おじいとおばあの沖縄ロックンロール #05

この快感、クセになりそうやわぁ

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

沖縄で産声を上げた平均年齢70歳のロックンロールコーラス隊「ONE VOICE」は今、現地でちょっとした人気者になっています。沖縄を訪ねた際、食事に行く先々のお店で「おじいとおばあがやっているコーラス隊って、知っています?」と尋ねてみると「あ~テレビでやってるの、この間見たさぁ」とにこやかに答えてもらえます。

結成当初から地元のメディアが紹介してくれているのもあって、その存在は徐々に浸透しているようです。最近は、QAB(琉球朝日放送)のステーションキャンペーンCMにも出演しているので、ますます目にする機会も増えたといいます。

コーラス隊のこれまでの活動を追った拙著『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)も書店のみならず、沖縄ではコンビニにも置かれるようになりました。大型書店ではランキングにも入ったり、地元の新聞の書評で紹介されたりと、本を通じてONE VOICEを知ってもらえることもあり、うれしい限りです。

イラスト
イラストレーション たにあいこ(書籍から引用)

■体が変われば、気持ちも変わってくる

昨年末から1年近く、メンバーのおじいとおばあと接していて明らかに変わったことがあります。それは服装です。見た目が明るく個性的になり、どんどん若返っています。メンバーそれぞれが普段から、おしゃれや身だしなみに気を遣うようになりました。

週1回の練習でも外出してメンバーの前で歌うという機会を持つことが、身だしなみへの気遣いを芽生えさせたようです。さらに、ONE VOICEは趣味やサークル活動ではなく、ステージに立ってみんなに勇気と元気を与えるアーティストだという意識が根付いてきたことで、人前に立って見られるから、おしゃれもしなきゃ!という思いも強くなっているのでしょう。

最初のころの様子をまとめた映像があります。これはステージで衣装を着て人前で歌ったり、拍手や声援を受けたりする前のメンバーの姿です。今のように街を歩いていると声を掛けられることが多くなる以前のこと。希望に満ちているものの、実際これからどうなっていくんだろうと周りのスタッフも、僕も、全く分からない時期の様子です。

 

それがさまざまな経験を通して、まず服装が変わり、印象が変わり、そして表情までもがどんどん変わっていきました。毎回の練習でヒップホップダンスを取り入れているのもあり、背筋も伸び、姿勢や立ちポーズもしゃんとしてきたように感じます。体が変わってくると、気持ちも変わってくる。その相乗効果がうまく機能しているようです。

それでは、コーラス隊のメンバーがどんな経験を通して、そうなっていったかを紹介していきましょう。

■『ロックに生きる』イメージの服装で歌う

生き生きとした表情のメンバー
生き生きとした表情のメンバー

おしゃれということでは、大きなターニングポイントがありました。それは今年の3月に初めて行った特別練習での出来事です。

まるで小学校の遠足のように、メンバーはキョロキョロ、ソワソワしています。この日の練習はいつもと違って、会場が沖縄県北谷町にある老舗のライブハウス。地元の人気ミュージシャンたちが出演しているステージで練習します。

これまで、浦添市にある練習室で行ってきましたが、1カ月後に那覇で行われるイベントに参加することが決まったのです。ステージに上がり、人前で歌う。おじいとおばあにとっては初めての経験です。

「一度、本番さながらの体験をしておいた方がいい」。コーラスディレクターである狩俣秀己(49歳)さんは、いきなりステージに上がるのはメンバーにとって酷だろうと考え、ライブハウスという環境でさらに生バンドの演奏に合わせて歌ってみることにしました。

さらに、狩俣さんは特別練習の1週間前、メンバーに一つの提案をしました。「せっかくいつもしない体験をするのだから、格好もいつもと変えてみましょう」「それぞれ『ロックに生きる』イメージの服装で来てください」

突然そう言われてどうしていいか想像もつかず、キョトンとしているおじいとおばあたち。狩俣さんはそんな様子を見て不安がよぎりました。しかし、その思いを打ち消すように、当日ライブハウスに集まったメンバーはそれぞれが考えた「ロックに生きる」格好をして、とても楽しそうだったのです。

初期メンバーで、ONE VOICEの看板曲「人にやさしく」(ザ・ブルーハーツ)を歌う前花友克さん(65歳)は、「コーラス隊の練習がある毎週水曜はそれでなくてもソワソワするのに、今回は古着屋へ買いに行くときからもう興奮しているさぁ」。買ってきたジーンズをはくことで、より気分が盛り上がったと大きな目をいつも以上に見開いて話してくれました。

最初は恥ずかしそうにしていたメンバーも、おめかししてステージに上がり思いっきり歌うことで、その気持ちいい快感を味わってなんだか吹っ切れたようです。この特別練習によって、おじいとおばあの意識は見事に変わり、歌に打ち込む姿勢も、人前に立つための自分の見せ方も変わっていきました。

