アタマの体操 #06

流さず立ち止まって「コマ送り」する

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

藤原かんいちさんは、旅行家という肩書で仕事をされています。
テレビ番組「SWITCHインタビュー 達人達」(NHK・Eテレ 毎週土曜 午後10時~)で8月27日の回に出演されていたので、チャンネルを合わせました。旅行家としての活躍もさることながら、最近は写真家としても個展を開いたり、写真誌に投稿したりと精力的に活動をされています。

「世界の果てにたどり着いたとき、大切なものは遠くではなく、すぐ隣にあることに気がつきました」
藤原さんは番組の中で、こんな話をされていました。6大陸 94カ国を旅し、その日数は4000日を越える旅行家としての彼がたどり着いたのは、身近にある日常だったということに、この上なく共感します。

僕の仕事はアイデアを発想することです。それはアタマの中で空想の旅に出るようなもの。想像の世界だから未知の世界にも行けるし、身近な世界にも行ける。でも、誰も経験したことのない特殊なことや壮大なことを発想するよりも、身近な日常にありながら見逃してしまったり、流してしまったりするようなささいなことから発想した方が、多くの人から驚かれ共感を得るアイデアになるのではないかと考えています。

拙著『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)の中でも何度も触れていますが、アイデアを生むネタやアタマを鍛えるチャンスは自分の身の周りにたくさんあります。20年あまりこの仕事を続けてきて、僕がたどり着いたのは藤原さんと同じように身近にある日常だったのです。

アイデア発想の本質は、見つけ出すこと

 

アイデアを生み出せる人は、美術館やコンサートに行ったり、最新映画を見たり、トレンドの店に通ったり、そんなことをたくさんしているから発想力があるんですよね? こんな質問を受けるときがありますが、本質的には違うと考えています。あくまでもそうしたことは情報収集であって、予備知識を蓄えることにすぎません。

アイデア発想の本質は、見つけ出す(発見する)ことです。普段だったら誰もが見逃してしまうことや流してしまうことに気がつくがどうかが大切。そうしたら、次に想像を膨らますことです。こうなったら面白いかも、こうすれば便利かも、とあれこれと考えを巡らせます。

こうした話をする際によく出す事例として「立つしゃもじ」があります。
しゃもじといえば、日本人だったら誰もが知っている道具です。食卓や台所で毎日のように見るものではないでしょうか。あまりにも日常に溶け込んでいる当たり前ものですから、改めてしゃもじのことなど考えることなんてない、というのが普通です。

でも、ある時、誰かが気がつき想像しました。ご飯をよそうとしゃもじについてしまう米粒が食卓や台所を汚してしまうのを避ける方法はないかなぁ~と。誰もが「まぁ、しょうがないか」と諦めて流してしまうことに目をつけたのです。こうして商品化されたのが「立つしゃもじ」。横に置くことしかできなかったものを、縦に直立させれば米粒がこびりついてしまうことがないということを発見しました。

今となっては定番商品となりましたが、こうしたアイデアは思いつきそうで思いつかないシンプルで分かりやすいものです。多くの人が「なるほどねぇ」「それはいいねぇ」と感心され、自然に受け入れられていくものとなるでしょう。

同じような発想で、食卓まわりで定番商品になっているものに、皆さんにもおなじみの「曲がるストロー」があります。蛇腹で曲がるようにすることで、飲みやすさをぐんと改善しました。

定番ではありませんが「二重ガラスのコップ」はわが家で愛用していて、お勧めです。冷たい飲み物が入ったコップの表面に出る水滴で、テーブルがびしょ濡れになることがよくあります。それを避けるために液体が入っている内側のガラス面と外側のガラス面の間に空洞をつくり、二重になっているコップです。表面には水滴がつかない構造になっています。

このように、アイデア発想とは単に小手先でただこねくりまわせばいいものではなく、その本質は身近な日常での発見や気づきにあり、そのアイデアがシンプルで分かりやすいほど秀逸であると、僕は考えています。プランナーの視点からいえば、いつも普通に接していること、見ているものなのに、そこは気づかなかった!とまわりを悔しがらせるほどの発見を狙っていきたいということになります。

 

普通の日常の中でも、話題をどんどんためられる

 

身近な日常での発見や気づきは、コミュニケーションにも効力を発揮します。
いつも話題が豊富な人とそうではない人との違いはどこにあるか考えてみましょう。特別な経験や他人とは違った経験をたくさんしている人が話題に事欠かなく、自分はいつも平凡に過ごしているから話題がなくて困ると思いがちですが、そうではないのです。

