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日本発、宇宙ベンチャーの挑戦No.3

宇宙入門! 第3次宇宙ベンチャーブームがやって来た

2016/11/16

これまで欧米がリードしてきた宇宙ビジネス。日本にも宇宙ベンチャーが次々と誕生しています。

今回は「宇宙入門」と銘打って、内閣府の宇宙政策委員会のメンバーであり、電通の宇宙関連業務でも多くの協力を得ている、グローバル・ブレインの青木英剛氏、A.T.カーニーの石田真康氏に、電通の笹川真氏と片山俊大氏が聞きました。

左から電通の笹川氏、グローバル・ブレインの青木氏、A.T.カーニーの石田氏、電通の片山氏

左から電通の笹川氏、グローバル・ブレインの青木氏、A.T.カーニーの石田氏、電通の片山氏

Googleがスポンサーに!「宇宙でも同じようなことが起きている」

笹川:内閣府の宇宙政策委員会のメンバーであるお二人の宇宙との関わりは、いつごろからですか。

青木:私はこの道20年です。アメリカの大学で宇宙工学を学び、大学院時代にはNASAと共同研究をしていました。その後、三菱電機に就職して日本初の宇宙船「こうのとり」の開発に携わりました。

それからMBAで宇宙ビジネスの研究を始め、ビジネスと技術の両方に精通した日本人がほぼ存在しないことに気付き、数年前から宇宙エバンジェリスト(伝道者)として民間宇宙ビジネスの啓発活動を始めています。

石田:宇宙業界歴でいうなら私はそれほど長くはないです。笹川さんと同じくらいでしょうか。本業は経営コンサルタントをしていますが、ハイテク・ITや自動車といった分野を長く専門にしており、宇宙との関わりは世界初の民間による月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」にプロボノ参加したことが最初なので2011年ごろ。

当時入院していて、偶然買った『日経サイエンス』にその話が書いてあり、とても興味を持ち退院してすぐ連絡をしました。

印象的だったのは、Googleが宇宙領域のスポンサーをするということ。自動車業界などでもいろいろな異業種のプレーヤーが参入するケースが増えていますが「宇宙でも同じようなことが起きているのだ」と。その後、講演や執筆、政府委員、本業などいろいろな活動を通して宇宙と接してきています。

©HAKUTO
©HAKUTO
「Google Lunar XPRIZE」に参加する日本で唯一のチーム、HAKUTO。月面ロボット探査を競い合う総額3000万ドルの国際賞金レース

第3次宇宙ベンチャーブーム。宇宙ビジネスは爆発的進化の寸前

青木:5年ほど前は、日本には「宇宙ビジネス」という言葉さえなく、宇宙開発といえば国家主導のプロジェクトでした。ここ数年、官需依存からの脱却が進み、国内に宇宙ベンチャーが続々と登場し始めました。

世界でも同様で、2010年代に急増。現在、世界に約1000社の宇宙ベンチャーがあり、第3次宇宙ベンチャーブームといわれています。

石田:どの産業にもいえることですが、黎明期の産業には、さまざまなコンセプト、プレーヤー、テクノロジーなどがあり、何かが生まれる兆しがそこかしこにあります。今の宇宙ビジネスもそのような状況で、産業のステージが変化する典型的なパターンだと感じます。

青木:従来の宇宙産業のバリューチェーンは「衛星をつくる」「打ち上げる」「サービスを提供する」という3段階で、通信でやるのか、放送でやるのか、地球観測でやるのか、惑星探査でやるのかといった、ざっくりとしたマッピングしかありませんでした。

そこに、GoogleやFacebookが参入したり、今までにないビジネスモデルやサービスが登場したりと、今、状況はかなり混沌としていますよね。

石田:仕事柄、どの産業レイヤーにどのプレーヤーがいるのか、俯瞰図を描いて産業構造を整理することが多いのですが、産業の黎明期や変革期はその整理が難しくなります。2016年の宇宙産業はまさにそのフェーズです。世界中で誰も正確に理解できていない、人によって解釈が異なる状況ですね。

押さえておきたい、3度の宇宙ベンチャーブーム

片山:第3次ということは、第1次、2次のブームは?

青木:第1次の宇宙ベンチャーブームは1980年代です。このとき誕生した企業にはハーバード・ビジネス・スクールの卒業生が立ち上げたアメリカのオービタル・サイエンシズ(現オービタルATK)があります。

人工衛星の製造や打ち上げを行う企業で、国際宇宙ステーションへの物資輸送を行っていることで有名です。今では数千億円の売り上げを誇る上場企業です。

第2次ブームは2000年代前半。ITの進化により、その技術が宇宙開発に転用可能になった時代です。同時にこのころ、アメリカでのトピックスといえば宇宙旅行ビジネスで、ヴァージン・ギャラクティックはまさにこの時代に誕生した企業。ロケットや宇宙船の開発・打ち上げを行うイーロン・マスク氏のスペースXも同様です。

