCCDカメラの技術としては、年齢や性別を取る技術もあるので、そういったカメラによる生体情報センシングの技術を取捨選択しつつ使ってみて、その人に合った場所をナビゲーションしてあげようと。

林:その人に合った場所?

鈴木:屋内の施設Aから屋内の施設Bへ案内するナビゲーションは良くあります。それを今回はもう一歩踏み込みました。これからの街づくりでは、屋外空間の充実に主眼が置かれています。芝生で覆ったベンチを置いたり木を植えたりといった流れですね。その流れをくんで、これまで体験したことのない新しい街の価値として演出しています。

林:スパイ・オン・ミーで?

鈴木:はい。これが最初の画面です。カメラで撮られた人が「あれ、自分の顔が写っているな」と認識します。それを受けてスパイたちがタイムラインで会話をし始めます。

アプリ キャプチャ

同行者を自白する

アプリ キャプチャ

鈴木:ここで顔が捉えられて計測が始まります。そうすると推定緊張度や推定脈拍、性別年齢などが取れます。

もし計測された内容があまりにも違う場合は訂正したくなるはずなので、「カメラはあなたを男性の20代ととらえましたけど大丈夫?」と、訂正する画面もあります。さらにここで自白してもらいたい内容がもう一項目あります。

林:自白ですか?

鈴木:はい。本日の同行者を選択してください、という項目です。

これまでのCRMってアマゾンや楽天などと同じように、本人だけを相手にしているのが多いのですが、街に出る時ってそうとは限らない。今日は彼女と一緒だからとか、今日は会社の先輩と一緒だからとか、誰と来たかってかなり大事な部分だと考えます。

林:確かに誰と来ているかでメンタリティーは変わりますね。

鈴木:学生だからといってみんなが安い店に行きたい訳じゃない。そういう部分を同行者によって見極める。そのためにまず自白してもらおうと。実際には、あなたは彼女と一緒ですか、と聞くこともできるんですけど、ちょっと危険じゃないですか。まずい時もあったりして。だから、一応自分で選んでもらう。

林:そうですね。「妻と一緒」ということにしておくか、みたいな(笑)。

鈴木:その辺りを考慮して、同行者は複数選択が可能にしています。

林:へぇー!

鈴木:最終的に、「フレンチスタイルのカフェ」と紹介していきます。

アプリ キャプチャ

鈴木:なんでここがいいのか、みたいな部分もお伝えします。例えば、良い風が吹いていて、ここだと飲み物がおいしく飲める、とか読書に向いているとか、過ごし方を含めてアドバイスをします。

林:その時の環境も考慮してアドバイスしてくれるんですね。

鈴木:そして、人がいなくなったらスパイたちの間で井戸端会議が始まる。

林:え?今の人ああだったな、とかではなく?

鈴木:いやいや、そういう風にはなってないです(笑)。

林:それは感じ悪いですもんね。

イノラボの鈴木淳一さん

僕、ログを取るのが好きなんです

林:事前に資料をいただいていたので、提案を持ってきました。今日、アプリが動いているのは初めて見ましたけど。

鈴木:ありがとうございます!

林:僕、ログを取るのが好きで。普通の活動量計って脈しか取れないのですが、今付けている時計が皮膚の温度と発汗が取れるんです。一応スマートウオッチらしく、通知も連携するんですけど、日本語に対応していないから全部文字化けしているんです(笑)。

阿部:意味ないですね(笑)。

林:カバンに付けている青い装置は温度や気圧が取れて、今付けてないですけど30秒に1回撮影してくれるカメラもあって。何故だか測るのが好きで計測器ばかり買っていたら、段々興味が自分に向いてきまして。最近、自分を測るのが楽しいんです。

鈴木:自ら被験者となっている訳ですね。

林:これが、この前の日曜日の僕の皮膚温と発汗量のグラフなんですけど。

林編集長の皮膚温と発汗量のグラフ

鈴木阿部:ハハハハハハ!

林:この前飲み会があって、サプライズでビデオメッセージを流すことになっていたんですが、ビデオメッセージをダウンロードし忘れていて。ヤベって思った時にすごく発汗量が上がっているんです。

イノラボの鈴木淳一さんと阿部元貴さん

阿部:めちゃくちゃ上がってますね(笑)。

林:最近は毎日グラフ作って今日のピークをみたりして楽しんでいます。

鈴木阿部:…。

林:何が言いたいかというと、「スパイ・オン・ミー」のようなことはすごく分かりますというアピールです。

鈴木:ありがとうございます(笑)。

林:CCDカメラで脈とか取れるのは最高ですね!

デイリーポータルZの林雄司編集長

ネットからリアルなサービスに人を流すには?

