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Experience Driven ShowcaseNo.76

光の特性を使い切るデザイン:岡安泉(前編)

2016/08/29

「会いたい人に、会いに行く!」第11弾は、照明デザイナーとして多くの建築家とタッグを組み、光のアートワークでも魅力的な作品を発信し続ける岡安泉さんに、電通イベント&スペース・デザイン局の藤田卓也さんが会いました。空間プロデュースとしては建築の脇役のように扱われがちな照明ですが、光のデザインは人間の感情に深く関与します。そこに迫る岡安さんの考え方、制作論を伺います。

取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左より)岡安氏、藤田氏

 

照明の地位は低過ぎる? 照明主役の提案をすること

藤田:僕はイベントやスペース開発を扱うプロデュースセクションにいまして、普通イメージされる「広告」より、もうちょっと実物に近かったり、プロジェクトに近いものをやっています。自分たちがつくった空間やイベントに、世の中の人がリアルに接する際には照明はとても重要で、繊細なデザインが必要だと思っています。でも、照明って予算を真っ先に切られがちじゃないですか。

岡安:それがすごく嫌ですね。照明の場合、常に分かりやすい価値が提供できるかというと、そうでもないんですよ。普通の照明も重要じゃないですか。それを伝えるのがとても難しい。僕の場合は、自分の立場を守るためですが、「これを外したらもうどうにもならない」という提案に持っていっちゃう(笑)。照明が主役ぐらいの状態まで無理やり持っていってしまう場合が多いです。

絶対、他の人に触れない、「この人に頼んでおかないとやばい」という状況まで持っていくように考えています。それは意識の中では建築と同じぐらい、同じというと失礼なんだけれど、建築と同等のバリューまでデザインを上げてしまうという感覚ですね。

 

メーカーを創業したつもりが、いつの間にか照明デザイナーになっていた

藤田:では、早い段階から声をかけてもらわないと無理ですね。

岡安:その方がアイデアが残りますよね。後の方で声がかかってくる案件は、大概予算を削られて終わっちゃうし。やれることも限界が出てくる。思い切ったことをやろうという提案をして、いいねとなっても「もうお金がないから」という話になるので。

藤田:中村拓志さんや青木淳さんら、名だたる建築家とお仕事をされていますが、声のかかり方によって建築家との仕事の仕方は違うのですか。

東急プラザ表参道原宿
中村拓志/NAP建築設計事務所+竹中工務店
©Koji fujiiNacasa and Partners Inc.
 

岡安:ケース・バイ・ケースですね。僕の仕事の場合、エンジニアリングの側面もあるので、他の照明メーカーに任せて進んでいた案件を、最後の最後になって「やっぱりやばい」と、急に「入って助けてくれ」となる話もあるので。

藤田:照明デザイナーになられる前に、照明器具のエンジニアだったんですよね。そこから照明デザイナーになろうと切り替えていった契機は何かあるのですか。

岡安:契機らしい契機はないです。もともと農林水産省の外郭団体で機械工学をやっていて、照明メーカーを創業しようという話に何となく乗っかって、器具を設計していって、そのうちいろんなメーカーの名刺を持たされ始めるんですよ。

藤田:えーっ。なんか物騒な話ですね(笑)。

岡安:いろんな会社の名刺を持って打ち合わせに来てくれという話になって。そうするともちろん、いろんな人と知り合うじゃないですか。そのうち建築家の人たちの間で、以前メーカーに頼んで出てきたあの人が、またあそこにいると(笑)。どこのメーカーに頼んでも僕がいる、みたいなことになって(笑)。「あれ、同じ人だよな」「だったらあの人に相談した方が早くないか? 」となっていった。

そのころ僕としては、創業したての後発メーカーだったので、小さなメーカーがどう食っていこうかというのを真面目に考えると、多少デザイン的なところに寄っていかないと3~4人で始めたような会社が戦えるはずもない。特化させるために、頼まれた仕事を終えてから、同世代の建築家にデザイン提供や技術提供をやっていたのです。

