Dentsu Design Talk #84

ケヴィン・ケリー「未来を決める12の法則」(前編)

  • Kevin kelly pr
    KEVIN KELLY
    WIRED誌 Senior Maverick
米国『WIRED』誌の創刊編集長であり、テクノロジー界の思想を牽引するケヴィン・ケリー氏の新刊『〈インターネット〉の次に来るもの~未来を決める12の法則』の翻訳版が7月下旬、日本で発売された。今回の電通デザイントークでは、その出版記念講演として、ケリー氏から30年先の未来に起こる重大な変化の中から三つのトレンドを解説してもらった。

 

未来は予測できるのか?

本日は、これから30年先の未来についてお話ししたいと思います。
未来はどのような方向に向かっていくのでしょうか。その多くは、まだ予測不可能であり、未知の領域といえます。ただし、一部については予測することができます。本日はその予測可能な方向性についてお話しします。

まず理解しなければいけないのが、テクノロジーというのは“単体の存在ではない”ということです。今私が使用しているマイクやコンピューターといった単体ではなく、“一つの大きなシステム”であるといえます。さまざまなものがお互いに接続され、大きなネットワークを形成しており、私はそれを「テクニウム」と呼んでいます。
テクノロジーはそれぞれが自立していても同じパターンを繰り返し示し、ある特定の方向にベクトルが傾いているのです。その傾きは、どこに由来しているといえば、そのシステムを構成する“テクノロジーそのものの性質”からです。

電気のスイッチやシリコンチップ、あるいは電気の配線といった物理的な存在が、全体としての傾き、つまり方向性を決定するのです。これが「テクニウム」であり、長期的な方向を定めています。そこで、このテクノロジーの傾きを見ることで、長期的なトレンドが予測可能になるのです。

例えば、「4本足」について考えてみましょう。4本足は重力の物理法則から考えて、とても安定した存在です。そのため、重力のあるどの惑星に行ったとしても、おそらく動物は4本足で歩き、車両も4本のタイヤを持っているはずです。これは実世界の物理法則によって決まっています。
つまり4本足という形態そのものは不可避ですが、その個々の種の存在は不可避ではありません。これは4本足の動物という存在は不可避だけれども、それがシマウマといった具体的な種になるかは不可避ではないということです。

もう一つ例を挙げましょう。雨が渓谷に降り注いでいるとします。そのとき、一つ一つの水玉がどういった経路を通って、谷底に到達するのかというのはランダムであり、予測不可能です。ただ、“下に向かって流れていく”という方向は不可避です。それは、重力という力がある特定の方向に水を動かしているわけです。

では、テクノロジーやデジタルの領域においてはどうでしょうか。
大きなくくりで考えれば、“電話”という形態は不可避です。どのような文化や時代、政治制度でも電力と配線が生まれれば、電話というテクノロジーは到来します。一方で、iPhoneは不可避ではありません。個別に生まれる製品や企業までは予測できないのです。

電話と同様に、“インターネット”も不可避な存在でしょう。いったん電話が生まれてしまえば、そこからインターネットへと進化するのは不可避だったわけです。ただし、そこからTwitterが生まれるかどうかは不可避ではないのです。

こうした大きな視点から、20年先や30年先の未来を見渡してみましょう。それは支流が入り組んだ大きな川のようなものです。それぞれの川は自立していて、同時に相互に依存し合っています。私は新著『〈インターネット〉の次に来るもの』の中に挙げた12の支流は全て現在進行形であり、物事が続いていく過程だと捉えています。
どのトレンドも、すでに今存在しており、将来的にはその傾向が増大していきます。今日は、その中で三つの重要なトレンドを説明しましょう。

 

最も重要な方向性は「COGNIFYING」

最も重要なトレンドが、「COGNIFYING」(認知化していく)です。これは動詞で、「ものごとをより賢くする」という意味の造語です。
AI(人工知能)はすでに現代にも存在しています。それはこの50年、ゆっくりと進化してきました。iPhoneの「Siri」やAmazonのEchoなどは分かりやすい例ですが、ほとんどのAIは生活の中で見ることがありません。

例えば、病院ではAIがX線検査の結果を診断しています。それは、医師がするよりも正確に診断できるからです。あるいは法律事務所ではAIを使って証拠の精査をしています。なぜなら人間の弁護士よりも効率的だからです。また、AIは飛行機の自動操縦にも使われています。現在でも操縦のほとんどはAIがしていて、人間のパイロットが操縦する時間は全体の飛行時間の一部にすぎないのです。現代の自動車もブレーキの中にAIのチップがあり、人間よりもうまく操作してくれます。これらのどれもがすでに存在しているものの、私たちは普段目にすることがありません。

