バイラルムービーと地方創生 #01

「関係人口」という地方創生のヒント

  • Ochi kazuyoshi pr3
    越智 一仁
    株式会社電通 CDC/Dentsu Lab Tokyo コミュニケーション・プランナー

こんにちは、コミュニケーション・プランナーの越智一仁です。おととしから盛んになってきているPR動画を使った地方創生について、僕なりに感じたことを宮崎県小林市の事例を踏まえながらお話ししていこうと思います。以前に小林市長と対談をさせていただきましたが、数回に分けてもうちょっとだけ深掘りします。

2016年の小林市の取り組み

 
 小林秀峰高校の生徒たち
小林秀峰高校の生徒たち
 

小林市は、僕の生まれ故郷です。
2015年公開した「ンダモシタン小林」というPR動画のおかげで、市は数多くの地方都市の中でとても大きな認知を獲得することができました。移住相談件数が約2倍に増え、なんとふるさと納税額に至っては、1億3000万円から7億2000万円に増加しました。

決して動画だけの力ではないと思いますが、この結果から、オンラインムービーは潤沢な予算がない地方自治体のようなケースであっても、工夫次第で認知を獲得するためのとても有効な手段になり得ると考えられます。

そんな小林市が、昨年11月に新たなPR動画を公開しました。
「サバイバル下校」という動画です。ご覧ください。

今回の主役は地元の高校生たち。
29人の生徒にCMプランナーになってもらって、七つのチームに分かれ、地元の魅力をコンテに落としてガチ企画バトルを行いました。サイトでは、惜しくも採用とならなかったチームのビデオコンテも掲載しています。

元々担当者の方には、キャリア教育の視点から市民との動画制作ワークショップをやっていきたいという思いがありました。1発目で十分な認知を獲得できたので、次の展開としてワークショップを通して市民の方や生徒の体験やアイデアを元にPRネタをつくっていくというやり方は良いなと思いました。実は前年にも高校生たちと一緒にPRムービーをつくっていて、今回の「サバイバル下校」は、2年目の取り組みになります。

高校生たちは何を感じ取ったのか?

 

今回の企画は、5カ月間のCM企画ワークショップから成り立っており、「動画作品+ドキュメンタリー番組」というコンテンツの合わせ技でアプローチする作戦をとりました。ワークショップの様子を複数のテレビ局に追い掛けてもらい、その取り組みを地上波でオンエアするというものです。彼らは僕ら大人とは全く違う視点を持っていて、とてもユニークな企画が出そろいました。

サバイバル下校のコミュニケーション俯瞰図
サバイバル下校のコミュニケーション俯瞰図

最終的にみんなで投票して、金、銀、銅賞、それ以外にも講師賞、先生賞、生徒賞など賞を設け、選ばれたものは何が優れていたのか?それぞれの作品の何が良く何が今一歩だったのか?など、丁寧に解説していきました。

残念ながら制作に至らなかったチームの中にはものすごく悔しがっている子もいましたが、そういった「悔しい」という思いや「競争」という体験も全ていい学びだと思っています。

特に印象深かったのは、すでに保育の専門学校に進路が決まっていた女子生徒が、ある日泣きながら先生のところに相談に来たというエピソードでした。この授業がよほど楽しかったようで「本当は映像を企画したり表現するのが好きなのかもしれない。このまま、今決まっている進路に進んで良いものか」と悩んでいたのだそうです。

ワークショップを開いている立場からするとこんなにうれしいことはありません。申し訳ないという思いもある一方で、そうやって若い時に全力で将来について考え、悩むことって、とても大事だとも思うのです。

自分自身も「関係人口」の1カウント

 

おととしから始まったPRムービープロジェクトですが、今回で実はもう5本目(他の企画に関してはあらた改めて触れます)。

当初に小林市長、担当者の方とお話ししたのは、動画だけで移住させることは難しいので、段階的に

この先10年くらいの取り組みを考えたとき時に、まずは1〜2年かけて認知を取り、そこから市外在住の出身者とのネットワークを強化していこうということでした。

外だけでもなくインナーだけでもなく、外にいる出身者に振り向いてもらうことも視野に入れた取り組み。つまり「関係人口」を増やしていくというやり方です。

 小林市の地域活性スコープ
小林市の地域活性スコープ

「関係人口」というのは、地元を離れ遠くに暮らしているけれど、ふるさと納税とかワークショップとかキャリア教育とか何らかの形で地元のサポートをしてくれる、その自治体に「関係した」人材も人口としてカウントしてもいいんじゃないか?という考え方です。

