分散型メディアが作るパブリッシャーの未来

  • Portrait tanaka dentsuho
    田中 準也
    株式会社インフォバーン 執行役員
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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

オンラインでのコンテンツ配信手法が多様化する中、オウンドメディアで記事を公開するだけでなく、Facebook、Twitter、YouTubeなど他社メディアやプラットフォームで公開する手法が、「分散型メディア」と呼ばれ注目されています。

パブリッシャー(メディア運営者)にとっては、アクセスの奪い合いになることから、脅威と感じる向きもあります。またブランドのマーケターにとっても、どのような戦略でオンラインのコンテンツ配信をすべきかという視点が、必須となりつつあります。パブリッシャーやブランドは、分散型メディアとどう向き合うべきなのでしょうか。インフォバーンでDIGIDAY事業を統括する田中準也氏と、電通のコンサルティングディレクター・小西圭介氏に話を聞きました。

パブリッシャーの立場から「分散型メディア」をとらえる

-- まず「分散型メディア」というキーワードをよく聞くようになりましたが、これは日本独自の呼び方だそうですね。

小西:海外では“Distributed Content”あるいは“Platform Publishing”という表現をされていますね。日本では、BuzzFeedの戦略である”Content Distributed”を、あるブロガーが「分散型メディア」と訳したことからこの呼び方が広まったようです。ただし、分散型メディアの本質は、コンテンツとメディアの分離にこそあると思います。

Huffington Postのエディターは「オウンドメディアに来てもらうのではなく、さまざまなプラットフォームを利用しているユーザーに届くように、最適な手法でコンテンツを配信する“プラットフォームパブリッシング”だ」という論説を書いています。

ここ1、2年でFacebookのインスタント記事、SnapChatのDiscover、Twitterのニュースタブなど、サイト遷移をせずにプラットフォーム内でコンテンツが受け取れる仕組みが広まっています。Googleが取り組む、モバイルサイトの表示を高速化するAMP(Accelerated Mobile Pages)も同じ流れですね。

プラットフォーム内ですべてが完結するため、ある種の囲い込み施策といわれることもありますが、これにパブリッシャー、メディア側はどう対応するか、議論していきたいと思います。

田中:海外では、Facebook、Instagram、Vineなど、それぞれのプラットフォームに集まっているユーザーに情報を配信するという考えが定着しつつありますね。

ユーザーがコンテンツを見る時間、場所が変わっているのですから、メディアは自社サイトにコンテンツを見に来てもらう、SNSのリンクをクリックしてもらうという考えから、その場でコンテンツに触れてもらうという考えに変わらなければなりません。

言葉としては、分散型メディアの「メディア」は必ずしもつけなくてもいいと思いますが、分散型でコンテンツを配信しないと届かない、認知されないというのが実情です。しかも、単にコンテンツを分散するのではなく、それぞれのプラットフォームのフォーマットに合わせてコンテンツを変えていく必要があります。

小西:パブリッシャーの立場から見ると、従来持っていたパブリッシャーの要素が解体しているということですし、プラットフォーマーの立場から見ると、分散したコンテンツを集約するキュレーションメディアになる、ということもできると思います。

一方でブランド側から見ると、ユーザーのいる場所にコンテンツを配信するということですから、当たり前のことかもしれませんが、従来はターゲットに合ったメディアに広告コンテンツを出していればよかったものが、情報コントロールの主導権がユーザー側に移ってきたため、それだけでは情報が届かなくなっている。

コンテンツの分散はメディアの価値の希薄化なのか?

-- DIGIDAY[日本版]の記事でも分散型メディアをよく取り上げていますが、海外のメディアの特徴は?

田中:海外のニュースメディアであるQuartzの場合、3人の動画専門チームを作り、半年で130本の動画を公開しました。動画の総再生回数は4500万回ですが、自社サイトでの再生回数は0回。

種明かしをすると、動画はすべて各プラットフォームで配信して、自社サイトでは配信していないのです。ちなみに、4500万回のうちほとんどがFacebookでの再生だそうです。

参考:「分散型」動画に賭けた、経済サイト「クォーツ」の挑戦:半年の成果は、なんと4500万ビュー!(DIGIDAY[日本版])

もう一つの例がNowThisというニュースサイトです。サイトを見ると、トップページに“Home page. Even the word sounds old. We bring the news to your social feed”(※編集訳:ホームページなんてもう古い、あなたのソーシャルフィードにニュースを届けます)と書かれ、各プラットフォームのリンクが載っているだけのコンテンツが一切ないデザインになっています。

NowThisのトップページ

読者は、自分が一番接しているプラットフォーム上でコンテンツを見ればいいわけです。NowThisでは、各プラットフォームのフォーマットに最適化したコンテンツを配信しています。ネタは同じでもプラットフォームによって、見せ方を工夫しています。

