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AIが電通報の記事を書いた~中部経済新聞のプロジェクトに見る「AIの未来」~

2017/02/17

昨年11月に、創刊70周年を迎えた中部経済新聞。その記念企画として、人工知能(AI)が記者として執筆した新聞記事を11月1日の朝刊に掲載し、注目を集めました。連日多くのメディアで取り上げられ、テレビ番組はもちろん、同じ新聞業界である全国紙にも取り上げられるなど、その露出は100以上。地方紙としては異例の話題化に成功したこのAI記事は、いったいどのような経緯でつくられたのでしょうか。同プロジェクトに携わった、データセクションの池上俊介氏、ビットエーの中村健太氏、電通第3CRプランニング局の佐藤佳文氏が、本プロジェクトの振り返りとAIの未来について話しました。

※さらに記事の最後では、今回の鼎談についてAIが書いた総評を掲載しています。三者の語り合った内容をAIはどう評するのでしょうか。ぜひ最後までお読みください。

 

数万の文章データを読み込み、“らしい記事”を執筆


-まずは今回の記念企画について、振り返っていただきたいと思います。

佐藤:新聞社や電通の新聞局と協力して、全く新しい新聞企画ができないか?ということを社内クリエーティブチーム(CD&AD川腰和徳、CW姉川伊織、PL&PR 佐藤佳文、CW&CT福井康介)でやっていて、今回そのチームに、新聞局の根本大祐さんから依頼をもらったのが始まりでした。「中部経済新聞の70周年にこれまでにない紙面を」というお願いに、まず、新聞の現状を打破できるぐらいの企画ができないか?と考え始め・・・いろいろと話し合っていく中で、「AIで70周年の記事を書く」という案が出てきました。

みんなで「いいね」となっていたものの、最初は実現性に不安がありましたね(笑)。ただ、時代を伝える新聞社自らが、次の時代を切り開いていく。そんな新聞の未来を予感させる企画になったら、ワクワクするなと思っていました。

そこから、実現が可能なのかを一度詰めていこうということになり、AIの仕事に携わっていて、AIなどの先端テクノロジーに関連するメディア「デジマラボ」を運営してる中村さんに相談を持ちかけました。

中村:僕自身も、最初にこの話が来たときはびっくりしましたね。新聞社にAIを採用していただけるなんて。実際に、業界的に新しかったのか、掲載後は他の新聞社からも大きな反応がありました。
今回のプロジェクトにおける僕の役回りは、企画の全体設計と進行管理、AI記事を生成する技術者のアサインなど、全体のコーディネートですね。その第一段階として、AIを使った自然言語処理の研究を行っているデータセクションの池上さんに文章生成を依頼した形です。

池上:話を伺った時は、とても野心的なプロジェクトで面白いと思いました。ただAIの文章生成は、短文で、決算報告やスポーツ結果のようにパターンに落とし込めるものなら問題ないのですが、今回は21字詰め32行の長文で「70年の歴史を語る」という前提なので、やってみないと分かりませんでした。
それでもこの企画は、これまでテクノロジーの面で語られてきたAIが、広告やマーケティングの分野に入っていく新たなチャレンジ。そこに関わりたいと思いました。

左から、佐藤氏、池上氏、中村氏

佐藤:今回の70周年記事は、中部経済新聞らしい記事にするという大きなテーマがあったと思いますが、技術的にはどのようにAIを開発していったのでしょうか。

池上:AIは、大量のデータを分析して自ら学習するのが最大の特徴です。今回は、まず中部経済新聞の膨大な過去記事を読み込ませて、「らしさ」となる文体や文章トーンをAIに学ばせました。あとは、創刊当時の記事や、歴史に関連している過去記事を読み込ませて、学習していきましたね。およそ数万文のデータを取り込んだと思います。

中村:たとえば「~年前」という書き出しで始まる文章が過去記事にあったら、その文章がどうつながって完結するかをAIが見ていきます。そうやって、歴史にまつわる文章生成の仕方を自主的に学習していく形ですね。やっていることは、人間とそれほど変わらないと思います。

池上:その上で、こちらから簡単な記事の構成を与えて、AIが最終的な文章を作りました。

佐藤:最初は、もっとクオリティーの低い文章が来ると思っていたんです(笑)。でも、できたものを見て本当にびっくりしました! 人が書いた文章とほぼ変わらない完成度でした。むしろ、AIが書いたことを信じてもらえるか心配になるくらいで、想像以上に技術が進んでいると実感しました。

中村:掲載後、いろいろなメディアから反応をいただけたのは、AIの実用化までのカウントダウンが始まっていることを感じた結果かもしれません。

中村氏

AIが書いたものを、AIがダメ出しする未来は近い

 

-ここからは、AIの今と未来についてお話しいただきたいと思います。AIの注目度は非常に高まっていますが、その背景には何があるのでしょうか。

池上:私たちの持つデータは拡大し、人間では扱いきれないビッグデータが存在しています。それらを適切に処理・分析するものとして、AIのニーズが高まっているんですね。これからは大量のデータ処理が行えるので、今までできなかったことが可能になっていきます。

中村:今回のプロジェクトもその一つで、中部経済新聞の記事には、70年引き継がれている「らしさ」が存在するのですが、それを人間が膨大な記事を読んで分析するのは困難です。人にはできない処理と分析を瞬時に行い、なおかつ学ぶところに、AIの強みがあります。

