ミレニアルズと「未来のスキル」 #11

テクノロジーの視点から日本文化の「盛る」DNAを考える

  • Profile kubo dentsuho
    久保 友香
    東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任研究員
  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室
  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

 

「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」といわれるほどに仕事の未来が不透明なこの時代に、新世代のデジタルネイティブ世代=「ミレニアルズ」の取り組みから“未来のスキル”のかたちを模索します。

今回フォーカスするミレニアルズは、東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任研究員 久保友香さん。女性が理想のアイデンティティーを作るための先端的なビジュアルコミュニケーション技術、「シンデレラテクノロジー」について研究しています。コスメ、自撮り(セルフィー)、写真加工アプリ、SNS…いまは「盛る」文化の爛熟期。そんな盛り文化に詳しい同氏と共に「盛る」の最前線を読み解きながら、ミレニアルズの考え方やスキルに迫りました。


インタビュー前半のトピック
・浮世絵、美人画、ギャルメーク…日本文化の「盛る」DNA
・シンデレラテクノロジーを支える三つの技術と「盛れすぎの坂」
・「盛る」は努力の証し。女の子の世界の新たな評価軸
・「最近の子はみんな一緒に見える」は高度な戦略の結果だった
・SNSの流行と共に変わる「盛り」のトレンド。今はよりナチュラル盛りへ
・「大人のオトコ」モテ時代は終焉か モテるのは「一緒に盛れる彼氏」

浮世絵、美人画、ギャルメーク…日本文化の「盛る」DNA

天野:ミレニアルズはソーシャルメディアを使う時間の長さ、頻度だけでなく、意識や価値観もすっかり“ソーシャルに最適化”されています。象徴的なのが「盛る」ということの広まりではないでしょうか。久保さんの研究テーマである「シンデレラテクノロジー」を通して、単純に「自分をよく見せたい」といったことを超えた複雑なメンタリティーや文化的な背景にも迫っていきたいと思います。

まず、シンデレラテクノロジーとは何か教えてください。

久保:この研究にたどり着いた経緯から話しますね。私は子どものころから数学しか得意ではなくて、それしかやらなかったんです。そもそも、人間というものに興味がなくて、人の気持も分からない。国語で「主人公の気持ち」を聞かれても文脈が読み取れない、そんな子どもでした。人間関係から切り離されて、数学をやっている時が一番幸せだったんです。

その後慶応大に進んだんですが、大学は社交場みたいなものですよね。そこで初めて、人間という答えがない、読み解けない存在にも法則があるのか、という発見から、社会や人間に興味を持つようになりました。工学部だったので、エンジニアリングを社会にどう生かすかと考えることが面白くなってきたんですね。

その後、東京大大学院に進み、日本の粋やおもてなしを数式化できないか、という研究をやっていました。もともと父の影響で、任侠映画や歌舞伎に描かれる義理人情や粋の世界が好きだったからです。しかし、博士論文として出すには根拠が薄い。たどり着いた研究テーマが、写実からずれた独特のデフォルメ表現をする日本の美人画の研究です。

日本の伝統文化を工学的な視点から分析するのは興味深い研究でしたが、その一方で過去だけではなく未来につながる研究をしたいという思いもありました。ちょうど2009年のギャル全盛時代で、そのとき日本のギャルのお化粧やプリクラの加工は、浮世絵や美人画の延長にあるのではないか、と考えるようになったんです。

能勢:確かにプリクラにも、美人画のようにみんながまねする定型的なポーズがありますね。

天野:そういう日本の歴史的な表現が現代の文化につながるという視点がとても興味深いです。

久保:そんなアイデアの芽が生まれてきたころ、プリクラメーカーさんと話をしたことで、現代女性のデフォルメは研究として成立すると考え始めました。女の子たちは、人に見せるためにデフォルメすることを「盛る」といいますが、それは美人画にも通じる日本の文化です。

昔の美人画のモデルは、スポンサーがいる特別な職業の女性やお金持ちの娘などに限られていましたが、今はスポンサーのいない普通の女の子たちが、盛って実際より良い姿になり、メディアの上で不特定多数から注目されることが起きています。それは、テクノロジーの革新によるものです。そこで、この盛る文化を大衆化したテクノロジーを「シンデレラテクノロジー」と名付けました。

シンデレラテクノロジーを支える三つの技術と「盛れすぎの坂」

天野:久保さんが考える、シンデレラテクノロジーの詳細について教えてください。

久保:まずは「加工する」技術と「公開する」技術によって構成されます。

そして、情報通信技術の恩恵を受け、ここ20年ほどの間に発展したシンデレラテクノロジーとして「ソーシャルステージ技術」「セルフィーマシン技術」「プラスチックコスメ」という三つの分類をしています。

一つ目の「ソーシャルステージ技術」とは、誰にでも不特定多数から注目される可能性を与えたインターネット技術です。とくにSNSの貢献は大きいと考えています。二つ目の「セルフィーマシン技術」とは、コンピュータ上でバーチャルに、実際よりも良い姿になれるようにした画像処理技術です。プリクラやスマートフォンのアプリによって普及しました。

