VRがビジネスを拡張する
2017/02/09
リアルな場とコンテンツの相乗効果がシアターを変える
世界初の拠点常設型VRサービス「VR THEATER」
アニメやアーティストなど、日本が世界に誇るクールジャパンはVRの可能性の宝庫。そしてVRコンテンツの価値をさらに増幅させるのが、誰もが気軽にVRによる没入体験ができるリアルな場の拡充だ。
世界初の拠点常設型VRサービスとして2016年4月にスタートした「VR THEATER」は、ネットカフェなど既存の店舗に専用機材を設置して視聴サービスを開始するもの。ユーザーは受付でヘッドマウントディスプレーを借り、店舗内で視聴する。現在「進撃の巨人」「攻殻機動隊」「GANTZ:O」をはじめ、さまざまなジャンルの18タイトルが用意されている。今後も新コンテンツが月2〜3タイトル登場予定で、海外での展開も視野に入れる。
電通 出版ビジネス・プロデュース局 部長
横山真二郎氏
良質なコンテンツ調達と体験拠点の拡大を、両輪で進めることが効率的なマネタイズにつながると考えています。VRシアターの導入で、ショッピングモール、ホテル、観光施設など、生活動線上のあらゆる場所が体験拠点に早変わりします。コンテンツもエンターテインメントだけでなく、例えばカラオケボックスでは音楽、美術館ではアート、エステサロンでは癒やしをテーマにするなどの展開が考えられます。コンテンツをうまく場と結び付けていくことでそれぞれの産業が活性化していく起爆剤ともなり得るのです。コンテンツと場の開拓を同時に進めて、VRが生活者にとってより身近なものになるように、今年9月には1000店舗、2000台を目標にしています。
ローカルの宝を、時空を超えて体験できる
“足元”にあるコンテンツが地方創生につながる
ユーザー調査[電通「VR調査」(2016年10月実施)から]の「VRで見たいコンテンツ」で必ず上位にくるのが「観光」。ますます過熱するインバウンド領域でも、訪日観光客の関心は温泉や桜、ローカルフード、祭りなど、地方での体験にシフトしていることが明らかだ。[電通「ジャパンブランド調査2016」から]
そんな地元の魅力、「行かないとできない」体験を、場所や時を超えて提供できるのがVR。地方創生に果たす役割が期待される。特に、ローカル放送局は地元に通じていることに加えて、番組制作と発信に知見があり、この領域で大きな強みを持ち得る。北海道放送が2015年いち早くVR視聴アプリをリリースしてさっぽろ雪まつりなどの人気イベントをコンテンツ化、テレビ西日本は九州各局に広域連携した取り組みを呼び掛けるなど、各社の動きも活発化している。
電通 ビジネス・クリエーション・センター
荒木亮氏
VRはいわばドラえもんの「どこでもドア」のようなものです。旭山動物園と北海道文化放送に協力いただき動物園をVRコンテンツ化し、経済的・身体的さまざまな理由で動物園に行きたくても行けない子どもたちにデリバリーする「いどう型動物園」という企画を実施しました。保育園などでご活用いただいてますが、特に旭川医大の小児病棟の子どもたちが歓声を上げて動物園を“体験”する様子は番組でも放送され、高い反響を呼びました。
他にも熊本城や、震災を経て2015年閉園したマリンピア松島水族館、平和への祈りが込められた「長岡まつり大花火大会」などもコンテンツ化されています。ストーリーや文脈を備えることで、コンテンツは格段に強くなる。VRがもたらす強い“体験” “共感”を利用して社会にポジティブな変革を起こそうとする動きは、世界的にも注目が高まっています。「どこでもドア」で、時空を超えていつでも訪れることのできる日本の宝を、今後も全国の放送局・新聞社などのメディアやコンテンツホルダーと開拓し、いいストーリーで社会とコミュニケーションする取り組みをご一緒できればと思います。
世界に向けてメディアやクライアント企業と協働
2016年11月、電通のグループ横断組織「Dentsu VR Plus(電通VRプラス)」が立ち上がった。さまざまな領域でVRに関わるプロジェクトを手掛けてきた専門家らが集い、統合的な活動を本格化させる。既に応用の進むゲーム、エンターテインメント、不動産、旅行、医療、スポーツ、教育分野だけでなく、VR領域の技術革新があらゆる業界にイノベーションを「プラス」していくものと捉え、全ての業界を対象に「VRを活用した広告ソリューションの提供」「VRを活用した事業開発」「新しいVR関連市場の創造と発展への貢献」を行っていく。
ライブライクで全く新しいスポーツ体験
ベンチャーファンド「電通ベンチャーズ」は16年9月、スポーツ観戦向けVRプラットフォームを開発する企業・米ライブライクに出資。施設の既存の映像設備を使ってライブVR配信を可能とするプラットフォームで、ユーザーはライブライクのストリーミングテクノロジーを活用したライブ配信アプリを通じて、バーチャル空間上のVIP専用席からゲーム観戦。プレーヤーの統計情報を見たり、プレー映像をさまざまな角度から視聴することもできる。電通ベンチャーズは同12月に米サビオスにも出資。
2016年最もヒットしたVRゲーム
米サビオスが開発したマルチプレー型アクションゲーム「Raw Data」は、2016年世界で最もヒットしたVRゲームのひとつだ。同タイトルはSteamストアのHTC VIVEコーナーにリリースされ、VRゲームとしては世界で初めて月間100万ドルを売り上げた。また同社は昨年、ハリウッドの映画会社メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)や電通ベンチャーズなどからの資金調達を発表し、さらなるVRコンテンツラインアップの多様化を図っていく。
VRを活用した不動産内見サービス
顧客の視聴内容をリアルタイムに営業スタッフのタブレットで共有し、営業スタッフが物件や部屋の移動を操作する、「ご案内しながら商談可能」な双方向システム。例えば海外にいる顧客に対し、日本の物件を内見案内することが可能となった。1物件を決めるまでの内覧数が平均8件から2件に減ったり、予算より高い物件を気軽に内覧できるため、結果的に単価アップにつながった。
イベントやアトラクション施設の目玉コンテンツに
16年4月にオープンしたサンシャインシティ「SKY CIRCUSサンシャイン60展望台」(スカイサーカス)では、目玉コンテンツとして人間大砲型マシンで未来の東京の名所を巡るVR体験「TOKYO弾丸フライト」や、池袋上空を疾走するブランコ型体感コースター「スウィングコースター」などを開発。また同年10月の東京モーターフェスでは、360度映像で得られるVRによる新しい試乗体験「360°VR DOME」を提供。クルマ、バイク、バスとタイプの異なる三つのVR体験が人気を博した。