おじいとおばあの沖縄ロックンロール #01

4歳の孫から、叱られてばかり

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

「歌って踊るおじいとおばあのこれからを、深く見届けたい」
こう決意したのは、2015年の秋、羽田空港に向かう飛行機の中でした。まさに65歳以上のおじいとおばあのロックンロールコーラス隊が沖縄で産声を上げようとしていたころ、わずか3人から始まった仮練習を見学した帰りのことです。

それから、丸1年。そのコーラス隊「ONE VOICE」は、沖縄最大級の夏フェスに集まった2000人の観客の前で歌と踊りを披露し、沖縄の人たちに広く知れ渡りつつある存在に成長しています。古くからの友人であるコーラスディレクターの狩俣秀己さん(49歳)に誘われ、クリエーティブ面でお手伝いをしながら、その成長の一部始終を見聞きすることができたのは本当に幸運でした。

そして、飛行機の中で決意した通り、1年にわたってコーラス隊のメンバーと深く関わり、その結成からデビューまでを描くノンフィクション、拙著『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)を出版する機会とも巡り合えました。

著書『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』
著書『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』

■高齢化社会を明るく前向きに考える

僕が接したおじいとおばあは皆さん、とにかく陽気で明るい。そして、心持ちが若い。好奇心も旺盛で、挑戦心も若い人より持っているのではないかと思うほど。もちろん、いわゆる高齢化社会の問題を何かは抱えているものの、コーラス隊の活動をきっかけに、持ち前の陽気さや好奇心でそれをクリアし、変わっていく姿を目の当たりにしました。

今や65歳以上の高齢者が4人に1人の時代、10年後には3人に1人になるともいわれています。ところが、そういった数字が示す割には、僕たちのような中年世代や若年世代にはなかなか現実味を持って受け止めにくい事柄でもあります。とはいえ、まだまだ先だからとか、自分たちには関係ないこととあしらっているものの、そろそろ考えても良いころかもしれません。

仕事においてもプライベートにおいても、そしてどの世代にとっても、もはや高齢化社会に順応していくことはごくごく身近な問題です。そこで今回の連載では、高齢化社会を明るく前向きに考えるヒントやきっかけになればと願い、前述の拙著よりコーラス隊に参加するおじいとおばあが繰り広げたリアルなエピソードの一端を紹介していきます。

■特訓は、3世代でカラオケボックスへ

練習中に熱唱するONE VOICEメンバー

 

沖縄の伝統工芸である「琉球紅型」の工房を家族で営んでいる玉城政子さん(69 歳)は、コーラス隊の課題曲を特訓するために、娘さんとお孫さんの3世代でカラオケボックスへ行くことがあります。そんな時、いつもお孫さんから「今歌ったところ、おかしいよ」としかられてばかりとか。このお孫さん、相当の歌好きのようで、保育園への送り迎えの車中ではいつも玉城さんと歌っています。

「4歳の孫は2、3回聴いただけで歌詞をすぐに覚えてしまって、すらすらと歌うんですよ。年のせいかしら、私はいっこうに覚えられません」と苦笑いする玉城さん。コーラス隊の練習の日はメンバーみんなで歌っている声を最初から最後まで録音し、帰宅後つけっ放しのテレビも消して、夕食の支度をしながら家族みんなで聴くのがお決まりのようです。

悪戦苦闘しながらも、慣れないロックやポップスに一生懸命向き合っている玉城さんを三世代にわたるみんなが応援し、温かく見守っています。「以前よりも家に笑い声が増え、明るくなった」と玉城さんはコーラス隊に参加できたことを自分だけでなく、家族全員のこととして喜んでいます。

■おじいとおばあの雄姿が、家族をつなぐ

ステージ衣装に身を包む主要メンバー

ロックンロールコーラス隊「ONE VOICE」は、サークル活動や趣味の集まりではありません。目指しているのはアーティストとしてライブやイベントに出演することや、学校や病院、老人施設などに慰問して歌声を届けること。そんな活動を通して、子どもから孫まで幅広い世代に元気や勇気を与えたい。これがメンバーの思いです。

こうした思いが最初に波及したのが、メンバー自身の家族。「人にやさしく」(ザ・ブルーハーツ)、「海の声」(BEGIN)、「ファンキー・モンキー・ベイビー」(キャロル)など、世代を超えて知られている歌をカバーしていることもあり、歌やコーラス隊を媒介にして家族のつながりを生んでいます。