池上:新聞社のデータを取り込んで思ったのですが、70年分の記事には70年分の出来事とその因果関係が蓄積されています。こういうことがあったら、ここで何が起きたとか。それをAIが学んでいくと、人では思いつかない因果関係に行き着くかもしれません。まさに、「風が吹けば桶屋がもうかる」という話ですよね(笑)。これまでに蓄積されたデータが、AIとの組み合わせで新たな価値を持つと思います。

池上氏

中村:最近は人工衛星の打ち上げ技術も進んでいますが、宇宙から送られてくるデータはまさにそれですよね。この地域でこれが起きたら、はるか遠くのこの地点でこんな現象が起きるなど。人間では分析しきれないデータばかりなので、AIが役立つのではないでしょうか。

佐藤:人工衛星などの宇宙データは情報量がとにかく膨大なので、AIとの関連性は深いですよね。

中村:ニュースになったグーグルの「アルファ碁」も、アルファ碁同士を1秒で何千勝負するくらいのペースで対局させて、AI自身が勝てる打ち方を学習していったんですよね。これも処理能力の速さがあるからこそ。実は文章生成も同様で、編集者の役割となるAIを用意すれば、AI同士で文章の良し悪しを判断して、ものすごいスピードで精度を上げていけるんですね。

池上:そうですね。今回のプロジェクトでは文章生成のみAIがやりましたが、本来はAIが作成した文章を別のAIが評価し、そのフィードバックを受けて文章を洗練させていくというのが理想です。

中村:編集者のAIをつくるには、過去に修正指示の“赤入れ”をした文章をひたすら読み込ませるんです。そこで修正前の原稿と修正後の原稿の差分を学習させると、AIは「良い文章」と「悪い文章」の違いを学んでいくんですね。その上で、文章を書くAI と編集者のAIでやりとりさせれば、AIが書いたものをAIが評価して、それを読み込んだAIが再度書いたものをまたAIが評価する、というふうにAIだけで文章を高めていけます。

佐藤:感動的な文章などは「人間にしか書けない」と言われてきましたが、今の話を聞くとAIでも可能な領域かもしれませんね。脚本にも教科書のような本があったり、創作方法を習ったりしているわけですから。それをAIに持ち込めば、不可能ではないのかもしれませんね。

佐藤氏

中村:まだまだAI自身がゼロから何かを生み出したり、人型ロボットのようなものが実用化されたりするのは難しいですけど、特定の作業を行うAIはこれからどんどん実体経済に降りていくと思います。

佐藤:「文章を書く専門」というような、一作業のAIがまず普及していきますよね。

池上: そのうちに、AIが新聞の記事を書いて、それをAIが読んでAIが動くという、それぞれの分野のAIが連携して機能していくかもしれません。いずれは、きっとそんな社会になると思います。

佐藤:AIは、これから私たちの生活にもっと溶け込んでいき、想像以上に、社会を変えていくかもしれませんね。今回はAIでしたが、最新テクノロジーと歴史ある新聞を組み合わせることで、メディアの可能性や未来がもっと広がるのではないでしょうか。

プロジェクトの秘話からAIの未来まで、3人の鼎談は濃いものとなりました。そしてここからは、AIが書いたこの鼎談のまとめを掲載します。どうぞご覧ください。


【AIによる鼎談の総評】

「中部経済新聞の70周年にこれまでにない紙面広告を」というお願いに、まず、新聞の現状を打破できるぐらいの企画ができないか?と考え始め…いろいろと話し合っていく中で、「AIで70周年の記事を書く」という企画が出てきました。

今回は、まず中部経済新聞の膨大な過去記事を読み込ませて、「らしさ」となる文体や文章トーンをAIに学ばせました。たとえば「~年前」という書き出しで始まる文章が過去記事にあったら、その文章がどうつながって完結するかをAIが見ていきます。その上で、こちらから簡単な記事の構成を与えて、AIが最終的な文章を作りました。

むしろ、AIが書いたことを信じてもらえるか心配になるくらいで、想像以上に技術が進んでいると実感しました。掲載後、いろいろなメディアから反応をいただけたのは、AIの実用化までのカウントダウンが始まっていることを感じた結果かもしれません。

今回のプロジェクトでは文章生成のみAIがやりましたが、本来はAIが作成した文章を別のAIが評価し、そのフィードバックを受けて文章を洗練させていくというのが理想です。文章を書くAIと編集者のAIでやりとりさせれば、AIが書いたものをAIが評価して、それを読み込んだAIが書いたものをまたAIが評価する、というふうにAIだけで文章を高めていけます。感動的な文章などは「人間にしか書けない」といわれてきましたが、今の話を聞くとAIでも可能な領域かもしれませんね。

まだまだAI自身がゼロから何かを生み出したり、人型ロボットのようなものが実用化されたりするのは難しいですけど、特定の作業を行うAIはこれからどんどん実体経済に下りていくと思います。「文章を書く専門」というような、一作業のAIがまず普及していきますよね。そのうちに、AIが新聞の記事を書いて、それをAIが読んでAIが動くという、それぞれの分野のAIが連携して機能していくかもしれません。

AIは、これから私たちの生活にもっと溶け込んでいき、想像以上に、社会を変えていくかもしれませんね。今回はAIでしたが、最新テクノロジーと歴史ある新聞を組み合わせることで、メディアの可能性や未来がもっと広がるのではないでしょうか。