無償で建築家の永山祐子さんや石上純也さんなどの相談に乗って、実際に一緒に形にして、みたいなことをずっとやっていくうちに、照明の世界へ入って3~4年ぐらいたったころから、デザインを依頼したいという話がすごく来るようになった。とはいえ自分たちはメーカーを創業したんだし、メーカーとして会社をでかくした方がお金持ちになれそうだなと思って(笑)、なかなかやめる踏ん切りをつけずにきてしまいました。

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永山祐子建築設計
©Daici Ano

照明は強烈にマスプロダクト化してるから、それを並べるだけじゃダメ

岡安:8年ほど前ですが、大御所といわれるような建築家の人たちから、ドカドカッと一気に巨大な案件が来ちゃったので、これは片手間ではできないなという話でメーカーはやめちゃったんですよ。

藤田:なるほど。会社として「デザインの提供」と言っているのは、もちろん照明視点からのものですよね。

岡安:そうです。結局、一つ一つ特別なものをちゃんとつくってあげたいと思ったときに、照明って強烈にマスプロダクト化しているから、それを並べ替えるだけで果たして特別なものが提供できるのか、思い悩むわけですよね。わざわざ頼んでくれたのに、家電量販店で売っているようなものを並べるだけで大丈夫なのかと。お金がないなりの特別なものはどうやったらつくれるか、という仕組みづくりをずっとしていた。

藤田:つくり方からつくるという立ち位置は強みだし、特徴にもなりますよね。

岡安:楽ですよね、いろいろ考えるのが。

藤田:憧れます。つくり方からつくれる人が一番強いと思うから。

岡安:僕は、一番強い人は、一番金持ちにならなきゃいけないと思うわけ(笑)。僕は金持ちになっていないから、そんなにすごいことやっているんじゃないと思うけど。

 

僕の照明デザインは、既に在るものを違う価値に変換する「利用工学」

藤田:エンジニアからデザイナーに舵を切っていって、今の仕事の面白さはどういうところにありますか?

岡安:僕の場合のエンジニアって、製品を発明しちゃうようなエンジニアじゃないので。利用工学ですよね、既にあるものを利用して形にしていくというものだから。エンジニアリングというほどエンジニアリングじゃなくて、単純にものづくりの経緯が分かっている程度の話なのかもしれません。

ちょっと前まで遡ると、反射鏡の設計をできる人はメーカーにもあまりいなかったので、反射鏡がつくれるしレンズも設計できるのは自分のアドバンテージだと思っていたけど、LEDになったらあまり反射鏡の設計は必要ない。

そうすると、光の特性を知っているということが一つの価値にはなるかもしれません。今の僕は人が想像できていない何かをつくれちゃうような場所にはいるんですよ。今の立ち位置にいると、比較的新しい情報が入りやすい。技術的な話がよく入りやすい場所にいるし、デザイン業界のこともよく聞こえてくる場所にいる。だから比較的、知識とか経験が形に結びつきやすいという意味で、デザインとエンジニアリングが同時にそばにあるというのは良いことだとは思います。

藤田:あえてLEDじゃない照明を使うという手法も、ありますよね。

岡安:あります。でも、LEDを使いこなすことは大事です。僕はこの10年来、ある価値を照明が生み損なったとするならば、「蛍光灯の時代に、蛍光灯を正しくデザインしきれなかった」からだと思っている。

蛍光灯と同時期に、放電灯という、街路灯に使うようなものも出てくるんですけれど、そういうものがうまくデザインされていないし、デザインしたものが人間の生活に落ちてきていない。白熱電球とかハロゲン電球はデザインプロダクトとしても普及したのに、蛍光灯とか放電灯は、ちゃんとデザインされてこなかった。

僕はLEDが2005~06年に出始めたときから、とにかくLEDを使えるものにしなきゃと思っていた。今でこそLEDも性能が上がって普通に使えるようになったんですが、使えなかったときから、必死にろくでもない性能のLEDを身近なものに変えるという試みをやっていたのです。


※後編につづく