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アルスエレクトロニカ2016レポートNo.3

未来のウエアラブルは、「社会課題発見装置」!?

2016/12/21

はじめまして。
第2CRプランニング局/デジタル・クリエーティブ・センター所属の大瀧です。プランナー・テクノロジストとして、新しいエンタメ体験を提供するデジタルプロダクトやそれに付随するコミュニケーションの企画・制作を多く担当しています。下記はそれらの一部です。

詳しくはこちらをご覧ください 。「トントンボイス相撲」他。
 

そんなものづくり好きな私が紹介する作品について、少しずつ説明していきます。アルスエレクトロニカの出展作品には、インターネット活用作品、映像作品、アナログなアート作品まで非常に幅広いジャンルの作品があります。今回はその中から、自身のフィールドでもあるデジタルプロダクトの注目作品を紹介したいと思います。また最後には、広告会社の人間としてこの作品たちを「今後どう生かしていくか?」そして、「アルスエレクトロニカへ行く意義」ついての考察を記します。

デジタルデバイス作品だけでも膨大にあります。
私が気になったジャンルに絞りますと、ファッションへのテクノロジー活用を中心にした、ちょっと未来を感じるウエアラブルデバイスの事例をご紹介します。
ここでは代表的なものを三つ。最初は「Environment Dress 2.0」です。

Environment Dress 2.0:外部環境に応じて形状が変わる服

詳しくはこちら(動画)をご覧ください。
Environment Dress 2.0(uh513 / María Castellanos, Alberto Valverde)
 

インパクトの強さに思わず見入った作品でした。これは、周りの生活環境や人の気分・振る舞いといった目には見えないレベルの情報を感知し、形状が変化するスマートドレスです。例えば、騒音がひどいときや、空気が汚れている場合には、普段は後頭部に折り畳まれているマスクが顔を覆う形状になります。各種センサーが搭載されており、ノイズや気温、気圧、紫外線、一酸化炭素の量を日々の生活の中で解析し、位置情報と共に記録していきます。その全ての情報がアプリを通してドレスの形状を変化させ、ユーザーの気分にコネクトしていく作品です。また、環境が与える気持ちの変化をプロットしたマップをつくる構想もあるそうです。
二つ目にご紹介する事例は、「Incertitudes」です。

Incertitudes:外部音に応じてピンが反応するドレス

詳しくはこちら(動画)をご覧ください。
Incertitudes(Ying Gao)
 

こちらも無数のドレスメーカーピンで覆われた一見不思議なドレスです。よく見ると、外部音に応じてドレス上のピンが動いていました。これは観客が出した声や音によって動くインタラクティブドレス。ピンの動きは不規則で、メッセージの内容も理解はできません。しかし、ピン全体の動きを通してなんとなく服と会話をしているかのようなエンゲージメントを作る作品。名前にもあるように「不確実性」がテーマ。人間関係のメタファーでもあるそうです。

あえて明確なインタラクションではなく、アバウトなアウトプットとすることで得られる不思議なリアルさもあるのだなと感じました。
三つ目にご紹介する事例は、「Caress of the Gaze」です。

Caress of the Gaze:人の視線を認識&レスポンスする人工肌

詳しくはこちら(動画)をご覧ください。
Caress of the Gaze(Behnaz Farahi)
 

もし私たちの服が他人の視線を認識してレスポンスできたら? それを実現したのがこの作品です。例えば、このデバイスに向かってジッと見つめると、まるで動物が威嚇するかのようにトゲトゲしい毛が動き出します。3Dプリンターや画像認識技術を用いて実現しています。

この作品の狙いは、人間の“第二の肌”になること。私たちの肌は、気温や湿度といった外的環境や緊張・恐怖といった気持ちの変化で汗をかいたり、鳥肌がたったりします。そうではない新たな軸として「人の視線」のインプットに対して、皮膚がアウトプットすることを表現しているそうです。

これまでの作品とも共通して、私たちの身に着けるウエアラブルデバイスは、ソーシャルイシューを明らかにするインターフェースになっていくのだなと感じました。このあたりを、事例からの私の考察として、最後のまとめで掘り下げようと思います。

未来のウエアラブルは、「課題発見装置」。

上記で挙げた作品が気になった理由は、ウエアラブルデバイスの存在意義に新しい流れを感じたためです。過去から現状までのウエアラブルと呼ばれるものは「身に着けた人へ、メリットを提供する」が主目的だと思います。
VRで非日常な体験を提供してくれたり。AppleWatchで情報を提供してくれたり。

しかし、当人への何かしらの体験や情報を与える狙いでいえば「インプラント」という次の概念で上書きされるともいわれています。身体とコンピューターが一体化していくのです。コンタクトレンズが直接モニターになっていたり、筋肉に超音波を流すことでプログラム通りに身体を動かしたり。

では、物理的に身に着けるデバイスは、完全に消滅するのか? そうでもなさそうです。アルスで見たウエアラブルは「社会課題を浮き彫りにするセンサー」を目指しているのではないでしょうか。前述の事例でいえば、服を自分と社会とのインターフェースとして「大気汚染を浮き彫りにする」、「ジェンダーや個人のアイデンティティーに関する課題を浮き彫りにする」、そしてそれらを社会へ突きつけるためにつくられています。

つまり、未来のウエアラブルの存在意義は、自分と社会との関わりをあぶり出すインターフェース、「社会課題発見装置」なのだと思います。

 

広告会社がアルスへ参加する意義

今年のカンヌライオンズPR部門のグランプリ「The Organic Effect」は、課題発見・事実発見のクリエーティビティーが突出しているものでした。既存課題に対するソリュ―ションのアイデア勝負の土俵から抜け出すには、課題とファクト抽出のアイデアから勝負することが必要なのだと思います。アルスではその種がごろごろ転がっています。前述した、未来のウエアラブルたちがまさしくその一つではないでしょうか。アルスは「社会への問いとなる事実をあぶり出し、投げかける」祭典かもしれません。一方、ソリューションまで踏み込むものは少ないともいえます。そこはわれわれの領域とマッチングできる余地ではないでしょうか。

カンヌはソリューションのアイデアを評価され・手に入れるために行くのに対し、アルスは新規性・独自性のある課題発見の種を入手するために行く。
二つの経験・知見をミックスすることで、より高次元なソリューションを開発していく。
それが、われわれ広告業界の人間がアルスへ行く意義の一つかもしれません。

次回は第4CRプランニング局のアートディレクター小柳さんによる、アルスエレクトロニカから見た「アートディレクションとテクノロジー」についてのレポートです。これまでの3人ともまた違った角度のレポートとなります。お楽しみに!