PR視点のインバウンド戦略 #01

訪日旅行客4000万人時代に考えるべきこと

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    冨永 真実子
    株式会社 電通パブリックリレーションズ 第3ディレクション局 兼 第1ディレクション局グローバルアカウント部

広がるインバウンド

「訪日外国人旅行」を意味する「インバウンド」はここ数年で一気に耳慣れた用語になりました。私が初めてインバウンドに携わった2010年ごろの訪日旅行客数は年間で861万人。「春節」という単語がようやくメディアに出てきたころです。

2013年までに訪日旅行客数1500万人という目標を観光庁が掲げましたが、当時は遠い目標に思えました。しかし地道なプロモーションの効果もあり、2016年10月にはついに2000万人を突破。母数が増えるとともに海外旅行客も行き先も行動も楽しみ方も多様化し、インバウンドは数字的にも質的にも新たなステージに突入しました。

一方でこれだけインバウンドという言葉が定着し、また言葉が定着するスピード以上の勢いで現実に外国人旅行客のお客さまが現れ、サービスや商品を購入される姿がそこかしこに見られるようになると「いよいよ本格的に取り組まなくてはいけなくなったけれど、何から手をつけたらよいのか分からない」「取りあえず始めてみたが、国内向けのPRと何を変えればよいのか分からない」「他の業界の話で関係ないと思っていたが、実は関係がありそうだ」とお困りの方も増えているのではないでしょうか。

また、既に取り組んでいるインバウンド先駆者の企業や自治体においても、市場が拡大し競合が増えるに従って、このままの取り組みでよいのか、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会とその後も見据え、戦略の練り直しや拡充をすべきなのか、整ってきたデータを前に頭を悩ませている担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。

電通パブリックリレーションズでは11月、北京に拠点を置くグループPR会社、電通公共関係顧問(北京)と共同で訪日中国人向けPRの専門書『PR視点のインバウンド戦略』を出版しました。

ウェブ電通報では全5回にわたって本のエッセンスをご紹介するとともに、中国人のインバウンドを考えるに当たってのヒントを提供する予定です。第1回となる今回は、改めてインバウンドとは何なのか、またPRはインバウンド戦略を考えるに当たってどのようなことができるのか、導入編です。

残された成長産業、観光業と「インバウンド」

そもそも、なぜインバウンドに取り組む必要があるのでしょうか。また、インバウンドに投資する価値はあるのでしょうか。インバウンドに光が当たっているのは、観光業、それも外国人旅行者を対象とするインバウンドが成長産業として大きな可能性を秘めているからです。

観光客の受け入れ数において第1位のフランスは年間約8400万人を受け入れており、2位のアメリカは7700万人。一方日本は世界で16位、アジアでも中国や香港、タイに負け、6位にとどまっています。一方で観光の送り出し側を見ると、東南アジアやインドといった国々の経済成長に相関して、今後も世界の旅行者数は継続的に伸びることが確実視されています。つまり現状においても潜在的な受け入れ拡大余地が大きいだけでなく、今後市場としても拡大が確実視されているのが観光業です。

加えて、観光業は裾野の広い産業です。旅行業や宿泊業、運輸業だけしか関係がないのではないか、と思われがちですが、実際にはレストランや娯楽施設、通訳といったサービス業、小売業、金融業にも広がります。特に体験を重視する昨今の旅行スタイルにおいては、さらに裾野が広がっています。しかし、日本における観光業のGDP寄与率は観光庁によると4.9%(2014年)にとどまり、世界的な平均から比較しても低い水準にあります。

地方にとっては、交流人口をもたらす大きなチャンスでもあります。長らく地方への観光客といえば、国内観光客が主でした。観光庁によると、2014年の観光業の経済規模は22.5兆円のうち、日本人の国内宿泊旅行は実に14.3兆円、約64%を占めています。

 

対して訪日外国人旅行は2.2兆円、9.8%にすぎません。しかし国内宿泊旅行が年々縮小しているのに対して、訪日外国人旅行は伸びており、全体のパイを拡大する役割を担っています。

 

また、地方を訪問している外国人旅行客は、全体の56%にとどまっています(2014年)。つまり年々増加する外国人旅行客をこれまで以上に地方都市に誘引し、消費してもらうことができれば、地方にとっては大きなビジネスチャンスなのです。

PRがインバウンド戦略においてできること

PR(パブリック・リレーションズ)はインバウンド戦略の立案や実行に当たり、どのような価値を提供することができるでしょうか。大きく三つの領域があります。一つ目がマーケティングとコミュニケーションの支援、二つ目がブランディングの支援、そして最後がインターナル・コミュニケーションの支援と、コミュニティー・リレーションズの支援です。

マーケティングとコミュニケーションの支援についてのアプローチは2種類。売り込みたい観光地やサービス、商品をお持ちでしたら、プロダクトアウトで多様な訪日外国人の中から最適なターゲットを定め、コミュニケーション戦略を考えます。

一方、特定の都市からの直行便が飛んでいて、訪日外国人がある程度決まっている場合や、既に一定のお客さまがついている商品やサービスを拡充したい場合などは、お客さまを軸に、お客さまに刺さるサービスの魅力(コンテンツ)の発見、それに合致するコミュニケーション戦略の立案を行います。

いずれのアプローチにおいても、訪日旅行者数が増加しているということは、お客さまも多様化しているということですから、今までのように十把ひとからげで例えば「中国人」というわけにはいきません。同じ中国人でも、出身地域や年齢、収入によって大きな違いがあり、今までとは違う方々が訪日しているのです。

また、文化が違いますので、日本人向けと同じ考え方では見落とすことが出てきます。訪日外国人のことを理解した上で、最適なコミュニケーション戦略を考えることが必要となってきますが、これは従来の国内チームだけでは難しいのが実態です。

2点目のブランディングについては、最も重要な部分ですので、第4回で詳しくお届けします。

最後に、インターナル・コミュニケーションの支援と、コミュニティー・リレーションズの支援です。インバウンドに取り組む際に、全ての方が合意するとは限りません。むしろ「体制的にも人員的にも難しい」「別にこれ以上地域に外国人旅行者を呼ぶ必要はない、それよりも福祉を充実してほしい」など慎重論が多いのではないでしょうか。

その際、組織や地域の中に存在する引っ掛かりを解消し、同じ方向を向く支援は、PR会社が得意とする業務のひとつです。「チームがばらばらで思ったように進まない」「もう少し取り組みを加速したい」「住民の理解を得たい」ともしお悩みでしたら、PR会社に支援を頼むタイミングかもしれません。

第2回と第3回は電通公共関係顧問(北京)のPRの専門家による中国人の消費トレンドや中国の最新のメディア事情をお届けします。お楽しみに!

 

プロフィール

  • 1194tominaga pr
    冨永 真実子
    株式会社 電通パブリックリレーションズ 第3ディレクション局 兼 第1ディレクション局グローバルアカウント部

    東京都庁勤務を経て、 2016年4月電通パブリック リレーションズ入社。行政職員としての経験を生かし、主に政府、自治体、観光協会など官公庁系の広報・PR実務に従事。東京都では都市計画行政、観光行政、都市外交に携わり、特に新しい政策課題のコミュニケーションを得意としている。国立市「まち・ひと・しごと創生懇話会」委員(2016~17年度)。
     

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