そして三つ目の「プラスチックコスメ」とは、まるで画像処理のように、リアルにも良い姿に変わることのできるプラスチック成形技術です。今、従来の化粧品とは違って、まぶたを止めて二重にする接着剤、つけまつげ、カラーコンタクトなど、プラスチック製の化粧雑貨が増えています。今後は3Dプリンタを活用したデジタルファブリケーションなども入り、さらに発展すると考えます。

久保:研究として一番興味があるのは「盛り」の評価基準です。これについてはプリクラメーカーのフリューと共同研究も行っています。女の子たちは理想的に盛ることができると「盛れてる」と呼びますが、「盛れてる」の数量化を目指しています。加工を少しずつ増やす実験をしてみると、自分の写真ならかなり盛っても自分だと認識できますが、他の人の写真はある程度変化すると「別人」だと感じるラインがあります。友達から「別人」と思われるようでは「盛れすぎ」でダメなんです。その境を女の子たちは感覚で分かっているけれど、大人はわからないからその法則を数値化したいと考えるんです。

天野:このチャートはとても分かりやすいです。ロボットはどの程度人間っぽく見えるとちょうどいいのかを示す「不気味の谷」みたいですね。どの程度盛れると最適なのか、認識の閾値があるんだなと思います。

「盛る」は努力の証し。女の子の世界で評価される新しい価値観の創出

能勢:最近では写真、動画、キャス(ライブ配信)といったビジュアルコミュニケーションの手法がさまざま出てきていて、「盛る」プロセスを公開すること自体が久保さんの指摘するようにどんどんステージ化していっているのを感じます。

また、メーク実況やハウツーなど、ビフォー・アフターの裏側も見せることが共感を呼んでいますね。

久保:そうですね、「盛る」のは努力であり、そこを評価する仕組みでもあります。それまで、外見の評価というと、元の顔に対して行われることが一般的でしたが、しかし2006年くらいからでしょうか、女の子たちの「元からかわいい子よりも、努力してかわいい子の方が好き」という価値観が表面化してきました。

能勢:なるほど。男女で「かわいい」の意味するところが違うとよく話題になりますが、そのあたりが関連しているのですね。

久保:そうした価値観の形成は、ケータイブログが普及して、誰もがステージに立てるようになり、皆が手本を求めるようになって、手に届きそうもないモデルなどよりも、手に届きそうな読モやブロガーに支持が集まっていった時期と合致します。メーク動画が人気なのは、手本を求め、努力を評価し合う中で、プロセスに価値があるからです。元の顔を見せれば、さらに説得力が増します。今までの私の研究では静止画が中心でしたが、今後はメーク動画のプロセスを分析するような研究も準備しています。

「最近の子はみんな一緒に見える」は高度な戦略の結果だった

能勢:正直、最近の若い子のメークはみんな同じように見えてしまいます。これはどう捉えたらいいでしょう?

久保:女の子たちは、コミュニティーで共有する基準を守ることを重要視しています。先日、テレビでポケモンGOが取り上げられていたんですが、やらない方がかっこ悪いというようなコメントがありました。トレンドに乗らないのがかっこ悪いという風潮は最近より強くなっているような気がします。

能勢:確かに最近では、むやみに流行をディスると、ネット上では「逆張りかっこわるい」と逆に叩かれますからね。はやりというものへの価値観が変化してきているなと思います。

久保:実際に女の子の話を聞いていてもそう感じます。みんな「人と一緒はいや」って言うのに、好きなブランドを聞いてみると誰もが「アディダス」と答える。個性を出すことを重視しながらも、一から個性を出すことはかっこ悪い。コミュニティーで共有する型を守った上で、分かる人には分かる個性を出したいということなんです。

私は日本の伝統的な「守破離」に近いと思っています。芸事では最初から自分の流派をつくることは良いこととされていなくて、まずはどこかの流派に入って修業して、型を守り、身につけたらそれを破って個性を入れていき、新しい自分のスタイルをつくることができたら離反する、というステップがあります。

ギャル道も同じで、まずは大量生産されるトレンドを利用して型を守り、その上で、破って、離れて、自分のスタイルを追求しています。

天野:Instagramでシェアされる写真にも同じ構図を見いだせます。料理の写真は上から俯瞰して撮るとか、リムジンの前でキラキラ感を出して女子たちが一緒に撮るとか、一定のパターンがありますよね。誰が始めたのかは分からないですが、みんながまねしていくという現代的なトレンド伝播のあり方を「シミュラークル」(オリジナルなきコピー)という視点で捉えてリサーチをしているのですが、共通するものを感じます。

久保:私もそこに興味があって、仮説として、わざとまねし合って、コミュニティーで一体化することで敵、つまり彼女たちにとっては大人や社会からの目をごまかす手段なのではないかと考えています。

