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イノベーションのヒントをつかめ!Stylus「Innovation Forum」

2016/08/01

    イギリスとアメリカを拠点に、世界中のイノベーションを調査・研究し、企業の新規事業開発のアドバイスを行うStylus。これまで同社は、世界のイノベーション事例を紹介するイベント「Innovation Forum」をロンドンとニューヨークで開催してきたが、ついに2016年7月、日本に初上陸を果たした。本記事では、表参道ヒルズで開催された「Innovation Forum」の様子を紹介する。

    スティーブン・モーガン氏

    最初に、同社チーフ・レベニュー・オフィサーのスティーブン・モーガン氏が登壇し、Stylusについて紹介した。6年前にロンドンで創業したStylusは、短期間で500社以上のクライアントを獲得。現在は、60人のスタッフが15の産業のイノベーション事例を分析している。同社のアドバイザリーサービスでは、アイデアの提供にとどまらず、実行まで支援するのが特徴だ。モーガン氏は「ある業界のイノベーションは、別の業界に影響を与える。業界を超えてイノベーションのアイデアを提供することに価値がある」と語る。

    2030年のターゲット別ラグジュアリー市場

    続いて、Stylusのトップアナリストのシャノン・ダべンポート氏が登壇し、2030年のラグジュアリー市場の消費行動について、三つの異なる世代別の特徴と事例を紹介した。

    まず、2030年に21歳~35歳になるジェネレーションZ。彼らはこの世代を「ユニークな体験を求める冒険家」と呼ぶ。この世代の特徴として、「物質的な購入よりも体験を重視すること」「その瞬間を楽しみ、没入感を好むこと」「レンタルや定額サービスなどを好む」傾向があることを事例と共に紹介した。没入感を楽しむ事例としては、クリスチャン・ディオールが店舗でVR体験を提供していることが紹介された。ユーザーは、オリジナルのVRヘッドセットを装着すると、製品ができるまでの職人の技など、ブランドストーリーを体験できるという。

    二つ目に紹介した世代が、2030年に36歳~49歳になるミレニアル世代で、「非ブランド主義マニア」と名付けられた。特徴としては、「健康的なライフスタイルを好む」「シンプルな機能性、ミニマリズムを求める」「超パーソナル」などが挙げられた。例えば、GENEUというアンチエンジングの化粧品会社では、Ph.Dのスタッフが客の口の中をこすって検体を採取し、遺伝傾向、老化傾向を調査する。通常は数週間の時間がかかり費用も必要な検査が30分間ででき、顧客に特別な体験を提供する。

    三つ目の世代が、2030年に66歳~84歳になるベビーブーム世代で「人生を知り尽くしたステータスの探求者」と呼ぶ。この世代は、「子どもに残せるような遺産であることを重視」「商品やブランドの知識を求める」「本物感を求める」「自動運転によりアクティブに過ごす」「デジタルを好む」ことなどが特徴として挙げられた。事例としてBMWがこれからの100年を見据えたコンセプトカー「BMW Vision Next 100」を発表したことを紹介した。道路の状況に応じてボディーが変化したり、自由に機能拡張できるような未来のクルマは、本物思考のこの世代を満足させる。

    最後にダべンポート氏は、「未来のコンシューマーは新しいものを期待しており、ブレークスルーの種がたくさんある」と聴衆を鼓舞した。

    シャノン・ダべンポート氏

    これからのイノベーションを喚起する世界の事例

    次に登壇したのは、サイサンギース・ダスワニ氏。彼女もまたStylusのトップアナリストの一人である。彼女は「ラグジュアリー市場の新しいパラダイム」について紹介した。ラグジュアリーについての消費者の期待は、品質、排他性、サービスの観点から変わってきているという。例えば品質に関しては、装飾性よりも、機能的、体験的なラグジュアリーが注目されるようになっている。特にミレニアル世代は、伝統的なブランド、高級感に対して関心が薄く、機能的で自分だけのカスタマイズができるものを好むといった傾向を事例と共に紹介した。

    その後さらにダスワニ氏が2017年から2018年にかけて流行色となるカラーパレットについて紹介。Stylusでは、アートや工業製品、インターネットなどさまざまな分野で使われている色のトレンドを調査し、今後注目されるであろう色の組み合わせを提唱している。

