欧米サービスデザインの今

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    岡田 憲明
    株式会社電通 CDCエクスペリエンス・デザイン部

はじめまして。CDCエクスペリエンス・デザイン部の岡田です。10月26日~28日、アムステルダムで第9回目となる「Service Design Global Conference」が行われました。世界42カ国から600人以上のゲストが参加。4人の基調講演者が、今年のテーマである 「Business as Unusual」という主題の下にサービスデザインの公演やブレークアウトセッションが行われました。

サービスデザインとは

まずは、サービスデザインについて簡単におさらいをしておきたいと思います。サービスデザインはサービス提供者の視点ではなく、顧客の体験価値を重視したサービス創出を目的とし、そのサービスを実現する一連の顧客体験をデザインする行為となり、優れたサービスを生み出す手法として欧米を中心に浸透してきています。

この背景には、企業が保有する生産物やテクノロジーのみに価値を置くのでなく、それらを使ってどのように顧客体験を提供するかが企業の優劣を決める争点になってきた事。そしてそれらに付随するサポートやケア、外部サービスなど含め、複合的かつ持続的な体験価値を提供する必要が出てきた事があります。

Service Design Global Conferenceの様子

このような背景の中で、顧客の体験価値を重視するサービスデザインは有効なアプローチであると考えられます。しかしサービスデザインが扱う多様性、規模の大小、また日々変化する時代の中で、サービスを創出するという事に共通の定義や対象範囲を規定する事は難しく、最後の実装やビジネス化を行うまで、さまざまな挑戦すべき課題があると思います。

今回のカンファレンスを主催するサービスデザインネットワーク会長のBirgit Mager氏は「サービスデザインの歴史はまだ浅いが、メソッドやプロセスがさまざまな分野で開発、実践され徐々に拡大するフェーズに入っている」と説明していました。そのような状況の中、各セッションで実践的な事例をベースに、それぞれのスピーカーの専門性や取り巻く環境で、サービスデザインの最新手法、アイデア、観点などが紹介されました。今回は、「事業のデジタイゼーション」と「サービスデザインの組織」をテーマにしたセッションをレポートします。

サービスデザインネットワーク会長のBirgit Mager氏

自動車体験のデジタイゼーション

基調講演ではBMW社のユーザーエクスペリエンス部門責任者のHolger Hampf氏が「Digital–Emotional」というタイトルで、自動車業界にとっても無視出来ないアナログコンタクトポイントのデジタル化をテーマに、プレゼンテーションを行いました。デジタル化の進展や、社外のデジタルサービスは既存のビジネスに大きく影響し、あらゆる領域でデジタル化の必要性が突きつけられています。

彼の話は製造業のデジタル化についてですが、事業の変革が求められている他業種においても共通点の多い話ではと思います。Holger氏は新しいテクノロジーを使った運転体験のデジタル化は大きなチャンスと捉えており、未来を見据えたエモーショナルな新しい車内顧客体験を描いているようです。

BMW社ユーザーエクスペリエンス部門責任者のHolger Hampf氏

BMWでは個人を対象とした、運転する喜びに関する車の顧客体験が依然存在するものの、既にコモディティー化しており競争優位にはならないと考えているようです。次の時代に訪れると予想する車のデジタルデバイス化、その事からおこるネットワークサービスの提供、また数十年後には車内がリビングルームに居るような顧客体験になるのではというパラダイムシフトを描いているようです。ここでは技術の進化を見据える事はサービスデザインをする上で大きなチャンスだと説いていました。

BMW社ユーザーエクスペリエンス部門責任者のHolger Hampf氏

次のトピックは外部サービスと顧客行動です。外部のデジタルサービスの影響力は大きく、どの業界においても市場破壊や顧客体験の再統合を意識せざる終えない状況です。ソフトウェアサービスやIOTの体験と車内での体験はコネクティッド時代において同一線上にあり、それら外部サービスと上手く融合し、全てがネットワーク化され、なおかつ更新性のある一つの顧客体験を考える事がサービスデザインをするうえで重要になり、これからの自動車業界においても例外ではないと語りました。

BMW社ユーザーエクスペリエンス部門責任者のHolger Hampf氏

エモーショナルな顧客体験作り

最後にHolger氏のお気に入りのコネクティッドシティーにおけるカーコンセプトの画像が紹介され、今後もサービスデザインの事を考えたいと語りました。

Holger氏は、ただ機能的なサービスによる顧客体験を作る事よりも、アイコニックなプロダクトから派生したエモーショナルなサービスによる顧客体験作りを目指しているのではと感じました。特に自動車のような、かつて個人が愛着を持つプロダクトという「モノ」で勝負していた業種におけるサービスデザインは、ユーザーとのコンタクトポイントで心を動かす、エモーショナルな体験設計を特に重視する必要があるのかもしれません。

