一緒に考えよう。ライフ・ユニット #04

シングルはなぜ増える!? 変化した家族のリスク(後編)

  • Yamada masahiro pr k
    山田 昌弘
    中央大学文学部教授
  • Kodaira profile
    古平 陽子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター/電通総研 主任研究員/プランナー

生涯未婚率が年々上昇し続ける、現代の日本。2040年には年間20万人以上のシングルが孤立死するともいわれています。もはや、これまでの概念や価値観ではくくれなくなっている家族・世帯のあり方。
電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)では、これからの多様な家族のカタチを「ライフ・ユニット」と名付け、有識者へのインタビューを通し、家族・世帯の変化に向き合います。

前編に引きつづき、後編でも“パラサイト・シングル”の名付け親として知られる山田昌弘教授に、古平陽子氏が現代の家族が内包するリスク、シングル化が進むことで表れる社会の変化について聞いていきます。

(左より)山田氏、古平氏

 

付き合いが結婚に直結する日本を筆頭に、バーチャル化が加速

古平:結婚でなくとも、パートナーを得やすくなればよいという考え方もあると思うのですが、日本では同棲も増えていませんよね。生活を共にすれば経済的にはラクになるというメリットもあると思いますが。

山田:日本人は恋人となったら、結婚することが前提になっている。一方ヨーロッパのカップルは、「一生を誓うほどじゃないけど、気のあう相手と暮らした方が何かといい」程度の感覚で同棲します。

古平:確かに同棲=結婚への準備段階、という感覚はあります。

山田:ヨーロッパにはフランスやスウェーデンのように、法的に婚姻しておらず、同棲の状態でも社会保障を受けられる国もあります。元々同棲カップルに優しい土壌があり、さらにEUに統合されてからは同棲傾向が高まっています。あの家制度が根強いイタリアですら、ここ10年の間、同棲は増加傾向にあります。恋人が親元に転がり込んでくるケースが増えているんですよ。

古平:実家で同棲、日本ではあまり考えられませんね。日本のシングル層は、親の目を気にしているフシもあると思います。

山田:今は親と同居のパラサイト・シングルが増えていますから。親も子どもの将来は心配ですし、何より世間体が気になるから子どもの恋愛にあれこれ口を出す。欧米も晩婚化ではあれど、すべからく恋愛自体が活発ですよ。アジアでは恋人も作らず、好きな人がいない、異性に興味すら抱かない若い人も増えています。

古平:日本人の草食化が止まらない原因とは……。

山田:原因のひとつがバーチャル化だという説もあります。アイドルを追いかけたり、ゲームに没頭したり、ペットを飼ったりと、対生身の人間じゃない世界に自分の居場所を見つける傾向は確実に強まっています。
この傾向はアジア全体に広がっているんですよ。昨年北京で講演した時、政府のお偉いさんがこんなことを言っていました。若い中国人女性が全員結婚したとしても、約3千800万人の若い男性が余ると。だから、アジア独身者におけるバーチャルマーケットは巨大です。

古平:バーチャル化が進むほど、未婚化に拍車がかかりそうです。

山田:バーチャル化はシングル化の原因か結果か。うーん、どちらとも言えますが、結果のような気もしますね。

古平:草食化、シングル化が進むことで予測される社会の変化はありますか?

山田:結婚もせず、パートナーも得られない人が増えると社会は荒れますよ。

古平:先生は著書『「家族」難民:生涯未婚率25%社会の衝撃』の中で、“家族難民”を“自分を必要とし大切にしてくれる存在がいない人達”と定義されています。家族の存在には、犯罪の抑止力という側面があるということでしょうか?

山田:高齢犯罪が多くなった理由がまさにそれでしょう。心配してくれる誰かがおらず、人並みの生活を保っているという世間体を失い、ましてバーチャルの世界すら持っていないと、自暴自棄で犯罪に走る可能性が高まる。
私は、パチンコの犯罪抑止効果はすごいと思っていますよ。「行けば当たるかもしれない」と、手軽に努力が報われる可能性に賭けているんです。家にいても、DVDを観たり、ネットゲームの世界で仲間と達成感を味わったり。現実社会でなかなか努力が報われる経験がなく、他人と何かを作り上げることができないからバーチャルな世界に希望を託しているのですね。

 

中流神話を捨て、新しい家族のカタチを認めれば可能性はある

古平:多くの人がバーチャルの世界に安らぎを見いだし、草食化が進む理由も分かる気がします。とはいえ、バーチャルな関係は一方的であり、シングルの現実的な助けにはなりませんよね。旧来型でなくてもいい。これから多様な家族のカタチを受け入れていく上で、注目している国はありますか?

