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動画サービスの未来像No.1

スマホネイティブ世代の動画コミュニケーション~動画フィルターの広まり

2017/02/21

2月16日に刊行された『情報メディア白書 2017』。同書の巻頭特集「動画サービスの未来像」を5回にわたってお届けする。日本の動画文化・ビジネスの歴史を振り返りつつ、今求められる視点から考察を進め、この分野の未来を展望している。なお、特集は電通総研メディアイノベーション研究部の独自調査からの知見に基づいている。

情報メディア白書2017

 

 

第1回は、「スマホネイティブ世代の動画コミュニケーション」。スマホネイティブとも呼ばれる若年層の「ビジュアルコミュニケーション」に着目した。

1.ビジュアルコミュニケーションは写真から動画へ

近年ではスマートフォンの普及と共に、メッセージを伝えたり自分の体験や意見を共有し拡散する際に写真や動画を用いる若年層の情報行動が目立つようになってきた。筆者はこうしたトレンドを「ビジュアルコミュニケーション」というキーワードで捉え、2015年からリサーチを重ねてきた。

こうした変化は、若年層においてはスマホ保有がほぼ当たり前の状況となり、常に人とつながり合いコミュニケーションを取り合うネットワーク時代の環境が整ったことに端を発している。今やスマホユーザーたちのコミュニケーション環境は質的変化を迎え、その結果としてSNSのネクストフェーズを顕在化させつつある。

具体的には、スマホネイティブ世代のビジュアルコミュニケーションは動画を主軸としたものに再編成されつつあり、私たちはその現状を分析しながら、「動画時代のES-M-L」(Ephemeral/Short-Moru-Live)というキーワードを調査結果から導き出した。

本稿では、そのES-M-LのMに当たる「Moru」(加工)の視点に注目し、加工アプリ、ないしはその最先端に位置する動画フィルター機能の利用実態についての考察を紹介する。

2.高まる「加工:Moru」の重要性

現代のビジュアルコミュニケーションにおいては、「撮影すること」「シェアすること」「保存すること」に加えて、「加工すること」の比重がとても大きくなっている。今やこれらは切っても切り離すことのできない一つのプロセスを構成している。

デジタル化した写真の特性は、保存や送信の容易さだけでなく、そのイメージの操作性(マニュピレーション)という点にもあるのではないだろうか。加工とはイメージの操作に他ならないが、撮影やシェアと違ってその作業自体に楽しさがあり、それによるドライブで近年の加工文化が爛熟してきたという一面がある。

私たちの調査に協力してくれた高校生のアプリ使用状況を、そのスマホのスクリーンショットから見てみよう。写真アプリ専用のグループが二つあるのに加えて、動画アプリ専用のグループがつくられている。冒頭でも述べたように、動画の重要性が強くなっていることをうかがわせる。

 
高校生のアプリ

 

さらに、写真グループ内に20個以上!のアプリが収められており、その多くが加工用途のものであることが分かる。

高校生のアプリ

今後、動画加工アプリの数は増えていくだろう。ヒアリングからも、アプリごとの機能やデザイン性、世界観などの要素によって細かに使い分けられている実態が把握された。

3.2017年は動画フィルターに注目!

こうした加工技術の中でいま着目しておくべきトピックスは、動画フィルターである。動画フィルターとは、アプリ内カメラで顔を映すと、自動認識して顔をマスキングするような加工が施されるフィルター機能のこと。海外ではライブフィルター、ビデオフィルターなどさまざまな呼び方がなされており、統一的な呼称はまだない。

動画フィルターの代表的なものとして、Snapchatで加工された「犬の顔」をした人々がSNS上を駆け巡っていたことは記憶に新しい。Snapchatは北米を中心に世界的に流行するメッセンジャーアプリで、動画フィルターを活用した写真・動画を送り合うコミュニケーションスタイルを若年層中心に定着させた。