林:このサービスはリアルなサービスですよね。そういうサービスって告知がネットの媒体で、ネットから人をその場に来させないといけないので、そこのハードルが結構高い。それで、どうしようかなって考えまして、3つあるかなと。

快適度指数・場所リコメンド

林:3番目が落ちだろうな、と大体予想がついていると思いますが、1つ目は「面白がっている様子を見せる」です。デイリーポータルでもよくやる手ですけど、説明するより楽しんでいる人たちを見せる。これはガッツポーズワークショップっていうのをやった時の写真ですけど。

阿部:どんなワークショップですか(笑)。

林:ガッツポーズとかハイタッチって、やってみると意外とできない。

阿部:やる機会、あまりないですもんね。

林:ハイタッチは、ちょっといいですか、こうやって手を上に逃がす。

イノラボノの阿部元貴さんとデイリーポータルZの林雄司編集長

阿部:おお!

林:あとは視覚以外のコンテンツだと来ざるを得ない。フードフェスとかボールプールとか粉ランとか。

鈴木:ああ、粉をかけるマラソンですね。

林:こういう風に視覚以外のコンテンツにするとリアルに人が流れる。ネットでは体験できないので。

阿部:ちなみに札束風呂って海外ではポピュラーなんですか? 日本ではイメージありますけど。

林:むしろ向こうの映画とかが元ネタなんだと思います。これアメリカで撮影したんですけど、割とスルッと受け入れられましたよ(笑)。

視覚以外のコンテンツを用意する

林:この右は「褒められ屋敷」って言っておばけ屋敷ではなく褒められる屋敷を作ろうって、5年前位にやったんですけど。中にあるのがくす玉割りとテープカットと除幕式と鏡割り。お化け屋敷の逆っていう、そういうことで人をリアルに連れてくる。

イノラボノの阿部元貴さん

あえてちゃんと告知しない

林:そして今日、主に話を膨らましたいのが、あえてちゃんと告知しない方がいいのでは、という点です。

阿部:どういうことですか(笑)?

林:例えば公式のランディングページがオープンして、その後、関係者がツイッターでもめはじめる、しかももめた上にその回答をメンションで答えたりしてみんなの目に触れさせる。ネット上が荒れて、サイトが消えてから最終的に手抜きみたいなサイトが現れる。こういう流れだとむちゃくちゃ気になる。

鈴木:はいはい。

林:ネットの最近の話題ってこういう類が多いじゃないですか。

阿部:多いですね。そしてすぐにネットニュースにまとめられるんですよね。

林:そうそう。なんかこういうだらしない告知でも意外にちゃんと伝わる、むしろ気になる。ヤラセだっていうのが唯一問題で、ばれた時にすごく嫌われるパターンですけど。それをさらに発展させてみました。

あえてちゃんと告知しない1

林:まずスパイ一覧があって、その中で「あれ、あのスパイ辞めたんじゃなかったっけ?」みたいなやりとりがあって、「対応します!」って言ってから消える。で、消えた後に現場に行くとそのスパイが出てきたみたいな。

阿部:サイト上では消したけど現場では出てしまっている。

林:そうです。この前デイリーポータルの記事で間違って書きかけの原稿が公開されてしまって、書きかけの所に「ここになんか書く」って書いてあって。それのリツイート数がすごくて。そっか、これでいいのかって(笑)。

阿部:ありますね(笑)。

林:みんな焦っているところが見たいんですよね。生の感じの。見ている人も焦るような感じのものが。

阿部:リアルですよね。

林:ちょっと次は作り過ぎかなと思うんですけど。少し前に、ある広告をクリックしたらテストサイトに飛んでしまった、ってありましたよね?

あえてちゃんと告知しない3

鈴木:ありましたね~。

林:あれを見て、認証かけるのいいんじゃないかって。どこかに認証がかかってるページがあって、「あ、ミスだ!」って思うんだけど、小さい文字でヒントみたいなことが書いてあって、「16時にハートレイク120で」のように特定の場所に案内される。で、行った場所にパスワードが書いてあったり。多分、実際に行くのは1人くらいだと思うんですけど、結果こうだったってまとめてくれる人がいると気になりますよね。

阿部:うん。ありですよね。

極点のスパイからのレコメンド

林:次が最後のスライドです。温度とか湿度とか環境を考えると、カラッとした気持ちのいい場所ってあまり人によって違わないかもしれないので、ものすごくじっとりとした場所が好きなスパイっていうのもいいかなって。

ほかのシナリオ

林:汗だくの人が出て来て。

鈴木:今までの実験でも、冬の寒い中であの二人は屋外でビールを飲んでいる、ってことがあるんです。後からアンケートで調査すると、付き合いたてのカップルだったりして、雑踏よりもここでおしゃべりしていたかったとか。そういう極端な人たちもちょこちょこいて、そういう人がある程度の数になると商業ベースに乗るんだったら、極点を集めるために、スパイが極点の代表選手になればいいんですよね。