「そうそう、この間、こんなことがあってね…」といつも周りに話題を振りまいている人は、特別な経験をしても、普通の日常の中でも、話題をどんどんとためることができます。なぜそうできるかといえば、他の人が気づかないことや見落としがちなことを発見することに長けているからです。

それはけして特殊なスキルではありません。意識の持ち方次第で何とでもなることです。いつも流してしまっていることに目を向けてみる、耳を傾けてみる、アタマを働かせてみることで、身近な日常の中にたくさんの発見ができます。そうすれば、自然と話題が蓄積でき、さらにはアタマが活性化され、アイデアを出すためのトレーニングにもなります。

普段からアタマをメンテナンスしておかないと、いざ仕事で使おうとしても思い通りにはいかないものです。それはカラダと同じ。いつも運動していない人が突然スポーツでもしようものならケガにつながります。そこで「アタマの体操」を日常に取り入れていこうと推奨しているのです。

先月書店に並んだ雑誌「Tarzan」(9月22日号)で、「実は、アタマに良いコト、悪いコト。」という特集が組まれました。カラダや健康をテーマにしている雑誌が、アタマの働きに目をつけています。カラダもアタマも日々トレーニングという発想にとても賛同します。とはいえ、僕自身情けないことにカラダはなかなか行動が伴っていませんが、アタマの方は広く啓発していく活動を行っています。

その活動のひとつとして「アタマの体操」というタイトルで、5~10月の6カ月間、毎月第4金曜日に、オンライン動画学習サービス「Schoo」の授業を行っています。そこでは、電通のプランナー3人とアイデアを集中して出すトレーニングを大喜利風に大公開。合わせて、アタマの体操のひな型となる「発想法」や心がまえ、極意もお披露目しています。

 

抑制するよりも、自ら仕向けていけるアイデアを

 

9月23日に放送された5限目の授業では「歩きスマホをやめたくなる方法」というお題でアイデア大喜利を行いました。周知の通り、歩きスマホによって多発する事故は社会問題となっており、解決が急がれている課題です。国内のみならず、世界中でその対策が多種多様に取られています。

米国ではいくつかの州で、「歩きスマホ規制条例」が施行され、違反者には罰金も科せられています。ロンドンでは混雑する道で歩行者がぶつからないよう電柱に緩衝材を巻いたという話も耳にします。ドイツのある町では、歩きスマホをしている人にもよく見えるように、路面に信号灯を埋め込んだといいます。

中国の重慶に及んでは、歩きスマホ専用レーンがつくられたとか…。日本では、昨年末にNTTドコモが啓発のために「歩きスマホ参勤交代」というタイトルの映像を公開し、ネット上で話題になりました。

法律や条例で抑制したり、歩きスマホをやめない前提でインフラを整備したりするといった方法もありますが、本来ならば個々人が自ら歩きスマホはやめると仕向けていく方が健全ではないでしょうか。そんな思いも込めて「歩きスマホをやめたくなる方法」というお題設定にしました。

それでは、今回のオンライン授業で生まれたアイデアをいくつか紹介しましょう。

歩きスマホをしていると視野が狭くなります。一説によると、1.5メートルまで接近しないと対象物を認知できないようです。事故に遭遇するまでは、多くの危険にさらされている実感が持てないから、ついつい続けてしまう。

そこで、ドッキリを仕掛けて疑似体験をさせてしまおうというのが、このアイデア。強制的に取り締まるのではなく、楽しみながら身の危険を肌で感じることができ、歩きスマホをしていない人にとってもエンターテイメントが提供できる一挙両得な発想です。

Illustrated by Yuki Yamada

こちらはSchooの学生さんから出てきたアイデア。歩きスマホをしている姿をじっくりと客観的に見ることは、そうそう機会がないものです。そこで、歩いている姿だけをみんながじっと見るシーンの象徴として、ファッションショーのランウェイに着目しました。

堂々とした姿勢で笑顔を振りまき、さっそうと歩くモデルさんたちが、もし下を向いて猫背で歩いて登場したら、どうでしょう? なんだかカッコ悪いし、イケてない。自分も歩きスマホをしているとき、あんなふうに見えているんだ、と理屈抜きに実感するのではないでしょうか。

 

モノゴトの解像度を上げることから発想していく

 