これが爆発的に流行した一因として、顔認識で犬の耳や鼻が付いたり、口を開けると舌が出たりするので、アプリで遊んでいるだけというエクスキューズを暗示させながらナチュラルに自分をかわいく盛ることができる点が挙げられる。これによって、他のユーザーへの遠慮や気遣いをすることなく「かわいい自分」を対外的に表現することができるので、人間関係にセンシティブな若年層にとっては抵抗感なく採り入れることが可能だ。

 Snapchatで犬になれる動画フィルターを使用
Snapchatで犬になれる動画フィルターを使用

そして、ユーザーの投稿を見て別のユーザーが投稿し、それが広まっていくというかたちでインターネット上での模倣の連鎖が起こっていった点がポイントで、まさに「シミュラークル」(オリジナルなきコピー)現象だったと考えられる。

ここで調査からのデータを参照してみよう。いま若年層を中心に支持を集めている代表的なビジュアルコミュニケーションアプリの利用率は以下の通りとなっている。

 
利用経験があるサービス(全体)

 

InstagramやFacebook、Twitterといったビジュアルコミュニケーションが活発なメジャーなSNSの利用率はやはり多いが、目を引くのはSnapchatも約4人に1人が使っているというスコアが出たことだ。

Snapchatは「送信したテキストや写真/動画が自動的に消滅するインスタントメッセンジャーのアプリ」で、アプリを起動すると、すぐに写真を撮る画面が立ち上がる。これはアプリがその名に掲げるような、写真や動画を撮ってコミュニケーションすることをUI(User Interface:アプリとユーザーの間の情報のやりとりを可能にする仕組み/デザイン)自身が促しているのだと解釈できる。

人気が高まっているSNOWやLINE Cameraの利用率が高いのも、日本のビジュアルコミュニケーションにおける特性の一つだと考えられる。

ところが驚くべきことに、同じ設問への回答を15~19歳の女性に限定した場合、SnapchatやMixChannelなどの利用率が向上する点に加えて、SNOWやLINE Cameraの利用率がどちらも80%を超える驚異的な数値を記録し、全体平均をダブルスコアで上回ってしまう。

まさにビジュアルコミュニケーションと加工とを切り離して考えることができないという主張の裏付けとなるようなデータだ。

 
利用経験があるサービス(15~19歳の女性)

 

現代のビジュアルコミュニケーションが盛んな情報環境のもとでは、いまや「セルフィー(Selfie:自撮り)はメディアである」といえるかもしれない。動画フィルターなどで加工されたセルフィーはいまの自分を伝達し、他者になにがしかのメッセージを伝え、その時の感情を共有するものとなっている。

InstagramやSnapchatなどいま若年層の間で流行しているSNSにおいても、その良さとして「動画撮影機能」や「加工編集機能」が挙げられるという調査結果が出た。自らも発信者になれること、そしてそれを後押ししてくれることが求められる要件になっている。

セルフィーに映る加工済みのオンライン上の自分は、オフライン上の自分とは似て非なるものだが、スマホネイティブ世代においてはそこに矛盾があまり感じられていないかのようだ。

今ここにいる自分と、ビジュアルコミュニケーションの中で表象され流通されていく自分との分裂を問題視することなく、アイデンティティーの揺らぎや拡張を受容し積極的に楽しんでいる―とそのメンタリティーを表現することもできるだろう。Moruは、ユーザーの情報行動を分析する上で欠かせない視点となり続けるだろう。


調査概要

電通総研メディアイノベーション研究部
「若年層のビジュアルコミュニケーション調査」
調査会社:①株式会社グラフィティ/②株式会社ビデオリサーチ
調査時期:①2016年4月&11月/②2016年10月
調査手法:①グループ/デプスインタビュー調査/②ウェブサーベイ調査
サンプル構成:①17-21歳の首都圏在住の男女15名
       ②15-34歳の全国の男女1600名    
※②は「Instagram、Facebook、Twitter、Snapchatのいずれか二つ以上を週に1度以上発信(送信・
稿)する人(※シェアを含む)」という利用条件でスクリーニング


 

 

「情報メディア産業の動向」の章の「マスメディア編」目次からトピックスを紹介。
詳細なデータや論考の完全版は書籍『情報メディア白書2017』をご確認ください。

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