Dentsu Design Talk #85

ケヴィン・ケリー「未来を決める12の法則」(後編)

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    KEVIN KELLY
    WIRED誌 Senior Maverick

米国『WIRED』誌の創刊編集長であり、テクノロジー界の思想を牽引するケヴィン・ケリー氏の新刊『〈インターネット〉の次に来るもの~未来を決める12の法則』の翻訳版が7月下旬、日本で発売された。電通デザイントークでは、その出版記念講演として、ケリー氏から30年先の未来に起こる重大な変化の中から三つのトレンドを解説してもらった。今回は、その後編をお届けする。

 

インタラクションの鍵はVRにある

30年先の未来を予測するための、二つ目のトレンドは「INTERACITING」(インタラクティング・相互作用する)です。
未来は、さまざまなモノにインタラクションが期待されるようになります。そして、インタラクティブであればあるほどパワフルであり、インタラクションできないものはまるで壊れているかのように扱われていくでしょう。

私はスティーブン・スピルバーグ氏が監督した映画『マイノリティ・リポート』の中で描かれた未来のコンピューティングを考案する手伝いをしました。映画の中で主人公は、指だけではなく体全体を使い、まるでダンスをしているかのように、さまざまなデバイスとインタラクションします。

この映画からも分かるように、インタラクションにおいて重要なテクノロジーは「バーチャルリアリティー」(VR)です。VRはもともとジャロン・ラニアーによって1980年代初頭に開発されましたが、その装置を開発するために多額の費用が掛かったため、長く普及しませんでした。そこに、スマートフォンが到来したのです。スマートフォンに搭載されている加速度センサーやスクリーン、ビデオプロセッサーといったテクノロジーはVRに使うことができます。

VRは、いくつかの種類に分けることができます。「没入型のVR」であれば、ゴーグルを着けることで、あたかも自分が別の場所にいるように感じることができます。例えば、部屋の中でゴーグルを着けると、初めはVRの世界でも同じ部屋にいるのですが、突然床がなくなり、崖の上に自分が立っているといった演出ができます。自分の脳のある部分は部屋の中にいると知覚しているため崖から落ちることはないと分かっていても、恐怖心から体は震え始めます。

「ミックス・リアリティー」(複合現実/MR)であれば、ゴーグルなどをかけることで、現実の世界の中に、バーチャルなモノを重ねて見えるようにできます。これは二つの世界を混ぜることで、バーチャルなモノをまるで本物のように感じさせる効果があります。

日本でも「ポケモンGO」がローンチされたと聞きました。すでに楽しんでいる人は、MRのパワーを感じていただけたかと思います。ゴーグルを使わずに携帯電話だけですが、それでも物理的な世界とデジタルな世界を結び付けることができたわけです。ちなみに私は皆さんより1週間先に始めていたわけですけど、まだレベル5です(笑)。

 

VRによって人間は何を得るのか?

私たちがVRによって未来で手に入れるものは、新たなインターネットと呼べるものでしょう。これまでのインターネットは“知識のインターネット”でした。ニュースを見たり、Wikipediaで調べたり、インターネット上にはドキュメントや画像、動画などの情報が存在しています。
一方で、VRによる経験はこれよりも深いものです。必ずしも考える対象ではなく、感じることができる“経験のインターネット”と呼べるものでしょう。

未来では“経験”が新たな通貨となり得るのです。私たちは誰かの経験を買ったり、あるいは経験をダウンロードして共有できたりするようになるのです。そこでやりとりされるのはスリル満点の経験だけではなく、例えば病気で寝ているときにバーチャルで誰かに付き添ってもらうといったことも予測されます。いわば、“経験の経済圏”がインターネット上に出来上がるということです。

VRから得られる情報は、50%以上が視覚以外の感覚からもたらされます。例えば、手にグラブを着けることで、触覚からも情報を得ることができるようになります。優れたVRデバイスは、ゴーグルだけではなく、グラブなどを装着したものにもなるでしょう。現在は、この領域がまだ欠落しており、完全な経験を提供するために、今後は重要になっていくはずです。

さらにいえば、バーチャルな世界で最も重要で不可欠な体験は、モノを見ることではく“人と遭遇すること”です。私も実際にVRで人と会ったのですが、これは本当にワクワクする体験でした。
VRであっても、目の前にいる人は本当にリアルで実在感があり、髪の毛やまつげが動いているのが見え、衣服の繊維の一つ一つまでを詳細に眺めることができるほどの精巧さです。これはSkypeやFaceTimeを使って誰かと顔を合わせる体験とは全く異なります。なぜ違うのかを説明すると、まさにその人がそこに存在するかのように感じられるからです。

仕事やプライベートでコミュニケーションするときも、こうした新しいテクノロジーを使えば素晴らしい経験になるはずです。そして、VRはソーシャルメディアの中でも最もソーシャルな社交の場となるでしょう。

 

私たちは「TRACKING」(追跡)される

3つ目のトレンドは「TRACKING(追跡)」です。
これは、人々の行動を“データとして捉える”ということです。現在でさえ、私たちの生活は、私たちが思っている以上に監視され、モニタリングされ、そしてデジタル化されています。
未来では、それがさらに進み、基本的に私たちの生活のほとんどがトラッキングされるようになるでしょう。そして、VRの世界は最もトラッキングされやすい環境だといえます。というのも、VR上に自分の分身としてのアバターをつくるためには、リアルな世界での自分の表情、手や指の動きといった全てをトラッキングしてもらう必要があるからです。

