アタマの体操 #05

遊び心を持って「足し引き」する

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

「SNOW」「クルトガ」「Simeji」「メルカリ」「はじめしゃちょー」「comico」「双子コーデ」「LINEミュージック」「Snapchat」「ツイキャス」
皆さんはこれらが何だか分かりますか? もし全部答えられるとしたら、相当の若者トレンド通といえます。

実はこれ、日本経済新聞社が7月29日に発表した「U-19ヒットランキング」のベスト10なんです。15~19歳1000人にアンケート調査し、その支持率を分析。オトナにはなじみのないものばかりがリストアップされ、ちょっと刺激的です。この年代の子どもを持つ親の皆さんであれば、なおさら興味深いのではないでしょうか。

SNSやスマホが普及した今、的確な情報が簡単にかつ素早く得られる半面、自分とは違う興味や価値観、世代の情報がややもすると入ってこなくなる。閉ざされた世界の情報通であっても、一歩外に出ると無知だったりする。自分の心地よい世界だけにおぼれていると、アタマや感覚がカチカチに固まってしまいます。

アイデアを考える上で、大切なのは自分の中にこびりついている常識や固定観念を打ち破ることです。自分とは違う興味や価値観、世代の人たちやその話題に触れることでいつも刺激を受けておくとことは、アタマのメンテナンスに最適です。まさに、これもアタマの体操。冒頭の10のワードが気になったら、そのまま流してしまわず、ぜひ調べてみてはどうでしょう。

楽しみは、アタマのスイッチがオンに入った後の変化

自分とは違う世代の人たちと接して刺激を受けられる場は、絶好の機会です。この夏、名古屋大学の学生さんたちと一緒にワークショップ型の授業を行いましたが、僕にとってはある意味アタマのトレーニングの場となりました。10代20代の学生さんの思考、複数でのディスカッション、そこで生まれた発想や発言は良いも悪いもどれも新鮮で、いろいろと考えさせられアタマを柔らかくしてくれます。

この授業、同大学の栗本英和教授からお声掛けいただき、「リーダーシップ人材育成」の一環として行っています。リーダーには不可欠なコミュニケーション能力の習得とその実践を目的に、「名古屋大学の魅力を発信しよう」という課題でCMの企画制作にチャレンジでしてもらっているのです。今年で7年目、夏の恒例行事として続いています。

毎年、最も楽しみにしているのは、学生さんのアタマのスイッチがオンに入った後の変化です。若さゆえでしょうか、その伸び代は大きく、教室の雰囲気も、アイデアも、発表する内容も全てが一転します。

今年も4、5名のグループが六つ、総勢30人程度が受講してくれました。まずは「名古屋大学の魅力」を個々人で、そしてグループディスカッションで見つけていきます。「駅に近い」「キャンパスが広い」「国際色豊か」「設備が豊富」「教授との距離が近い」「自然に恵まれている」…というような言葉が並びました。

ここまでは例年通り、毎回想定内で誰もがすぐ思いつく答えしか出てきません。「へぇ~」とか「そうなんだ!」という驚きや面白みを感じさせるような答えが出てこなければ、相手に名古屋大学の魅力が伝わらない。そこで、学生さんを奮い立たせアタマの切り替えを促します。

「本当に心の底から自分がそれを魅力だと思っている? もし学外の身近な友達にそう話したら興味持ってもらえるのかなぁ? 当たり障りのない優等生の答えで流そうとしてない? せっかくの機会なんだから、マジで考えてみようよ!」

試験期間や夏休みにかかっているこの授業は、多くは自ら志願し参加しています。そういう学生さんたちが集まっているということもあり、こうしたメッセージが効き、まずはハッと目が覚めるのです。畳み掛けるように「自分が経験したり、実感したりした具体的なエピソードを思い出して、そこから魅力を考えてみるといいよ」と続けます。

そうすると、栗本教授も驚くほど学生さんの顔つきが変わり、発想や会話が活発になり、出てくる答えも変わってくる。「隣の席はアフガニスタン人」「入学すると、先生ではなく『さん』と呼んでとメールが来る」「卒業式では名大産のお酒が振る舞われる」…。

どれも「なにそれ、面白そう」となり、話の続きが聞きたくなります。こうした学生さんたちだけが知っていたり、体験したりした具体的なエピソードから名古屋大学の魅力を掘り起こしていこうという考えが自然にわき出てくるようになるのです。

授業はこの後ストーリーを考え、2週間に渡ってグループでCMを制作し、最終的にはプレゼンテーションを行うという一連の流れで展開しています。

アイデア発想で大切なことは「自分ゴト化」

同様なことは、僕たちが普段仕事をしているときにもよくあります。チームで企画をする場面で、間違ってもないけれど、これといった驚きや面白みもない、当たり障りのないアイデアがずらりと並ぶ。どこかで見たことのあるような模範解答。つっこみどころもなければ、その先の話を深く聞いてみたいという興味もわきにくい。

