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買収したイギリスの会社で働いてみてNo.4

ロンドン通信:契約書に書いてないことはやってくれないって本当?

2016/10/25

日本語英語になったサービスという言葉は、どうしても「今日はさんまサービスしときますよ!」といった文脈で使われるイメージが強いように感じます。つまり、ただで何かをもらうとか、割り引いてもらう、という。一方で、英語のserviceは、workという言葉と同義で、それを提供することで対価を得るものであるということを、ここに来てあらためて実感しています。今回はそんなサービスと、それに基づくパートナーシップのお話をさせて頂きます。

契約書文化のメリット・デメリット

電通イージス・ネットワーク(Dentsu Aegis Network、以下DAN)では通常、クライアントと仕事を開始するに当たって事前に契約書を締結し、そこでScope of Service(業務内容)を明確に定義します。何を提供するのか、そしてその対価としてどれだけのフィーをもらうかを厳格に握ります。そしてかなりの場合、成功報酬、つまりサービスのパフォーマンスが優れていた場合や、クライアントのビジネスに好影響を与えた場合のボーナスを規定します。

契約のネゴシエーションは、メールや電話で行われるのですが、ときにその激しさはかなりのものがあります。日本だったら、ちょっとちゅうちょするようなことも、丁寧ですが隠さず言って、そして終わったらケロッとして契約締結、みたいなことがあります。お互いに全ての条件を言語化し、交渉を通じてお互いの経済合理性の合致点を見いだし、関係を結ぶ、それが「パートナーシップ」の始まりです。

「業務内容について事前に子細に握る」という慣習、このこと自体は僕も海外の仲間たちと作業をするようになった10年以上前から理解していましたが、それ故に「契約書に書いていないことはやってくれない」というふうに理解していました。それが、先日あるクライアント担当ディレクターと話をしていた際、彼が言うには「現場のスタッフレベルではクライアントからスコープ外の作業依頼があると断りづらいし、人間関係重視、関係強化の気持ちからスコープ外の作業もやってしまいがちなものなんだ。だけど、それをやっていると歯止めが効かなくなっちゃうし、きちんとした収益性の確保が難しくなっちゃう。だから、ディレクターの仕事はそういうScope Creep(スコープ外の仕事まで引き受けること)をさせないようにすることなんだ。スタッフの気持ちはよく分かるから、これはなかなか難しいことなんだけどね」と。当たり前ですが、感情を持った個々の人間がやることを契約で厳格に管理することは難しく、一方で皆がクオリティーの高い作業をし、それに対する正当な対価を得るべきである、という自負を持っていることを強く感じたのでした。

そしてなぜ契約書が必要なのか、ということについて、あらためて考えてみました。それは、単純ですが、文化や共通認識が異なる人たちの間で何かをするときには、間違いが起こらないように明文化する、ということなのではないでしょうか。逆にいえば、何もかもがあうんの呼吸で分かり、強固な信頼で結ばれていれば、極端な話ですが契約書なんてものは必要ないのかもしれません。何もかも書いてしまうことも簡単と言えば簡単だし、当たり前なのですが、そこはやはり日本的なあうんの呼吸で通じ合ったり、という世界にも人間味があってよいなぁ、とも思ってしまうのです。

契約書

メディア会社とのパートナーシップ

DANではネットワーク内にThe Story Lab(TSL)というコンテンツマーケティングを専門的に実施するスペシャリスト集団を立ち上げました。積極的にコンテンツビジネスに取り組み、これまでと違った形でのメディア会社とのパートナーシップを構築しつつあります。そのTSLのチームは欧州で既にいくつかの成功を収めており、その一つがNinja Warrior(日本のテレビ番組SASUKE)のフォーマット販売です。電通は欧州におけるフォーマット販売権を取得し、それをTSLを通じて実施しています。いくつかの国に先行して放送が始まったフランスでは、民放ナンバーワンのTF1で放送され、Season 1から高い視聴率を獲得しています。これについて、先日DAN Franceの幹部が非常に良いことを言ってくれました。「タカシ、電通はDAN Franceを新しい次元に押し上げたんだ。これまでTF1はわれわれに対して『で、来期はいくら広告入れてくれるんだ?』という目で見ていた。それが、Ninja Warriorのおかげで、TF1はわれわれを真のパートナーと思ってくれるようになったんだ。これってすごくワクワクしないか?」

TSLの設立の背景には、近年デジタル化によるメディアの細分化や視聴形態の変化や、メディアバイイングのコモディティー化に伴って、「良いコンテンツを持ったものが勝つ」という潮流になってきたことが背景にあります。DANでは更に、GoogleやFacebookといった「巨人」たちとGlobal Media Partnershipというプログラムを立ち上げ、新たな価値創造に向けた取り組みを始めています。

1901年に日本電報通信社として創業した電通は、当時ニュース配信会社という業態から始まったことから、メディア会社のビジネス開発に寄与する形でビジネスを拡大してきた側面もあります。テレビ局との間での放送権ビジネスや、協働での番組制作に加えて最近ではメディア会社と共同でさまざまなプラットフォームを立ち上げたりもしています。

Ninja Warriorの成功は、まさに電通の先人たちや、仲間たちが創り上げたビジネスモデルの海外展開そのものであり、それがこのヨーロッパでも通用することを知って、ちょっと目がうるんだ瞬間でした。

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フランスで大人気のNinja Warriorは、アメリカやイギリスでも大人気コンテンツ(TF1ウェブサイトより)