DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #62

『広告をナメたらアカンよ。』と感じ続けてもらうために。

困りました。非常に困りました。とてもおもしろくて夢中になって読んだのですが、コミュニケーションの本質を語る言葉の鋭さのあまり、気付けば付箋だらけになってしまっていて、引用だけで本稿の枚数が尽きてしまいそうだからです。

今回ご紹介する一冊『広告をナメたらアカンよ。』(宣伝会議刊)は、「ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ」「変われるって、ドキドキ」「未来は、希望と不安で、できている。」など、きっと皆さんもご存じの(個人的にもとても好きな)コピーを書かいているコピーライター/クリエーティブディレクターであり、現在は大学で教壇にも立つ山本高史氏の著書です。

『広告をナメたらアカンよ。』

「時代/社会/人間」の視点で広告を読む

本書は、「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」から「みんながみんな英雄。」まで25の広告を「時代/社会/人間」の視点で読み解くことでコミュニケーションの本質に迫っていきます。

著者は、「時代/社会/人間」における受け手と送り手の合意から広告が導き出されていると説きます。

送り手がその「時代/社会/人間」を受け手と共有し、より豊かに深く認識・理解していることで、受け手の共感性の高い、つまり彼らの状況に対して最適な(広告効果を最大化する)提案を行えるのである。(P38、39)

例えば、2000年のトヨタカローラの「変われるって、ドキドキ」という著者のコピーは「21世紀を直近に控えた時代に/ITを核に変化を始めた日本社会において/これからを模索する50代を中心とする大人」という受け手の状況に対して送ったメッセージである(P36)、といいます。この視点で古いものから新しいものまでさまざまな広告を読み解いていきます。

「営業」が「クリエーティブ」を読むとき

広告会社の若手の「営業」が、「クリエーティブ」関連の本を読む動機はだいたい、クリエーティブプレゼンで営業としても気の利いた一言が言えるようになりたいか、テレビCMの撮影現場で「今の良かったですね!」と自信を持って言えるようになりたいか、クリエーティブメンバーとのブレストで同じところで笑えるようになりたいか、広告業界で働いているということを思い出したいかのどれかだと相場が決まっています(笑)。

ただ、お世辞にも自ら若手とはいえない「営業」の自分が本書を手に取ったきっかけは、まさに目の前で制作している広告と、「営業」が日々の業務の中で積み重ねるコミュニケーションそのものとの関係性が気になりだしたからです。

言葉は、送り手が受け手を自分の望む方向へ動かそうとするものだ。それを叶えようとするのならば、「受け手の言ってほしいことを言ってあげる」必要がある。「受け手の言ってほしいことを言ってあげる」とは、なんとも善良な字面ではあるが、その実は「送り手が自分の欲望を満たすために、受け手の欲望を叶えてやる」ことに他ならない。(P181、182)

この言葉は、広告制作についての言及ですが、日々のクライアントやチームメンバーとのやりとりにおいて「営業」こそが意識すべきコミュニケーションそのものの本質ではなかろうか、とふに落ちました。

そんなふうに、今一度「広告」そのもののことを考えている現在の自分にとても響いた切れ味の鋭いフレーズをもう一つだけ紹介させてください。

広告が欲望を煽ることに眉をひそめる向きもあろう。しかし欲望が露わな世の中は、ある意味健全である。欲望がない、もしくは欲望が抑圧された社会になど、暮らせるもんか。(P259)

「営業」として広告制作の現場にいると、この商品をひとりでも多くの人に届けたい!というクライアント側の欲望ばかりに視点が向きがちになってしまいますが、そもそも商品が売れるということは生活者の側の欲望をかなえることにもなるということなのだと、当然のようで、とても深い本質を再確認させられて、ハッとしました。

「広告をナメたらアカン」理由とは?

「いいコピーとは、どんなコピーか?」と問われたら「売れるコピー」と即座に回答するという著者の筆致は「営業」としても心地良く読み進められます。

著者とは少し異なる視点かもしれませんが、個別最適化だとか、One to Oneマーケティングだとか、「広告」ではなく「個告」だとか叫ばれている今という時代の広告業界において、それでもクライアントの皆さまには「やっぱり広告をナメたらアカンな」と感じ続けてもらいたい。そんな「営業」として、(自戒の念も込めて)シビれた一節は、「おわりに。」に記された以下のメッセージです。

「広告をナメたらアカンよ」とは大きく出たものの、まあナメてもいいんです、広告だから。ホントにナメちゃアカンのは、コミュニケーション。
空っぽの言葉を使うな、うわべだけのメッセージを送るな、何よりも言葉を壊すな、ます他人のことを考えろ、言葉は、知恵や知識や知見や経験や社会観や人間観や愛情や情熱や情念や希望の産物である。そんなことも考えないで広告をナメるな、ということです。(P393)

チームのメンバーと、クライアントと、ひいては家族とコミュニケーションするとき、自分が発する言葉を見つめ直して、また明日からも「営業」という仕事と向き合っていこうと思いました。

電通モダンコミュニケーションラボ

【電通モダンコミュニケーションラボ】

プロフィール

  • Honda photo square
    本田 祐哉
    株式会社電通 関西支社 第4営業局

    広告会社を経て、2007年電通入社。以来、営業として、鉄道、旅行、電機メーカー、エネルギー、外資系製薬会社など多岐にわたるクライアントを担当。広告キャンペーンはもちろんのこと、CRMシステム構築支援からイベント会場の便所掃除まで割といろいろと経験させていただいています。特技は関西弁のなにわ系ドブ板営業。

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