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スパイクスアジアに参加してNo.1

コピーライターが、スパイクスとカンヌのデザイン部門を比較してみた

2016/10/25

はじめまして、電通の第2CRプランニング局に所属する檀上です。9月にシンガポールで開催されたスパイクスアジアに参加してきました。私はコピーライターですが、今回はデザインの視点からスパイクスで見たこと感じたこと、カンヌライオンズとの比較をレポートしたいと思います。

ホワイトハウスのクリエーティブディレクターが語るデザイン

最初にお話ししたいのは、「Designing for the White House」について。ホワイトハウスのクリエーティブディレクターでデジタルストラテジストのAshleigh Axiosさんがスピーカーとなり、ご自身の事例紹介を通してデザインについて語ったセミナーです。今回のスパイクスで最も大きなセミナー会場であるインスピレーションステージで開催され、ほぼ満席となっていました。

まず紹介されたのは、米最高裁が全州において同性婚が合法であると判決を下した日の夜に、ホワイトハウスをレインボーカラーにライトアップした事例です。

元ホワイトハウスのクリエーティブディレクターでデジタルストラテジストのAshleigh Axios
 
レインボーカラーにライトアップされたホワイトハウス
 

米国民がLGBTコミュニティーをサポートしていることをワンビジュアルで表現しました。センシティブな課題に対し、強い意味を持つもの同士を組み合わせるシンプルなアイデアは、言葉のないコミュニケーションの強さを感じました。今年のカンヌでは、「そこまでやってのけるのか」というキャンペーンを実施した企業や団体の受賞が目立っていましたが、これも同じく国という大きな組織が行っている点がとてもかっこいいです。LGBTの方々はもちろん、それ以外の人も誇らしいのではないでしょうか。私がアメリカ国民だったらちょっとうれしいです。

また、「STATE OF UNION」という一般教書演説のオンライン配信についてもお話しされていました。Ashleighさん率いるチームが制作したのは、この演説映像に合わせて画面に表示される117枚のスライドです。

「STATE OF UNION」
 
一般教書演説オンライン配信映像の117枚のスライド
 

写真とグラフと簡潔な言葉で構成されたスライドは、政治が身近でない一般市民に対して演説内容を易しく解説しました。オンラインで配信するだけでなく、その内容を誰にでも理解できるようにするこの工夫は、オバマ大統領の政治が全ての人のために行われていることを国民に伝えています。

これらの事例を紹介し、Ashleighさんは「ブランドのためのデザインに大切なのは、すてきなビジュアルだけではなく、大きなコンセプトを持って人々の生活や社会を前向きに変えること」とおっしゃっていました。

これはコピーライターとしてデザインの仕事に関わりたい人間にとって、重要なポイントではないでしょうか。アートディレクターやデザイナーの美的センスから生まれるかっこいい装飾がデザインだとしたらコピーライターはそのチームに必要ないけれど、デザインに「大きなコンセプト」が必要なのだとしたら、きっと役に立てると思います。

フィロソフィーを語るデザイン

デザインはただのすてきなビジュアルのことではないということは、今回の受賞作からも見て取れます。デザイン部門だけでなく、イノベーション部門とヘルスケア部門でもグランプリを獲得したJ. Walter Thompson Bangkokによる「THE TOCHABLE INK」は、一般的な家庭用プリンターで立体的な点字をプリントできるサムスン電子のインクです。

サムスン電子のインクの作品「THE TOCHABLE INK」
 

点字用プリンターは150ドルと高価なため、多くの本は点字にされないそうです。世の中には文字をスマホカメラでスキャンして音声に変換するサービスもありますが、それではスペルが分からない上に、耳で「聞く」ことと手で触れて「読む」ことには読書体験として歴然とした質の差があるため、文字を点字にすることには大きな意味があります。このインクは家庭用のプリンターとドライヤー、電子レンジだけで誰でも安価に立体的な点字を作ることを可能にし、盲目の方々の生活を改善しました。この作品の評価ポイントを探るべく、ケースビデオを自分なりに分析してみました。

映像は大きく三つのパートから構成されています。最初は課題について。盲目の方々が現状への不満を語るところから始まります。次に今回のソリューションについて。ここでは、試験管が並んだ研究室や白衣のスタッフ、顕微鏡越しに見たインクの粒子が膨らんでいく様子など、サムスンの技術力が強調されていました。最後のパートでは、このインクを使用して幸福になった人々が描かれます。ただ点字が簡単にプリントできるようになって便利で幸せ。という終わり方にしないところが、今回評価されたポイントなのではないかと個人的には思います。ここでは、インクが「医療・教育・男女間の愛情表現」に使用される様子を描いていました。「文字を読める」という私たちにとって当たり前のことが、いかに人間にとって大切なことか。そしてそれをテクノロジーによってサポートしたサムスン。最新のテクノロジーそのものが豊かさなのではなく、テクノロジーによって誰かの人生を豊かにすることに意味がある、という企業の考えを伝えているようでした。

カンヌのデザインとスパイクスのデザインを比較してみる

今年のスパイクスとカンヌ、二つのデザイン部門グランプリを並べてみると評価ポイントに違いと共通点を感じました。カンヌのグランプリはパナソニックの「Life is electric」で、こちらも偶然ですが電機系の会社のプロジェクトでした。生活の中のさまざまな方法で電池に充電をして、その電気の持つかわいさや美しさから電気の価値を伝えるというものです。

パナソニックの電池「Life is electric」
 

カンヌはそれが人の感情に作用し、ものの持つ価値を変えることができる、人に「考えさせる」デザインの力を評価していました。一方スパイクスは、誰かの暮らしを具体的に改善するイノベーティブな作品が選ばれています。昨年のカンヌで話題となっていたボルボの「Life Paint」と同じ文脈にある、ある課題に対して認知を高めるだけではなく、具体的な解決策(プロダクト)を提供することで企業のフィロソフィーを伝えるタイプのソーシャルグッドです。

「考えさせる」と「変える」、それぞれ違うゴールですが、どちらにしても「知らせる」よりも一歩先の豊かさを生み出すチャレンジでした。Ashleighさんの言う「大きなコンセプト」を根っこに持って、そのブランドの行為として納得感のある新しいことを。今の時代に求められるデザインには、コピーライターが参加する意味があると思います。