大企業に飛び込んだ有名デザインファーム

アメリカ大手銀行apital OneのデザインヘッドJamin Hegeman氏

次にレポートするのは、アメリカ大手銀行Capital OneのデザインヘッドJamin Hegeman氏による、大企業内でどのようにサービスデザインを行うべきか、というプレゼンテーションです。Jamin氏は、Capital Oneに買収された老舗デザインファームAdaptive Pathのデザインディレクターでした(この買収は業界内で話題になりました)。

サービスデザインのような顧客志向のアプローチを大きな組織で実践していると、組織構造の問題や、異なる文化のぶつかり合いなどに直面すると思います。Jamin氏は、まさにその難題にぶちあたり、その出来事を整理して挑戦すべき点をまとめています。このサービスデザインと組織というトピックは、他のスピーカーからも多く語られており、優れた顧客体験を持続的に生み出すための組織作りはホットなトピックだと捉えられているようです。

デザインを実行する機能が、組織のどの位置にいるかはサービスデザインの精度にも大きく影響します。Adaptive Pathが買収された当初は、Capital Oneの限られた範囲のデザインに関わるだけだったようです。組織の中心に居るとアプローチしやすくなりますが、サービスデザインの効果を真に発揮するためには、さまざまな事業部門を巻き込み顧客体験を中心としたサービスの統合的な共創が必要で、それは同時に組織の問題にも踏み込む事だと述べました。

ここに至るまでに経営陣へのコネクション、各事業部へのサービスデザイン啓発、デザインとビジネスマインドの橋渡しなどさまざまな挑戦をしているようです。これは42000人のCapital Oneに対してAdaptive Pathは30人しかいなかった事を考えると相当な苦労が想像できます。

サービスデザインとビジネス実務を融合させる事は簡単ではありません。Jamin氏はサービスデザインのエンゲージメントモデルを、外部、埋め込み、掛け合わせとし、それぞれメリット・デメリットをまとめていました。当然エージェンシーやインハウスのサービスデザイナー全てが、組織や経営者を巻き込んだ大きなサービスデザインを実施出来るわけではないと思います。彼のモデル例はどのようなサービスデザインを提供するか、というポイントがうまくまとめられていると思います。

顧客体験と従業員体験を同時にデザインする

サービスデザインでは組織をどのように顧客中心のマインドセットに出来るかが大事です。優れた顧客体験を提供するためには、会社の構造、文化、スタッフなどに踏み込むべきです。しかし大きな組織では容易な事ではなく、Jamine氏は「サービスデザインの実施は、時間がかかり進め方も難しいものだと知る必要がある」と語っています。

これは、優れたサービスデザインを提供するうえで避けて通れる事ではなく、他のセッションでも組織の風土変更に着手するなど組織について紹介するスピーカーが多く見られました。サービスデザイナー達は、サービスデザインを実施するための組織作りに試行錯誤しているように思えました。

サービスデザインとは誰の仕事なのか?

カンファレンス全体を見ると、サービスデザインで事業をどう改革するか、組織をどう改革するかというトピックが多かったように思いました。これはとても大きな課題であり、サービスデザインとは一体どのポジションの人間がやればよいのかという事を考えさせられました。

 SpotifyのKatie Koch氏のセッションでも、サービスデザインとは一体誰の仕事なのか? という切り口でサービスデザインのプロセスを語っていました。望ましいのは、全ての部署がサービスデザインという顧客中心の思考を持つ成熟した組織である事。このような難しい企業課題を取り扱う事を考えても、まずサービスデザインを理解すべきは、意思決定権を持つ経営層であるように思います。近年コンサルティング会社だけでなく、デザインファームがCEOのアジェンダを取り扱う事が増えてきているのも、このような背景があるからだと感じられました。

プロフィール

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    岡田 憲明
    株式会社電通 CDCエクスペリエンス・デザイン部

    武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業、印刷系会社でデザイン職を経た後に渡米、ニューヨーク大学修士課程修了、米国大手新聞社R&D に在籍し、ヴィジュアリゼーションをはじめとしたジャーナリズムの研究に携わる。2011年に電通入社、CDC局エクスペリエンス・デザイン部において、デザイン視点による事業支援、UI デザインディレクションに従事する。武蔵野美術大学の非常勤講師としてデザイン教育にも携わっている。

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