大人は「リムジン女子会の子」とひとくくりにしたら、それ以上は何をやっているのか見なくなるんですね。女の子は大人につっこまれない世界をつくり上げて、その中で楽しむ、溶け込むことで敵から分からなくする。環境に適応するための擬態という技術なのではないでしょうか。でも、コミュニティー内の友達同士ではそれぞれの個性が分かるんです。

天野:確かにセミナーなどでこうした話をすると、年上の人たちはこうしたトレンドに関心を持ちながらも、「けど、最近の若い子って閉じているよね」と言うんです。しかし、今の話を踏まえると、そう捉えてもらうことこそが女の子の戦略であって、閉じていると思ってしまう段階で既にその戦略にはまってしまっているのかもしれないですね。

SNSの流行と共に変わる「盛り」のトレンド。今はよりナチュラル盛りへ

能勢:最近のスマートフォンやSNSの発展と、オンライン上のバーチャルアイデンティティーの関連性について、どう考えていますか? 特にSNS上では、本来の自分以上の自分をアピールしてしまい、結果としてそのバーチャル上のアイデンティティーに縛られて引っ込みがつかなくなることもある気がしています。

久保:2006年頃から女の子たちの間でDECOLOG(デコログ)やCROOZ(クルーズ)などの携帯ブログサービスがはやりました。とくにデコログはユーザーの90%が女の子といわれ、大人が入ってこない世界でした。しかし、SNS全盛時代になって、大人も男の子もみんながいる世界になって環境が大きく変わりました。

携帯ブログ時代は、不特定多数に向けて、大きく盛った姿で情報発信し、身近な人には見られたくないという人も多かったんです。だから「駅で見かけたらかわいくなかった」「クラスの子にバレた」というような“事件”があったんですね。

でもSNSはもちろんクラスの子にもばれることが前提です。大人や男性にも見られます。そこでとやかく言われないような方法を、女の子たちはとるようになっています。最近、化粧もプリクラもナチュラル志向になっていますが、それもその一つだと考えられます。盛りには、派手な盛りから、ナチュラルな盛りまであるので、環境に適応して外見を変えられるんです。

そして今ネット上で評価されている子は、リアルでも男女問わず友達が多い人気者ですね。かつて携帯ブログでアクセス上位の子の中には、クラスでは嫌われているかもしれない雰囲気の子もいましたが、SNS時代の人気者はリアルでも人気があって、近くの仲間を大事にしていますね。

天野:プリクラもナチュラル志向になっているという指摘がありますね。そのトレンドを考える上では、情報環境の変化も計算に入れる必要があります。

久保:私は技術が文化をつくると考えています。ナチュラルといっても、手が込んでいるナチュラル盛りですよね。人工物は自然に見せる方が難しく、技術が高くないと不可能です。技術者は進化を求めるので、よりナチュラル盛りを実現する方向に進んでいくでしょうね。

「大人のオトコ」モテ時代は終焉か モテるのは「一緒に盛れる彼氏」

能勢:最近の一つのトレンドとして、中性的な男性が増えています。彼らは「盛る」ということをどう捉えているのでしょうか?

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久保:共同研究をしているフリューの2015年1月の調査結果によると、彼氏のいる女の子のうちの約60%が「同じ年の彼氏」のようなんです。例えばMixChannelのカップル動画に一緒に出てくれるような彼氏、自分と同じ世界観を持っていてSNSで“おそろコーデ”をしてくれるような彼氏がよいからではないでしょうか。昔は「レストランに連れて行ってくれる年上の彼氏」がいることがかっこよかったりしましたが、今はそれはかっこよくない。「年上の訳あり彼氏じゃ、SNSで公開しづらいじゃん」となってしまうんです。同じくフリューの2016年5月の調査結果によると、彼氏のいる女の子のうち50%が彼氏との写真やプリクラをSNSに投稿していて、そのうち72.4%が彼氏も肯定的だと言います。

能勢:衝撃的な結果ですね(笑)。確かにモテも突き詰めれば人間関係。ここまでの話を踏まえれば、そこにも変化が及ぶのは当然といえるかもしれません。

久保:女の子と一緒に盛れるということが今のモテる条件なので、男性も盛ることへの抵抗が薄れてきているのかもしれませんね。


前半はここまで。
久保さんが研究されている「シンデレラテクノロジー」を中心に、盛りとの社会的・技術的背景を伺いました。後半では私たち自身の価値観やアイデンティティーの変化について考察していきます。

プロフィール

  • Profile kubo dentsuho
    久保 友香
    東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任研究員

    2000年、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業。
    2006年、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。
    東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師などを経て、2014年より東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員。専門はメディア環境学。日本の女の子たちのビジュアルコミュニケーションにヒントを得た新しい科学技術分野「シンデレラテクノロジー」の理論構築に挑戦している。

  • Web
    能勢 哲司
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室

    中国上海市出身。電通で上海万博プロジェクト、自動車メーカー担当営業を経てクリエーティブブティックへ出向。その後、現在の事業開発領域ビジネスに従事。デジタルファブリケーション分野のビジネス開発からスタートアップ企業との協業、異業種とのネットワーキングに注力している。

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    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

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