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日本の広告費No.4

「2016年 日本の広告費」解説―拡大するインターネット広告と堅調なテレビメディアで5年連続のプラス成長

2017/02/23

2月23日、「2016年 日本の広告費」が発表されました。緩やかな景気拡大の下、2016年の広告市場の動きはいかなるものだったのでしょうか。マスコミ4媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の最新動向について、電通総研の北原利行が解説します。

北原利行氏
 

2016年の広告市場は、前年比101.9%で5年連続のプラス成長

 

2016年における日本の総広告費は前年比101.9%の6兆2880億円で、12年以来、5年連続で前年実績を上回りました。日本の広告費は、マスコミ4媒体の広告費とインターネット広告費、そしてプロモーションメディア広告費の3つに大別できますが、総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ4媒体が45.5%、インターネットが20.8%、プロモーションメディアが33.7%となっています。ここ数年、マスコミ4媒体とプロモーションメディアの構成比が漸減する一方、14年以来2桁成長を続けるインターネット広告の構成比は年々高まっており、広告市場のプラス成長をけん引するかたちがさらに鮮明になってきています。

媒体別「日本の広告費」(2014~16年)
 
 

新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマスコミ4媒体広告費は、前年比99.6%の2兆8596億円。このうちテレビメディア広告費(同101.7%)とラジオ広告費(同102.5%)は好調でしたが、プリントメディアである新聞広告費(同95.6%)と雑誌広告費(同91.0%)は前年に届きませんでした。

インターネット広告費は前年比113.0%の1兆3100億円で、その内訳は媒体費が同112.9%の1兆378億円、制作費が同113.4%の2722億円となっています。媒体費の中では、同118.6%の7383億円に達した運用型広告費が大きく伸びています。また、プロモーションメディア広告費は同98.9%の2兆1184億円で、「屋外広告」や「展示・映像ほか」といった領域では、商業施設の新規オープンやリニューアル効果があり、イベント関連の広告やVR(バーチャルリアリティー、仮想現実)などの新技術を駆使したプロモーション活動にも注目が集まりました。

基本的に広告費の動向は景気に連動する部分が強くあります。16年を通して見ると、前半に円高株安や保護主義的な傾向による下押し懸念が見られたものの、リオ2016大会や伊勢志摩サミットなどの大型イベントの効果、年末にかけての株価上昇など、景気に連動するかたちで広告費も緩やかに拡大しました。

2016年 マスコミ四媒体広告費(衛星メディア関連も含む) 四半期別伸び率
 
 

インターネット広告市場の最新トレンド

 

20年前、1996年にはわずか16億円だったインターネット広告費は急成長を遂げ、04年にラジオ広告費、09年に新聞広告費を上回りました。そして14年には、媒体費と制作費を合わせたインターネット広告費全体が1兆円を超え、16年には媒体費単独で1兆円を超えました。

広告市場のインターネットシフトのトレンドは続いており、中でも運用型広告が非常に高い伸びを示しています。アドテクノロジーの進化を背景に、いくつものデータベースとの組み合わせで効果的に広告を出せることから、データ連携可能な運用型広告への期待が高まっています。

動画広告に対するニーズも継続的に拡大しており、特にSNSにおけるインフィード広告(コンテンツとコンテンツの間のスペースに表示される広告)が新たな成長領域となりつつあります。デバイス別に見ると、スマートフォン向けの広告が堅調な一方で従来型のパソコン系広告は減っており、モバイルシフト、運用型シフトが一層顕著になってきています。

広告主が出稿先を限定できる仕組みを持つPMP(プライベート・マーケット・プレイス)は、その機能が評価されて日本国内でも広く浸透しつつあります。高品質な広告枠を担保するPMPは、広告費の単価を上げる要因ともなり得ますので、インターネット広告費のさらなる拡大に貢献することが期待されます。

媒体別構成比

2016年のトレンドから見る今後の動向

 

2016年の出来事と広告費をめぐって注目されるポイントをいくつかご紹介します。

・デジタルファースト

米国では、トランプ大統領が誕生した選挙戦をめぐって、米紙「ニューヨーク・タイムズ」の電子版購読者が爆発的に増えたといわれます。米の大手メディアの多くは「デジタルファースト」「インターネットファースト」を掲げ、デジタルにかじを切っています。今のところ、ネットを主体にした広告モデルの模索が続いている状況にありますが、もはや後戻りはあり得ないでしょう。

日本の新聞は宅配制度に支えられている部分が大きく、米国のようにドラスチックに広告収入が減ることはありません。そうしたことから、なかなかデジタルに転換できないというジレンマがあるように思いますが、インターネットテレビやゲームメーカーなど、これまで新聞広告を活用してこなかった業種がキャンペーンを打つという新しい動きも見られます。

また、広告市場としてはまだボリュームは小さいですが、電子雑誌の読み放題サービスが着実に浸透してきており、デジタル版に完全移行する雑誌が増えています。テレビも含め、いわゆるトラディショナルメディアのデジタル対応が注目されます。

・スマホ画面の陣取りゲーム

インターネット広告では、パソコンからモバイルへのシフトが一層顕著になっています。14年の総務省調査によれば、20代のスマホ利用率は95%近くに達しており、中高年層でもスマホシフトが顕著です。広告もスマホ向けのカスタマイズが必須であり、スマホの小さな画面をいかに支配するかが勝負になっています。「スマホがなければ生きていけない」「スマホと共に生きている」人々が増えるにしたがって、スマホ画面の取り合い、陣取りゲームはますます激しくなるでしょう。「ポケモンGO」のヒットに見られたように、ここしばらくは位置情報やAR(拡張現実)を組み合わせた広告が増えてくるのではないかと思います。

・メディアの信頼性

インターネットをめぐって、いわゆるキュレーションサイトの信頼性が問われるようなニュースがあり、メディアの信頼性が問われています。ネットに掲載されるニュースには新聞社や放送局発のものが多いこともあり、いわゆるトラディショナルメディアが発信する情報の信頼性に関心が集まっています。メディアとしてのインターネットの信頼性をいかに高めるかは、トラディショナルメディアも含めたメディア全体で考えなければならない課題です。

 
 

効率化や最適化はインターネット広告の強みですが、これは、モノをいかに売るかという販促に近い部分です。しかし、本来広告の機能は販促だけではありません。ブランディングやリクルーティングはもちろん、社会を動かす力さえ持つはずです。インターネット広告が複雑化し、多様化しつつある今こそ、多くの情報に触れるメリットについて十分理解する必要があると思います。あらためて「広告とは何か?」を問わねばなりませんし、広告費に関しても、メディア単位の集計という切り口が適当なのかといった問題も含め見直していかねばなりません。日本の広告費の推計を始めたのは1947年のことです。以来70年、広告は時代を映す鏡であり、広告費のデータに時代や社会の変化をいかに反映していくか―それは、われわれ自らが応えていかなければならない課題だと思っています。

「2016年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。

 

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