    シャノン・ダべンポート氏

    そしてダべンポート氏が再び登壇し、素材について紹介した。素材についても、建築物、アート、テクノロジーなどからトレンドを調査している。マテリアルを考える上では、さまざまな形で変化する半透明なものを意味する「ダイナミックオパシティ」が1つのキーワードで、その他にも、鏡面素材で柔軟性が高く耐久性のある素材などが注目されているという。

    またテクノロジーと融合するデバイス用の軽量素材の例として、医療機器として使われているデバイスで皮膚に貼り付けてリアルタイムで血糖値などを計測できるパッチ、髪の毛と同じくらい薄い小型太陽電池などが紹介された。素材においては自然との調和が重要なトレンドとしてあげられ、環境に配慮し、サステイナブルであるという要件もトレンドとして紹介された。「天然資源を守りながら、汚染物質を減らす、ポジティブな再利用をすることが素材への要件になるだろう」とダべンポート氏。

    製造工程が高速化することで、異業界の素材活用アイデアを、自社にいち早く取り込んでいくことができるとし、「紹介したようなアイデアやインサイトを将来のプロダクトデザインに生かして欲しい」と強調した。

    イノベーションを真ん中においた議論ができる組織が勝つ

    WIRED編集長の若林恵氏と電通の廣田氏

    最後のセッションでは、WIRED編集長の若林恵氏と、Stylusと共に今回のイベントを実現させた電通の廣田周作氏が登壇し、対談を行った。おそろいのTシャツで壇上に上がった2人だが、これには理由があった。今年より電通とWIRED、H.I.S.で「イノベーションツアー」という新しい取り組みを開始。これは、国内の新規事業開発などの部門の担当者が参加するツアーで、世界のイノベーティブな企業を訪問し、新しい着想を得ることを目的にしている。おそろいのTシャツは、そのツアーに同行した2人が現地で購入したものだという。

    若林氏は、そのツアーに参加した新規事業開発部門の担当者と話して、彼らが抱えるイノベーションのジレンマを感じたという。彼らは情報やトレンドをよく知っているのに、それを実際のプロダクトやサービスに生かすことが難しい。この状況について「アプリはあるのに、動作するOSがないという状態」と若林氏は表現した。

    廣田氏もStylusのレポートをいろいろな企業に提供している中で、グローバルな調査レポートに価値を見いだしながらも、その情報を使って新しい事業に生かすまでには至らない企業が多いことを明かした。その上で、業界に特化したカンファレンスは数多くあるが、「世界がどの方向に向かっているのかという大きな見取り図を示す今回のようなイベントは貴重だ」と述べた。

    若林氏は、ヒラリー・クリントン氏が発表した「Initiative on Technology & Innovation」の公約の中に、テクノロジーとイノベーションを政策のメインストリームに置き、教育、政府、外交の在り方につい方向性を示していることを紹介した。

    それを受け廣田氏は、日本企業の場合イノベーションが大事ということを理解しているのにも関わらず、「イノベーションをメインストリームにおいた議論ができていないこと」が課題だと述べた。実際、廣田氏がStylusのレポートを紹介するときに、企業のどの部門にアプローチしていいか分からない、つまりイノベーションを担当している事業がないという壁にぶつかることがあるという。またStylusのレポートには、スタートアップだけでなく、大企業がスタートアップと組んで新しい試みをする事例があり、それを継続することでイノベーションが生まれやすくなっていることを、BMWのコンセプトカーの事例を引き合いに指摘した。

    若林氏は、日本の新規事業開発においては「イノベーションを評価できる人がいないことから、新しいアイデアが生まれても、それを推進できない」と現状の課題をあげた。廣田氏はこうした状況を「日本型のイノベーションのジレンマ」といい、新しいことを始める前に「他の事例を教えてほしい」と言われる矛盾があることに言及した。

    こうした要望に対して、廣田氏はStylusが「違うカテゴリの産業のイノベーションを、自社の参考にするよう主張している」ことを挙げ、日本でも「自動車業界がファッションの業界のトレンドを取り入れるというような、新しい組み合わせが次のイノベーションにつながる」ことを強調し、日本のイノベーションには「知識以上に勇気が必要」と観客に訴えた。

    若林氏は、WIREDの編集方針などと比較しながら、「情報の対象とテーマは異なる」という視点から、Stylusのレポートを読むと面白いとアドバイスした。廣田氏は「他業界の事例でも、無理やり自分の世界にこじつけて読むことで、チャンスが生まれる。今回のイベントでも新しいアイデア、ひらめきを持って帰ってほしい」と締めくくった。