小西:グローバル視点での、生活者のメディア接触の変化は見逃せませんね。2011年頃からコカ・コーラが「Liquid and Linked Content」というコンテンツ戦略を提唱しました。これは従来の一方向のメディア広告配信から、生活者の間で流動して拡散していくコンテンツを先導的に配信していくという戦略ですが、それがさらに加速して今はプラットフォーマーの配信力が強くなり、検索もせずリンクすらたどらずに、自分が一番よく使っているプラットフォーム内での情報摂取を完結させるというように変わってきています。

メディアにとっては、コンテンツ配信を分散型にすることは、自社メディアの価値が希薄化するということでもあるため、ビジネス視点からは大きなチャレンジです。従来はメディアには読者がいるから、広告出稿が見込めました。今はプラットフォーマーがユーザーと彼らのデータを抱えていて、スケールの大きいターゲティング配信ができるので、メディアビジネスが厳しくなりつつあるわけですから。

また、メディア自体のブランド価値は、そのメディア上で編集された一連のコンテンツが消費される独自の体験にありましたが、コンテンツがメディアにひも付かなくなり、出どころも意識されずコンテンツがバラバラに消費されることで、メディアのブランド構築が難しくなります。プラットフォーマーは、分散型のコンテンツ提供者(=メディア)とレベニューシェアするモデルを用意していますが、まだメディアの収益モデルとして置き換えられていないですね。

メディアだからできるコンテクスチュアルなコンテンツ

田中:一流パブリッシャーによる業界団体であるDigital Content Next(https://digitalcontentnext.org/)は、「SNSユーザーの43%が、自分が触れたコンテンツの元サイトを知らない」という調査結果を発表しました。半分近くは、コンテンツの元サイトを意識していないということですね。

ユーザーはSNSでコンテンツに接触して読み流し、シェアして終わりなので、頭には残ることはほとんどない。そういうコンテンツがあふれていること自体にも課題がありますが、パブリッシャーとしては、それでもコンテンツを出し続けなければなりません。

先日、ギズモード・ジャパンが10周年を迎えたのをきっかけに全面リニューアルしました。スマートフォン閲覧を前提にしたフラットデザイン、Facebookのインスタント記事に対応したコンテンツ配信、AMP対応など、分散型を意識した仕組みにしていますが、一方で本体としてのサイトをどうするべきか、ということに悩みました。

ギズモード・ジャパンとしては、サイト来訪者に最高のユーザー体験、おもてなしをしたいという思いがあって、編集部とエンジニアが数カ月かけて「オウンドメディアならではの体験」について議論しました。分散化が進むほど、サイトに来てくれた方はロイヤルティーの高い読者なので、役に立つ、仕事に生かせる、シェアするなどの読後の体験まで含めて考える必要があります。

小西:メディアの価値を高めるチャレンジはメディアサイドに必要だと思いますが、配信記事のタイトル写真1枚・映像1つでブランドを体現できるくらい、自メディアのアイデンティティー形成に特化しないといけないですよね。

もう一つはコンテンツのカテゴリーですね。ユーザーに合わせてコンテンツが再編集されるプラットフォームでは、カテゴリーに特化したコンテンツではなく、コンテキスト(生活者にとってのタイミングや関心文脈)が重要です。自分の顕在的な興味だけでなく、それに隣接した新しい情報に出会えるようなことですね。

今は、音楽でもアルバムを最初から最後まで聴くのはぜいたくなことで、リスナーが聴きたいものだけを効率的に分割して聴いていますよね。

情報も同じで、面白ければ有名メディアかどうかは関係ないですし、時代やユーザーの文脈にどう乗っていくかが重要ですね。メディア主導で考えるのではなく、生活者の時間軸、コミュニティー、関係性などからコンテンツを考える必要があります。

田中:メディアの在り方としては、ユーザーの気持ちを高揚させたり、問題解決を助けたりというような変化を、ライトな記事であっても起こさないといけないですよね。そういう“読後感”がないと見てもらえない時代です。

小西:メディアは、生活者を中心にコンテンツを考えるようにシフトする必要があります。これまでは、自分たちが良いコンテンツを発信していけばよいという考えにとらわれがちでしたが、生活者にしてみれば興味ある情報や自分事化できる情報と、メディアが良いと思う情報とはイコールではないからです。ブランドはすでにそういう視点にシフトし始めている。

だからユーザーと関係のある文脈でコンテンツを作る力、コンテクスチュアルなものを作ることにより注力するべきです。読者にシェアされることで情報の広がりができますから、そこでメディアの価値が高められる新たなチャンスが生まれる。例えばNewsPicksなどはその一つで、記事が取り上げられコメントがつくことで、記事の価値が上がるという仕組みが働いています。

またパブリッシャーは、ユーザーと直接つながるコミュニティーとしてメディアの価値をどれだけ高められるか。熱狂的なファンを抱えて、このメディアの情報は価値がある、共感できると思ってもらえるかが生命線になっていくでしょう。