オンライン授業では、毎回1時間という限られた時間の中で、次から次へとアイデアを量産していきます。僕たちプランナーは日々それを求められるため、様々な発想法を暗黙知として持っています。先輩から感覚的に教わったものや独自で編み出したものなどなど。それらを概念化・言葉化し、アタマの体操のひな型、つまり「発想法」ということで授業の中で紹介しています。

これまでの発想法「極端化」「部分転換」「変身」「足し引き」に続いて、今回は五つ目「コマ送り」。何げなく流していたら、無意識のうちに見逃してしまうようなことをアタマの中で想像しながら反復する、コマ送りやストップモーションをかけて、その時の再生方法をコントロールする、そうして、モノゴトの解像度を上げることから発想していく方法です。

では、普通だったら見逃してしまうモノゴトを「コマ送り」再生して発想したアイデアにはどんなものがあるか、身の周りにあるものから読み解いてみることにしましょう。

東京ディズニーリゾートには、幸せの瞬間を感じるアイデアがたくさんあります。中でも、親子で飲める水飲み場はその象徴です。親子が向かい合って飲めるように作られ、さらに子どもの方に段差がついていて互いの目線が合うようになっています。渇いた喉が潤った瞬間の満足した笑顔を見ることができるようにと、創業者であるウォルト・ディズニーが考えたようです。

どこにでもある水飲み場のシーンを機能的なものとして捉えると、改めて目に留まるものでもないでしょう。考えることもなく流してしまい、見逃されるものです。それを瞬間的に変わる表情という点に着目し、情緒的なシーンとして「コマ送り」再生してみると、新たな発想が生まれてくるのです。

同じく東京ディズニーリゾートにあるハンドウォッシングエリア(手洗い場)には、ある仕掛けが施されています。ノズルから出るハンドソープの泡が手のひらに乗ると、ミッキーの形状になるというサプライズが待っているのです。泡が手のひら乗ってから、手を洗って流されるまでのわずかな瞬間を見逃さず、幸せの瞬間に変えてしまうディズニーマジックがここにあります。

カネボウ化粧品から最近発売された洗顔料「エビータ ビューティホイップソープ」は、缶から出てくる泡のソープがバラの形状で、バラの香りがするというもの。これも同じような発想で、毎日の洗顔を楽しくリッチな気分にしてくれます。発売前からSNSで話題になり、さらには海外でもバズっているようです。

 

合間の瞬間を見逃さず、「コマ送り」再生する

 

この夏、Instagramを中心に話題となった「ハーゲンハート」。アイスクリームのハーゲンダッツが新しい楽しみ方として「幸せのハーゲンハート探し」という提案をしています。カップのふたを開けると、ときどき現れるハート型のクレーターを「ハーゲンハート」と名付け、そのカタチのタイプ11種類の出現率と出やすいフレーバーを紹介しています。

このクレーターは工場でアイスクリームを充填した後、内ブタのフィルムを装着する際に、アイスクリームの角(つの)が押しつぶされてできるカタチだそうです。いつもならばふたを開けてすぐに食べてしまうその合間の瞬間を見逃さず、まさに「コマ送り」再生したところ、普通気づかない発見をしたのでしょう。結果、たちまちSNSで話題が広がり、あっという間にリツイートが10万、いいねが20万を超えたそうです。

車のタイヤと舗装路面の接触走行音を利用して音楽が奏でられる「メロディーロード」は、全国に広がっています。もともとは、2004年に北海道標津町の町道で試験的に行われたものがメディアなどでも取り上げられ、たちまち話題になりました。

ドライブをしている時の走行音を単なるノイズとして即座に片づけてしまわず、ふと立ち止まって音楽に変えられたらと発想したのです。僕も河口湖周辺で体験したことがありますが、「ふじの山」が聞こえてきたときには心が弾んで、思わず一緒に口ずさんでしまいました。

こうして、身の周りのあるものから読み解きをすることで、発想法の意味や使い方を習得することができます。同時にそれは日常的な「アタマの体操」にもなりますので、お勧めです。ここで紹介するひな型を自分のものにすれば、仕事などでアイデアを考える際によりどころとなって、ただ漠然と考えるより早く、たくさんの発想ができるようになるでしょう。

さて、次回オンライン動画学習サービス「Schoo」の授業6限目は、今週10月28日(金)19時から生放送。これが「アタマの体操」最終回となります。大喜利のお題は当日発表し、Schooの学生の皆さんとプランナーとのアイデアバトルを行う予定です。よろしければ、ぜひどうぞ。

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