そんなとき、学生さんと同じように問いかけ、後輩プランナーたちを鼓舞します。「そのアイデアは本当に自分で面白いと思っているの? もし身近な誰かに話したら面白がってくれると思う? まず自分で面白がらなきゃ、相手もそうならないよ」

授業だから、仕事だから、素の自分はあまり出さない。その方が冷静な思考や第三者的な判断ができる。そういうスタンスもありますし、そうした方がいい場面ももちろんあります。ただアイデアを考える場面では、真逆だと考えています。いかに「自分ゴト化」できるかが大切です。

自分をさらけ出すくらいの勢いで考える。そうすれば自然とアイデア発想のためのスイッチがオンになって、アタマが働き始める。これまで自ら経験したこと、実際に見聞きしたこと、そして今周りにあるモノやコト、情報の中からこれぞと思うものを見つけ出し、想像力をかき立てて、アイデアに昇華していきます。

こうした転換によって、実際に学生さんの例にもあったように、若いプランナーたちも見違えるように、面白いアイデアが出るようになります。それは荒削りだけど、磨きがいのあるものです。この変化こそが、僕にとっては刺激的なものになります。

自分とは異なる世代、あるいは違う価値観、興味を持つ人たちと接し、そうしたメッセージを投げかけることは、僕自身にとっての戒めであり、確認作業でもあります。その変化を見届けることで、自分のアタマも活性化させ、トレーニングになる。まさに「アタマの体操」にもなっているのです。

同名のタイトルで、5~10月までの6カ月間、毎月第4金曜日に、オンライン動画学習サービス「schoo WEB-campus」の授業を行っています。そこでは、電通のプランナー3人とアイデアを集中して出すトレーニングを大喜利風に大公開。合わせて、アタマの体操のひな型となる「発想法」や心構え、極意もお披露目しています。

毎回、20代30代の後輩プランナーが入れ代わり立ち代わり、駆け付けてくれます。僕自身にとっても、これがとても楽しみなこと。社内でもあまり接する機会がない人たちとセッションできることで、たくさん刺激をもらっています。バラエティー感のあるメンバーでやっていますので、そのあたりにもぜひご注目ください。

みんなで考え、話し、発信すれば、何かが変わるはず

先月8月26日に放送された4限目の授業では「もっと選挙に行きたくなる工夫」というお題でアイデア大喜利を行いました。7月に開催された参院選の投票率は55%弱、東京都知事選は60%弱でした。後者は平成に入ってから2番目に高い数字だったようですが、半数近くの都民が選挙に行かなかったというのも現実です。

オーストラリアでは1924年以降、投票率が90%を下回ったことはないといいます。義務投票制度が導入されていて、正当な理由なく投票しない場合には20オーストラリアドルの罰金が科せられることが主な要因です。

その一方で、オーストラリアの各投票所にはさまざまな屋台が並び、食べ物やスイーツが売られ、まるでお祭りのようなにぎわいがあります。中でも、オーストラリア版ホットドッグである「ソーセージ・サンガー」を食べるのが楽しみで投票に行くともいわれ、罰金だけではなく、その雰囲気づくりや動機づけに工夫がされています。ちなみに、東京のオーストラリア大使館でも、ソーセージ・サンガーは食べられるそうです。

日本でも商店街や個々の店舗で投票したら割引とか、一品サービスとか、新たな試みが小規模で始まっています。そうしたお店や団体を束ねて「センキョ割」というプラットフォームをつくり始めている企業もあるようです。

みんなでアタマを働かせ知恵を絞れば、選挙がもっと盛り上がる、投票率が上がるアイデアが生まれてくるに違いありません。すぐに実現されるのは難しいでしょうが、普段から考えてみる、アイデアを発想してみる、それを時々みんなで話してみる、そして発信してみることが広がっていけば、どこかで何かが動き始めると信じています。

それでは、今回のオンライン授業で生まれたアイデアをいくつか紹介しましょう。

投票したいけれど、選挙会場に行く時間が取れなくて…という人も多いはず。ネットで投票できれば便利だけど、まだまだセキュリティーに問題がありそう。お題には「選挙に行きたくなる」とあるけれど、要は投票率が上がればいいんでしょ!と考えて、日本独特のインフラに着目しました。

古くは酒屋の御用聞きに富山の薬売り、新しくは宅配便システム。どれもこの国ならではですが、こうした仕組みを使って社会的なソリューションや新たなビジネスの可能性がまだまだ広がりそうです。

Illustrated by Hirochika Horiuchi

多種多様な身の回りにあるものが、インターネットにつながり相互に情報のやりとりができるようになることをIoT(Internet of Things)と呼び、大いに注目されています。このアイデアもその一つといってもいいでしょう。良い見方をすれば、選挙に行くのを忘れないように告知してくれる投票券とも受け取れます。

