買収したイギリスの会社で働いてみて #03

ロンドン通信:ダイバーシティーの実際

  • Koyanagi takashi pr
    小柳 孝
    株式会社電通 ロンドン事務所 所長

先日5月のBank Holiday(イギリスの休日、毎年5月には第一、最終月曜日と2回あります)を利用してベルギー、オランダを車で回ってみました。フランスのカレーでユーロトンネルの電車から車ごと降りて、ベルギーに向けて高速道路を走っていました。国境を越えるときに「ほら、今フランスからベルギーに入ったよ」と小学生2年生の息子に教えたところ、「違う国に入るのに何でこんなに簡単なの? パスポートは見せなくていいの?」と、当たり前と言えば当たり前の質問を投げかけられました。「うーん、ヨーロッパはそういうふうにできてるんだよ」と、分かったような分からないような回答をしてしまい、自分も今でこそ驚かなくなったけど、この国境越えの感覚は島国に生まれ育った人間にはちょっと不思議な感覚です。

グローバルネットワークで働くということ

旧・英イージスの時代から、電通イージス・ネットワーク(Dentsu Aegis Network、以降DAN)はロンドンに本社機能を構えており、電通による買収以前は当地ロンドン証券取引所に上場していました。その機能をほぼ引き継ぐ形でDANが組成されているので、いわゆる総務・人事・経理の本社機能はロンドンにあり、CEOもCFOもロンドンにいます。

一方で、DAN傘下の各エージェンシーブランドを見てみると、必ずしもそうではない場合もあります。Vizeum はイノベーティブな提案力で、2014年にはRECMAの「最も成長の速いエージェンシー」に選ばれましたが、President(いわゆる社長)のThomas Le Thierryはフランス人でパリ在住で、そこから世界40カ国以上のネットワークをリードしています。デジタルエージェンシーのIsobarのトップのJean Linは台湾出身で今は上海在住、そこから同様にグローバルネットワークをリードしています。

このように、DANはロンドンを中心としてはいますが、エージェンシーのリーダーや、グローバルチームと呼ばれるマルチマーケットの仕事をするメンバーたちは、必ずしもロンドンに集まっているわけではありません。パリや上海、そしてニューヨークやシンガポールといった、世界中に存在するいくつかのハブで仕事をしています。実際に広告市場の規模は米国や中国が大きいため、この世界中に「網を張っている」感覚は、ロンドン一極集中では得がたいのではないでしょうか。

言うまでもないことですが、さまざまなテクノロジーのおかげで、距離を感じない働き方が可能になっています。ただ、そうはいってもやはり世界は広いし、ロンドンにいるとアジアや米国で何が起こっているのか、なかなか分かりづらい(逆もまたしかり)ところがあります。DANでは、毎年3月に全世界から300人超の経営層を集めてカンファレンスを実施します。足掛け4日間に及ぶカンファレンスの場は、トップからのメッセージ発信や各国の先進事例のシェアの場であると同時に、世界中で仕事をするメンバーたちが文字通り「リアル」に顔を合わせ、話し、交流を深める場と言う意味合いもあります。やはり年に1回は顔を合わせ、なじみになっておくことが、その後の仕事のやりやすさにつながっていくのは全世界で共通です。

グローバル

人のダイバーシティーがもたらすベネフィット

ロンドンに来て驚いたことの一つは、地下鉄に乗ったら英語以外のさまざまな言語が耳に入ってくることです。フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語(以上、全て推測ですが)など、本当にこの都市がダイバーシファイドされた街だと実感します。

DANのオフィスも、特にグローバルチームは、非常にダイバーシファイドされています。昨今話題になっていますが、現状ではEU域内での人の移動(異動)が、制度的にも地理的にも比較的容易であること、そして欧州の人たちが外国語というより第二言語として英語を駆使していることが、当たり前ですが深く寄与しています。加えて、前回のDANにおける人材のモビリティーの考え方が、地域をまたがった移動を行いやすくしているのだと思います。

僕の上司はオランダ人で、週に3日オランダからロンドンに通勤(?)しています。目の前に座っている同僚は、一目で分かる英系の名前を持っていますがイギリスとイタリア両方のパスポートを持っていて、オフィスではイタリアなまりの完璧な英語を話しつつ、ピザ屋ではイタリア語で注文します。そのような人種・国籍の多様性はもとより、女性(ちなみにDAN UKのCEOは女性)や、LGBTの人たちが活躍しているなど、ダイバーシティーは当たり前のこととして根付いています。

ダイバーシティーがもたらすベネフィットについて考えてみましょう。グローバルチームが各国のDANオフィスと連携する場合に、グローバルチーム側が英国人のみだと、どうしても各国の事情の理解が不足してしまい、関係も無意識のうちにぎすぎすしたものになってしまうことも起こり得ます。そのためダイバーシファイドされたハブチームが本社と各国オフィスをマネージすることで、円滑なコミュニケーションが実現できているのです。さらに、クライアントが国・地域にまたがったサービスを提供している場合、DANのサービスも同様に一国のみの適用ではすまなくなります。その場合、ダイバーシファイドされたチームが、簡単なレポートフォーマットなど一つとっても、誰にも理解できるシンプルかつユニバーサルな分かりやすいソリューションを追求することで、均質なサービスの提供を可能にしています。

逆にダイバーシティーのネガティブな点はないのでしょうか? 顔を合わせて一つのオフィスで働く分には、ダイバーシティーによる「衝突」みたいなものはほとんど感じられません。一方で、国をまたがったコミュニケーションの場合、英語が母国語である人とない人の間では、多少のストレスを感じる場面もあるようです。日本人だけかと思っていましたが、ドイツ人はいきなり名前を呼び捨てで呼ばれることに違和感を覚えるとか、そういうちょっとした文化的な違いはどこにでもあるので、皆注意を払っています。僕が「名前は呼び捨てでいいよ」といっても、メールではTakashi-sanとわざわざ「さん」付けしてくれたり、そういうちょっとした気遣いは重要だと感じています(当たり前かもしれませんが)。

振り返って日本の電通を考えてみると、どうしても言語の問題があるのでDANレベルでの人種・国籍のダイバーシティーを実現するのはなかなか難しいでしょう。一方で、世の中の男女比からすると明らかに少ない女性の活躍がもっともっと増えたり、LGBTの人だって堂々と働けるようになればいいと思います。ただこれも、僕が入社したころに比べれば大分変わってきていて、女性のマネジメント層も確実に増えています。より多くのバックグラウンドを持った人たちが集まることで、日本でもさらなるイノベーションが生まれてくるんじゃないかな、と思っています。

最後に一つご紹介を。先日DAN UKとアイルランドでは、LGBTの社員を対象とした社内ネットワーク“&PROUD”を立ち上げました。&PROUDでは様々な社内外の啓蒙活動を通じて、よりダイバーシファイドされた社会や職場環境の実現に寄与していきます。

&PROUD

&PROUDの立ち上げ発表の日、DAN UKオフィスのエントランスは七色の風船でデコレートされた。

プロフィール

  • Koyanagi takashi pr
    小柳 孝
    株式会社電通 ロンドン事務所 所長

    1994年電通入社。新聞局書籍部(当時)に配属され、新聞1面のサンヤツ(3段八ツ割り)広告を扱うことから広告人生をスタート。2002年から海外メディア作業に従事するようになり、2006年から約3年間インドに駐在、当地でメディア事業開発に従事。帰国後、2011年の1年間はスイスのIMDビジネススクールで学ぶ。2012年からはイージス買収後のビジネスシナジーのプロジェクトメンバーに。2015年4月から現職。

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