グローバル最前線 #01

知るべきは「ニーズの深さ」と「その商品が何に代わるか」
〜海外で年間1億枚以上を売る「熱さまシート」の舞台裏〜

  • Miyanishi kazuhito pr
    宮西 一仁
    小林製薬株式会社 国際事業部 執行役員 事業部長

グローバル化が進む中で、企業がアプローチすべき市場も海外へと広がっている。本特集では海外展開を行う企業にインタビュー。具体的な事例を交えながら、グローバル戦略における成功のポイントを浮き彫りにしていく。

熱さまくんのモデルでもある宮西役員
 

小林製薬のベストセラー商品「熱さまシート」。1994年に日本で発売されると、2年後の香港を振り出しに海外へ進出。東南アジアから欧米まで世界約20カ国で展開し、国外で年間1億枚以上を売り上げている。特徴的なのは、同じ商品でありながら、国ごとにパッケージや広告、販売手法を細かく変えていること。そこにはどんな狙いがあるのか。同社執行役員で、国際事業部 事業部長の宮西一仁氏に聞いた。

現地の生活を調べることで、広告の訴求ポイントが見える

 

─ 海外展開の話に入る前に、まず熱さまシートという商品が誕生した背景を伺います。

宮西:もともと気化熱だけで冷えるジェルや、それを不織布に塗布する技術はすでにありました。その技術は非常に面白いもので、もっと使い道があると思ったのです。そこで「体を冷やしたいのは、どんな場面だろう」と考えてみました。日本では昔から、熱が出たときに冷却材や氷枕で頭を冷やす習慣がありましたよね。ならばそれを組み合わせてみようというアイデアでした。

ですから、ジェルの技術や体を冷やす習慣はすでにありつつ、それを「子どもの発熱時に使う」というコンセプトがユニークだったのではないかと思っています。

 

─ 同商品は1994年に国内で発売開始され、今に至るまでヒット商品となっています。そして、1996年の香港を手始めに、マレーシアやシンガポール、アメリカ、フィリピンなど、20カ国での海外展開も行っています。これはどのような経緯だったのでしょうか。

宮西:最初は海外の代理店からの引き合いによるものでした。それで海外展開が始まりましたが、実際に売る中で国によって売り上げや使い方に差が出てきました。当然ながら国の事情もそれぞれ異なりますし、GDPも違います。そこで社員を現地に派遣し、マーケット管理や広告コミュニケーションを国ごとに突き詰めました。

─ 具体的にはどんな現地調査をして、それをどう反映されたのでしょうか。

宮西:知る必要があったのは、熱さまシートがその国の人々にとって「何に代わるものか」。そこでまず調べたのは、子どもが熱を出したとき、現地の人々がしている対処です。薬を飲ませる、濡れタオルや、しょうが湯など自然な療法を行う、あるいはすぐ病院に行かせる。国によって標準的に行われる処置はさまざまです。

その中のどの部分に、熱さまシートが取って代わるのか。これを見つければ、国ごとに広告コミュニケーションで訴求するポイントが分かります。併せて重要なのは、取って代わる部分がいかに深いニーズか。浅いニーズでは、新商品をわざわざ買う行動は生まれません。

とはいえ、それを見つけるのが難しい(笑)。日本なら自分が子どものころを思い出せばいいですが、外国になると生活の想像がつきませんから。それを調べた結果、国ごとに違った広告コミュニケーションが生まれてきました。

 

商品名まで変えた国も。その裏にある“ニーズ調査”

 

─ コミュニケーションの方法を変えた具体的な例を教えてください。

宮西:例えばシンガポールやフィリピンは、医療費が安いので、子どもが発熱するとすぐ病院に連れていきます。そういう国の広告は、「夜に突然子どもが発熱した」というシチュエーションで、病院に行けないけど何とかしたい。薬を飲んでもなかなか寝付かない。そこで「熱さまシートを貼るのはどうですか」と訴求しました。