玉城さんのように、孫や子どもたちと一緒に歌の練習をするようになったメンバーは他にもたくさんいます。ステージに応援に駆け付ける家族の姿もよく見かけます。おじいとおばあの雄姿を見て、決まってみんな驚くようです。地元のテレビ番組や新聞でも取り上げられることもあり、家族や親戚から以前より頻繁に連絡が来るようになったと話すメンバーもいて、身の周りは相当にぎやかになっているようです。

地域の学校や老人施設などで三線の先生をしている前花友克さん(65歳)も、その一人です。前花さんには、上は22歳から下は1歳までの計9人のお孫さんがいます。8年前に奥さんを亡くされ、現在はひとり暮らしですが、コーラス隊のメンバーとの連絡を取るために始めた「LINE」を使って、子どもたちやお孫さんたちとつながるようになりました。「おじい、今日も生きとる」とLINEに書き込むのが最近の日課だそうです。

コーラス隊の存在を知って、息子さんや娘さんから勧められて参加したメンバーもいます。「何の趣味もないんだから、やってみたら」と一緒にカフェを営む娘さんから背中を押された河邉輝代子さん(75歳)は、引きこもりがちで、外に出て人と交わるのもおっくうだったと言います。それが今では、毎週の練習が待ち遠しいほどで、コーラス隊ではムードメーカー的存在です。

ミュージシャンの息子さんに勧められたのは、富名腰雅子さん(74歳)。始めたばかりのころはカラオケボックスへ一緒に行って、息子さんから歌の指導を受けていたと楽しそうに話します。最近では、次々に大きなステージに上がる母親を見て、息子さんがうらやむほど。「おかんはすごいことしているんだから、ちゃんとしなくちゃね」とよく言われちゃうのよ、と笑顔が絶えません。

■やることは一緒、でも行動は別々?

発声やダンスの練習に打ち込むメンバー

コーラス隊「ONE VOICE」には、夫婦で参加しているメンバーが2組います。そのうちの1組が、糸数剛さん(67歳)と秀子さん(65歳)夫婦です。お互いに歌が趣味で、合唱団やオペラも本格的にやっています。さらには、「つよし&ひでこ」という名のデュオとして、ホテルのディナーショーにも出演するなど、プロとしても活動しているのです。

そうしたおしどり夫婦ぶりもいったん歌から離れると、行動を共にすることがほとんどないというから驚きです。家で歌の練習をするときも別々。毎朝、1時間ほど散歩をしながら歌詞を覚えるのが日課になっていますが、家の玄関を出るところまでは一緒。その後は互いに左右の道に分かれ、別のルートを一人で歩きながら、歌詞を覚えています。

でも、こうした糸数夫婦の「つかず離れず」の距離感は人を引き付け、和ませる空気を生んでいるようで、自宅の庭でホームパーティーを開くと多くの友人が訪れるそうです。夫婦といえども四六時中べったりではいろいろ衝突することもあります。だからといって、全く接点がないのも、共に老後を送る上では寂しいでしょう。そういう点では、糸数夫婦は幸運にも歌という共通の趣味であり関心事があった。そのおかげで、絶妙な夫婦関係を築くことに成功しています。

このように、家族や夫婦の関係の中で共通のトピックや場を一つでも持つこと、その中心に自分がいられることで大きな効果をもたらしているようです。コーラス隊のメンバーにとっては、世代をつなぐ歌がその役割を担っているといえます。

■家族から家族へと、広がっていく可能性

 

1年近くにわたっておじいとおばあと接しながら、家族の関係が大きく変わっていく様子や、従来から備わっていた家族との関係づくりの知恵や工夫を教わったことは、大きな刺激となりました。僕自身にとっても、先送りしていた老後やこれからの家族のことについて自分ゴト化するきっかけになっています。

ロックンロールコーラス隊「ONE VOICE」は、今や総勢40人の大所帯ですが、それぞれのメンバーを支えているのは、その家族です。孫から夫婦まで、幅広い世代が周りにいて、コーラス隊を応援してくれています。仮にメンバー1人に10人の家族がいたら、すでに400人のファンがいるということ。ライブハウスがいっぱいになるほどの人数です。

まだ始まったばかりのコーラス隊がすでにたくさんの家族を巻き込んでいて、これからも家族の誰かが他の家族を誘い、さらにそれが広がっていく。このような広がりこそが、このコーラス隊のムーブメントをつくることにつながっていくのではないかと考えています。これまでのアーティストとは全く違う、こんな可能性を秘めているところも平均年齢70歳のおじいとおばあが集う「ONE VOICE」ならではの面白みです。

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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