林:この前アメリカとカナダに行ったんですけど、みんな薄着でした。カナダはみんな傘をささないって言っていて、僕も真似して歩いてみたんですけどすごく寒くて。あと、オープンテラスのカフェで雨にぬれながらコーヒーとか飲んでいて。

鈴木:フランスでもそういうのありますよ。

林:体が丈夫ですよね。

阿部:うん、確かに丈夫ですね。

鈴木:皮下脂肪の関係じゃないでしょうか。「皮下脂肪に自信あり」というスパイがいたら、私も一緒だってそのスパイを選んだり。そういう観点で、例えばクーポンなどを出し分けるナビゲーションって多分ないと思うんですよ。

林:胃が弱いとか。胃が弱い人ってネット上で盛り上がってますよね。

鈴木:胃が弱い、偏頭痛持ちとかがスパイの紹介文に入っていたら絶対気になりますもんね(笑)。

林:胃が弱いスパイに共感したら、やわらかいうどんしかリコメンドしない(笑)。

鈴木:万能なスター選手がスパイになるよりも分かりやすい。いずれにしてもスパイの特徴付けっていうのは面白い発想ですね。

林:あの、スパイって実在の人ですか?

鈴木:実在の人です。二次元の「すおみさん」はこちらのオリジナルキャラクターですけど。

林:どういう人たちなんですか?

鈴木:友達がやたらと多い大学生です。

林:なるほど(笑)!

鈴木:ええ、そういう基準で選定しました。友達が多くないといけなくて、究極のイケメンとか究極の美女とかでは、ちょっと違うと思うんですよね。それだけで緊張してまうので。そうじゃなくて人当たりが正しい人。

林編集長の話を聞く鈴木さんと阿部さん

コンピューターに情緒を持ち込む

林:「情緒的」がキーワードのような気がします。

鈴木:そうですね。スパイがコンピューテーション環境からやってきました、っていう形でやっちゃうと引かれちゃうと思うので。

林:なんか、怖いって感じになっちゃいますもんね。

鈴木:ですよね。気持ち悪いって部分があると思うので。

林:去年デザインウイークにアンドロイドの女の子が出てて、ずっと「怖くないよ、怖くないよ」って言っていて。みんな一言目に気持ち悪いって言うからですよね。コンピューターで何かやろうとした時のそういう障壁はすごいありますよね。

鈴木:そうですね、単純な機能性利便性じゃない。心通じ合う感って、多分街の中のシステムは今後必要になってくると思います。

林:よくネットで見る、人工知能でなくなる職業はこれ!ってありますけど、あれも遠回しなテクノロジーへの恐怖だな、って。

鈴木:人工知能を出す時に、天才過ぎても良くないんでしょうね。

林:そういう部分はあると思います。

鈴木:その人のレベルにはちゃんと合わせてあげないといけない。

林:やはり告知にも隙があるといいのではないでしょうか。

鈴木:まさに情緒的な告知ですね(笑)。

(つづく)

 
イノラボ

プロフィール

  • Img 5550 prof
    林 雄司
    ニフティ株式会社 デイリーポータルZウェブマスター

    1971年東京生まれ。1996年から個人で「東京トイレマップ」「死ぬかと思った」などのサイトを製作。2002年にデイリーポータルZを開設して以来ずっと編集長を務める。編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)「会社でビリのサラリーマンが1年でエリートになれるかもしれない話」(扶桑社文庫)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思っている。

  • Prof abe
    阿部 元貴
    株式会社電通国際情報サービス(ISID) オープンイノベーションラボ コミュニケーションプランナー

    2015年12月にイノラボに参画。参画以前はソーシャルメディアを使った、パラリンピック、FIFAワールドカップ等のスポーツ観戦の新たな視聴体験を提案。今後はコミュニケーション・プランナーとして、イノラボのコミュニケーション戦略の立案から実行までを担当する。温泉が好き。

  • Suzuki photo square s01 1
    鈴木 淳一
    株式会社電通国際情報サービス(ISID)

    オープンイノベーション研究所(イノラボ)プロデューサー。事業部門にて欧米ハイブランドを中心にロイヤルティマネジメントやOut-In型M&A事案を担当後、2011年イノラボへ。グランフロント大阪のICTコンセプトデザインを手掛け、2013年にAegis Award(LBS)最優秀賞。専門はPost City Science(未来都市), Inbound Scape(訪日価値向上), Future Currency(暗号通貨), Robotinity & Fashion(工芸繊維), Human Data Sensing(生体科学)の研究。クオリティ・マガジン"MODE.TOKYO"プロデューサー、放送大学客員講師。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