シンガポールの「熱さまシート」パッケージ
シンガポールの「熱さまシート」パッケージ

ヨーロッパは薬を飲むのが非常に一般的で、ちょっと発熱を感じるとすぐに解熱剤を飲みます。熱が出たら解熱剤ですぐ下げるので、そこでの熱さまシートのニーズは深くありません。一方、偏頭痛で苦しむビジネスマンは多く、会議中でも離席して休む人がいます。ならば、偏頭痛への処置として訴求するのがよいだろうと。そこでヨーロッパでは、パッケージに大きく「Migraine」(偏頭痛)と記して売り出しました。

 
ヨーロッパの「熱さまシート」パッケージ
ヨーロッパの「熱さまシート」パッケージ
 

商品のフォーマットは決まっているので、熱さまシートが使えそうな深いニーズを見つけて、いかにコミュニケーションで価値を持たせるか。そこがポイントでした。

柔軟に対応できるかが、グローバル展開を左右する

 

─ その他に、熱さまシートの海外展開で特徴的なのは、国ごとに売り方が違うことです。日本では12枚入りなどの“箱売り”が主流ですが、海外では2枚売りから箱売りまで、国によってバラバラですね。

宮西:まず前提として、海外では日本より商品コストがかかり単価が高くなります。熱さまシートは特殊な加工技術を用いた製品で、現地での製造は困難。すると輸送費がかかるため、日本の2〜3倍の販売価格になります。加えて、東南アジアなどは日本よりGDPも少ないですから、1回当りの購入単価を下げる必要がありました。

さらに、フィリピンなどで風邪薬を買うと、日本のように瓶に何十錠も入れて売っていません。「3日分ください」と言って手を出すと、その分の錠剤をバラで渡してきます(笑)。そういう文化の国には、箱で売るのはマイナス。1回の購入金額が下がるバラ売りや2枚売りがいいのです。

ただし、フィリピンでは2枚売りが主流ですが、隣国のタイでは箱売りが主流です。これも熱さまシートの特徴で、グローバル展開はワンブランド・ワンコンセプトで広めるケースが多いですが、当社ではあくまでエリアの事情や生活文化を見ながら、国ごとに変えています。

─ その点でいうと、国によっては「暑さ対策」として熱さまシートを売っています。1998年に進出したマレーシアでは、2013年より暑さ対策ツールとしての訴求も始めたそうですね。

宮西:マレーシアで現地調査をすると、寝苦しい夜や渋滞中に使っているという声が多数ありました。であれば、その方面で訴求してみようと。例えば、マレーシアで大統領選があった時期には、プロモーションの一環として、演説を聞きに来る人のクールダウン用に試供品を渡した。これは反応が良くて、皆さんおでこに貼っていました。

マレーシアの大統領選で「熱さまシート」を貼って聞く有権者
マレーシアの大統領選で「熱さまシート」を貼って聞く有権者
 

─ 国によっては暑さ対策を訴求できるのが強みですね。

宮西:ただ、最初から暑さ対策ツールとして広めることはしていません。マレーシアもそうですが、あくまで数年たってから。なぜなら、暑さ対策というニーズは浅いのです。例えば東南アジアはもともと暑い地域で、我慢しようと思えばできる。わざわざお金を払って買うほどのニーズではないですよね。対して、「子どもの熱対策」はニーズが深い。ですから、新しい国に進出する際は、あえて最初は暑さ対策の訴求を避けています。

─ グローバル展開のポイントがよく分かりました。最後に、今後の海外展開についての展望を教えてください。

宮西:当社には150ほどの商品ブランドがあり、それを調べていくと「日本では当たり前のものがこの国にはない」というケースが多々あります。それら一つ一つの市場は小さくても、足していくとそれなりに大きな市場になります。

ですから、今後も現地調査で人々の生活を細かく把握しながら、いろいろな商品を世界に広げていきたいです。

プロフィール

  • Miyanishi kazuhito pr
    宮西 一仁
    小林製薬株式会社 国際事業部 執行役員 事業部長

    1986年入社、東京製品営業部に配属。99年海外留学を経て、2000年Kobayashi Healthcare Europe駐在。11年国際事業部長、12年から現職。

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