田中:コミュニティーといってもいろいろな形がありますが、自社メディア・コンテンツのファンに情報を発信したときに、ちゃんと共感を持たれるような空気、みんなが参加している感覚が作れないと、メディアは生き残れないでしょう。ギズモード・ジャパンも、擬人化するならば「熱狂している友人、そばにいる特定の分野にすごく詳しい人」を目指しています。

ギズモード・ジャパンのようなターゲットメディアは、ニュースメディアとは役割やコンテンツの作り方は違いますが、やはりニュースメディアであっても、コンテンツをどう作るか、どう見せるかはこだわらないといけないですね。

小西:最近は表現の一つとしてハッシュタグに興味があります。「ハッシュタグ作文」などは、みんなの気持ちの集合知といいますか、関心文脈を広げる創作ですよね。非常に感覚的でもあります。先日、MERYが雑誌を出版しましたが、目次が全部ハッシュタグの形になっていて、読者と共有できる文脈をつかんでいるなと思いました。田中さんが言うように、読者の文脈を意識してコミュニティー内でのコンテンツの伝え方を変えているんですね。

田中:記事を読ませるのではなく、見せる時代になっています。エモーショナルに訴えて見せる工夫が必要ですね。これはウェブに限った話ではなく、新聞のテレビ欄で縦読みでメッセージを伝えるというのも、ある意味見せる工夫ですし、ハッシュタグも視覚的に入ってきて伝わるので、そういうところも意識してコンテンツ作りをしていかないといけないですね。

−−パブリッシャーは分散型コンテンツの効果測定、メジャーメントをどうしていけばいいでしょうか?

田中:コンテンツがどのメディアでどれくらい見られているのか。メジャーメントという視点では、当社は米国のシンプルリーチと契約して新しい分析指標の開発に取り組んでいます。シンプルリーチは、パブリッシャーがブランドに対して、ブランドのコンテンツマーケティングの指標と解析を提供しています。

分散型という新しい生活者の情報消費行動への対応が核にあり、「パブリッシャーとブランドの関係性が見直されるべきである」という概念から生まれた新しいツールだと思います。

いろいろなメディアを運営していると、レポーティングや分析にものすごく時間がかかってしまうことがあります。何のための計測なのかという目的を大事に、粒度が多少荒くても傾向をつかんで、クイックに次の意思決定をすべきというのが持論です。レポートはなるべくシンプルにデータを見て、次のアクションにつなげたいですよね。

コンテンツそのものがメディアのブランドになる

−−これからのメディアはどう生き抜いていけるでしょうか?

田中:発信するコンテンツが単体でメディアのブランドになるので、いかにメディア独自の視点・世界観を出していくか。ライトなコンテンツでもメッセージが込められているのが理想です。

最初に言ったように、読者は誰が発信したかも知らずにコンテンツに接している。それを理解した上で、それでもパブリッシャーとしてのブランドをコンテンツの中に入れていかなければいけません。

小西:配信のフォーマットという点では、バイラルメディアはやはりうまくて、例えばFacebookでは一枚の画像がキラーコンテンツになるといったことを理解していますね。

田中:画像は記事を表すだけでなく、読者がコンテンツの中に入りたいかどうかを決める要素になります。スポンサードの広告記事でも、アイキャッチ画像でコンテンツの魅力訴求ができれば、読者は読んでくれます。

小西:また、最近は動画コンテンツが圧倒的に増えていますが、そのメディアの世界観を表現する観点でも動画は効果が高く、各社もずいぶんフォーカスしていますよね。

田中:当社でも、geneTVというメディアを始めました。今、早回しを使った動画がトレンドなのでそれも採用しています。Facebookでは動画だけで紹介、サイトに来た人には、さらに詳しい情報をテキストで補完するといった取り組みを始めています。また動画は編集部が自ら撮って、効果を模索しています。テキストと写真だけでなく、動画でどう伝えるか、従来の枠を超えようと実験しています。今後は、あらゆるパブリッシャーが動画に力を入れていくことになるでしょうね。


後半では、ブランド側がメディアの分散化にどう対応するか、オウンドメディアを持つべきなのかについて議論していきます。
後編:分散型メディアが作るブランドの未来

プロフィール

  • Portrait tanaka dentsuho
    田中 準也
    株式会社インフォバーン 執行役員

    総合広告代理店、鉄道系エージェンシー、IT企業、デジタルエージェンシーを経験した後、2015年インフォバーン入社。企業のマーケティング支援業務におけるアカウントプランニングを統括。マスからデジタルまで精通し、オンラインとオフラインを横断する総合的なコミュニケーションデザインが得意。近年ではスマートフォンデバイスアプリケーションのプロデュースから、Web番組企画などのエンターテインメント領域、B2Bサービスデザインまで幅広く手がけている。

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

    1993年入社。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカー氏らとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在はコンサルティング・ディレクターとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」、訳書に「顧客生涯価値のデータベースマーケティング」(いずれもダイヤモンド社)他。

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