そして、直近の5年間で、このAIに新たな三つのテクノロジーが組み合わさり、発展しました。
その一つ目のテクノロジーが、「ニューラルネット」というソフトウエアです。そのアルゴリズムは50年前に開発されたのですが、これまではスケールアップがうまくいきませんでした。それを近年、カナダの研究者たちがニューラルネットを階層上に積み重ねれば、成功することを発見しました。これは「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれています。

二つ目のテクノロジーは、ハードウエアについてです。以前であれば、AIを実現しようとすると、何百万ドルもの非常に高価なスーパーコンピューターが必要でした。それが5年ほど前から、ビデオゲームなどに使われる小さなチップが安くなりました。こうしてGPU(グラフィック・プロセッサー・ユニット)が新たなプラットフォームとなり、AIが動くようになりました。

そして三つ目のテクノロジーは、ビッグデータの処理能力についてです。AIを訓練するためには膨大なデータが必要で、何千何万という事例を学習させなければならないのです。それだけのデータを準備する唯一の方法は、それらを一からつくるのではなく、日常のデータから抽出することでした。例えばAmazon、Google、Baidu、あるいはMicrosoftといった会社は、検索時に大量のデータを蓄積し、活用しています。
こうしてディープラーニング、GPU、ビッグデータという三つのテクノロジーが出そろったことで、本当に機能するAIが実現可能となったたわけです。

 

AIと人間の知能の違いを理解する

Googleの「AlphaGo」は世界で最も優秀な棋士に勝ちました。ビッグデータを使い、GPUで走らせて、深いニューラルネットを持ったAIがクリエーティブな手を打つことで、人間を負かすことができたのです。
人工知能に対してはいろいろな偏見がありますが、こういう知能は非常に興味深いといえます。例えば、電子計算機は計算に関しては皆さんよりスマート(賢い)です。GPSはあなたよりも空間のナビゲーションに関してはスマートです。そこで、こうした領域に人間よりもスマートなAIを利用するわけです。

例えば、自動車にAIを搭載したとしましょう。AIは人間と違って、気が散ったりしません。「家のキッチンの火を消してきたかな」、あるいは「大学で別の専攻を取ればよかったな」といったことを運転中に考えたりはしません。そこで、AIが搭載された自動車を販売する際の宣伝文句は「意識がない」ということになります。その方が、いいからです。

私たちは知能を一次元な存在で、直線的に良くなっていくと考えがちです。例えば、動物で一番IQが低いのはマウスで、チンパンジーはもう少し高くて、人間が一番高い。そして人間の中でもIQの低い人、平均的な人、天才的な人がいる。しかし、これは知能に関する間違った見方です。

私たちの頭脳や知性は、何十あるいは何百種類もの思考が組み合わさった複雑なものです。例えば、人間の知能は演繹的な推論や感情的知性、長期的な記憶など、いろいろな種類の思考が組み合わさっています。それは、どちらかといえばシンフォニーのようなもので、いろいろな楽器が音を奏でているようなものです。

動物の場合も異なるシンフォニーを持っています。私たちと同じような楽器を奏でる動物もいれば、特定の領域においては人間よりも長じた能力を発揮する動物もいます。例えば、リスは何年も前にナッツを埋めた場所を記憶することができ、人よりも優れた記憶能力を持っています。
多くのAIは、こうした複数の思考能力を高めたものです。つまり、重要なことは人間とは違う思考を持っているということです。ここにコペルニクス的な革命があると思います。

私たちは、つい人間の知能は汎用的なものだと思い込んでいます。つまり、私たちの知能は、周辺にある知能よりも常に高いと考えているのです。そして、AIも1種類の知能しかないと思っています。しかし実際には、多様な頭脳や知能をつくることができるのです。

こういったさまざまな種類の知能をつくっていくことで、私たち人間の思考が中心にあるのではなく、辺縁にあることが分かってくるでしょう。
これからのAIには私たちとは異質の知能として、人間と違う考え方をしてもらうことで、新しいイノベーションや経済圏をつくっていくでしょう。

 

AIは第2の産業革命を起こす

AIの二つ目のメリットは、われわれの社会に“第2の産業革命”を起こしてくれることです。“第1の産業革命”は約150年に生まれた「人工的な動力」でした。
農耕社会では、人間や動物の筋力、あるいは自然の力を使うことでさまざまなものを生産してきました。人間や動物の力は弱い上に生産体制が限られ、巨大なものを生産するためには非常にゆっくりとしたプロセスが必要だったのです。

