電通を創った男たち #19

電通電波ビジネス黎明期の牽引者

木原通雄(18)

  • Okada
    岡田 芳郎

リアリストでロマンチスト。辣腕で機敏。

 

追悼座談会

昭和30(1955)年3月4日の「電通週報」は2ページを費やして「故木原氏を語る」座談会を掲載した。冒頭に次の文がある。「不慮の死を遂げた電通ラジオ・テレビ局次長木原通雄氏は、電通入社以来、広告界の新媒体たるラジオと取組み、その生命とも言うべき企画制作の責任者として優れた才能を発揮した。またテレビジョンの登場に当っては、アメリカに派遣され、その理論と実際に関して現地において究め、そのたくましい咀嚼力で短時日にもかかわらず常人の及ばぬ収穫を収め、テレビ啓発に大いに尽くした。ラジオ・テレビジョンともに木原氏の今後に期待するところが多かったのに、その死は多くの人々から惜しまれているが、本紙は故人を深く知る人々に集まってもらい、その思い出を語ってもらった。なお三越岩瀬社長、日本化薬原社長、日本輸出入銀行牛場常任監事からも語ってもらった。」

出席者は、新友印刷株式会社社長・後藤勇、文芸春秋編集局長・池島信平、松坂屋常務取締役・飯田美稲、詩人・菊岡久利、森永製菓株式会社常務取締役・稲生平八、政治評論家・御手洗辰雄、文化放送・加藤彪二、(司会)東京新聞社理事・唐島基智三。電通側から、常務取締役・日比野恒次、企画調査局長・杉山栄一郎、ラジオ・テレビ局付部長・升金種史が参加した。この顔ぶれを見るだけで、木原の仕事、交友の広さ、深さがうかがえる。

見出しを書き記す。「政界の裏面に通ず “報知”を飾った官邸詰記者」「終戦の詔勅を書く 出なかった内外新聞」「近衛内閣に協力 対重慶声明放送問題でもむ」「すぐ決まった電通入り 番組企画に筋金通す」「実現性に富む評論 手紙にもあふれた建設的意見」

座談会は、木原の社会生活の第一歩が報知新聞の政治記者から始まった話から始まる。昭和9年ごろ、黒いボルサリーノの立派な帽子をかぶって、先輩にかみつくように喋っていた。酒を飲んだ時の得意な話に二・二六事件の秘話があった。終戦の詔勅を書いた。「サロン」という雑誌を主導した。報知退社後は新聞を作る念願だった。大手企業の宣伝部長を集めて毎月1回時局談を話した。ラジオの番組企画に非常に力を注いだ。木原の評論の特徴は具体的な解決策、建設的意見がとてもあり、実現性を持っているところが他の評論家にない特性だった。達筆であり文章はすばらしかった。リアリストであるが大変なロマンチストだった。よくあれだけ酒を飲んでよくあれだけ本を読み勉強できたものだ。27歳のときに書いた高杉晋作論は、開国的な考え方が明治維新を推進していったことを述べており、卓見だった。木原は先輩友人に非常に愛された。

…などなど木原を縦横に語る話は尽きなかった。

座談会とは別に3人の談話が載っている。三越社長・岩瀬英一郎は、「広告界にとって貴重な企画家」と木原を讃え、これは彼の「永年にわたるジャーナリストとしての経験、評論家、警世家としての広汎な活動経験の蓄積から自然に生まれたもの」と述べた。日本輸出入銀行常任監事・牛場友彦は、「政治家の素質も十分で文筆も一流」と述べ、彼の死を惜しんだ。日本化薬社長・原安三郎は、「才知に優れ、策をめぐらしたら一流どころだったが、人間は極めて純情で素直だった。いまどきそこいらには見当たらぬ人物」と述べた。

木原氏を語る

この座談会記事の末尾に、木原の主な著書として、「現代政治の危機」「新政治への展望」「日本政治の新秩序」「高杉晋作論抄」「ヒンデンブルグの悲劇(翻訳)」「魔法の窓(翻訳)」が紹介されている。そして「略歴」がある。

「明治四十一年十二月四日、下関市清水町に生まれ、昭和五年早大英文科二年修了とともに報知新聞に入社、政治部に勤務、同十三年、国民新聞編集総務となる。同十五年国民新聞を退社、世界政治研究所の創立に参加、外務省、大東亜省の嘱託となる。同二十年鈴木貫太郎内閣の嘱託となり、終戦工作に従い、終戦の詔勅を執筆した。戦後、追放解除され、二十七年一月、電通ラジオ局顧問となり同年三月、ラジオ局制作部長、同四月ラジオ局次長となった。」

もし木原通雄の生涯を記述するとすれば、学生時代の才気と友情、新聞記者時代の辣腕と機敏、省庁・内閣嘱託時代の見識と達文、電通時代の先見と企画を描くことになるだろう。そしてどの場においても人を惹きつける不思議な魅力について謎を語るだろう。

 

(写真上)木原を偲ぶ話しは尽きなかった、(下)「電通週報」に掲載された「故木原氏を語る」

(文中敬称略)

プロフィール

  • Okada
    岡田 芳郎

    1934年東京都生まれ。早大政経学部卒。56年電通入社。コーポレート・アイデンティティ室長、電通総研常任監査役などを務め、98年退職。著書に『社会と語る企業』(電通)、『観劇のバイブル』(太陽企画出版)、『日本の企画者たち~広告・メディア・コンテンツビジネスの礎を築いた人々~』(宣伝会議)など。

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