最先端カルチャーの祭典で
インバウンドへつなぐ
2016/10/20
今やアニメだけではなくさまざまな日本のカルチャーが世界から注目を集めている。きゃりーぱみゅぱみゅらの原宿KAWAiiカルチャーを中心に、多彩な取り組みで日本のポップカルチャーを世界に発信している中川悠介氏に、その目的や背景、思いなどを聞いた。
原宿から日本のポップカルチャーを発信
「アソビシステムって面白いことをしているよね」とよく言われるのですが、そういう意識はありません。重要視しているのは、日本のポップカルチャーを世界に向けて発信する「もしもしにっぽんプロジェクト」のように、アソビシステムじゃないとできないこと。もちろん原宿KAWAiiカルチャーがその中心にありますが、それ以外のことも含めて見せていきたいなという気持ちがあります。
原宿に2014年オープンした観光案内所「MOSHI MOSHI BOX」もそのひとつ。訪日外国人の目には、原宿という街がひとつのテーマパークのように映っているようで「原宿という場所に行ってみたい」と、ブラッとやって来る。でも遊ぶ場所がそんなにあるわけではないから、観光案内所で情報を探している。きゃりーぱみゅぱみゅやアニメが入り口になって日本に興味を持ち、訪日した人たちが日本のカルチャーに触れる機会をここでつくれたらと思っています。
MOSHI MOSHI BOXを運営して学んだのは、SNSによる情報伝達の面白さとスピード感。一時期、オーストラリアから来た多くの訪日外国人が「うさぎカフェはどこだ」と聞いてきた。実際、僕らは原宿にうさぎカフェがあるのか知らなかったけれど、オーストラリア人がSNSでMOSHI MOSHI BOXやうさぎカフェをアップして“うさぎカフェが原宿で流行している”というムーブメントが出来上がってしまった。またある時には、タイ人のインフルエンサーがやって来て、もしもしにっぽんがプロデュースしているお土産を買っていったら、翌日には同じ物が30個売れた。
今やSNSを使えば、資金がなくても誰もが情報提供者になれる。そして、例えばインスタグラムにアップしたものは、その瞬間に世界中の人が見ることができる。世界中との接点が増えたからこそ、僕ら自身がSNSを通じて正しい情報を伝えていくことが大切だと考えています。
「このイベントのために日本に来た」を目指す
海外だと日本のカルチャーを体感できる「Japan Expo」などがあり、その国の来場者で盛況を呈しています。でも、本来その最終目的は日本に来てもらうこと。一方、日本で暮らす日本人が楽しめるのはもちろん、外国人が来日したくなるイベントは、ほとんどありません。そこで企画したのが、今年3回目となる「MOSHI MOSHI NIPPON FESTIVAL」。これは僕たちが考えるミニクールジャパンであり、原宿のKAWAii文化を中心に据えたファッション、音楽、フード、アニメなど日本のポップカルチャーの祭典です。今回はインバウンドに特化することを意識しています。例えば外国から来た人は、パスポートを見せれば入場無料にするなど。昨年は2万5000人を動員し、今年の目標は3万人。ステージでは、もちろんライブやファッションショーがあり、ブースでも実際に体験できたり学べたりして、インスパイアしてもらえるようなイベントにしたいと考えています。将来的には「日本にそういうフェスティバルがあるなら、この時期に日本に行こう」と、訪日のきっかけになるよう成長していくことを目指しています。
今までの日本はセグメントされたジャンルの中でほとんどの物事が進んでいたと感じています。伝統工芸なら伝統工芸の中だけ、ゲームならゲームの中だけといった具合に。業態や業種の中で整ってしまって、その中でのイノベーションというのが起こらないんじゃないかと。でも僕らは、伝統と新しいもの、ポップカルチャーとサブカルチャーというように、対極にあるいろんなものが混ざっていく中での新しい見せ方を意識しています。このイベントでもその混沌(こんとん)としたものをどうきれいに見せていくかがテーマだと捉えています。
2020年の先にある新たな日本文化をつくる
日々感じていることですが、日本のクリエーティビティーや技術、繊細さ、つくり込む力にはとても素晴らしいものがあります。それなのに、日本人は海外へアピールするときに海外のまねをしようとか、海外に合わせようという気持ちがとても強い。僕は逆に日本がつくり出すものの価値をひねらず、ストレートに伝えていくのが一番重要なんじゃないかなと思っています。昔はそうやって自動車や電化製品が海外で高く評価され、世界中で売れていたのではないでしょうか。僕たちはモノをつくって売るわけではありませんが、文化の発信者として日本がつくり出すものの素晴らしさを世界中にどんどん伝えていきたい。
2020年の東京オリンピックを重視するのはもちろんですが、それ以降に何が残せるのかなとも考えています。オリンピックまで観光客は増え続けるでしょうし、各方面で需要が増えていく。でも、オリンピックが終わった後も継続的に、日本の素晴らしさをどうやって見せていくのかが大きな課題ではないかと。2020年以降にも続けられる何かをつくりたいと考えるようになりました。
ただ、今の時点で10年後に「こんなことをしています」とゴールを決めたくはない。失敗してもいい、考えるよりもまず行動して前へ前へと進んでいきたい。僕たちは常にいろんなことを見聞きし、刺激を受けて吸収したことをクリエーティブとしてアウトプットし、増やしていくアメーバ的な存在だと思っています。今後はそのクリエーティブ力と発信力を強化していきたいです。