そこで私たちは、蒸気や電気、化石燃料を使うことで「人工動力」をつくりました。その結果、スイッチ一つで250馬力もの速さの車を動かすことができるようになりました。さらには高層ビルを建て、道路や鉄道、工場を建設し、そして冷蔵庫やテレビをつくったわけです。こうした一つ一つの発展が何百万倍も積み重なることで産業革命が起こり、私たちの生活を一変させました。

第1の産業革命の結果、全ての家庭や住宅や農場に電気が通じました。自分で電気を生産する必要はなく、コンセントから得られるようになったのです。つまり、電気がコモディティー化したことが、イノベーションの源泉となりました。

例えば、あなたが農家であれば、これまでの手動式ポンプに電気を加えることで「電気式ポンプ」を生み出せるようになりました。何らかの手動式のものに人工動力を加えることで、自動化されたものができていくのです。

第2の産業革命は、この電気ポンプをさらに進化させて、AIを加えます。そうするとスマートポンプができるでしょう。先ほど、自動車は250馬力とお話ししましたが、それに対して今回はAIを加えることで「250頭脳」と表すことができるかもしれません。この250の知能と馬力を足したものが「自動運転車」です。つまり、第1の産業革命と第2の産業革命が組み合わさったのです。

今後、新たに生まれるスタートアップ企業のビジネスモデルを表す数式はシンプルでしょう。それは、何かXを選んで、それにAIを加える「X+AI」という数式になるからです。

例えば、靴や椅子にAIを加えるとどうなるか考えてみてください。あるいはタクシーにAIを加えたらどうなるでしょうか。Uberになるかもしれません。これをさまざまな分野で繰り返し行えば、どれほど大きな効果があるかがお分かりいただけると思います。

 

未来はAIと人間が共同作業を行う

AIをボディーに搭載したものがロボットです。これまでの旧式ロボットが工場で使われる場合は、その周りにケージが作られました。ロボットがあまりに愚鈍でセンサーもないため、人を感知することもできず殺傷してしまう危険性があったためです。しかしAIが搭載されたスマートな産業ロボットは、人間を感知することができ、傷つけないように配慮します。

さらに重要なのはプログラミングをしなくても、スマートロボットには「こういう仕事をやってほしい」と見せれば、それをまねしてくれる能力があるということです。さらに、正しく実行できるまで自律的に学習してくれます。

こういったスマートなロボットは、人と協力することができます。これが重要な点です。それによって、私たちの仕事の定義も変わるでしょう。私たちの作業の多くがなくなると同時に、ロボットが新たな職をつくってくれるのです。

ロボットが私たちから奪う仕事というのは、効率性が重要となる仕事です。効率性はロボットの得意分野であり、人間は得意でも好きでもありません。一方で、私たちが得意な仕事とは効率性が重要でない仕事で、まさにイノベーションに関わるものです。
というのもイノベーションは非常に非効率な作業だからです。たくさんの失敗がなければ、イノベーションは実現できません。芸術やアート、人間関係も非効率なものです。

世界的なチェスのチャンピオンだったガルリ・カスパロフは、AIが搭載されたスーパーコンピューターに試合で敗れました。ただ彼は、もし自分がAIと同様に、リアルタイムでチェスの過去の打ち手のデータ全てにアクセスできていれば、勝てたはずだと気付きました。そこで彼はAIと人間が一緒にチェスをするという新しいリーグを立ち上げました。

そこではAIを相手に人間が自力でプレーしてもいいし、AIと協力してプレーすることもできます。彼はこうしたAIと人間が協力するチームを「ケンタウルス」と呼びました。現在、世界で一番のチェスプレーヤーはAIでもなければ人間でもありません。それは人間にAIをプラスしたケンタウルスです。

このケンタウルスが、今後のモデルとなるでしょう。ベストな医者は、人間の医師プラスAIです。つまり、ロボットと隣り合わせで人間が作業をするということです。ロボットと人間の知性は補完関係にあり、ロボットと協力することはどちらか一方で行うことよりも、さらに良い結果を生むのです。
これが「COGNIFYING」された世界です。

※後編につづく
こちらアドタイでも対談を読めます!
 
また、本イベントの番外編レポートはcotasで読めます。
企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

プロフィール

  • Kevin kelly pr
    KEVIN KELLY
    WIRED誌 Senior Maverick

    ワイアード創刊編集長。1952年生まれ。著述家、編集者。84〜90年にスチュアート・ブラントと共に伝説の雑誌ホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年には雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、ウォールストリート・ジャーナルなどで執筆する他、WIRED誌のSenior Maverickも務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド社)、『「複雑系」を超えて』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