移住やUターンは理想だけれど、ハードルは高い。地域おこしの入り口として、「関係人口」という考え方を持ち込むのはとても今の時代にフィットしていると思います。
SNSが発達し、さまざまな情報がオンラインでやりとりできるようになったことが、こういった考えの後押しになっています。実際に、第1弾の「ンダモシタン小林」以降、「何か手伝えることありませんか?」と言ってくださる出身者の方もたくさんいらっしゃいました。

そして、紛れもなく僕自身も関係人口の1カウントなワケです。

 

地方創生ではなく地元創生

 

僕は全く地方創生のプロではないのですが、小林市の仕事以降、地方PR動画の相談を頂くことも多くなりました。ただ、小林市の仕事に関しては、「地方創生」の事例というよりは「地元創生」だったと思っています。

地方の魅力の掘り起こしは、そこが出身地であるか、実際にそこに住んだことがあるか、趣味など何らかの関係があって頻繁に通ったことのある者でないと難しい部分があると思います。知識としては理解できたつもりでも、それを感覚として理解するのはきっと想像以上に難しいはずなのです。

具体的には、おふざけはどこまで許されるのか?どんな市民性なのか?どんな「あるある」があるのか?みたいなことですね。そして、自分自身の熱量や自治体の方々とのリレーションづくりにおいても、担当する自治体が「地元」であるということに支えられる部分は大きいなと思います。

余談ですが、ある銀座の老舗キャバレーでは、客が自分と同じ出身地の女性を指名できるシステムを採用していると聞いたことがあります。方言や地元ネタで盛り上がれるというわけです。こういったエピソードからも「地元」という共通項はコミュニケーションを円滑にする大きな要素だと考えられます。

小林市役所の動画制作にマニュアルはない

 

全ての作品に関していえるのですが、本当に小林市の職員の方々はリテラシーが高く、ガッツがあります。その理由のひとつは、彼ら自身が自ら手を動かし地域おこしにチャレンジしているからだと思います。

方言ポスターに始まり、方言Tシャツ、方言スタンプ、方言かるたなど、全て市の職員さんと市民の皆さんが一緒になったワークショップチームでつくり上げたものです。

「小林市のような事例をつくるにはどうすればよいのか?」と相談されることは多いのですが、いずれの取り組みも、この小林市の協力体制がなければ決して実現しなかったと思っています。

まず、地方自治体との仕事は距離の問題が大きく、予算の大部分が制作スタッフの交通費に消えるのは避けられません。ところが、小林市の職員の方々は、僕らとのチャットを通し想像を絶するフットワークの良さでロケハンを行ってくださいました。さらに、市民の方のキャスティングや交渉事など現地にいないとできないことのほとんどをカバーしてくださったおかげで、非常に撮影がスムーズに進みました。

特に、ロケ香盤をチェックし「これでは1日で回れないから修正しました」と言って、香盤を完璧に組み替えてくれたり、天候のせいで星のシーンが撮影できなかったとき、後日スチルカメラによるタイムラプスを完璧に撮影して素材を提供してくれたりと、制作に対するマインドとスキルが尋常ではないんです。「時間もお金もないから、その分はこちらのできることはなるべくする」というのは常におっしゃっていて、承認フローをシンプルにしてくださったり、いつもなるべく負担のかからない制作環境をつくってくださいます。

お金を渡すだけで完璧なものが仕上がるか?というと、そうではないと思っていて、きっと、共に知恵を絞り、汗をかきその苦境を乗り越えることでしかつくれないものがあるのではないかと思います。

例えば、車両費を浮かすために毎回市役所の公用車でロケ地を移動するのですが、その間、役所の方とスタッフたちが自然と会話をするようになる。すると、撮影が終わる頃にはすっかり仲良くなっているという現象が起こったりするんです。

おかげで小林市の仕事は「チーム感」がハンパないです。

動画の効果を測るのは再生回数だけではない

 