宇宙ベンチャーブームの変遷

石田:第2次と第3次のどこが違うのかといえば、アメリカでは第2次ブームはやはりスペースXの話が中心なのかなと。宇宙へのアクセスをいかに容易にするのかといった点ですね。

Amazon.comの共同創設者であるジェフ・ベゾス氏が設立した、有人宇宙飛行を目指すブルーオリジンも同じく2000年代前半に創業しています。

第3次の特徴といえるのは、アクセスをさらに容易にするための小型衛星専用のロケットであったり、宇宙へのアクセスがより容易になったときに宇宙で何をするのか、つまりアプリケーションやサービスを考える人が一気に増えていることだと思っています。

トラディショナル? ニュー?  宇宙産業の二大プレーヤー

青木:宇宙産業におけるプレーヤーの属性は大きく二つに分かれます。一つはトラディショナルスペース。アメリカならNASAやボーイング社、日本ならJAXA、重工系メーカーや大手電機メーカーなど、いわゆるこの業界において伝統を持つプレーヤーです。

もう一つはニュースペース。急成長している宇宙ベンチャー企業を筆頭に、民間で資金を調達しながら自らリスクを取ってやろうとするプレーヤーです。

ただし、トラディショナルとニューの垣根はなくなっていて、互いに手を組み始めています。ニューからすると、人材もアセットも十分ではないし、技術も一部しかない中、トラディショナルの大企業のリソースを使うことができる。

トラディショナルはニューと一緒にやることで新しい需要を取り込むことができる。共にウィンウィンの状態で宇宙産業全体が盛り上がっていくわけです。

片山:トラディショナルからニューが生まれた経緯や、ニューが急成長している背景は何でしょう?

青木:要因はいくつかありますが、まず資金面でのハードルが下がったことは大きい。第2次ブームのころからです。例えば人工衛星は昔なら何百億円もの費用がかかっていましたが、今は小型化されたことにより1基当たり数千万円から数億円程度でつくれるようになりました。

二つ目に、宇宙そのものが産業として認識されるようになってきました。ロボットやITが盛り上がり、ヘルスケアや医療、脳科学など次々と新たな領域が注目されていく中、残っていたフロンティアが宇宙だった。投資家はいち早く見抜き、資本力のある起業家も仕掛けてきています。

石田:エレクトロニクス、IT・ビッグデータ、AI、ロボティクスなど、少し前は宇宙産業と距離があると思われていた技術が活用され始めていて、伝統的な宇宙技術と融合して、それを起点に、宇宙ビジネスでも新しい何かができると考える人も出てきましたね。

青木:三つ目は、スペースXの大成功です。先駆者がいる=俺もやってみよう!といったフォロワーの起業家が出てくるわけです。ビッグプレーヤーが事例を一つつくることで、俺も俺もと出てくる。これはITベンチャーも同じですよね。

石田:日本のニュースペースの一つであるHAKUTOの袴田武史さんも「宇宙で起業しよう」と思ったきっかけは、アメリカ留学中に「Ansari X Prize」※の優勝チームメンバーが大学に講演に来て、その話を直接聞いて憧れたからだとおっしゃっていました。成功者の話を聞くことが一番いいですね、リアリティーが違いますから。

※Ansari X Prize…Xプライズ財団が運営する、民間による初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテスト。2004年にアメリカで開催され、規定の条件を最初にクリアしたスペースシップワンに賞金1000万ドルが贈られた。

2016年は、宇宙ビジネスの先頭集団を担う座組みが決まる年

笹川:第2次ブームの成功が、第3次を生み出したわけですね。

石田:第2次から第3次へつながる約10年の変化は、実はある程度想定されたものだと私は捉えています。アメリカに行くとニュースペースよりもコマーシャルスペースという言葉をよく聞きます。

これは1980年代にヨーロッパで生まれた概念で、宇宙開発を民間主導型にシフトしていこうというもの。アメリカも10~15年ほど前から、特に地球近傍領域ではこのコマーシャルスペースに大きくかじを切りました。

笹川:それはなぜでしょうか?

石田:今、世界の宇宙産業の規模は30兆円といわれます。うち官需は8兆円弱で残りは衛星放送や通信がほとんど。官需8兆円の約半分がアメリカなのですが、そのアメリカも宇宙予算が潤沢というわけではなく、民間の力の活用が必至だったのです。

最初に華々しく活躍したのが前述のスペースX。国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を官であるNASAが民のスペースXなど何社かに委託し、輸送サービスをNASAが購入する方法を採用しました。計画発表は2006年のことです。

民間の力を活用したいという国を中心とした思惑や空気感、それをチャンスと感じて新しい技術や資金で果敢に挑みたいという起業家や投資家などのプレーヤー、従来からずっと宇宙ビジネスをけん引してきた大手企業、それぞれの動きが同時多発的に起き、そのタイミングが合って今に至るという全体像があります。

青木:機は熟しました。世界的に見ても宇宙ビジネスのプレーヤーはほぼ出そろっています。2016年中にはその先頭集団を担う座組みが決まるはずです。

次回は、宇宙の四つの最新トレンドについて迫ります!