山田:欧米などは、昔から自分の属する階層にあった水準で暮らすというのが当たり前の感覚としてあるようです。また、人生にアップダウンはつきもので、恥ずべきことではないという考え方も浸透しています。
比べて、戦後日本は総中流志向の世間体社会。同じ年代の人と比較して遜色ない人生を送れないと「恥ずかしい。人生終わった」と感じてしまう。妻子を同級生と同様レベルに養えないなら独身でいた方がマシだ、低収入な男性と結婚するくらいなら親と同居して1,000円のランチを食べた方がいいわ、となる訳です。

古平:そんな、生涯未婚予備軍ともいえる若いシングルやパラサイト・シングルは、どうしてゆくべきでしょうか。

山田:中流生活を送れないことに対する強い恥の意識を一度とっぱらうことができれば、社会も変わる可能性があります。必死に中流を保とうとした結果、ギリギリになってすべての付き合いを失い、孤立するのは危険。

古平:若い人達は、これから変われたり、収入を得られたりするチャンスもたくさんあると思います。そういう意味で最初に追い込まれそうな、変わらなきゃいけないのはシニア層でしょうか。

山田:そうでしょうね。若者より固定概念の強いシニア層は、中流生活が維持できなくなると孤立しがちです。生活がギリギリでも、外ではニコニコと中流を装うので、本来の姿は周囲から見えにくい。まして政策を作っている人達は、下々に起こっている変化などほとんど知らない。もっと社会の階層が分断されないと、社会制度も人々の意識も変わらないというのは悲しいことです。

 

最初に動き出すのは30~40代のパラサイト・シングル女性達

古平:シングルでいることはリスク、いわゆるネガティブな要素が語られがちですが、シングルという選択肢をよりポジティブな文脈に転換していくという視点で、注目している層はありますか? 逆にポジティブな面ってあるのでしょうか!?

山田:唯一シングルのよい点は、人生の予測が立てられることですよ。自分がシングルでいると決めればね。

古平:家族に振り回されず、自分の生き方を守れるということですか?

山田:自分を守ってくれる人がいないということを覚悟すれば、ある程度将来を見越して人生を組み立てられるということ。一部の主体的シングルというやつです。親には振り回されますが、親が亡くなった後は、死ぬまで自分で自分の面倒をみなくてはいけない。ある意味では、ある程度未来が予測できるんですよ。
シングルで子供がいない人が増えれば、自分のお金を使い切って亡くなるということなので、消費が盛んになる可能性はあるかもしれませんね。現状、日本の社会福祉はシングルに冷たいので、難しいとは思いますが。

古平:シングルの中で、注目しておられる層はどの辺りでしょうか。

山田:私は、シングル層の中で新しい道を模索しているのが、パラサイト・シングルの女性達だと思っています。

古平:パラサイト・シングル女性の中でも、どの年齢層が注目ですか?

山田:収入がある程度あり、将来のことを考えるインテリジェンスを持っている独身層というと、30~40代のパラサイト・シングル女性じゃないでしょうか。その層が新しいアイディアや住まい方を考え始めていますね。

古平:私の実感では、50代の女性達が60歳、70歳に向けて暮らし方を真剣に考え、動き始めているように思います。自分で購入したマンションに今まで通りひとりで住み続けるのか、はたまた誰かと一緒に暮らすのか…という風に。このような層ではなく、30~40代層なのですね。

 

山田:私はほぼ60歳ですが、周囲の女性達もそういう動きをしていますよ。
ただ、30~40代にかけて、女性は出産リミットを意識して決断を迫られるというのが大きいでしょうね。年齢は変数なので、上がるほど諦めざるをえない。でも、結婚相手に望む条件は下げられない。ならばと、先ほど話した主体的シングルの道を選び始める。現在の50~60代女性でいうと、生涯未婚率は約10%で、まだ既婚者がボリュームゾーンです。例えパラサイト・シングルだったとしても、すでに親が亡くなり、ひとり暮らしに突入している場合も多い。その50~60代を見ながら、30代が考え始めているのかもしれませんね。

古平:少子高齢化社会が加速する中で、例えば、シニア層のように解決しなければならない課題を突き付けられてから、新しい道を切り開いていくということも重要だとは思います。さらに、そこまで切羽詰まっていない若年層が、未来を想像しながら、誰とどう暮らしたらシアワセになれるのか、そのためには、どんな新しい商品やサービスがあったらよいのか?などを自由に発想していくと、よりよい未来がつくれそうですね。今日は有り難うございました。

 
<了>

 

プロフィール

  • Yamada masahiro pr k
    山田 昌弘
    中央大学文学部教授

    1957年東京生まれ。1981年東京大学文学部卒、1986年同大学院社会学研究科博士課程退学。
    専門は、家族社会学。愛情やお金を切り口として、親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。東京学芸大学教授を経て、現在、中央大学文学部教授。

  • Kodaira profile
    古平 陽子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター/電通総研 主任研究員/プランナー

    2000年入社。マーケティング・プランニング部門を経て現在は電通総研で生活者・トレンド研究に従事。「女性/ママ/家族」「次世代育成」を専門領域とし、インサイト開発からプランニングまでを行う。
    「電通ダイバーシティ・ラボ」「ママラボ」にも所属し、「Project18‐電通総研 18歳プロジェクト-」「女性活躍推進プロジェクト」「ライフ・ユニットプロジェクト」を手掛けている。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