■人前で舞台に立つことがモチベーションに

ステージ衣装に身を包むメンバー
ステージ衣装に身を包むメンバー

2016年4月22日はONE VOICEにとって記念すべき日。那覇市で開かれたイベント「沖縄国際映画祭」のステージに上がり、初めて人前で歌います。初練習から半年足らずにもかかわらず、そんな機会に恵まれて、これまでの成果を観客の前で披露することになりました。

コーラス隊のデビューにあたり、僕はコーラスディレクターの狩俣さんからステージ衣装の相談を受けました。そこで、好みや年代を選ばないシンプルなスタイルにすることに。全体の配色はおじいとおばあの渋さを際立たせるため、黒や紺色系のモノトーンに統一。黒のVネックのTシャツを着て、体格を補うために紺色のスカーフを首元に巻き、さらにハットをかぶってONE VOICEの象徴となるアイコンをつくることにしました。

メンバーが実際に着て並ぶと、想像していた通りチームとしての一体感が色濃く出ます。何よりもおじいとおばあの表情が実にうれしそうで、誇らしげです。周りにいたスタッフからは思わず「かっこいい~」「しぶ~い」という声が上がり、メンバーもぐっと自覚が高まったようです。いよいよ人前に立って歌うんだという意思もしっかりと伝わってきました。

本番を無事やりきり、ステージから下りてきたメンバーはいつも以上に冗舌になって、控室は大騒ぎ。興奮冷めやらぬ感じで、顔も火照っています。そして、一つのことを達成した充実感にあふれ「やるときにはやるのよ」と言っているような、何とも晴れ晴れとした笑顔だったことが今でも忘れられません。

その後BEGINが開催している「うたの日コンサート」にも出演し、人前で舞台に立つことがおじいとおばあたちにとって大きなモチベーションになっているようです。初期メンバーの河邉輝代子さん(75歳)は「大きい舞台を踏むのは恐ろしいけど、何だかとてもうれしくなって。この快感、クセになりそうやわぁ」と満面の笑みで話してくれます。

■メンバーそれぞれの勝負アイテムなるもの

メンバーの勝負アイテム

 

こうした特別な経験は大きなきっかけにはなっていますが、それだけではありません。普段の練習の中で、ONE VOICEを通して自分を表現することは歌だけではなく、表情やしぐさ、服装でも大切なんだと多くのメンバーが気付き始めています。

練習のときから、お気に入りのものを身に着けて頑張りたい。あるいは、普段は身に着けないもので気持ちをガラッと切り替えたい。ある時期からそう思うメンバーの間に「勝負アイテム」なるものが目につくようになりました。

練習のときにいつも身に着けてくる小物で、何度も着けているうちに、コーラス隊の中では験担ぎにもなっているようです。前花さんのトレードマークはタオルのねじり鉢巻き。初めての練習のときから、いつも頭にきゅっと縛ってダンスや歌の練習に励んでいます。そのしぐさ、ポーズはいかにも「沖縄のおじい」という感じでほほ笑ましく、地元テレビ局などの取材ではそんな前花さんがよく映像で取り上げられます。

家族で紅型工房を経営する、やや天然系の玉城政子さん(69 歳)は、最初のころはメガネを掛けていましたが、いつの間にかコンタクトに変え、メークもばっちりするように。まさに今が、青春まっただ中という感じに見えます。

外でのイベントに出演するときは移動が多かったり、階段の上り下りがあったりします。ステージでも踊ったり、軽く飛び跳ねたりするので、動きやすいスニーカーを履く人が多い。その中で、司法書士事務所で働いている阿嘉京子さん(67歳)だけは、ハイヒールをさっそうと履きこなしています。色も真っ赤だったり、輝くシルバーだったり。普段からお洒落に気をつかっていますが、本番だからこそ勝負アイテムで自分らしく決めたいと気合が入っているようです。

■第二の人生を楽しむための「カワイらしさ」

わずか1年足らずで、生き生きと若返り元気になっていくおじいとおばあを見ていて、たくさんのことを教わりました。その中でも特筆すべきは、周りの幅広い世代と交わっていくための大事な秘訣として「愛嬌」を持つ、ということです。

たとえうまくできなくても、下手でも恥ずかしがらず、無邪気に熱中するONE VOICEのメンバーたちの姿は、失礼だけれどカワイらしくてチャーミングでした。まさに「愛嬌」があって、思わずほおが緩み、愉快な気持ちにさせてくれる。そうなると無条件に応援したくなるし、助けたくなる。

第二の人生を思う存分楽しむためには、周りから「カワイイおじい」と思われることが大切なんだと身に染みて知らされました。果たして、自分はそんな愛嬌を身に付けることができるのだろうか…。まだまだ不安ですが、あるべき姿の輪郭がはっきりと分かったような気がしています。

 

連載はこれで最終回です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。よろしければ、ぜひもう一度こちらの映像をご覧ください。おじいとおばあのカワイらしい姿に癒やされ、きっと元気と勇気がもらえるでしょう。

そして、まだまだ走りだしたばかりのONE VOICEですが、この先もちょっぴり気に留めていただければうれしいです。

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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