最後に、PR動画の効果測定についてお話ししたいと思います。
小林市の場合は、主にテレビ番組や新聞、雑誌、SNSでの露出などをみんなで逐一チェックして数値をまとめ上げています。昨年は、移住相談件数、サイト来訪者数、露出番組数、露出換算額、ふるさと納税額などを見ながら、その他定性的な結果はどういったものがあったかなども検証しました。

また、基本的にはお金をかけずにバイラルさせるのは難しいとお伝えした上で、最大限の露出や認知獲得を狙うようにしています。それこそ、自治体と制作チームが一緒になって結果を獲得していくという姿勢なので、参考値を想定したり、目的は明確にしますが、具体的にこれくらいの効果を…みたいな話はしておらず、やってみてそれを冷静に分析して次回に役立てるというやり方です。

動画公開後、主に注目されるのは再生回数です。そして、まだまだYouTubeを利用する自治体の方が多い。SNSやウェブメディアで、「バズった」「バズらなかった」みたいな取り上げられ方をされますが、僕はその「バズった」という表現については慎重に扱うべきだと思います。つまり、YouTubeの再生回数だけでバズったかどうか、また効果があったかを測れるわけではないのではないか?ということです。

例えば「ンダモシタン小林」のケースですが、再生回数200万回というのは実はバイラルムービーの世界ではそれほど大きい数字ではありません。では、なぜうまくいったのか ?これは圧倒的にテレビ番組に取り上げてもらえたことが認知の元になっていると考えています。しかも、「他の自治体の動画」と一緒に「地方PR動画が盛り上がっている!」という文脈で、実に1年以上継続して取り上げてもらえたことが大きかった。
(あらためて触れますが、複数回見てもらえたことがYouTubeの仕様上反映されないことも効果の割に再生回数が少ない原因のひとつとして考えられます)

よく「リーチ」といいますが、ウェブ動画の場合、記事を読んだ人、動画を見た人、露出した番組を見た人と、リーチする形はいろいろなパターンが考えられます。しかし、それらをまとめて正確に測定したり数値化することはまだ体系化されていません。そのため、とりあえず動画の再生回数を指標にしてしまうケースが非常に多いのです。

例えば、FacebookやTwitterに直接動画をアップした場合、当然ですがYouTubeのカウンターは回りません。でも、確実にそれらSNSでリーチはしているはずなのです。本来なら合計数を指標にするべきだと思います。最近では、一般の方が転載した動画が拡散するケースもあります。もちろん、元動画の再生回数には反映されませんが、それをよしとするかどうかも重要な判断のポイントのように感じます。

また、再生回数が伸びなくても、特定の企業が興味を持ってくれて新しい取り組みに発展したり、地域の人々が何か行動を起こしたり、ふるさと納税の額が増えたりと、再生回数だけでは測れない効果も十分あると思われます。

例えば、「サバイバル下校」の場合は、タイミング的に地方PR動画が飽和状態になりつつある中、なかなか再生回数を稼ぎにくい状態にあったので、まずはYouTubeでの目標値を昨年のワークショップでつくった「山奥」編の10万再生とし、ワークショップの実施というパブリックなネタをもってテレビ番組(ローカル1局、全国1局)でリーチさせる作戦をとりました。それに加えて、7000人のフォロワーを持つ生徒にツイートしてもらったりもしました。

結果的に、ニュース番組など合計10番組以上に取り上げてもらうことができ、Twitterでは2万リツイートを超えるなどたくさんの方に楽しんでいただけました。

地方PR動画をつくる上で大事なのは、目的を明確にしてそれに合った手段を選ぶことだと思います。そして、健全な地域おこしを継続するために、数値に表れていない結果にどれだけ目を向けられるかも非常に大事です。

もちろん話題化は再生回数に比例するところもありますから、ドーンと伸びれば文句はないのですが、それはやはり難しいので。

というところで、長かったですが、今回はここまでとさせていただきます。

次回は、「ンダモシタン小林」の裏側を深掘りしたいと思います!

プロフィール

  • Ochi kazuyoshi pr3
    越智 一仁
    株式会社電通 CDC/Dentsu Lab Tokyo コミュニケーション・プランナー

    小林市出身。電通入社後は、営業、コピーライター、CMプランナーを経て現職。得意領域はデジタル・クリエーティブ全般、特に映像を軸としたシェアラブルなコンテンツ企画やコミュニケーション・プランニング。手掛けた作品が国内外で多数受賞。

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