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セカイメガネNo.52

有名作家になる秘密を教わった

2017/01/25

1年ほど前、リーダーシップ研修に参加する羽目になった。私は前向きに皮肉な態度で臨んだ。さんざんリーダーを務めてきて50歳に手が届く今、この研修が本当に必要か? 開講2週間前、ありきたりの絵コンテが6編送られてきた。それぞれに物語を付けろという。「こんな課題で人を分析できると思ったら大間違いだ」。私は意図的に支離滅裂な六つの物語を書いた。

研修初日、ジャミーにあいさつした。彼女はハーバード・ビジネス・スクールの心理学者で、この講座の責任者だ。にっこり笑って私にこう言った。「初めまして、アンディ。あなたの物語、好きよ。時間を見つけて話しましょ」

ジャミーは講義で、参加者の物語をどう解読するか説明した。どんなでたらめな物語を書いたところで、ある一定のパターンが読み取れる。使った単語、成句を分析すれば、私がどんなリーダーか言い当てられる。彼女の分析は、素晴らしく事実に符合していた。

「僕と話したいって言ってたよね?」。最終日、ジャミーに声を掛けた。「優れた仕事をする有名作家たちは、例外なく書くものに逆説を含ませるのよ。あなたみたいにね」。この一言に考えさせられた。どうして小説でも歌でも映画でも「矛盾に見える真実」に私たちは引かれるのか? 有名作品を調べてみた。どれもこれも逆説だらけだ。

ソクラテス。「私がひとつだけ知っているのは、私が何も知らないということだ」。マリオ・プーゾの「ゴッドファーザー」。主人公マイケル・コルレオーネは善人であり悪人だ。ゴティエのヒットソング「Somebody that I used to know」。恋人と一緒にいるのに孤独を感じる男の気持ちを歌う。ウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王』。育ちの良い少年たちが遭難し、漂着した孤島で生き抜くうちに獣性をむき出しにする。人気テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」。誰よりも背の低いティリオン・ラニスターは、ここぞというとき巨人のような存在感を示す。

広告はどうか。カンヌライオンズでグランプリを受賞したメキシコ料理レストランチェーン。メッセージの本質は私にはこう伝わる。「私たちは環境に配慮し、家畜を大切に育てています。食材として処理するまでは」。私が最初に大きな広告賞をもらったのは、野外体験プログラムを販売するクライアントの仕事だった。「初日はしんがり。最終日は先頭」。逆説のタグラインだ(挿入作品)。気付けば、この仕事を始めたときから、私はパラドックスとずっと友人だった。

(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター)

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