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「届く表現」の舞台裏No.11

八代亜紀氏に聞く
「女王はなぜ次々と新領域に取り組むのか」

2016/10/24

「『届く表現』の舞台裏」では、各界の「成功している表現活動の推進者」にフォーカスします。1971年のデビュー以来数々のヒット曲を出し、 現在もトップシンガーとして活躍中の八代亜紀氏。 今年もロックフェスへの出演やモンゴルでのコンサートなど、 多彩な活動を続ける八代氏にその背景や歌に込める思いなどをお聞きしました。

八代亜紀さん(歌手)

ご縁があって今年モンゴル文化大使に就任し、モンゴルを訪れました。7月31日、首都ウランバートルにある「モンゴル国立オペラ・バレエ劇場」で開催された「日本モンゴル文化交流コンサート」に出演して、自分のヒット曲、ジャズやブルースなど17曲ほど日本語で歌いました。歌の内容をこうこうですと私が言うと通訳の方が説明して、イントロが始まるというふうにして。会場は満席で現地の方約500人。皆さん、泣いていた。歌が届いた、言葉は通じなくても歌の魂は通じると実感しましたね。10月19日にリリースする新曲「JAMAAS(ジャマース)真実はふたつ」も初披露しました。この曲はモンゴルで国民的に愛されていて、とても素晴らしい曲なので日本語の歌詞をつけて日本の皆さんにご紹介することになったんです。

8月3日には、ウランバートルから約100キロ離れた「13世紀村」で、「天と地に歌を捧げるコンサート」を開きました。そこは13世紀のモンゴル人の生活を再現したところで、まさに草原のど真ん中のステージ。こんな大平原で歌うのは初めてで、すごく感動しました。最初、近くにいたのは羊20頭ぐらいだったのに、歌っているとどんどん集まってきて、羊や馬、牛など数百頭が観客になってくれたんですよ。

そのとき、熊本応援ソング「Sweet Home Kumamoto」で「スイートホーム、くまもと〜」って歌っている最中に、この空は、ふるさとの熊本にも通じているんだなぁ、熊本の人、どうしているかなという気持ちになって、即興で「スイートホーム、頑張れ、くまもと」って歌いました。思わず「頑張れ」っていう言葉が出てきた。地球のどこにいても空は同じでしょう、ずっとつながっていますからね。

モンゴル「13世紀村」のステージ。モンゴルの楽団とのコラボレーションで14曲を熱唱した。
モンゴル「13世紀村」のステージ。大草原の中で14曲を熱唱した。
 

それと今年の7月には初めて「FUJI ROCK FESTIVAL」(フジロック)に出演したんですよ。かつてニューヨークでジャズを歌ったときはもう「ハーイ!」って感じだったのと同じように、フジロックでは「元気〜!」って。面白いですねえ。イントロで自分の性格が全部変わるんです。絵を描きますので、シチュエーションが映像になって頭に浮かび、ストーリーが頭の中で始まる。それをこの声で代弁しているんですね。だから、どこへ行っても、私はその映像を見ている立場だから全然問題ないんです。これは銀座のクラブで歌っていた時代の経験が大きいと思います。それまでは、自分の歌がどういう歌か分からなくてね。あるとき、女心を歌っていたら、お姉さんたちが泣きながら聴いているんですよ。あれっ?今の歌い方なのかなと思って。また違う歌でも同じ経験をして、あっ、これが歌心かと思いました。こうして培ったものですね、八代演歌というのは。

コンサートなどで私の歌を聴いた方から、「すごく励まされました。ありがとう」ってよく言われます。悲しい歌を、幸せな人が聴いたときには「何と不幸な人がたくさんいるんだろう、この幸せを大事にしなきゃ」と感じてもらえる。悲しい人が聴いたときには「自分より悲しい人がもっといる。じゃあ頑張れるじゃん」と思ってもらえる。どっちにしても私の歌を聴いて頑張ろうと。応援歌のようなものでしょうか。「ありがとう」と言われるのはとてもうれしいです。父は、いい歌を歌い、生き方を尊敬してもらえると、皆さんが必ず「ありがとう」って言ってくれるよ、とよく話していました。20代のころは分かりませんでした、その哲学が。でも今は、こういうことなんだなあと。

今回のようにモンゴルやロックフェスで歌うと、いろんなことにチャレンジしていると思われるかもしれません。でも、私にとってはチャレンジではないんです。どんな場所でも歌の心は一緒で通じていますから。これも父譲りの哲学ですね。魂というのは通じてるよって、父はいつも言っていました。ですから、今度はこっちだよって言われると、はい、と気負うことなくやっています。

今とても楽しみにしているのは東京オリンピック。私も日本のために、外国からいらっしゃる皆さんのために、何かお手伝いできればと思っています。