でも、このアイデアの発想のもとはショッピング施設などによくある飲食店の呼び出しブザー。マーケティング上の考え方や概念からではなく、身近な体験から発想したものだからこそ、それ面白い!あるかも!と共感を促すアイデアになるのです。

周りを見渡せば、「足し引き」の発想はたくさんある

オンライン授業では、毎回アタマの体操のひな型となる「発想法」を紹介しています。これは僕が先輩たちから教わったこと、自分でそれにアレンジを加えたものなど、これまでの経験知を元に整理したものです。

前回までの「極端化」「部分転換」「変身」に続いて、今回は4つ目「足し引き」。理屈や筋道などが違っても遊び心を持って、カップリングする・グループにする・集団を分ける・スピンアウトさせる…寄せて集めてくっつける(=足し)、あるいは、分けて選んで引っこぬく(=引き)ことから発想していく方法です。

では、身の回りにあるもので「足し引き」から発想されたものって、どんなものがあるか探してみましょう。すでにあるものを読み解くのも、アイデア発想のためのトレーニングになります。普段から簡単にできる「アタマの体操」は、自分で見聞きしたものをそのまま流さず「これ、どんなアイデアから発想されたんだろう?」と自問自答してみることです。

商品開発にも、この発想法はよく使われています。話題商品・ヒット商品をよく見てみると、「足し引き」の発想が浮き彫りになります。

2015年のヒット商品に名を連ねたハイアールの「COTON(コトン)」。世界初のハンディー洗濯機といわれています。洗濯の中でも苦心するのが頑固な汚れのシミ。悩みの種ではあるけれど、日々の洗濯では二の次になってしまいがちな部分を引っこ抜いて、機能を特化した商品に仕立てたのです。プロのシミ抜きが自分でも手軽にできることと、洗練されたプロダクトデザインが相まって、ネットを中心に話題となりました。

同様に2016年上期の話題商品としてピックアップされた、シャープの空気清浄機「蚊取空清」はその名の通り、蚊も取れる機能付きです。蚊の好む色や機構を施すことで本体に集め、空気清浄機の吸引力で捕まえるということ。なぜ今まで思いつかなかったんだろうと首をかしげたくなるほどシンプルな足し算から生まれた発想。どんなふうに蚊が取れるのだろうか、その効力はどんな感じなのかが気になって実際に使ってみたくなります。

同じような発想で注目されているのが、ソニーの「LED電球スピーカー」。自宅にある照明器具の電球と交換するだけで、明かりと音を楽しめます。商業施設などでよく見かける天井のはめ込みスピーカーから音楽を聴くような体験が、自宅でも特別な工事なしで手軽に味わえる。それを電球とスピーカーをカップリングすることで実現しました。

テレビの世界でもこの発想を見つけることができます。前回の「変身」ではソフトバンクのお父さんの事例を紹介しましたが、今回の「足し引き」ではauの三太郎のCMが分かりやすい事例です。老若男女誰も知っている国民的な昔話「桃太郎」「浦島太郎」「金太郎」寄せて集めてくっつけました。

ドラマや映画では人気シリーズになると、登場人物がスピンオフした(引っこ抜いた)作品が展開されることがあります。人気映画「スター・ウォーズ」シリーズでも、過去スピンオフ作品が幾度となく製作されていますが、今年の年末にも「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」の公開が予定されており、話題を集めているのです。

このように、身の回りのあるものから読み解きをしてみることで日常的に「アタマの体操」ができます。ここにあげた事例以外にもたくさん見つけることができますので、試してみることをお勧めします。

生みの親は一人でも、育ての親はみんな

これまでのオンライン授業は、基本個人ワークで行いました。でも、実務において多くの場合は、複数の関与者と一緒に企画をつくり上げていきます。僕たちの仕事でも、チームを結成してアイデアを磨き上げていく。最終的に残るのはたった一つのプランです。一人で考え続けるよりも、多様な発想で組み上げていく方が骨太で強いものになります。

もちろん最初の原石を生むのは個人。それをチームで育てていく。生みの親はたった一人でも、育ての親はみんな。そんな感覚です。

そこで、今回(8月26日放送)は誰かのアイデアを元に、それを膨らます、肉付けする、変形させる…どんな方法でも構わないので重ねていくことにしました。スクーの学生の皆さんも、オンライン上にどんどん上がってくるアイデアにレスしていく。こちらのプランナーもかぶせていく。

そうすることで、アイデアが磨かれていくプロセスをリアルタイムに再現することにチャレンジしたのです。もちろん最終形にするところまではいきませんが、みんなの知恵でアイデアが膨らんでいく一端を実感できたのではないでしょうか。

このようにオンライン授業も回を重ねるごとに趣向を凝らしています。次回「schoo WEB-campus アタマの体操」5限目は、今週9月23日(金)19時から生放送。大喜利のお題は「歩きスマホをやめたくなる」アイデアです。よろしければ、ぜひどうぞ。

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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