現代においても、私たちは自らをトラッキングしています。それは、健康という医学的な理由からです。すでにFitbitなどのさまざまなフィットネスデバイスが存在し、テクノロジーによって心拍数や脳波、皮膚の反応を記録できるようになりました。

未来では、生涯にわたって常にトラッキングすることが望ましいということになるかもしれません。現在のように1年に1回、健康診断のために病院に行くのではなく、毎日測定を繰り返すようにするのです。予防に効果的なだけでなく、病気になったときにもそのデータを元に治療できます。医療領域のプロトタイプは既に開発されているため、実現はそう遠くないはずです。

未来では、自分で自分をトラッキングするだけでなく、政府や企業も私たちをトラッキングするでしょう。さらには、Facebookのタグ付けなどによって、友人もトラッキングできるようになるかもしれません。そこは相互にトラッキングし合う世界です。

この状況の恐ろしい点は、“彼らは私について知っているけれど、私は彼らを知らない”という状況が起こり得るということです。自分では、どのような情報がトラッキングされているのかも分からないし、それが正確な情報かさえ分かりません。もし不正確だったとしても、それを訂正できないし、その情報が利用されたときに彼らに説明責任を求めることもできません。
つまり、情報の“非対称”という状況が起こるわけです。これは非常に不快です。

では、トラッキングにどのようなルールが必要でしょうか。
私が提案しているのは「コベイランス」(相互監視)です。つまり、情報を対称にするのです。誰かがトラッキングしてきたら、自分もその人をトラッキングできるようにするべきです。互いに監視し合うことで、不正な利用を防ぐのです。
これに関連して、もう一つ重要なポイントがあります。なぜ、われわれはお互いをトラッキングしているのかといえば、パーソナル化された待遇を求めているからです。

政府や企業から個別にパーソナライズされたサービスを受けたいという場合には、自分の情報を公開しなければなりません。友人が自分に特別に接してくれるのは、自分がオープンになることで友人も自分のことを知ってくれるからです。これと同様に、政府や企業にも同じことを求めるのであれば、やはり情報を公開していくしかないのです。

その一方で、プライバシーが必要な場合には、その選択肢が与えられなければならないでしょう。ただ、プライバシーを優先した場合は、パーソナライズされたサービスが受けられないということでもあります。

 

何かを始めるのに、今ほどいいタイミングはない

最後に、未来全般についてお話ししたいと思います。
未来について予測すると、「そんなことは起きるわけがない」と信じられないこともあるかもしれません。

もしタイムマインを使って30年前に戻ることができ、当時の人たちに未来について説明したとします。未来では、世界中の全ての街の地図にアクセスでき、リアルタイムに株価がチェックでき、Wikipediaでさまざまな情報を調べられるということを説明しても、なかなか信じてもらえないかもしれません。さらには、そのような情報が無償で提供されているとすれば、誰も信じないでしょう。

私が30年以上にわたって、インターネットに関わってきて学んだことは、“起こり得ないと思ったことも信じるべきだ”ということです。

コンピューターが小型化されることは30年前にも分かっていました。ただ、それが本当に小型化されて、靴や椅子、あるいはドアノブなど、あらゆるモノに搭載されるようになると予測したら、誰もがクレージーだと言ったのです。「なぜドアノブにコンピューターを入れる必要があるのか、意味がないじゃないか」と。

ところが、今ホテルに行ってみてください。コンピューターが搭載されたドアはいくらでもあり、それによって部屋のセキュリティーが守られています。つまり、今は不可能だと思うことも、柔軟性を持って信じなければいけないのです。

そこで、強調したいのは“今ほど新しいモノをつくるために適したタイミングはない”ということです。それは歴史的に見ても分かります。なぜなら、さまざまなモノをつくるためのツールが安くなり、入手しやすくなっているのです。

AIの世界はまだ始まりにすぎないため、何かにAIを付けるだけでもいいのです。まだ、その世界の専門家は少なく、ここにいる誰もがAIやVRのエキスパートになれるのです。
2036年から振り返れば、2016年に生きていたらどんなに良かったかと思うことでしょう。さまざまなチャンスがあり、簡単に実現できるのにまだ存在していないモノがたくさんあるからです。

未来で“支配的な存在となるプロダクト”は、まだ発明さえされていません。この会場の中のどなたかが発明しなければならないのです。重要なのは、決して皆さんの誰もが、後れを取っているわけではないということです。何かを始めるために、遅過ぎるということはないのです。

ご清聴ありがとうございました。

<了>

 

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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

プロフィール

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    KEVIN KELLY
    WIRED誌 Senior Maverick

    ワイアード創刊編集長。1952年生まれ。著述家、編集者。84〜90年にスチュアート・ブラントと共に伝説の雑誌ホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年には雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、ウォールストリート・ジャーナルなどで執筆する他、WIRED誌のSenior Maverickも務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド社)、『「複雑系」を超えて』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。

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